(はあ…かっこいいなあ…)
私、ビアンカは今一人の男の子を夢中で見ている。
アベルというその男の子は今私の目の前で日課らしい鍛錬を行なっている。
毎朝早くに起きて村を数週走り、家の裏の数mを何度か全力疾走。ゆうさんそうんどうとむさんそうんどうだって言ってた。
走り込みが終わるとゴザの上で柔軟運動をする。アベルの体はかなり柔らかい。
触った感じではしっかりとした力強さを感じるのに、不思議。
柔軟が終わったら筋肉を鍛えるトレーニング。腕立てや腹筋、スクワットなどを二十回ずつ。
筋肉は戦闘時の動きに合わせて鍛えるのが一番いいから、筋トレはやり過ぎない方がいいんだって。
あまり筋トレをやりすぎると筋肉が固くなるから、最低限がいいって言ってた。
筋トレが終わったらいよいよ剣術の鍛錬。
勿論走って汗を流してる姿なんかも格好いいのだけど、やっぱり私が一番好きなのはこの時間。
木刀っていう木の剣を正眼に構え、目を閉じて深呼吸して集中する。
まるで周りの空気が研ぎ澄まされアベルに収束していくかのような雰囲気に思わず息を呑む。
すっと目を開いたアベルはゆったりとした動きで剣を動かす。
剣はゆっくり動かすほうが難しいらしい。勢いが無いと剣筋がブレ易いから。
でもアベルの剣は私の目には一切ブレているように見えない。綺麗な弧を描き、直線を引いて、まるで踊るように剣を振る。
ゆったりとした動きなのに私には剣筋が見えない、見切れない。
きっとあの前に立っているのが私なら斬られた事にすら気付かないだろう。
「……………ハッ!」
一通りの型を終えると、次は仮想敵を相手に剣を振るう。
最初の相手はスライム辺りなのか、低めを狙って突きを繰り出す。
アベルの突きには二種類ある。木刀が岩に突き刺さる程鋭い突きと、細い木をなぎ倒す程の衝撃を伴う突きの二種類。
今回は後者を使ったのだろう。スライムが吹き飛ぶのを幻視する。
目線を外した。スライム程度なら一撃という事だ。そして次の目線は中空。恐らくドラキー辺り。
相手が飛び掛ってきたのか、上体を少し倒して攻撃を避ける。
そしてそのまま振り向き様に鋭い切り払いを行い、返しの刃で斬り落とす。ツバメ返しだ。
アベルは素早い剣捌きが得意らしく、私には一瞬で二度剣を振ったようにしか見えない。
そうやって数度架空の敵との戦闘を続けていると、突如アベルの纏う空気が変わった。
それまで殆ど動いていなかったアベルが急に後方に飛び去り、そして直後爆発的なスピードで斬りかかる。
…パパスさんだ。
アベルのお父さんであるパパスさんは物凄く強いらしい。それは私も分かる。幼い私でも分かるくらいの"風格"を持っている。
アベルもパパスさんには全く歯が立たないらしい。魔法を使えば多少傷は付けられるそうだけど、
当たりどころが悪くて大怪我してはいけないので中級以上の魔法は使わないんだって。
「ッ!アアッ!…っち、せい!とう!はっ!セヤァッ!」
力任せに振り払った反動で後ろに飛び去り、また勢いを付けての三段突き。
それもパパスさんの剣でいなされ、しかしほんの少しの隙を狙って一撃を加える。
アベルは体格が小さくて力も無いから、パパスさんと戦う時は基本的にスピードを乗せて攻撃する。
そうやって何度も繰り返して行くうち、仮想のパパスさんになんとか一撃入れた所で鍛錬を終了する。
仮想とはいえ一撃入れたのだから嬉しそうにすればいいのに、アベルはどこか不満気だ。
数日前に聞いた話では、今のアベルではパパスさんに一撃入れるなんて到底無理で、
それが出来てしまうという事は自身のイメージが甘いんだ、って言ってた。
どうせ本物じゃないんだしそれぐらいいいじゃないとは思うのだけど、そこはやっぱり男の子、拘りがあるのだろう。
兎に角、これで剣術の鍛錬は終了。やっと私の番だ。
