【更新停止】転生して喜んでたけど原作キャラに出会って絶望した。…けど割と平凡に生きてます   作:ルルイ

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第四十一話 誘われて高町家

 

 

 

 

 

 ここ数日、なのはちゃんとの魔法の練習は続いていた。

 デュランダルに登録されてる魔法を使うだけだったら、一応は全て使うことが出来た。

 デバイスってホント便利だな。

 魔力を送るだけでほぼ自動で術式を構築してくれる。

 なのはちゃんが結界を使えなかったのが不思議なくらいだが、魔力そのものに資質が関係してるんだろう。

 

 だけどやはりデバイス任せだけじゃ色々限界があるらしい。

 自分でも魔力を制御すれば魔法はもっと向上するし発動も早くなる。

 SLBも使えたけど、威力はなのはちゃんのディバインバスターと同じくらいだった。

 魔力量や資質の違いもあるだろうけど、他の魔法も使い慣れてたなのはちゃんには劣っていた。

 

 まあ練習していたらどんどん使い慣れて、砲撃などの得意分野を除けば数日でなのはちゃんに追いついた。

 結界魔法も最初は円の感覚だったから狭い範囲だったけど、直ぐに改善出来て半径数キロほどの結界を張れるようになった。

 成長の著しい俺になのはちゃんがまた落ち込んだりもしたが、なのはちゃんも似たようなもんだと言って納得させた。

 

 事件中は練習なんてしてる時間なんて無かったのに、なのはちゃんだって同じかそれ以上の結果を出してるだろう。

 それにストレージであるデュランダルじゃレイジングハートみたいにSLBを開発とかは出来ない。

 持ち主の感覚を術式にして組み上げてくれるのは、AIがいないと出来ないだろうし。

 デュランダルじゃこれ以上新しい魔法を試すにはアリアが帰ってきてから教えてもらうしかない。

 

 だから今ある魔法を練習し続けている。

 貰った魔法を含めても殆ど戦闘かその補助ばかりなのでそれ以外の特殊な魔法はなかった。

 変身魔法とか試してみたかったんだけどな。

 

 

 

 今日もなのはちゃんと魔法の練習をしてた。

 ただし今日は魔法を使えない美由希も結界内で見学している。

 結界は大抵魔導師のみを対象に入れるが、ちゃんと指定すれば魔導師以外の人も入り込ませる事が出来る。

 原作のアリサもすずかも闇の書事件の時に結界に取り込まれてたしな。

 あれって、何で取り込まれたんだろう…

 

 ああ、もちろん久遠も一緒にいるよ。

 なんか久遠も魔力を一応持ってるみたいで自然に結界に入ってた。

 最初に結界張った時はそういう設定しなかったのに久遠も一緒にいたし。

 美由希を結界に取り込む際に気づいた。

 今度久遠にも魔法を教えてみるのも面白いかな。

 

 一通りの魔法を練習し終えてから魔法以外の練習をしようと思った。

 自分で結界が張れるようになったから、気や霊力を使った派手な技も練習出来るようになったし。

 そっちの練習に切り替えようとした時、同じく練習の終わったなのはちゃんに聞かれた。

 

「ねえ、たっくん

 これから私の家に遊びに来ない?」

 

「え、なんで?」

 

 突然だったので少し意表を突かれた。

 どうにも美由希と色々話してたり原作の予備知識から、高町家は鬼門というか苦手意識の塊になってるんだよな。

 

「最近たっくんと魔法の練習してたからお母さん達に誰と遊んでるのかって聞かれちゃったの

 それでたっくんの事話したら家に来るように誘ってみなさいって」

 

「ああ、そう…」(チラッ

 

「な、なに?」

 

 見学していた美由希を一瞥する。

 俺の視線に気づいた美由希が反応するがどうでもいい。

 以前も同じ様な事を言われたが、美由希だったら適当に貶すかボコってたな。

 

 しかしなのはちゃん相手にそんな扱いするわけにはいかない。

 可愛さゆえに苛めたくなるという気持ちもわからなくはないが、意味も無く苛めるほど俺は子供ではない。

 

