五之巻『鈴取り合戦!』だってばよ!
「んでさ、んでさ、この木葉丸ってのが生意気なヤツでさー!」
「ははは、もうライバルが出来たのか。いいじゃないか」
「本当に手が早いわね~。これが女の子だったらどうしようかと」
ナルトの方も順調にイベントをこなしているようで安心だ。
明日のイベントはカカシとの鈴取りサバイバルだったか。
仲間やチームワークの大切さは何度も言い聞かせて来たわけだし、
この分ならカカシ相手でも問題なく鈴を取れるだろう。
「ん?なんや、仕事かいな。…辞令?」
皆で昼食を摂っていた時、家に置いてきた分体から連絡があった。
何やら辞令が届いたらしく、読んでみれば明日結成される第七班に関するもののようだ。
はたけカカシが五代目火影の候補として適格かを判断するため、
明日結成される第七班へ監査員として編入する事を命ずる、という内容である。
原作には無かったことの上、上忍一人に下忍三人のフォーマンセルという通例を崩してまでの辞令だ。
わざわざ俺を選んだことからもただの監査目的ではなく、
人柱力であるナルトの保護と監視を暗に命ずると共に、
俺の監視や俺がナルトの為に動く時の方便としての意味もあるのだろう。
俺とナルトの二人を一緒に行動させることで、緊急時の対応を取りやすくするという側面もあると考えられる。
他には対象が下忍三人を含む部隊であることを考慮し、補佐として一名の選抜・同行を許可するとある。
この同行者には火影の許可を得た者であれば木の葉外部の者も可とする、と書いてある辺りたまもの事だろう。
途中任務に駆り出されることはあるだろうが、第七班が中長期任務に就く際は同行を義務付けるつもりのようだ。
「ん、なんだってばよ、コハク」
「仕事の事やよ。明日には分かるさかいな」
不思議そうに首を傾げるナルトに微笑みながら、
任務時の行動や特定の事態に対する対応について頭の中で纏めていく。
基本的に依頼された任務自体はナルト達第七班が解決し、俺達二人は緊急時の対応をする事になるだろう。
大きな事件は予知として伝えてあるが、小さな事件や被害の小さなものは実際に起こるかも分からないので、
基本的に場当たり的に対処していく事になる。
取り敢えず今最優先で考えるべき事は明日の鈴取り演習の事だろうと判断し、
チャクラによる糸念話の妖術をたまもへ繋いだ。
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「よう、サスケ」
「なんだ、テメェ」
「ちょっとナルト何よアンタ!」
先日の卒業試験会場に使われた部屋に、今年度の合格者達が集められていた。
忍者となった事に関する説明と、その後の班の振り分けなどの通達のためだ。
その会場に着いたナルトはとある男子に声をかけた。
彼の名はうちはサスケ。数年前の事件で壊滅したうちは一族の生き残りで、将来有望とされる一種の天才だ。
原作ではナルトとライバル関係となり、後に抜け忍となって対立する事になる。
概ねの流れを知っているのは俺とたまも、猿飛サン、ナルトの両親の五人だけ。
ナルト自身には予知でライバルとなった男だと伝えてある。
ナルトは将来のライバル候補という事で気にしていたようで、
昨日同じ班になる可能性が高いと告げた事で声を掛ける事にしたようだ。
そしてその隣で声を上げたのは春野サクラという女の子。
医療忍術の才覚を眠らせているが今現在は恋に生きる年頃の少女といった所だ。
原作では一応ヒロインという事になっているのだが、個人的にはヒナタの方がヒロインしてたように思う。
原作でナルトが彼女に恋心を寄せている様子が見かけられたが、
ヒナタというナルトにとっての親友が早々に出来た事もあり、サクラとの接点は少ないらしい。
頑張って何時も話しかけ続けているヒナタの努力の勝利といった所だが、
悲しいかなナルトが女性の恋心を理解するのはは些か時間が掛かるようだった。