「待たせちゃってごめんね、ビアンカ。退屈じゃなかった?」
「そんな事ないわよ。アベルの剣を見てるのは楽しいわ」
素直に見惚れてたなんて言えないからつい適当に返してしまう。
剣を振っているアベルは格好いい。仮想敵と戦っている時なんて、その相手が幻視出来てしまうぐらいに正確で綺麗だ。
汗を流し真剣な表情で剣を振るうアベルはとっても格好良くて、しかもその剣と魔法で私を守るって言ってくれた。
「アベルは何でそんなに強いの?」って聞いたら、「ビアンカのような大切な人を守るためだよ」って答えてくれたの。
その時の目は真剣そのもので、私思わず嬉しくなってアベルのほっぺにちゅーしちゃった。
思い出したら思わず顔が赤くなってしまう。
「?…さて、今日は昨日の続き。メラミだね」
「よーし、絶対ものにしてやるんだからっ!」
ここ最近私はアベルに魔法を習っている。
アベルの体験談や経験則も交えて一緒に教えてくれて、出来るようになるまでちゃんと見ててくれる。
メラとギラは直ぐ実戦レベルになったけど、メラミとベギラマは時間がかかった。
丁度一昨日に何とかギリギリ実戦レベルでベギラマを使えるようになって、昨日からはメラミの練習に入っている。
一度きちんと発動出来ればあとは一人でも練習出来るので、頑張っている。
けど中々上手くいかない。アベル曰く私は炎系の適正が高いのだけど、中でもギラ系が一番適正があるらしい。
だからベギラマの習得は数日で済んだのだけど、メラミはそうは行かない。元々難易度に大差はない筈なのだけど。
早ければ一週間、長いと二、三週間はかかるって言っていた。
でもそんなには待てない。だって明日には私はアルカパの町に帰る。
ここからアルカパへは二、三日かかるし、アベル達だって暇じゃないんだから会える時間は減ってしまう。
お願いすればアルカパまでは護衛に着いて来てくれるかも知れないけど、
それでもアルカパに滞在するのは一週間程度が限度だろう。
私はアベルが好き。とってもとっても大好き。
だからちょっとでも一緒に居られるように、アベルに着いて行けるように頑張らないと。
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わしの息子は天才だ。などと言うと親馬鹿に思われるかも知れないが、本当に天才なのだ。
僅か3歳の頃にはかなりはっきりとした自我があった。
そのせいかは知らないがお父さんと呼んでくれと言ったら親父って呼ばれたのは地味にショックだった。
まあそれは兎も角。4歳の頃にわしと一緒に旅に出て、それと同時に稽古を始めた。
最初は剣の振り方から始まって本当に"稽古"という感じだったのだが、
1年もすれば基礎は殆ど覚えてしまってそこからはしっかりとした"鍛錬"へと切り替わった。
結局わしが使える技の半数以上を憶え、なおかつ教えた覚えの無い技まで何時の間にか使いこなしていた事もある。
まさに天才的な剣術の才能を持つ息子だが、それよりも更に才能を持つ分野がある。魔法だ。
最初に使った魔法はホイミだった。剣術の修行で生傷は絶えなかったし、いきなり攻撃魔法は危険だったというのもある。
しかし初めて使ったホイミは再生速度・再生レベル共にわしのものとは段違いだった。
わし自身あまり魔法は得意では無いのだが、それでも経験という意味では一日の長がある。
しかしアベルが初めて使ったホイミはまるで熟練の魔法使いさながらの精度と性能だったのだ。
「すぅ…メラゾーマ!!」
何やら物騒な声が聞こえた直後、わしの前方で盛大な爆炎が舞い上がる。火柱どころの騒ぎではない。
考え事をしていため完全に不意打ちを食らったようなもので、思わず腰が引けてしまった。
幾ら自分に向けていないとはいえ、直ぐ近くでこれほどの爆炎が上がれば恐ろしくもなる。