 美由希? そっちの方はいわゆるスキンシップってやつだ。

 暗黙の了解の上で適当に弄っている。

 本人も実はそれほど嫌がってないから何にも問題ない。

 そうだよな美由希。

 

「なんだかわかんないけど貶されてる気がする

 たっくん、今何考えた?」

 

「いやなに、いつもの美由希の遊び方を思い返してな

 俺たちって結構仲良いな~って思って」

 

「仲良しって思われるのは嬉しいけど、私の遊び方ってのがすごく不愉快

 やっぱり私の事貶してるじゃない!!」

 

 一応俺も好意をもって接してるつもりだが美由希は不満らしい。

 その割に良く俺の所へ遊びにくるのはホントになんでだろうな。

 

「そんなつもりは無いぞ、いつも通り遊んでるだけだ

 なのはちゃんは俺と美由希が仲良く見えるか?」

 

「え!?

 う、うん……仲良しに見えるよ

 なんだかお姉ちゃんがお兄ちゃんに遊ばれてるみたいで」

 

「なのはまで私が遊ばれてるって言うの!?

 けどやっぱりそう見えるのって恭ちゃんとたっくんが意地悪な所で似てるから?

 たっくんと仲が良いって事は、恭ちゃんとも仲良く見えるって事になるから喜ぶべきなのかな…」

 

 なのはちゃんにまで遊ばれてると言われてショックを受ける美由希。

 だけど兄と仲が良いって言われて少し喜んでるなよ。

 まだ踏ん切りついてないのか、ただ単に兄妹として割り切ってるのか。

 

「美由希、お前の横恋慕物語の続きが出来た時は教えてくれよ

 内容を脚色して式神劇にするから」

 

「物語にしないし、作ってないし、やらないよ!!!

 もうその話で混ぜっ返すのやめてよ!!」

 

 俺も本気で言ってないが、そろそろこのネタもやめておいたほうがいいかもな。

 一応美由希の大事な思い出なんだろうし。

 続きを適当に考えてはやてちゃんと美由希の前で劇をまたやってやろうかと思ったんだが。

 

「ねえ、よこれんぼってなに?」

 

「え、ああ…

 なのはちゃんはまだ知らなくていいよ

 そうだよな、美由希」

 

「そ、そうそう!!

 なのはももうちょっと大きくなったら分かるよ」

 

「む~、そうやって子ども扱いされるの嫌だな~

 たっくんだって私より一つ上なだけなのに」

 

 横恋慕の単語自体知らなかったなのはちゃんの前でこの手のからかいは不味かったな。

 久遠も前に泥棒猫の意味を結果的に教えちゃったのは失敗だった。

 可愛い子はこういうことを知るべきじゃないよな。

 出来るだけ純粋無垢であってほしいと言う願いは悪くないはずだ。

 

「それでたっくん、うちに来てくれる?」

 

「え、あ、うーん…」

 

 少々悩ませられるが、特別断る理由も無いし逃げてもしょうがないか。

 まあ、いきなり模擬戦を要求されることは流石に無いよな。

 なのはちゃんも一緒にいるだろうし大丈夫だろう。

 

「まあ、いいよ」

 

「ほんと!!

 じゃあ、明日魔法の練習が終わったら一緒に来てね」

 

「わかった」

 

 そういうわけでなのはちゃんの誘いを受けることにした。

 

「ちょ、ちょっとたっくん!!