「へっ、いい面構えしてんじゃねーか。よっしゃ!お前を俺のライバルとしてせーしきに認めてやる!」
「ハァ?」
「ちょっとナルトあんたサスケくんに何言ってんのよ!」
一体どういったアプローチを掛けるのかと興味深く見ていたら、いきなり啖呵を切った。
流石ナルトといった所で俺はほっとしたぐらいだが、周りは若干呆れているようだ。
言う事は言い切ったという様子で通路を挟んで反対側の席に腰を下ろし、
その隣にはそれが当然と思えるほど自然な動作でヒナタが座る。
その後は何時も通りの雑談に終始し、
言い放たれたサスケの方は訳が分からないといった様子でため息を吐いていた。
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「ったく、なんでアンタなんかと一緒なのよー。まっ!サスケくんと一緒だからいいけどね~♪」
「フン」
「んだよ愛想ワリーな。何か喋るってばよ!」
「お前なんぞと話す事はない」
ナルト達の迎えに行くと、概ね予想通りの光景が広がっていた。
サクラはサスケにぞっこんで、サスケはスカした態度を取って取り付く島もない。
ナルトは教え通りなんとかコミュを取ろうとしているものの、理屈で考えるタイプではないため苦労しているようだ。
「はいはい、仲良うしとるとこ悪いけど、君らの迎えに来たで~」
「うわっ!?あ、えっと、初めまして!はたけカカシ…先生?」
俺が声をかけると、全く気配に気付いていなかったようでサクラが驚いて飛び上がった。
職業柄気配を消す癖がついてるせいか、ナルトや中忍クラス以上でないと普通にしてても気付けないらしい。
それでも来るのは分かって居たのだから、じっとして待っていたら気付いたはずなのだが、
この年代の子供に落ち着きを求めるというのもそれはそれで酷な話か。
「あーちゃうちゃう。カカシ先生遅れてるからボクが代役や」
(コイツ、入ってきた気配を全く感じなかった……チッ、流石に上忍か)
サスケはこの頃は子供らしさが残っているためか、考えが顔に出やすいな。
本人はスカしているつもりなんだろうが、分かる奴は分かる。
まあうちはイタチ以外の忍者の実力を知らない以上懐疑的なのは仕方ないが、
担当上忍として現れた相手にガン飛ばすのはどうかと思うぞ。
「あ、コハク!何で此処に居るんだってばよ?」
「ちょっと特殊な事情でな。ボクも第七班に就く事になったんよ」
「ちょっとナルト、知り合い?」
ナルトの驚いた顔をしてやったりと眺めつつ説明していると、
隣に居たサクラがナルトに耳打ちしていた。
そんな大声では耳打ちの意味ないぞと言いたい所だが、そういえば九尾の耳だったな。
集中すれば数キロ先の音でも聞き取れるのだ。流石にツッコむのは酷か。
「オウ!えっと、俺の親戚で、火影の爺ちゃんのチョクゾクだってさ」
「うっそ!?凄い人じゃないっ!?」
今度こそ大声を上げるサクラ。
そして何でもないですと慌てて誤魔化そうとする。
全く誤魔化せていないのは幼い愛嬌だと取るべきか忍としてどうよと叱るべきか…
「君等の担当になるんは火影候補やけどな。ボクはその審査役や」
「へー、タマモは来んのか?」
「ああ、今カカシさん迎えに行っとるよ。こっちから行かな今日中に来るか怪しいさかいな」
「なんだよそれ。時間遵守の忍の掟はどこいったんだってばよ」
俺とナルトがいつもの様に会話していると、横でサクラが色々呟いてる。
火影候補と審査役ってどっちも凄い偉い人じゃないとか、
そんな人達の班に振られるって、私ってもしかして将来有望!?とか、
いやでもナルトが入ってるってことはあり得ないわよねとか、
もしかして能力の低いメンバーを指導するテスト!?とか、
あ、でもサスケくんが居るからそれはないし…など、
口に出していればそれはもう姦しい事になりそうなことを呟いていた。
