詩羽無双   作:黒猫withかずさ派

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詩羽無双~彼女の告白と彼氏の理想

「先輩」

 

「…………」

 

 こっくんこっくんと俺の右肩に重みがかかり、さらさらりんと目の前を黒髪が流れ……。

 

「詩羽先輩」

 

「……んぅ?」

 

 さっきから俺にもたれかかって爆睡している彼女に、何時間ぶりに声をかける。

 

「いい加減おきてよ……」

 

「ん~……そっか、もう着いたの?」

 

「……いや、まだ和合市」

 

「……んぅ?」

 

 

 けれどそこは電車の中ではなく、電車の駅のホーム。それも帰り着いた先ではなく、始発駅……。

 

「えっと、電車を待ってる間に二人して寝こけてたみたい」

「……ふぅん」

「で、さらに悪い事に終電出ちゃってるみたい」

 

「……へぇぇ」

 

 ……の、午前0時半。実は俺が起きたのもついさっきだったり。

 

「どうしよう先輩?」

 

「そうね、じゃあ、始発まで時間潰しましょうか……水族館行く?」

 

「いかないから!」

 

 詩羽先輩は体をピクリと震わせ、両腕で自分の体を抱きしめる。9月中旬の生温かい風が吹き抜けていったせいではない。静寂が広がる駅構内に響く俺の声に驚いていたせいであった。

 

「倫理君?」

 

「そんな冗談言わないでくださいよ。昼間っからラブホに連れて行かれたのは冗談で済みますよ。いつもの毒舌の延長線上だって俺だって思う事ができますよ。でも、今は違うじゃないですか」

 

 俺はやめない。俺は止まれなかった。強気の彼女から毒気は霞んでいき、俺の意味不明の怒りは彼女の体を震わせてしまう。

 

「今は深夜なんですよ。しかも終電ないんですよ。そりゃあラブコメ展開ならホテルっていう選択肢もあります。ファミレスで朝まで時間をつぶしましたっていうお決まりのパターンだって、そりゃあありますよ。でも、俺の目の前にいる人は霞ヶ丘詩羽なんですよ。俺の情熱を全て注いでいる霞詩子であって、俺の憧れにの詩羽先輩なんです」

 

「倫理、くん?」

 

「だから冗談であっても、いつもの我儘であっても、そんな悲しい嘘を言わないでくださいっ」

 

 言ってしまった。しかも自意識過剰の場の雰囲気さえも無視した馬鹿正直なお説教をご高説してしまった。普通の女の子だったら絶対ひく。普通じゃないオタク女子だったら2次元に帰れって言われさえする、と思う。

 そんな先輩の冗談を本気で答えるだなんて俺、どうかしてるだろ。

 

「ごめんなさい……」

 

「…………え?」

 

「だから、その、ごめんなさいって言ってるのよ」

 

「いや、その、それは聞こえてます」

 

「じゃあ聞き返さないでよ」

 

「ごめん。でも……」

 

「さすがは倫理君っていうお答えだったわね」

 

「そういうわけじゃあないと思うんですけどね」

 

「そう? 冗談では言ってほしくなかったのよね?」

 

「ええ、まあ」

 

「だったら、そうね。一緒にホテル行きましょう。そして私をあなたの女にして」

 

 えっと……。ごめん。これってどこのラブコメ展開だよっ!

 思考が停止しかかった俺は、どうにか二次元的発想に逃げ込むことで自我を維持した。

 

「本気?」

 

「本気よ。だって倫理君。冗談で言ってほしくはなかったのでしょう?」

 

「そうだけど」

 

「でもそれって……」

 

「でもも冗談もなにもないわ。ストレートにセックスしてって言ってるのよ」

 

「言わないでください。いくら毒舌で下ネタオンパレードの先輩でも、そんなストレートに提案してこないでくださいっ」

 

「だって、それは倫理君が冗談が嫌だって言ったからじゃない」

 

「そうかもしれないですけど、ちょっとどころかだいぶ論点がずれている気がしますけど、今は違いますって言わせてくださいっ」

 