 これまで私が誘ってきてくれなかったのになんで!?」

 

「そりゃ美由希じゃなくてなのはちゃんだから」

 

「差別だ!!!」

 

「アハハ……」

 

「クォン」

 

 だけど相変わらず美由希はからかい甲斐があるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで翌日の魔法の練習の後に、なのはちゃんに連れられて高町家前までやってきた。

 なのはちゃんに道案内されたけど、一応俺は高町家の場所を知ってるんだよな。

 小さかった頃にあったなのはちゃんを一ヶ月ほど送ってたし。

 どうやらそのことはさっぱり覚えないみたいだけど。

 

「準備は万全と」

 

「何の準備?」

 

「いや、こっちの話」

 

 ふと漏らした一言をなのはちゃんに聞き取られたので、とり合えず誤魔化す。

 準備とは以前の八神家訪問時にシグナムさんと戦わされることになったことの教訓だ。

 シグナムさんの時は木刀の海鈴を持ってきたから戦うことになったので、今回は海鈴を置いてきた。

 原作ヴィータが和平の使者は武器を持たないって言ってたもんな。

 持ってたら絡まれる可能性が上がる。

 

 デュランダルは持ってるけど待機状態だし、なのはちゃんはまだ魔法の事話してないから問題ない。

 一応式神符も置いてきて完全無防備の武装解除状態。

 まあ海鈴がなくても気刃や霊波刀を出せるから武器は問題ないんだけどね。

 式神符も最近は自分では必要なくなったし。

 

 更に二つの意味で俺を守ってくれる心強くて可愛い味方、久遠。

 いつもよりギュッと腕の中で抱きしめております。

 二つの意味とは戦闘的な意味と精神的な意味だ。

 久遠はこう見えて強いし、可愛いので精神的な癒しと励ましになってくれる。

 

「久遠、よろしく頼むぞ」

 

「クゥ?」

 

 本人は自覚してないが精神的には非常に頼もしい

 流石に久遠を抱えたまま高町家で戦うようなことはありえないから、ほんとに居てくれるだけで助かる。

 飼い主ではなく事件も終わったのでいまはパートナーと呼べないのが少し寂しいな。

 

 とりあえずこれで準備万端。

 戦闘民族と言われた高町家に入る事になる。

 覚悟が揺るがない内にとっとと行こう。

 

「じゃあ行くぞ!!」

 

「クォン!!」

 

「えっとぉ……私のお家に入るだけだよね」

 

 いざ、高町家!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「構えろ」

 

 あ……ありのまま起こった事を話すぜ!!

 俺は今高町家の道場にいる。

 道場には複数の人間がおり、内高町恭也が木刀小太刀を両手に持って構えていた。

 どうしてこうなったというが、気が付いたらこうなったというわけじゃない。

 今回ばかりは順序があって、事情もだいぶ違う。

 一つずつ説明していこう。 

 

 

 

 まず腕に抱えた久遠から勇気を貰って高町家に入ったら、割と普通に一家で出迎えられた。

 父士郎、母桃子、兄恭也が俺が来ると知っていてなにやら期待していたらしい。

 ああ、あと美由希も一緒に居たけどな。

 

 まず俺が自己紹介をしてから腕の中の久遠を紹介。

 一応久遠には喋らないでいてもらうことにした。

 高町家に来た時点でちょっとてんぱってるのに、お喋りして余計ややこしくしたくない。

 

 久遠に一番反応したのが桃子さん。

 抱かせて欲しそうにしていたので、久遠に了解を取ってから渡した。

 非常に嬉しそうに久遠を抱きしめて愛でていた。

 

 

 

 そこまでは良かったが、桃子さんが落ち着くと美由希に教えられた御神流の件が士郎さんから語られた。

 門外不出というわけではないが、基本的に他所の人間に教える武術ではないそうな。

 それが語られている間、美由希の肩身を狭くして小さくなっていた。

 

 ただ、だからといって俺に何かするというわけではなく、ただ無闇やたらに他所に教えるなという事だ。

 そういうのであれば俺も誰かに教える気はないので、特に断る理由もなく了承した。

 ついでに御神流についてちゃんと知ってもらおうと道場に来る事になった。

 

 海鈴はあえて持ってこなかったのだが、高町家の道場には木刀の予備くらい当然あった。

 なので海鈴が無いことに意味はなく、御神流なので木刀小太刀を二本渡された。

 そして木刀を持って構える恭也さんの前に立つ……………美由希。

 

「ちょっと!!