サスケはサスケで興味なさ気な態度をしているつもりのようだが、
値踏みするような視線でじっと見られれば嫌でも気付くというもので。
「旦那様~、連れてきましたよっ!大変だったんですから~。撫で撫でして下さい♪」
「いやあ待たせて悪いね。そんじゃさっさと行こうか」
暫くそうしているとたまもがカカシを連れてきたので移動する。
たまもを撫でてやっているとサクラから羨ましげな視線が来たので、サスケにやってもらいたいのだろう。
サスケは今度はカカシにガンを飛ばしていて、
ナルトは火影の候補ということで興味津々のようだ。
「はてさて、どうなることやら、やな」
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翌日。
「鈴取り合戦!?」
「そ。昼の12時までに鈴を取れた奴は合格。取れなかった奴は落ちる」
どうやら原作通りに進むようだ。
用意された鈴は二つ。争奪戦の様相を呈してはいるが、実際はチームワークを見る試験だ。
三人で二つの鈴を取り合うという条件下でも試験成功を第一に考えてチームプレイが出来てこその忍、というわけだ。
俺はこの試験には参加せず、その代わりナルトの妨害を行うことになる。
「ナルト、お前はチャクラを乱され続けた状態、かつ重りを着けて参加や」
「ん?わーったってばよ」
そう言ってナルトに重りを渡し、いつもよりきつめにチャクラを乱す。
これで体術能力は半分、術は簡単なものや精度の高いものしか使えない。
試験で多重影分身やら螺旋丸やらぶっ放されても困るということによる処置だ。
「ちょ、ちょっとコハク先生!?何ですかそれ!?」
「これぐらいせぇへんと君等と実力釣り合わへんから試験にならんねん」
「なっ!?」
サクラは驚いた様子で、サスケも目を剥いているが事実だ。
あまりに実力差があってはチームワークの試験にならない。
下手をすればナルト一人で鈴が取れてしまう。なにせ手数が多いからな。
「んじゃ、スタート」
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「一体どうなってんのよ…」
今の私はわけが分からないという思いで一杯だ。
試験の開始前にいきなりナルトにハンデがかかったと思えば、当のナルトは平気そうにしている。
試験が始まった直後にナルトは
「オレは難しい事分かんねーから、作戦は任すってばよ。
オレは先に行ってせんせー抑えてっから、決まったらコイツに言ってくれってばよ」
そう言って実体のある分身を置いて行ってしまった。
その分身は今私達の目の前で座禅を組んでいる。
何してんのよって言ったら、乱されてるチャクラに集中して抵抗する役をやってるって言ってた。
よく分かんないけど体内のチャクラの流れを乱されてるらしくて、
戦ってる本体の代わりにチャクラの乱れを抑えてるらしい。
これだけでもわけが分からないのに、その本体の方を見ると更にわけが分からない光景が広がっていた。
「影分身の術!う・ず・ま・き・ナルト連弾!!」
「チッ、下忍なりたての体術じゃないでしょーよこれはっ!」
先程の実体のある分身を数体作り出し、流れるような猛攻を繰り出すナルト。
本を取り出して片手間に読もうとしていたカカシ先生は、そのあまりの猛攻に本を取り落とした。
反撃で分身を消してもナルトは次々と分身を作り出し、常に一定の数を保つ。
その動きは早すぎて目で追えないほどだ。
「くっ、甘いよ…―ボンッ―変わり身ッ!?」
「そこだってばよ!」
「まだだッ!―ボンッ―」
変わり身や変化も多用した戦術を繰り返す二人。
ナルト自身も変わり身で何度も分身と入れ替わっているようで、
本体だと思ったら分身でしたなんてざらだ。
ナルトは事前の宣言通り、上忍であるカカシ先生を見事に抑えていた。
「何なのよ…あんなの、勝てるわけないじゃない…ねえ、サスケくん…サスケくん?」
