ただ、槌を振った。ただ、刃を振った。ただ、魂を振った。
声を捨てた。必要が無かったから。光を捨てた。必要が無かったから。
音を捨てた。必要が無かったから。味を捨てた。必要が無かったから。
匂いを捨てた。必要が無かったから。感覚も右掌を残し捨てた。必要がなかったから。
そして、名前を捨てた。必要が無かったから。
最果てが見たかった。己が何処まで至れるのか。己は何処に至るのか。
他の何にも興味は無かった。されど知識だけは集めた。必要だったから。
あらゆる知識を。あらゆる経験を。全ては唯一つ、最果てを見るために。
東の業物を振った。西の名工を訪ねた。北の英傑を斬った。南の悪鬼を裂いた。
しかし一つとして彼を満たすモノは無かった。彼と共に来れるモノは無かった。
ある時、一つの刀と出会う。銘は無い。素材は只の鉄。刃がこぼれ、芯は砕けていた。
何の変哲もない、何処にでも在るナマクラだった。だから、彼はそれを選んだ。
名など要らない。必要が無いから。他者の色が付けられた刃など要らないから。
溶かし、打ちなおした。稚拙だった。何も斬らず、一振りで折れてしまった。
溶かし、打ちなおした。二振りで折れた。溶かし、打ちなおした。三振りで折れた。
溶かし、打ちなおした。四振りで折れた。溶かし、打ちなおした。五振りで折れた。
六振りで折れた。七振りで折れた。八。九。十。十一。十二。十三。十四。十五。
溶かし、打ちなおした。溶かした。溶かした。溶かした。打った。打った。打った。
初めて、ナニカを斬った。ただのわらくずだった。紐で括っただけの塊だった。
ワラを斬った。紙を斬った。木片を。動物を。人を。悪鬼を。只々斬った。
脆かった。頑丈だった。柔らかかった。硬かった。あるいは強靭だった。
折れた。溶かした。打った。斬った。折れた。溶かした。打った。斬った。
気づけば、至っていた。いつか目指した最果てに。
何度も溶かし、何度も打ち、何度も斬り、何度も折れた"友"と共に。
自分の血を吸い。誰かの血を吸い。自分の命を喰らい。誰かの魂を喰らい。
それでも、それは妖刀と言われる類のものでは無かった。
知っていたから。その刀は知っていた。"そんなもの"になる必要は無いという事を。
主が望むのは、ただ一振りの刀であった。刀である事以外、何も要らなかった。
人智を超えた。才能が有った。努力をした。研鑽を重ねた。
最果てに辿り着いた時、ふと振り返った。あらゆる過程が其処にあった。
武を持つ者が辿るべき、最果てにたどり着くただ唯一。一本の道筋が其処にあった。
再び前を向いた。最果てがそこにはあった。しかし自分は最果てを見ていた。
そう、最果てに居るのでは無かった。最果ての目の前に居た。
悩みは無かった。葛藤は無かった。苦心は無かった。
知っていた。あるいは気付いていた。今のままでは、ここが限界だと。
知っていた。あるいは気付いていた。たった一つの事で、一歩前に踏み出すと。
知っていた。あるいは気付いていた。自分の鍛冶は精々一流止まりだと。
知っていた。あるいは気付いていた。だから、最後の一歩には代償が必要だと。
迷いは、無かった。何度も打ちなおした友の刃で、己の左腕を斬り落とした。
肩口から、腕一本。それを再び溶かした友と共に、炉にくべた。
打った。片腕で打った。いつもよりも打った。限界を超えても打った。
自分はもう果てへと至っていたから。ならばこれを打ち尽くせば、最果てへと至る。
もう刃を振るう必要は無かった。確かめる必要も無かった。確信があった。
名を無くした剣士にして名工。銘無き名刀。
あらゆる全てを振り切って最後まで振りきった彼らは、最果てへと至った。