 何で私が恭ちゃんの相手なの!!

 こういう場合、たっくんじゃないの!?」

 

「何を言ってるんだ美由希

 まずは手本を見せるのが当たり前だろう」

 

「初めて来てくれたなのはと美由希の友達を怪我させるわけにはいかないからね

 今日のところは家の剣を見学していってもらおう

 いつもやってることをやりなさい、美由希」

 

「俺に押し付けようとするな」

 

「お姉ちゃん…」

 

「クゥ」

 

 美由希の文句に恭也さんがバカにするかのように言い、士郎さんは優しく宥めながらも美由希を推す。

 俺は道場の隅で正座しながら美由希に文句を言い返して、なのはちゃんも俺の横で座りながら呆れた様子を見せている。

 ちなみに久遠は俺の膝の上で、桃子さんは家の方にいる。

 

 渡された二本の木刀小太刀は、この後で士郎さんが俺が使う御神流の技を見るためらしい。

 といっても俺は二刀で使うわけじゃなくて、一刀の海鈴で使ってたから二刀には慣れてないんだけどな。

 

 

 

 

 

 そして開始した美由希と恭也さんの模擬戦。

 

 やはり同じ流派だからか、恭也さんの動きは見慣れた美由希の戦い方と似通っていていた。

 早さも美由希に劣らず、恭也さんのほうが美由希を攻めている。

 大して美由希はどちらかといえば守りを主体にしているが、時には隙を突いて反撃をしている。

 二人とも二刀流だからか手数が多く、俺との手合わせの時よりも素早く見えた。

 

「お兄ちゃんもお姉ちゃんも速い…」

 

「なのはちゃん、見た事なかったの?」

 

「練習してるのは時々見るけど、模擬戦を見るのは初めてなの

 二人が戦うのを見るのは嫌だなと思って」

 

 なるほど、なのはちゃん本来の性格ならそう考えるか。

 でもやっぱり血筋なのかフェイトとの戦いはしっかりやりこなしたし、魔法を使ってればだんだん戦闘思考になりそう。

 出来ればそうなって欲しくないな…

 

「そうか、なのはは二人の模擬戦をまともに見るのは初めてだったか

 以前までは美由希は恭也にやられっぱなしだったが、最近は良い勝負をするようになったんだ」

 

「そうなの、お父さん?」

 

「ああ、どうやら拓海君のおかげみたいだがね」

 

「俺ですか?」

 

 確かに美由希とは手合わせの他に気の扱い方のアドバイスをして身体能力が伸びたように感じる。

 気功波は無理だけど斬撃に併せた斬空閃は放てるし、最近は虚空瞬動が成功し始めてる。

 瞬動の使い方自体は俺と同じくらい使いこなしており、御神流の戦い方に併せるようになってからは今の俺じゃ追いつけなくなっている。

 

 今は御神流の模擬戦だからか使わないみたいだけど、瞬動を併せた戦い方は素人目には消えているように見えるだろう。

 俺は普段から凝をしているから目が追いついてるけど、凝をしてない場合だと美由希の動きに追いつく自信が余り無い。

 教えた俺としては成果が出て嬉しい反面、あっという間にモノにされて少し悔しい。

 

 色々思い返してみると美由希もかなりの天才なんだよな。

 普段がどうも抜けてるように見えて、とても強いとは思えない。

 学校の成績も結構良い方らしいから余計に信じられない。

 文武両道だけど性格がへっぽこといった感じか。

 これで性格までしっかりした完璧超人だったら…

 

 …やめた、どこぞのお嬢様風の美由希をイメージして変な気分になった。

 容姿も普通に良いから見る分には違和感無いのに、目の前に存在する美由希とのギャップがすさまじい事になった。

 似てない双子どころか、赤の他人の空似としか思えなかった。

 見た目や能力より、やはり人格がもっとも印象強いんだな。

 

 美由希を改めて再評価していると、難しい顔をして考えてる俺になのはちゃんが気づいた。

 

「たっくん、どうしたの?」

 