熱心にアベルを見つめていたビアンカも目を丸くして驚いている。
危なかった。大型の魔法を使うという事で町外れの岩場を鍛錬場として使うように言っておいて良かった。
家の裏手なんぞでやられた日には家が燃え尽きる。
「よっし!完成!」
「す、凄い凄い!凄いじゃないアベル!」
満足行く手応えを感じたようでガッツポーズを取る息子と、我が事のようにはしゃぐビアンカ。
ココだけ見れば微笑ましい光景なのだが、先程の光景を見た後では妙にシュールだ。
何にせよ、うちの息子は天才である。たった6歳でメラゾーマが使える奴など果たして今まで居たのだろうか。
それも相当な威力と精度である。多少の熱は感じるが、指定した範囲以外には一切炎が漏れていない。
小さな範囲に膨大な熱量と炎を集束させた事で先程の高い火柱となったのだろう。
元々メラゾーマは爆弾岩やリザードマンクラスの中級モンスターですら一撃で焼き尽くせる火力があるのだ。
その上息子の魔法は通常と比べて約1.5倍程の威力がある。
ケルベロスやボーンライダーのような上級一歩手前のモンスターを一撃で倒せてしまう。
中級と言っても現実的に出現する範囲内では軽く最上位に位置するモンスターだ。
つまり、普通に陸地を旅して出会う程度のモンスターなら確実に一撃必殺出来るという事だ。
「右手にメラゾーマ、左手にメラゾーマ――合成。メガメラゾーマ!」
「へ?きゃあああああああああああああああああっ!?」
なあっ!?……………岩場が完全に消し飛んでしまった。塵すら残っていない。しかも地面が溶けている。
横で見ていたビアンカも悲鳴を上げ完全に腰を抜かしてしまっている。
しかし今のは…何だ?合成?魔法同士を合成したというのか?
…全く、我が子ながら本当に末恐ろしい。天才という言葉ですら生ぬるいなこれは。
わしの聞いたことの無い技法。少なくともアベルに知る機会は無い。つまり自分で編み出したという事だ。
かなり消耗している様子ではあるが成功している。
あり得るのか?6歳の子供がどんな魔法使いも思いつかなかった技法を編み出し、一発で成功させる。
どんな奇跡だそれは。
「うーん、イマイチ。メラミでメラゾーマ以上の威力が出たんだから、メラゾーマならもっと…」
イマイチ!?あれでイマイチなのか!?
しかも聞いていればどうやらメラミで同じ技法を試したらしい。
成る程、両手に携えた魔法同士を合成する事で相乗的に威力を上げるのだな?
メラミ2発分という事はメラゾーマよりも消費MPは少ない。にも関わらずメラゾーマを超える威力か…
技法としては恐らくかなり上位だ。そもそも二つの魔法を同時に発動し待機させるという時点で相当な難易度だろう。
それを更に暴発させずに合成し、威力を数倍に跳ね上げるのだ。とてもではないがわしには無理だな。
「ホイミ+ホイミ…マホイミ!………うん、発動はしてるな。…相手居ないからダメージワカンネ」
今度はホイミか。うん?ダメージ?…まさか過剰回復呪文か!?
回復も過多過ぎるとダメージを受けるというのを利用した呪文だが…初めてお目にかかったな。
「右手にスクルト、左手にピオリム、合成して更にバイキルト追加…スピオキルト!」
今度は補助呪文か…しかも3つ同時に合成している。最早何でもありだな。
見る限り攻撃力・防御力・スピード共に最高ランクまで上昇しているようだ。
あの状態を常に維持して戦闘をされた場合、わしでも無傷では済まんだろうな。
ただでさえ剣術や魔法はかなり強く、レベルも上がってきているのだ。
少し前に村の裏手の洞窟に潜り込んでモンスターを狩っていたためレベルは既に6…この前7に上がったか。
そろそろこの辺の魔物では経験値にもならないだろう。レヌール城辺りにでも行かせてみるか?