▼Data
【CLASS】バーサーカー、アサシン、ネームレスなど
【マスター】
【真名】―
【性別】男性
【身長・体重】180cm・70kg
【属性】中立・中庸
【性格】温和
【特徴】無口
【特技】剣術、鍛冶
【好き】のんびりする事、刀の手入れ
【苦手】人と接する事
▼Status
・クラス:バーサーカー
筋力B+ 魔力D+
耐久B+ 幸運B
敏捷A+ 宝具C
▼ClassSkill
【狂化】D
筋力と耐久のパラメータをランクアップさせる。
思考能力は失っていない代わりに右掌以外の五感を失っている。
それ以外では一切のペナルティ無し。
▼InherentSkill
【五感喪失】A
バーサーカーとして喚ばれた最たる理由であり、
英霊化によって取り戻した筈の五感は狂化により再び喪われている。
声は取り戻したまま、名前は既に取り戻す気が無いようである。
その結果、右掌以外の一切の五感が機能していない。
【最果て:斬る】EX
何らかの形で人の身の限界、最果てと呼ばれる根源の一つへと至った証。
彼は最果てへ至り見るだけでなく、最果てに立った最果ての人間。
ただ斬るという事に於いて、彼は神をも凌ぐ絶対性を有する。
扱えるという次元ではなく、彼そのものが"斬る"という概念の体現である。
完全な到達点である最果てに至った彼の技術と肉体は、
どれほどの時を経ても決して衰えず錆びつくことが無い。
【心覚】A
無くした五感の代わりに手に入れた唯一絶対の感覚。
五感に頼らずあらゆる情報を本来の五感以上に高度に知覚する事が出来る。
五感への干渉が意味を成さない他、狂化のデメリットをも打ち消している。
【無銘】A
自身を表すあらゆる符号を喪った形。
真名を持たず、真名を前提とするあらゆる効力の対象とならない。
【明鏡止水】A
ただひたすら脇目もふらず人生を刀に費やした末に至った境地の一つ。
同ランク以下の精神干渉及び精神的制約を無効化し、
効力がAランクを超えない精神的制約は無視して行動する事が出来る。
▼Artifact
『不錆刀―無銘―』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
何度も溶かされ何度も打ち直され何度も斬り何度も折れた無銘の名刀。
刃渡りおよそ二尺の小太刀で飾り気は無くしかし圧倒的な存在感と気を放つ。
ただ主人が求める"刀"という存在たろうとする何よりの忠臣であり戦友。
主人の片腕を溶かし混ぜられており、常時は左腕に変化している。
非常に希薄ながら意思を持ち強靭な魂を持つものの、"妖刀ではない"。
あらゆる一切によって折れず、曲がらず、錆びつかぬだけのただの刀。
持ち主も無銘自身も、銘無き"ただの刀"である事を望んでいるようだ。
『数打ち―無銘―』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
何度も打ち直された無銘の一つ一つの姿。
短刀から野太刀まで刀であればどのような姿でも取れる。
その性質は投影に近く複数の無銘を同時に顕現させる事が可能。
完成した無銘のような破壊耐性は無いものの、
投影同様一度破壊されても再び同じものを取り出す事ができる。
ランクは低いが両手を用いて戦闘を行う事が出来るのが利点。
第一話「ネームレス」
――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。
汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!