「あーいや、美由希はあれで強いのにどうして普段は情けないんだろうかと」

 

「そ、そう…」

 

「家ではそれほどそんな事もないんだが、君の前では美由希はそんな感じなんだね

 以前から君の事を美由希が話題に出すようになった頃から、美由希の成長が急に伸び始めたんだ

 剣を交える時の美由希の気もどんどん洗練されて、恭也ともまともに打ち合えるほど成長した

 正直美由希を成長させたのが自分じゃ無いのが残念だよ」

 

「すいません、やっぱり美由希に俺なりの気の使い方を教えたのは不味かったですかね」

 

「いやいや、美由希が何を糧にして強くなるかは美由希次第だ

 君さえよければ教えてくれるのは構わないよ

 だが、本当に君は独学で気を使えるようになって、瞬動という技を美由希に教えられるほどになったのかい?」

 

「ええ、まあ

 瞬動は自分で編み出しましたけど、美由希は俺より使いこなしてるくらいなんですよね

 編み出した俺としては少し悔しいんですけど」

 

 ネタは漫画だけど実践して開発したのはこの世界じゃ俺だしね。

 まあ、どういう技なのかも説明されてたし、慣れれば簡単に使えるんだけどね。

 

「それは仕方ないかもしれないよ

 どうやら瞬動と言う技はうちの流派とうまく噛み合うみたいで、それを使った美由希が恭也を瞬殺しちゃったくらいだから」

 

「そういえばおにいちゃん、初めてお姉ちゃんに負けた事を嬉しそうに言ってたの」

 

「恭也も美由希の成長が嬉しかったみたいだからね

 ただ、うちの技で強くなっても欲しかったから、普段の模擬戦では使わないように言ってるんだ」

 

 やっぱりあえて瞬動は美由希に控えさせてるのか。

 美由希も前に恭也さんに初めて勝ったとか言って、次の日にボコボコにされたって言ってたな。

 たぶんその時の事だろうな。

 

「今回はうちの技を見て貰うために控えさせてるが、制限無しの模擬戦になれば恭也も瞬動を使っている。

 美由希から教わってしまったけどよかったかい?」

 

「簡単な技なんで構いませんよ

 真似しようと思って少し練習すれば出来るようなものですし

 それより俺も美由希からそちらの技を少し教わったんですけど…」

 

「それは美由希が不用意だったから君を咎める気は無いよ

 だけど教えた技をあっという間に使えるようになったそうじゃないか

 才能があるなら美由希達と一緒にうちの技を学んでみる気はないかと思ったんだ

 そういう意図もあって美由希たちの手合わせを見てもらってる」

 

「ああ、そうだったんですか」

 

 御神流を学ぶか…

 奥義の神速とかは興味ない事は無いけど、流派とかってそれぞれ掟というか信念みたいな心構えがあるだろ。

 御神流も確か守る為って信念があったような気がする。

 

 俺は自分の力は自由に使いたいって主義だから、自分の行動を束縛するような約束事は持ちたくない。

 口だけで信念を語って学ぶ事も出来るけど、それは真面目に掲げている士郎さん達に失礼だ。

 信念を持って行動する人は尊敬するし憧れはするけど、俺は俺で自由にしたい。

 

 だから俺は堅苦しい流派を学ぶ気は無く、あくまで真似の領域で技を使うことにしている。

 尊敬するからこそ同じ業(・)を使うのではなく、自己流で真似ることで憧れを満足させている。

 これまで考えてきた技だって元は前世からの憧れだったんだしね。

 その憧れを自分で貶したくは無いよ。

 

「とても嬉しいお誘いですけど遠慮しておきます」

 

「どうしてだい?」

 

「美由希から聞きましたけど、そちらの流派って結構古い武術があるんですよね

 そういうのって仕来り(しきたり)とか約束事があるんじゃないですか」

 

「まあ、武術を扱う心構えや独特の考えはあるけど、そんなに堅苦しく考えなくてもいいと思うよ

 正しい事に使おうとするのなら、特に気にすることもないさ」

 