「もう…これじゃあ全然追いつけないじゃない…」
ビアンカが少し悔しそう…というよりは寂しそうにしているな。
ビアンカはアベルの事が好きなようだ。うちの息子は本当によくモテる。
ビアンカとしてもどこか遠くへ行ってしましいそうに感じているのかも知れない。
おっと、そんなビアンカの様子に気付いたアベルが傍に寄って慰めている。感情の機微に敏い子だ。
ビアンカも若干寂しそうではあるが相手して貰えて嬉しいようだな。
全く我が子ながらマメな事だ。あれは将来女泣かせになるな。
「…親父、何か変なこと考えてない?」
…本当に敏い子だ。
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「さあてやってきましたレヌール城」
え、何?展開早い?キンクリ?知らんなぁ。
パンサーどうしたって?俺魔物使いになる気あんまり無いんだよね…何か大変そうだし。
それに魔物使いになると専用の訓練や技術の習得も必要だろう?魔物に適した指揮とか意思疎通とか。
餌とか扱いの事も考えないといけないし、人間のパーティーメンバー探す方がいい気がする。
だからパンサーを虐めていた悪ガキどもはさっさと追い払って、パンサーも野に帰した。
じゃあ何でレヌール城に居るのかって?親父に丁度いい狩場教えてって言ったら教えてくれたのだ。
さすがにアルカパからは日数がかかるので頻繁には来れない。
そんなわけで一緒に冒険しようって約束しておいたビアンカも連れてお化け屋敷デートというわけだ。
「う…け、結構雰囲気あるのね。アベル、行きましょう?」
そういうビアンカは気丈に振る舞っているがやはり怖いのだろう。若干足が竦んで居る。
原作と違って今の俺はこういう事にも気がつく。気がついたならどうにかしないとだろう?
驚かせないようにゆっくりと抱きしめて、優しく背中を撫でてやる。
震えや足の竦みが治ったら怖くないように手を繋いであげる。顔が真っ赤だが嬉しそうなので良しとしよう。
途中ビアンカを攫おうとした馬鹿をぶった斬り、道を間違えて辿り着いた厨房に居たモンスターを二人で焼きつくし。
ん?うごくせきぞう?木刀でふっ飛ばして二人でメラミ撃ったら砕けましたが何か。
あ、ビアンカがメラミ覚えたよ。ココに来てレベルが3ほど上がったのが良かったみたい。
手を繋いでいたからか楽勝を繰り返したからか、ビアンカも大分落ち着いてきたようだ。
完全に落ち着いてしまうのはつまらないので「お化け屋敷デート楽しいね」って言ったらまた真っ赤に。
遊び気分である。とはいえ今の俺は阿修羅する凌駕する存在(意味不明)。例え油断していてもやられはしない。
隣に守るべき人が居るのだ。しかも美幼女。これで怪我などさせた日には悔やんでも悔やみきれない。
勿論俺も怪我しない。心配させたくないし、自分のせいで怪我をさせたなんて思って欲しくないからだ。
「アベル、何かこの奥に居る…」
「ん?あー、ほんとだ。ボスかなあ。よし、とっかーん」
扉をぶち破ると目の前には玉座。座っているのはドラクエⅤ最初のボス、おやぶんゴースト。HP200の雑魚である。
え?何?序盤でHP200は雑魚じゃない?ふっふっふ、ならばお見せしましょう。
何か「何用だ」的な事言ってふんぞり返ってるけど無視。
ビアンカも俺と手を繋いでいるからか怖がっている様子は無い。
床のトラップ使われてまた戻ってくるのも面倒なので話の最中に倒してしまう事にする。
「ビアンカビアンカ。あれやろうあれ」
「え?あ…うん、がんばるっ」
ここ数日の移動の間に一応使えるようになった技法を試す事に。
俺の左手とビアンカの右手を繋いだままで、そのままビアンカを抱き寄せる。
そして俺の右手にメラミを。ビアンカも左手にメラミを。直ぐに撃たずにチャージする。
ここまで来れば予想もつくかな?