――じめじめとした場所だ。
最初に思ったのはそれだった。どうやら隠れ家の地下室らしい。
気の流れは淀み、陰鬱とした雰囲気が漂っている。
家主の性質か、少々の気持ち悪さも感じられるのが不快だ。
退魔の剣士としては早々に切り捨ててしまいたいが、もう少しは我慢しよう。
「良し、成功だ……」
目の前には男が一人。何やら随分と憔悴しているようである。
自分はどうやらこの男に召喚されたようだ。召喚理由は聖杯戦争への参加。
自分の知識の中に見慣れぬものがあったので、恐らく必要な知識を与えられたのだな。
そんな事を思いつつ自分の意識に混乱がないか確かめる。
俺が喚ばれたのは――俺?ああ、精神もそれなりに若返っているのか。
いや、これは座とか言う所に居た時と同じだな。肉体も全盛期のものだ。
結局座に行けば"彼女"に会えるかと思ったが――居なかったな。
ともあれ、現状の確認だ。俺が召喚された理由は前述の通り聖杯戦争への参加。
7人のマスターが七種類のクラスに対応した英雄の魂を召喚し、
それを使役し戦い合わせる事によって聖杯という万能の願望器を奪い合う。
最後の一人になった時聖杯は覚醒しあらゆる願いが叶う、と。
マスターとは別にどこかから魔力らしきものが供給されているようだ。
これが例の聖杯か、それに関連するシステムなのだろう。
――随分気持ち悪い気だ。聖杯の製作者の趣味は余りよろしく無いらしい。
「ハァ、ハァ……ああ、喋れないんだったな。俺は――」
随分憔悴した様子の男が声をかけてくる。
俺が召喚されたバーサーカーというクラスは確かに、
【狂化】と呼ばれるクラス固有のスキルが与えられる。
思考力を奪われる類の呪いのようで、俺も座に至り戻った五感を再び失っている。
しかしなぜか声も思考能力も失していない。
どうやら思考能力の代わりに五感を奪われたようだ。
元々俺は声と名前と五感を捨てていた。名前は座に至っても"無くした"まま。
それが【狂化】の影響で声以外生前の状態に戻ったという事か。
――まあ、五感に頼らずあらゆる知覚を行える俺には関係無いのだが。
声も問題なく出せるようだ。これなら意思疎通の問題も無い。
しかし大丈夫だろうか?浮世離れして久しく、ヒトとの会話など何年ぶりか。
そもそもロクに使って来なかった言語をまともに扱える自信も無く。
その上ここは異邦の地のようである。
それも国の違い程度では済まないレベルの。
多少の異邦人やイレギュラーなど"座"にとっては些細なことか。
だがただでさえ不慣れな意思疎通で異文化交流を行えと?無茶を言う。
頭の中では色々考える事もあるが、口に出した経験など殆ど無いのだぞ。
まあ、文句を言っても仕方ない。目的を果たすためにも協力する必要がある。
ならば多少の不満や意思疎通の不足などどうとでもするしかない。
とりあえず会話が出来ないと思っている彼に何か言葉をかけよう。
とりあえずは契約の確認を行う言葉でも口にしておけばハズレは無いだろう。
「――お前が俺のマスターか」
「な……に……?」
――うん?何か失敗しただろうか?
「はは、驚いたな。道理で予想より負荷が軽いと思った」
うむ、やはりあれで問題なかったようである。
驚き狼狽える彼を落ち着かせなぜ動揺していたのかを聞いてみた所、
【狂化】による意思疎通の阻害が無かったため召喚に失敗したかと思ったらしい。
確かに成功していれば出来るはずの無い意思疎通が出来れば焦りもするだろう。
取り敢えず、隠す必要も無いため説明も兼ね自分の能力その他を彼に公開した。
マスターにはサーヴァントの能力を確認するスキル――【凝視】とでも言おうか。
ともかくそれが与えられる。サーヴァント側が許可しなければ、
6種類の能力値を表したステータスぐらいしか見れないので、許可を出したのだ。
結果、随分と驚かれたようである。それもそうだろう。
元々バーサーカーは弱い英霊を強化し召喚するためのクラスだ。
その割に私のステータスやスキルのランクは中々高いようだし、
そうでなくても【狂化】のデメリットが殆ど無効化されていて、