「悪用とか考えてるわけじゃないんですけど、俺はいろんな技を考えて習得したり学んだりしてみたいんです

 これまでもそうして技を考えたり練習したりしてきましたから

 もしかしたらここと別の流派に出会って学ぶ機会があるかもしれません

 御神流を学んでたら別の流派を学ぶってのは不味いでしょう?」

 

「確かにあまりいい気はしないけど、絶対駄目だと言う事はないよ」

 

「けど別の流派がそうとは限らないでしょう」

 

「まあ確かに」

 

 普通に考えればダメと考えるのが普通だ。

 まあ俺は前世では流派と呼べる武術をやってたわけじゃなくて、一般的な認識での考えだからな。

 これもやっぱり漫画やアニメの知識。

 けど、現実的に考えれば一つの流派を学ぶ事になれば、他の流派を学べるほどの余裕はないんだろうな。

 今の俺なら能力のおかげで学習能力が高いから出来ない事もないんだろうけど。

 

「いつか別の流派に入門するかもしれないからってわけじゃありません

 いろんな事を試したいから一本に絞るような流派に入りたくないんです」

 

「うちは別に気にしないんだが」

 

「それだけじゃなくてさっきも言った仕来りとかの枷を気にするんです

 色々やっていたら仕来りに反することをすることになるかもしれません

 そういうことになったらやっぱり失礼なんで本格的に学ぶことはお断りします」

 

「…そこまで考えてるなら仕方ないね

 まあ、それでも今日は見学していってくれ

 見て学ぶくらいならお互いに何も問題ないだろう」

 

「そうですね

 参考くらいにはさせてもらいます」

 

 といった感じで、士郎さんのお誘いは断ることになった。

 会ってみて思った以上にいい印象の人だったけど、先入観が根強すぎてこの一家に囲まれるのは少し息苦しい。

 断った理由も本当だけど、ここの道場通いになるのは遠慮したい。

 時々来るくらいはいいけど、やっぱり普段は美由希を相手に新技の実験や見様見真似で自己流の技にするくらいがいい。

 対価として美由希に気の使い方を教えてるんだし。

 

 その後は黙って美由希と恭也さんの戦いぶりを見たけど、最後は美由希が隙を突かれるかたちで負ける事になった。

 流派の技だけではやっぱり勝てないと美由希は悔しがっていたけど、俺が教えた技を解禁して戦えば恭也さんと互角以上に戦えるんだと。

 美由希は斬岩剣と斬空閃が使えるし、瞬動を混ぜればすさまじい速さになる。

 

 大して恭也さんも美由希から学んで瞬動だけは使えるそうだが、神速も使えるそうだからとんでもない高速戦闘になるんだろう。

 ちなみに神速の話は美由希から以前聞いた。

 美由希はまだ使えないから、使われたら最終的には負けそうになるんだと。

 神速使われてもなかなか負けないようになってきているあたり、美由希のスペックがもしかして想像以上に上がってるんだろうか。

 

 

 

 模擬戦が終わった後は士郎さんにちょっとだけ剣の振り方を見てもらったりなど、基本的な動作や足運びなどを指摘してもらった。

 やっぱり美由希たちに教えてるだけあって、的確で分かりやすい指導をしてくれた。

 一つ模擬戦でもどうかと言われたときは冷や汗が出たが、一度断ると直ぐに諦めてくれた。

 美由希との戦いぶりを見てみたかったらしいが、俺の戦い方は気弾とか斬空閃とかを使うから道場を壊しそうだったので納得してくれて助かった。

 

 帰る時には剣の腕を見てほしかったら遠慮なく来てくれとも言われた。

 流派を学ぶ気はないけど基礎的な剣術のアドバイスなら問題ないだろうと。

 美由希じゃ実践的というか実験的なものにしかならないから、感謝の言葉を述べながら了解した。

 

 ホントいい人達だと思った。

 戦闘に関わらない限りは…

 

 

 

 

 

 


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