そのまま二人ともメラミを携えた手をおやぶんゴーストに向けて伸ばし、
そして指を絡めるようにして俺の右手とビアンカの左手を合わせる。
――合成。
「「オメガメラミ!!」」
「なあっ!?ぎゃ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
放たれた豪炎は一瞬でおやぶんゴーストを包み込み、完全に燃やし尽くしてしまった。
一撃必殺。威力で言えば300ぐらいは出ただろうか。
これが俺の編み出した新技法、合体魔法だ。一人でやるのは合成魔法と名前を変えて区別している。
合成魔法と違って術者一人一人が自分の担当の魔法一つに集中出来るため、精度も威力も一人の合成魔法より跳ね上がる。
更に一人では一度に放出できる魔力に限界があるが、二人なら単純計算で倍の出力だ。
合成の制御も大部分を俺が担当するため相手にそこまでの技量を求めずに済むというのもある。
ただかなり相性や息が合う合わないに影響されるため、そうホイホイ誰とでも使える技法ではない。
ない…筈なのだが、ビアンカに教えてメラで試してみたら何故か一発成功。どんだけ相性良いんだ俺達。
と言ったらビアンカが凄く嬉しそうに悶えていたのを思い出す。あれは凄く可愛かった。
「ふわー…何今の。あれ、私達がやったのよね?凄い…」
すっかり呆然としているビアンカ。レベルアップにも気付いていない。あ、俺もベギラゴン覚えた。
とりあえずレベルは放っておく事にし、ビアンカを連れて物色を始める俺。
確かゴールドオーブとかいう重要アイテムが手に入る筈だ。
暫く探していると見つけた。玉座の裏に隠してあった。ついでに銀のティーセットもゲット。
確かゴールドオーブは一度壊れ、過去に取りに行くイベントが会ったはず。面倒なので壊れないように大事に保存しておこう。
もしかしたら別の未来からすり替えに来るかも知れないので、その時は諦めて俺も過去に行く。
偽物とすり替える時は教えてくれとでも紙に書いて貼り付けとけば分かるだろう。
「これで終わりかな。まだ余裕あるしレベル上げして帰ろうか。もうちょっとデートしたいしね」
「う…もう、アベルのばか。いいよ、一緒に居てあげる」
恥ずかしそうに嬉しそうにちょっと怖そうに言うビアンカ。
さっきくっついてから距離が近い。俺が離れる気がないというのもあるが、ちょっと離れるとビアンカの方から寄ってくるのだ。
どうやらビアンカの中で俺との丁度いい距離は抱き合えるぐらいの距離に落ち着いたらしい。
柔らかくていい匂いがするのを堪能しつつ、二人で一晩中探検と魔物狩りを続けた。
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「ねえアベル、前から気になってたんだけどそれなあに?」
すっかりベタベタになったビアンカといちゃいちゃしながら過ごしていると、
俺の右手の甲を指して思い出したように聞いてくる。
目線をやると其処には複数の矢印が絡み合って描かれたマーク。
手首の上辺りから矢印が伸び、手の甲まで描かれている。
輝く星の模様が入った太い矢印が一本と、その周囲に4本の矢印が螺旋状に絡みつくように描かれている。
「これは俺のレベルマーキングだよ」
レベルマーキングとは、自分のレベルを分かりやすく刻んだものだ。
この世界ではゲームと違い、レベルは教会など特定の施設か専用のアイテムを使わないと見れない。
そのため冒険者の中には自分のレベルを何かに書き記しておく者も居るのだ。
親父も左肩にごくごくシンプルなマークをペイントしている。
木の札を削ってマークを付ける者も居れば、こうして俺のように特殊な塗料で体に描く者も居る。
専用の洗剤を使わないとそうそう簡単には落ちないので、下書き必須である。
大概はⅠ、Ⅱ、Ⅲといったローマ数字やシンプルなマークで済ませるのだが、
俺のように凝ったペイントを行う者もたまに居る。