隣で一緒に見ているはずのサスケくんに声をかけるが返答がない。
不思議に思って隣をみやると、サスケくんは私が一度も見たことのない悔しげな表情でナルト達を睨みつけていた。
その目線はナルトの動きを追っているようだったが、
ふと諦めたような表情をした後、こちらを向いて言葉を発した。
「耳を貸せ、サクラ」
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・
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その時のオレは相当に間抜けな面を晒していただろう。
アカデミーではナルトという奴が居るというのは聞いていた。
だが成績は良くも悪くもない普通で、単に周りから嫌われているだけの奴だと思っていた。
説明会でアイツがオレをライバルとして認めてやると言って来た時も、
目立ちたいだけのウスラトンカチだと思って気にもしていなかった。
…だが、それは間違いだったと思い知らされた。
「一体どうなってんのよ…」
隣で春野サクラとかいう女が呟くが、どうもこうもない。アイツは今まで実力を隠していた。それだけだ。
そしてその隠された実力はオレよりも圧倒的に高い所にあった。
重りを着けているためスピードは落ちているのだろうが、
その体術のキレと正確さは以前見た中忍以上だ。
分身も俺達が習ったような単純な幻術の類ではない、実体のある影分身。
それを12体、恐らくチャクラを乱されているという状態で出せる上限なのだろう。
常に一定の数を保ち続ける分身は本体と寸分の狂いもない精度で動く。
変わり身や瞬身は俺の数倍は速く正確で、武器や自然物への変化による戦術まで付加されている。
底なしかと思うほどのチャクラによって繰り出されるそれらの猛攻は、上忍であるカカシと拮抗していた。
ハンデを課した上で、手を抜いているとはいえ上忍とやりあえる実力。
オレでさえ目で追うのがやっとで、どれが本体などという見切りなど出来るはずもない。
ハンデを解けば恐らく俺の目でも捉えるのは不可能だろう。
純粋に、地力が違いすぎた。
「何なのよ…あんなの、勝てるわけないじゃない…ねえ、サスケくん…サスケくん?」
隣で女の声がする。…そうだ。これは試験だ。このままでは奴が一人受かって俺達は落ちる。
そんな事は許されない。オレは"奴"を殺さなくてはいけない。
だが、あの戦いを繰り広げる連中相手に張り合って勝てるのか?
カカシは鈴さえ守れればいい。それも時間経過でクリアだ。
だが俺達は時間内にあの小さな鈴を手にしなければならない。
…そこまで考えて、オレは協力するための方便を必死に探している自分に気がついた。
「…耳を貸せ、サクラ」
俺の力ではどうにもならないなら、"仲間"の力を借りるしかない。
幸い思考する時間はアイツが稼いだ。
対策は一応だがある。この試験の意図も恐らく読めた。
それをこの頭が少し弱い女に説明してやらないといけない。
「な、何?サスケくん」
オレが顔を近づけると顔を赤くして離れるサクラ。
…この状況でヤル気があるのか、コイツは。
「いいから聞け。俺達の実力じゃ鈴は取れないのは明らかだ。…だから、俺達でナルトを援護する」
「援護って…でもそんな事したら!鈴は二つしか無いのに!」
やはり気付いていなかったか、馬鹿女が…それ自体がミスリードだったんだ。
そもそも三人で二つの鈴を取り合わせるだけなら、ナルトにハンデを付ける必要がない。
常識的に考えて、あれだけの実力があって忍者でない方が損失だ。
優秀な忍者を選抜するだけならさっさとアイツに鈴を取らせて、俺達二人で競い合わせた方がよっぽどいい。
だがあのコハクって男は態々ナルトの奴にハンデを付けさせて、
しかもオレ達とナルトの実力が釣り合っていなければ試験にならないとまで言った。