筋力と耐久のランクをアップするというメリットだけが残っているのだから。
【狂化】のランクが高ければ声や思考能力にも影響が出ていたのだろうが、
ランクが低いためこの程度のメリットとデメリットで収まっているようである。
銘を持たないことと異邦の地であることから知名度補正とかいうのもゼロだ。
それは自分の力に【狂化】によるもの以上の違和感を感じない事からも確か。
一切の能力増幅無しで前述のステータスだった事に驚かれたが、
逆に神話級の連中のようにランクを落として召喚されたわけでもないのだ。
イレギュラーとして考えればむしろまともな方では無いだろうか。
ともあれ彼が心配していたらしいバーサーカーを使役する際のマスターへの負荷も、
【狂化】のランクが低い事と俺の宝具が能力開放型で無いためかなり低い。
この分なら負荷をかけて彼を死なせてしまうという心配も無いだろう。
斬るというのは俺の技術とか存在そのものが持つ力のようなもので、
宝具はただ振るうだけの武器であるので負荷をかける事は無い。
「だけど、これだけのステータスとスキルでデメリット無しは心強い」
そう言ってほっとしたような頼もしいような感情の笑顔を浮かべる彼。
何やら他に心配事か心労でもあったのか、少し肩の荷が降りた様子だ。
こうして接していても真面目で努力家、信念と正義感を持った良い人物だ。
俺としてもこのような人物相手であれば協力し共に戦う事に否は無い。
――無い、が。
「――少し、いいか」
「うん?なんだいバーサーカー」
俺の友好的な意思を察してか向こうも警戒心は薄いようだが、
それとは別に俺はどうしようもない気持ち悪さを感じている。
それは暫く彼と接する事でかなり明瞭になってきた。
彼自身がどうのこうのではなく、彼の中に何か気持ち悪いものがある。
しかもどうやらその気持ち悪いものはこちらを観察しているようだ。
彼に俺の感じた事を伝えると、何か心当たりがあるのか沈痛な表情をした。
それは彼自身の事でもあるようだが、それ以上に他の誰かへのもの。
恐らく気持ち悪さの原因か、彼同様気持ち悪いものを植え付けられた者か、
あるいはその両方のいずれかに心当たりがあるのだろう。
そして、どうやら彼はそのことに心を痛めているようである。
――これは、いけない。
なにせ彼とは運命共同体だ。俺には俺の目的があってここに居る。
その目的のためには是非とも聖杯は手に入れたいもので、それは彼も同様。
彼の話曰くマスターとサーヴァントで聖杯を取り合う必要は無いようで、
つまり障害となるのは他のマスターとサーヴァントのみ。
だが、そこに別の障害があるとしたら。
初めて会った人間にも分かるほどの憎しみと憐憫と無力感。
それを感じるほどの何かが彼にあるのだとしたら、これは由々しき事態である。
――ならば、斬るしか無いだろう。
そうだ、斬ろう。斬るべきだ。斬ることになんの異存も有りはしない。
其処に理由が有り目的が有り術が有る。ならば躊躇う必要は無い。
「バーサーカー?」
黙りこんだ俺に向かい彼が訝しげな声をかけるのを無視し、自分の左手首を掴む。
千分の一にも満たないごく一瞬で、左腕が変化する。
切り離された肩口の傷跡は塞がって久しく、
腕は捻じれ潰れていき何の変哲もない一振りの刀へと変わる。
何度も何度も打ち直し、そして共に至った最高の
錆びず、折れず、曲がらぬ、銘無き一振りの小太刀。
「バーサーカー!?」
「――信じろ」
一瞬で獲物を手にした俺に驚いたのか彼が声を上げるが、
そんな彼に対し俺は一言だけ声をかける。
不器用で斬る以外の対人経験が乏しい俺にはこのぐらいしか出来ない。
今俺が持つ全ての感情を言葉と共に吐き出すと、
彼は信用したのかそれとも気圧されたのか黙りこくる。
そして俺は感情を全て吐き出した無色の心で、ただ一念を想う。
――斬る。
しゃらん。耳慣れない、しかし決して不快ではない音が辺りに響く。
幻聴のように幻想的なそれは、神秘的でそして言葉に出来ないほど美しい音色。
気がつけば、"斬られていた"。何が起こったのかなど分かろう筈もない。