 またしても俺の真面目すぎる反応に先輩のご機嫌は急降下中。寒そうに身を震わせていたその体は、今や熱気で陽炎が立ち上っている……わけはなく、俺の幻覚フィルターが黒い熱気を知覚した。

 

「だったらどういえばいいのよ?」

 

「それは、そのですね。ちょっと待っててください。今考えますから」

 

「じゃあ倫理君が考えている間に参考意見をあげていくわね」

 

 思考の海に身を浸そうとした瞬間、詩羽先輩は容赦なく熱湯を注ぎこんでくる。いつもの毒舌プラスなんだか意味不明の苛立ちが通常比2倍の威力で俺を襲ってきた。

 

「そうね、あなたの事だからファミレスで時間をつぶそうとか言ってくるのよね」

 

「それさっき俺が言いました。……いいえ、なんでもありません」

 

 さらにつり上がる眉に俺の声はしぼんでいく。一方で先輩の苛立ちは破裂しそうだけど……。

 

「だったらタクシーで帰ろうとか言うのよね。あとで編集部に請求するとかいんでしょ? 新人作家が終電逃した程度ではお金出してくれないわよ。それこそ徹夜で執筆して時間をつぶせって言ってくるわね」

 

「それはご愁傷さまで……、いえ、なんでもございません」

 

「でも倫理君は倫理君だものね。そういう判断を下すのも倫理君だからこそだもの。でもね倫理君。女の私が馬鹿正直に愛の告白をしているというのに、その返事はないと思うのだけど」

 

「すみません……、ってセックス本気だったんですか?」

 

「本気に決まってるじゃない。私の処女をあげるっていってるのに、どこかの馬鹿がいらないって言ってきたけど」

 

「違いますって。詩羽先輩の事だから、いつものように俺の事をからかってるんだと思って」

 

「そう? だったらもう一度言うわね」

 

 いったん全ての怒りを俺に放出した先輩は眉を肩を下ろし、背筋をぴんと伸ばして俺と向き合った。

 

「安芸倫也君。あなたのことが好きです。だからホテルに行きましょう」

 

「…………」

 

「これでも、だめなのかしら?」

 

 ぴんと張り詰めた気迫はここまでで、詩羽先輩は今度こそ心底心細そうに身を震わせる。

 

「ねえ倫理君。私もまじめにいったのだから、倫理君も真面目に答えちょうだい」

 

「…………」

 

「倫理君?」

 

「あっ、はい。すみません。予想を大きく超える出来事に頭がフリーズしてまして」

 

「それで答えは?」

 

「ごめんなさい。俺は詩羽先輩のご要望には応えられません」

 

「そう……。悪いけどタクシーで帰ってくれないかしら。駅前にはまだタクシーがいるはずだから。そうね、編集部あての領収書を貰っておいてくれれば大丈夫なはずよ」

 

「詩羽先輩?」

 

「ごめんなさい。ほんとうに悪いのだけど、一人にしておいてくれないかしら」

 

「あの、先輩? どうして晴れて恋人同士になったというのに、真夜中に彼女一人を残して帰らないといけないのですか?」

 

「は、い?」

 

 俺の顔を覗き込むその美しい顔は涙で歪んでいた。でも、その端正な顔に流れ落ちる涙と涙声さえも可愛いと思ってしまうのは、男としてどんなものかと疑問を抱いてしまう。けっしてサドっけがあるわけではないはずなのに、こうも愛おしく思えてしまうのは、きっと俺が好きな詩羽先輩だからなのだろう。

 

「だから詩羽先輩が俺に告白してくれたじゃないですか。ギャルげーでいえば一番のイベントですよ。ルート確定後の最大の山場で、このままエンディング一直線じゃないですか。それなのにどうして悲しそうに泣いて、いや、別れ話のような展開になってるんですか? これじゃあバッドエンド一直線ですよ」

 

「……倫理君」

 

「はい」

 

「まずはその間抜けっ面を正しなさい」

 

「はい」

 