つまりハナからオレ達の連携力や、即席チームでの対応力を見るのが目的だったんだ。
「じゃ、じゃあ普通に二つの鈴を取り合ってたら…」
「三人纏めて、下手したら忍者自体辞めさせられてたかもな」
だが、協力して取るにしても問題がある。最初あの男は本を読みながらやろうとしていた。
つまり並以下の卒業生なら三人纏めて片手間であしらえるという事だ。
ただ普通に援護しただけでは効果があるか怪しい。
オレも一応切り札はあるが、決め手になるかは分からない。
オレの考えをサクラに告げると、絶望した表情で見るからに落ち込んだ。
考えて打開しようという気がないのかコイツは。
「決め手ならオレにあるってばよ」
突如直ぐ近くから聞こえた声に思わず身構え、
先程から座禅を組んでいたナルトの分身だと気付いて過剰反応した事を悔いる。
すっかりその存在を忘れてしまっていた。
これ程傍に居たのに、声を掛けられるまで気配を感じなかった。
この感覚は昨日の、コハクとかいう男が現れた時の感覚に似ている。
いや、そんな事は後回しだ。
「…話せ」
・
・
・
試験を開始して一時間。
開始直後からずっと体術戦闘を続けているのだが、全く衰えない猛攻にさすがに辟易してきた。
幻術をかけようとしたこともあったが通用しない。
幻術とは相手の体内のチャクラに干渉する事で効果を発揮するのだが、
ナルトの場合最初からコハクによってチャクラが乱され続けている上、
常にそれを緩和する力が働き続けている。
本体にチャクラの糸が伸びているのを確認したので、恐らくそれを伝って別の所で分身に制御させているのだろう。
この方式を考えたのはナルトとコハクのどちらかは知らないが、確かにこれなら幻術対策としては有効だ。
そもそも術の制御自体を分身に任せてしまえば本体は体術に専念できる。
糸を増やして分身や他の忍に繋げれば声を出さずに指揮をする事も可能かも知れないが、
流石にそこまでのレベルには至っていないようだ。
というか、そんな風に様々な用途に使える術として完成すれば、
少なくともBランク(上忍級)以上のオリジナル忍術になる。
砂の里の人形遣いは同じようにチャクラの糸を扱えるらしいが、実際に見たことは無いな。
「ナルト、確かに下忍になりたてとは思えないほどに強いが、一人で生き残れる程忍の世界は甘くないぞ」
そう、この試験はチームワークを測るためのものだ。
四代目火影の子であり愛弟子だと言う事で期待していたのだが、
このまま個人プレイを続けるようでは忍者失格だ。
「へっ、オレはただの牽制だってばよ。今は作戦待ちだもんね!」
「…冗談だろ?」
これだけの猛攻を仕掛けておいて作戦待ちぃ!?
どう考えても全力で取りに来てると思ったぞ。
いや、そう思わせることも戦術の内、か?
…単に加減を知らないだけの気もするな。
「んでもって…」
一言呟いて急に下がるナルト。
先ほどまで続いていた猛攻の中断に危機感を覚えた俺は周囲に意識を巡らした。
(サクラかっ!)
背後からサクラが飛びかかろうとしていた事に気付いた俺は、
しかしサクラを無視してその背後から迫っていたサスケの腕を払い、蹴り落とした。
サクラの姿をしていたものはボンッと音を立てて消える。分身だったのだ。
そして蹴り飛ばされたサスケは、キャッという甲高い悲鳴を上げてサクラの姿へと変化した。
悲鳴を上げた時点で咄嗟に崩れた態勢を立て直すと、
左右からサスケとナルトが迫っていた。
躱す暇はないと判断した俺はナルトの異常に重い蹴りを思い出して素早く防御態勢を取る。
「グッ!?」
―ボボンッ―
しかし予想していた衝撃の度合が反転していた事にしてやられたと気付いた瞬間、
サスケとナルトは軽い音を立て姿を入れ替える。
互いに相手に変化していたのだ。
力配分を間違えた俺は態勢を崩し、そこに俺に蹴りを入れているはずのサスケが滑りこんでくる。
(二段変化だとッ!?)