音よりも速く、ともすれば光よりも速いかもしれない速度で。
しかし何の余波も立てずそよ風一つ起こさず振るわれた刃。
あり得ない現象だ。物理法則を無視している。しかし、疑問や違和感は無かった。
分かったのだ。例え五感で捕らえられずとも、彼が何をしたのかは分かった。
"斬った"。ただそれだけの当たり前の事。当たり前だと思う程違和感無く理解させられた。
斬ったのだ。彼が斬ると想ったただ一つを。だから、それ以外は斬られない。
空気も、音も、血肉も、何一つ余分なモノは斬らず唯一つ斬りたいだけを斬る。
それは、まさに神業だった。思わず称賛したくなって、しかしその言葉すら出てこない。
至れるのだ。至ったのだ。至ってしまっているのだ。彼は。ヒトは。ここまで。
根源とか、そういう類のものなのだろうと漠然と思う。
それはまさしく彼が言っていた最果て。ヒトが至ることの出来る最終点。完全な完結。
あまりの、あまりのことに声も出ない。ヒトは、ここまで至れるのかと感動すら覚える。
だから、気がつけばただ一言声を出していた。
「――
それが、まさに美事な彼の剣に対し贈れたただ一つの称賛だった。
彼はその言葉を聞き、感情表現の乏しい顔の口元に、ふっと小さな笑みを浮かべた。
満足気な、笑み。確かに"斬った"と宣言するかのような、笑み。
それを見て、誇らしかった。彼に斬られたことが。彼の剣技を見れたことが。
武術の心得など何一つ無いけれど、それでも彼の剣は本当に――美事だと、そう想った。
「あ、あああ……」
ようやく我を取り戻した彼に何を斬ったのかと聞かれたので、
お前の中に居た気持ち悪いもの――それを繋がっていた糸を辿り大本から斬ったと伝えた。
ただ一心に刀と鎚を振っていた俺ではあるが、これでも元は退魔の剣士だ。
いや、既に名も捨てた俺には関係ないことなのだが、技術として確かに持っているのだ。
対魔力スキルだとか退魔術などという洒落たモノは使えないが、
もとよりこの刃は魔を断つという所に依って鍛えられたもの。
そして、俺は斬りたいものだけを斬る。他のものも同時に斬るなど無駄でしか無いのだから。
ただ斬るという一念をもって狙いすましたただ一つを斬る。
それだけを想い刀を振り続けて来た俺だ。
魔術的なものか霊的なものかは知らないが、しっかりと糸が繋がっているのだ。
ならばその大本も、糸で繋がる分体も、全て纏めて"斬る"。
知ってはいるがそれでも錆びず衰えぬ自分の腕に満足して一つ頷き、
気持ち悪さが消えた事でどうやら障害の排除にも成功した事に喜ぶ。
斬ったことで魔力供給が大分減ってしまったが、
聖杯からの供給と食事を行うなどすれば特に問題なく維持は可能だろう。
戦闘ではそもそも魔力を使うこと自体が皆無なので心配する必要も無い。
これで何の心配も無く戦いに専念出来ると思い彼の方を見る。
――泣いていた。それはもう盛大な男泣きだった。
先ほどから聞こえていた嗚咽が感動と喜びと安堵のそれである事に一つ頷き、
光なき目の瞼を閉じ心の目と耳を閉じた。漢が泣いているのだ。無粋な真似はすまい。
そうして、幾らかの時が経った。
着物の懐から取り出した道具を持ち、斬ってくれた友の手入れをする事しばし。
ようやく我を取り戻したらしい彼が土下座でもせん勢いで礼を言って来たのに対し、
斬ったものに気持ち悪い程度の感慨と認識しか無かった俺は一つ頷いて礼を受け取るだけ。
正直彼がなぜ泣いていたのか、あの気持ち悪いものが何だったのかはわからない。
だがまあ先に確認したい事があるようなので、そちらを優先させてやるとしよう。
話している間も早く確かめに行きたいのか随分とそわそわとしている。
そうしていざ行かんと立ち上がって、彼がすっかり忘れていたというように言葉を紡いだ。
「俺の名前は
「――俺に銘は無い。無銘、あるいはネームレス、好きに呼べ」
「じゃあクラスをネームレスで名を無銘と。ありがとう、そしてよろしく頼む、無銘」
「応」
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