「背筋も伸ばすっ」

 

「はいっ」

 

「ではこれから質問をしていきます」

 

「わかりました」

 

「まず、倫理君は私の彼氏になってくれるのよね?」

 

「はい、光栄にも」

 

「だとすれば、私霞ヶ丘詩羽は安芸倫也と恋人になるわけよね?」

 

「はい、そうですね」

 

「わかったわ」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

「じゃあ、昼の水族館ホテルに行きましょう」

 

 笑顔でそう核爆弾を投下し俺の手を引っ張る詩羽先輩は、のりのりで改札口に向かおうとする。

 

「ちょっと待ってください。どうしてそうなるんですか? 告白イベントですよ。最重要イベントですよ」

 

「そうね」

 

「だからどうしてその告白イベントのあとにラブホテルなんていかないといけないんですかっ?」

 

「それは、男と女だから? 太古の昔よりセックスをして人は子供を作ってきたわけじゃない。いくらオブラードに包んだ表現をしようと、セックスはセックスじゃない。涼しい顔をしているヒロインも、夜は主人公の攻めに喜んでいるのよ?」

 

「やめてください。全年齢版なんですよ。そういうのはやめてください」

 

「わかったわよ。じゃあ、さっき倫理君が私の告白を拒否して、泣かして、地獄の底にまで叩き落として、鬼畜で、サディストで、もし他の女に走ったらその女を刺殺してやりたいと思わせたのは、ホテルに行くのはまだ早いということのみを拒絶してというわけね?」

 

「えっと、色々と怖い発言のオンパレードでしたけど、おおむね最後のほうの言葉が俺の心情と一致します」

 

「でも、倫理君も性欲はあるのよね?」

 

「そりゃあありますけど、でも初めての場所がラブホって味気ないじゃないですか」

 

「いかにも童貞臭が漂ってくる意見ね」

 

「悪いですか?」

 

「悪くはないわよ。私も冷静に考えてみれば、隣の部屋から聞きたくもない男女の卑猥な声なんて聞きながら処女を捧げたくはないもの」

 

 なんか今、さらっと最重要発言をしたような気がしたけど、詩羽先輩もさらっと流しているようだし、触れない方がいいのか、な?

 

「ちょっと倫理君」

 

「はい?」

 

「今の発言はくいつくところでしょ。処女を告白したのよ。中二脳全開で、女に現実ではありもしない理想を押し付けてくる処女厨の倫理君だったらよだれをたらしながらくいついてくるところでしょ」

 

「なんだかひどい言われようだった気がしましたけど、処女に反応したら先輩が照れるかなと思いまして、あえてスルーしておいただけですよ」

 

「じゃあ、うれしい? おもいっきり叫びたいほど嬉しい?」

 

「叫びはしませんけど、嬉しいと思います」

 

「思います?」

 

 ピクリと反応した眉に俺は全力の謝罪を込めて訂正に走る。

 

「嬉しいです。すっごくうれしいです。叫びはしませんけど嬉しいです」

 

「ならよろしい。では、ラブホじゃなけれなOKってことね」

 

「え?」

 

 今度こそ俺の返事を聞く事もなく詩羽先輩は俺の手を引っ張り改札口へと向かって行った。その手が、その腕が、震えているような気がして、俺はこれ以上の言葉は全て飲み込むことにした。

 

 

 

 俺がタクシーで連行された場所は、自宅を通過し、日本最大の利用者数を誇る某駅近くのKOブラウザホテルのスイートルームであった。いきなりの飛び込みではあったが、運よく?部屋を確保する事が出来た。

 ちらりとのぞき見た部屋の金額は一泊十万を越え、これだったら真っ直ぐ家に帰っても……とは言わないでおいた。

 

「さあ倫理君。いえ倫也君? 倫也さん? やっぱ倫理君かな。最高のシチュエーションを整えたわ。これで朝まで私といっしょに盛り上がって、私を泣かせてちょうだい」

 

「いや、待ってください。いや、待って、お願い。襲いかからないでくださいって」

 