俺に蹴りを入れていたサスケの姿がナルトに変わる。
ナルト→サスケ→ナルトの順で変化し、先程は一段だけ変化を解いたのだ。
態々二人揃って変化を解いたのも、単純な入れ替わりだと錯覚させるための策だったというわけだ。
滑りこんできたサスケの鈴を狙う手を、しかし完全に死に体になることを覚悟で上体を反らして躱す。
そして完全に態勢を崩した俺の目に写ったのは、
滑り込んだ態勢のままナルトの姿に戻るサスケと、
先程俺を殴りつけてきたナルトの後ろで印を組み、口を膨らませて今にも火を吹かんとするサスケの姿。
印の状態から見て恐らく火遁・鳳仙火。中忍クラスの術だがサスケなら使えてもおかしくない。
(くっ、間に合うか!?)
吐き出された火炎を変わり身によって緊急回避し、
状況を把握するためにも全体が見える位置へと瞬身する。
「待ってたぜ、カカシィ」
―火遁・豪火球!!!―
全体を見渡そうとした俺の目が火を吐き出すサスケがナルトに変わるのを見定めた瞬間、
俺は爆炎に包まれて吹き飛んだ。
結局あの場に居たのは全てナルト。
俺が全体が見える位置へ飛ぶのを予想して待ち構えていたのだろう。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされた俺は木に激突するが、
何とか鈴は取られていないことを確認して安堵した、次の瞬間。
―ボンッ、ブチブチッ―
「サスケくーん!ナルトー!鈴取ったわよー!!」
木に変化して待ち構えていたサクラに鈴を取られ、
俺は完全に三人にしてやられたことを認識した。
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・
・
「お前らね、おかしいでしょうよ。取られない前提で考えてたんだよ?こっちは」
「カカシせんせーってばコハクより弱いんだもんよー。そんなんじゃ話になんねーってばよ」
「うぐっ、お、俺だって本気出せばなあ」
割りと本気でやって負けておいてどの口が言うのか。
現在俺達は鈴を取れたご褒美という事で一楽に来ている。
ご褒美をやると言ったらナルトが一楽を所望してきたので、
今回の功労賞という事もあって決定したのだ。
サクラもサスケも初めて来たようだが、美味そうに啜っている。
「んっ、コハク先生ってそんなに強いの?」
「オウ!なんたってコハクは俺の師匠だからなっ!」
「何?」
ナルトが自慢げに語った直後、サスケが食いついてきた。
やはり自分より圧倒的に格上だった同期の師匠というのは気になるのだろう。
とはいえこれからは同じ班のメンバーなわけで、任務も共にすることになる。
カカシはサボり魔だが俺は修行をつけてやるのは好きなので、
これから色々と教えてやることになるだろう。
「しかし、ハナからナルトが分身と変化で俺を翻弄して、
サスケが吹き飛ばした所をサクラが待ち構える手はずだったとはな…」
ナルト達が考えた作戦は簡単。
カカシが言った通りにナルトが翻弄し、サスケとサクラで鈴を取るというものだ。
本物が混じっている事に信憑性を持たせるために、最初にサクラが変化して殴りかかったのはサクラ自身の案だ。
サスケは自身最大の術である豪火球を全力で放つためにチャクラを練りあげて待ち構え、
ナルトが翻弄して目を逸らしている間にサクラは離脱して変化、待ち構えるというもの。
ナルトが仕掛けた1時間の猛攻によってカカシがナルトを極端に警戒しているであろう事も考慮した策で、
ナルトの変化による翻弄は全てその場のカンと思いつきだったそうだ。
「思いつきで二段変化なんて高等技術使うんじゃないよ」
「へへへっ、こないだコハクに教えて貰ったばっかりだったから使ってみたんだってばよ!」
「お前ね、下忍未満に何教えてくれちゃってんのよ」
「実力は中忍クラスはあるさかいなあ」