自分でペイントするので信用性は低いが、一応目立つ所に描いておけば他人からもレベルが分り易い。
まあマークの意味が分からなければレベルも分からないので俺の場合は完全に趣味である。
とはいえこのマーキングを描き足していく度に強くなった実感が湧くので結構気に入っている。
ちなみに絵は得意な方だ。センスもそこそこだと思っている。若干某エロゲの令呪に見えなくもないけど。
「真ん中の星が5つ描かれた矢印がレベル5。それ以外の矢印がレベル1。全部合わせてレベル9」
他にもレベルが10になったら竜の模様が入った矢印に変える予定。
竜の矢印3本と星5つが1本と普通の矢印3本ならレベル38、といった具合だ。
50超えたら何かもっと特殊なのに変えようかとも思っている。
それと今は矢印だけだが、何か職に就いたらそれに合わせてマークを書き足そうと思っている。
戦士なら剣に絡みつく矢印、とか。
「へー。アベルって結構絵心あるのね。人は描けるの?」
「一応描けるけどそれほど上手でもないよ。精々こういうマークぐらい。人物画より風景画の方が得意だしね」
実は手慰みというか暇つぶしに風景画を描く時がある。
この世界は自然が自然らしいまま残っている上、街並みも石や木で出来ていて綺麗だ。
一風変わった動物やモンスターも居るし、鎧を来た人達も沢山居る。
だからそんな風景を見ながら絵を描くのが結構好きだ。
これでも前世の小学校ではコンクールで入賞した覚えがある。
別に美術部に入ったりはしなかったので高校のコンクールレベルとは行かないが、
絵自体は好きだったし良く描いていたので素人にしては中々のものだと自負している。
人物画は何故か凄く苦手だけど。風景の中の人は普通に描けるのになんでだろう。
「ふーん。………」
「…?…そうだ。ビアンカ描いてあげようか。余り上手くないけど練習も兼ねてさ」
「えっ、いいの?じゃあお願いしようかな♪」
何事か言いたそうだったので思いついた事を聞いてみたのだがどうやら正解だったようだ。
余り上手くないって言ってるんだけど、嬉しそうにしてくれてる。
これは気合入れて描かないとなあ。苦手だからかなり時間かかるだろうけど。
まあ時間は大丈夫だろう。丁度良く今俺達はサンタローズに居る。
一度アルカパに帰ったのだが、ビアンカが両親に直訴。
どうせ子供の足でも2、3日の距離という事で、俺についていく許可を出してくれたのだ。
勿論俺が全力で守る事が条件。多分また暫くしたら旅に出るのが分かっていて、少しでも一緒に居たいのだろう。
事実まだ母さんは見つかっていないのだからまた旅に出る事になる。俺は俺で目的あるしね。
とりあえずオチは分かっているし、母さんが今何処に居るのかも俺は知っている。
だからまずは強くなって親父と別行動を取る。後は必要なアイテムや情報を集めて魔界に乗り込む。
これが当面の目標だ。勿論そうそう上手くは行かないだろうから、慎重かつ大胆に頑張ろう。
「うーん、普通に座ってようかな。でもずっと座ってるの大変」
「大丈夫、ビアンカなら細部まで記憶し尽くしてるから。ポーズさえ決まれば見なくても描けるよ」
「えへへ…♪」
ポーズ何がいい?と聞いただけでこの会話の流れである。事実なだけに恐ろしい。
まあ狙ってやってるの俺だけど。だってさ、可愛いよ?将来美人確定だよ?良妻も確定だよ?狙うでしょ普通。
優しくしたりするのは狙ってやってるのが半分、思わずとか天然が半分といった所だけど。
色々頑張ったおかげで完全にベタ惚れになっちゃったよ。……お互いに。
ビアンカもほんとによく懐いてくる。1m以上離れてる時間の方が短いぐらいだ。
「おーい、アベル。少し手伝ってくれー」
「あ、はーい」
っと、親父殿にお呼ばれしたので行きますか。
ビアンカも当然のように着いてくる。それを横目で見て内心にやける俺。
だってしょうがないじゃない。可愛いんだもの。
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