「だって、感情が抑えきれなくて」

 

「それでもです。お願いですから」

 

「もういいじゃない。最高の部屋を用意したじゃない。もうこれで心おきなく「やれる」わよ」

 

「もう、いや……。ほら、夜景とか見ませんか?」

 

 俺は詩羽先輩の拘束をやんわりほどいて逃げようと……、夜景を見ようと窓際に歩み寄ろうとした。が、詩羽先輩の拘束は頑丈であった。

 

「さ、倫理君。今夜はちゃちな倫理観なんて忘れてしまいましょう……」

 

「いや、それ男の台詞だよ? ね、先輩……」

 

 

 

 

 朝日が眩しい。もう、朝だってことは理解できる。甘ったるい部屋の空気は悪くはない。むしろ肺いっぱいに吸い込んで保存しておきたいほどだ。

 もぞもぞと動く隣の物体が俺の体に絡みつく。甘ったる空気の根源たる詩羽先輩は、昨夜たくさん俺にこすりつけてきたのに、いまだに飽きもせず俺に臭いを染み込ませていく。

 

「これは朝チュンってやつかしらね?」

 

「どうでしょうかね? ホテルの上層階ですし、さすがにスズメはいないと思いますよ」

 

「そう現実的な返事をしてこられると意地悪したくなるのだけど」

 

 もうしてるじゃないですかっとは言わない。言えない。だって、緊張しまくった昨夜の心地よい疲労はまだ回復してはいないのだ。これで朝からだなんてことになったら……そりゃ俺も男だし嬉しいけど。

 

「すみません」

 

「そんな酷い事を言う倫理君には、ここのホテル代の半分、いえ理想の初夜を演出したい倫理君のことだから全額支払って下さるのでしょうね?」

 

「そ、それは……」

 

 昨夜見たホテル代を一部が俺の頭をよぎる。あれが部屋の使用料であって、このあとルームサービスで朝食とったりしたりしたらいくらかかるんだ? そもそもホテルなんて高校生の俺が使う機会なんて少ないわけで、しかもこんな一流ホテルのスイートルームの使い方なんてしるよしもない。

 だから俺は顔を青ざめて返事を返すのがやっとであった。

 

「いいわ。今回は貸しにしおくわ。今度何らかの形で返してくれれればいいわ」

 

「そうして頂けると助かります。いつか必ず返します」

 

「でも、そうね……」

 

 また何か悪巧みですか? じぃっと俺の顔を見つめるその瞳は俺だけの物になり、その感動は言葉にはできない。ただ、ゆっくりとその感動を噛み締める時間がないのがちょっとものたりないというか、リアルを実感できないでいた。

 

「やっぱりこうしましょう」

 

「どうするんです?」

 

「倫理君」

 

「はい」

 

「結婚しましょう」

 

「はい?」

 

「だから結婚」

 

「はい?」

 

「だって私は今年で高校卒業じゃない。そうなると来年からは今までみたいに気軽に会う事が出来なくなるじゃない」

 

「だからといっていきなり結婚はないかと」

 

「でも、私が安心して大学に行けないじゃない。いつ倫理君がハーレム思考に目覚めて浮気に走るかわかったものじゃないわ」

 

「いや、それないから。俺は詩羽先輩一筋だから」

 

「最初のうちは男はそういうのよ。でも、いくら素晴らしい肉欲がはじける私の体であっても、つまみ食いがしたくなるのよ。貧弱な胸とお尻。幼児体型の幼馴染みなんてものを食べてみたくなるものなのよ。たしかに毎日極上のステーキでは、たまにはお茶づけも食べたくなる気持ちもわからなくはないわ」

 

「いや、その例え話具体的すぎるから。でも、その心配はいらないですよ」

 

「どういうことかしら。ちゃんと私が納得できる説明をしてほしいわね」

 

「俺の方こそ心配ですよ。俺の目が届かないところに詩羽先輩がいってしまいそうで怖いです」

 

「そうかしら? あなたこそ私の事を忘れてオタク活動に励んでいそうな気もするのだけど」

 