数の利を再現できるため、実際そこらの中忍程度には負けないだけの戦闘力はある。
多対一を一瞬で反転させられるというのはかなり大きい。
あとは妖術の類を少し使えるようになれば、影分身の強度を上げることも可能なのだが。
そうなれば多少能力の落ちるナルトが千単位で襲ってくる事になるのである。
「恐ろしい事考えるね君は」
「コハクさんって妖術が使えるんですか?」
「うん、ちょっと特殊な一族でな」
実際妖術を使える一族というのは過去に存在したらしい。
現存するかは不明な上、使えるといっても俺ほどでは無いだろうけれど。
サスケは相変わらずガン垂れているが、その意味は少し前とは大違いだろう。
恐らく弟子入りするか技術を盗むかといった事を考えているに違いない。
今回のことでナルトがしっかりと成長していることも確認できたし、
あとは実戦経験さえ積めば立派な忍になれるだろう。
サスケやサクラも修行を見てやる事を考えるなら、難易度の高い任務を優先的に回して貰うのも良いかもしれない。
「とりあえずナルトに教えてきた事に近い事を君等にも教えたるさかい、精進しいや」
「本当ですかっ!?やったー!」
「…フン」
手っ取り早く強くなれるとでも思って喜んでいるのであろうサクラと、
嬉しいけど素直に感謝する気にはなれないツンデレなサスケの図。
これで弟子は五人か。ナルト、ヒナタ、ミカン、サスケ、サクラである。
ヒナタとミカンはナルトとつるむ内に修行に参加するようになったのだ。
きちんと親御さんの了解は得てある。
幼い頃のゴタゴタが無かったことやヒナタが原作以上に努力していた事などから、
父親のヒアシや叔父のヒザシ、従兄妹のネジとの関係は概ね良好なようである。
…最近成長著しいヒナタをネジはライバル視しているようだが。原作ほど険悪では無いのでよしとしよう。
そういえば、ネジの父であるヒザシが死んだ理由を忘れていたため、
何時の間にか助かっていた事に驚いた事があったな。
実際にはナルトの体を使ってヒナタを助けた時の事件で亡くなる筈だったようだ。
ミカンのとこは特に由緒正しい大家系というわけでもないため、
優秀な忍の指導を受けられるならと簡単に許可が降りた。
サスケは一族はもう居ないし、サクラも普通の家庭の子のため心配は要らないだろう。
「そういやタマモはどうしたんだってばよ?」
「ああ、ナルト達が無事受かったんを報告しに行ったんよ」
たまもにはこういう連絡役をよく頼んでいる。
妖術式の瞬身が得意で速いというのもあるが、顔を広げて貰おうという目的もある。
男より女の方が受け入れて貰い易いだろうし、
後で正体がバレた時にも最初に仲良くなっておけば印象も変わってくる。
「寂しそうにしとったから、今度連れ出したらなあかんなぁ」
「あの、タマモさんってコハクさんの奥さんなんですか?」
「んーにゃ、まだ婚約というか、お試し期間やな」
たまもの話しになったのでついでに馴れ初めを語ることに。
勿論妖狐の辺りは誤魔化してある。
とはいえまだ数日の付き合いなのだが、意外と語れるものだ。
サクラは流石に年頃の女の子だけあって、興味津々といった様子で聞いている。
一目惚れして着いて来たと言う話を聞いて驚いていたが、
正直俺の周りはこの程度で驚いていられないような事で溢れている気がする。
当然、その筆頭は俺になるのだが。
「いいなあ、私も…(チラッ」
色恋にうつつを抜かすなとは言えた立場ではないが、
この調子でよくまああれだけ立派になれたものである。
それはさておき、今後は二人の修行を中心に、片手間に任務をこなす生活になるだろう。
折角来て早々でたまもには申し訳ないが、俺の補佐として頑張ってもらおう。
取り敢えず、何かお礼を考えておくか。
「さて、初任務はどうなるやろなあ」