「それはいいじゃないですか。俺はオタクなんですから」

 

「それもそうね。でも、オタクだからといって浮気しない保証にはならないわ」

 

 なおも詰め寄る先輩に俺はまっすぐと視線を返す。俺に擦りつけてくる柔肌も、鼻をくすぐってくる甘い香りも、幾重にも張り巡らされる甘い誘惑を払いのけ、俺は詩羽先輩に向き合った。

 

「俺が詩羽先輩に惚れているじゃダメですか? 霞詩子に心酔しているように、俺は霞ヶ丘詩羽に恋してるんです。これじゃだめですか?」

 

「それをいってしまうのね。ずるいわ」

 

「俺の本心ですから」

 

「そう、わかったわ。でも保険だけはかけさせてもらうわね」

 

「ええ、保険程度なら」

 

 俺は気がつかなかった。怪しく光るその黒い瞳の奥にうごめく策略に、俺の今後の高校生活を波乱に叩き落とされるなど思いもしなかった。まあ、ある意味リア充爆発しろってことなんだろうけど。

 

「さっき言ってたホテル代の借り、早速だけど返してもらおうかしら」

 

「はい?」

 

 なんだか理解できないのはどうしてだろうか? 詩羽先輩は日本語使ってるはずなのに。

 

「結婚はまだ早くても婚約はできるわよね? だからホテル代クラスでいいから婚約指輪をこのあと買いに行きましょう」

 

「ちょっと待ってくださいって。いや、待って、お願いだからストップして~」

 

「なによ、まだなにかあるの?」

 

「だから人生の重要イベントをすっとばそうとしないでくださいよ。先輩は俺にプロポーズされたくないんですか?」

 

「それは、……プロポーズされたいわね」

 

 小さくうずくまるその体を俺はぽんっと手で撫でる。さらっさらな黒髪が俺の手をくすぐり、愛おしさが沸き出てくる。

 

「一歩ずつ進んでいきましょう。歴史に残るような名作ギャルゲーも徹夜してクリアーしたいですよ。でも、俺と詩羽先輩の歴史はしっかりとかみしめて進めていきたいんですよ。大切な人生をスキップするんなんてもったいないじゃないですか」

 

「たまにはいいこと言うのね、普段はどうしようもない事ばかり言うくせに、生意気ね」

 

「そりゃどうも」

 

「でも、でも……」

 

「なんですか?」

 

「ペアリングだけはしようね。ホテル代の十分の一でいいから」

 

 この極上の笑みにどうやって逆らえっていうんだ。しかも涙目で、ちょっと押しさえしたら涙しそうな不安定さを演出までもして。これが素の霞ヶ丘詩羽であり、俺だけに見せてくれる詩羽先輩なんだろうけど、この敗北感やみつきになりそうで、怖いかも。

 

「わかりましたよ。それで詩羽先輩が満足して頂けるのでしたら」

 

「倫理君も高校に指輪していくのよ」

 

「わかってますよ」

 

 まあ、オタクでしられている俺が指輪をしていこうが、なんらかのオタクグッズだとおもわれるのが関の山だな。たとえ先輩が指輪をしていようが、それがペアリングだとわかるやつなんて近しい人間にかぎられるだろうし。

 

「なんだか安心してない?」

 

「え?」

 

「もちろん登下校は手をつないで登校するのよ? あっ、お昼のお弁当イベントと、「あ~ん」って食べさせあうのもしたいわね。なんだか新しいネタが浮かびそうで執筆活動もはかどりそうだわ」

 

「えっと……、そうですね」

 

 この人類最強の笑顔と霞詩子の執筆を盾にされたら俺には何もできないって。つまりは、俺が読んで楽しんできたラブコメ展開を明日から身を持って実感することになるんだろう。

 まあいいいか。この笑顔が手に入ったのならば、もはや怖いものなどないはずだ。

 こうして俺はゆっくりと感動を噛み締める間もなく月曜日からリアルを突き付けられることになった。

 

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