黒歴史自由帳   作:ゼロゼロ大神

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この設定には
・オリジナル設定&ストーリー
・チート&俺TUEEE
・VRMMO→現実異世界トリップ
・ハーレムまっしぐら
などの要素が含まれます。ご注意下さい。





Skill Earth Online (オリジナル VRMMO)
Save:001.「ごくありふれたプロローグ」


 

「おいおいおい、冗談だろ?」

 

 

 

 

 

―Save:001.「ごくありふれたプロローグ」―

 

 

 

 

 

 

 思わずぽつりと呟いてしまった。周囲を見渡せば鬱蒼と生い茂る木々に囲まれ、背後には非常に綺麗な泉らしきものがある。

足元に目を落とせば首を両断され血を垂れ流す一体の狼。霧散するような様子もなく、血の匂いを漂わせて倒れ伏している。

目線を前に上げれば青白い半透明の板が浮かんでおり、さながらSFモノに出てくるホログラム式のディスプレイのようだ。

そのディスプレイに表示されているのは今の俺の全身像とステータス。名前欄にはヒュージ=マハダランと書かれている。

装備はいかにもファンタジーチックな初心者装備といった装いであり、しかし剣だけはひと目で分かる程に明らかな大業物。

髪は日本人らしい黒髪を短髪に刈りあげており、瞳も特にオッドアイとかいう事もなく普通に黒。

顔の造形は元の顔と別人に見える程度に調整してはいるものの、イケメンかと聞かれたら大概の人は微妙と答えるだろう。

その他状態異常に掛かっているわけでも特殊な能力が発動状態なわけでもなく、ごくごく普通の初心者冒険者に見える。

 

 勿論この世界に存在する大多数のヒト達からすれば、俺の今の格好は概ねごく当たり前のものとして受け入れられる筈だ。

俺だってこういった格好は既に見慣れたものでもあるし、以前はこのような初々しい装いに身を包んでいた事もある。

当時ある意味で新米冒険者だった俺はそりゃあもう楽しげな雰囲気をまき散らしながら街中を闊歩していたし、

勢い勇んで街の外に出た直後にモンスターと出会って必死の思いでぬっ殺したのも記憶に残っている。

そもそも今この状況になる直前まで今に似たファンタジーな格好をしていたのだから何を戸惑う事がある、といった所だ。

 

「それはいい…いや良くないけどいい。けどこの状況はあまりにも…」

 

 何が問題なのか?簡単なことである。今感じているこの状況が、余りにもリアル過ぎるのである。

耳に届く木々の葉音。吹き抜ける風の爽やかさ。葉が舞い落ちた水面の揺らめき。足元から漂う血の匂い。

狼を斬った感触は生々しく、浴びた血は生暖かい。慌てて泉で顔を洗った時の水の感触のなんとリアルな事か。

うん?それのどこが問題なのか…って?うん、コレ以上引っ張ってもくどいだけだろうから結論から言わせてもらおう。

 

「俺、異世界トリップしたんだ…」

 

 と、いう事である。現状を整理しよう。まず俺はつい先程まで有名なVRMMORPGをプレイしていた。

VR――所謂ヴァーチャル・リアリティ。仮想現実と呼ばれるそれは、まるで現実のように五感で感じる電脳世界だ。

一昔前まではネットやゲームというものはパソコンの画面に向かって背を丸めながらプレイするものだった。

しかし数十年前に『ヴァーチャル・ギア』と呼ばれるものが開発・普及されたことでその常識は一転する。

頭部に装着するヘッドマウントディスプレイ式のそれは目に映像を投影し耳に音を届けるだけという極簡単なものだった。

それでも見た目と音にはかなりリアルな立体感を伴った実感を得られたし、当時はえらく話題になったらしい。

それ以降嗅覚・触覚・味覚にも刺激を加える事で擬似的にそれらの感覚を味わえるようになっていった。

だがそれらはあくまで五感に刺激を与えるだけものであったし、ゲーム外の感覚もそのままなので変な違和感があった。

 

 そんな中、ネットとゲームにおいてまたもや革命的とも言える出来事が起きる。

10年ほど前に感覚没入型のVRマシン――『ダイブ・ギア』と呼ばれるものが開発されたのだ。

これは従来の五感に刺激を与える方式とは違い、首元の脊髄神経から直接脳と信号をやり取りするものである。

これによって仮想空間でのリアルな生活というものが出来るようになった。一昔前に夢想されていたVRそのままの世界である。

当然この機器の発売に合わせて様々な仮想空間が作られ、所謂現実の街を再現したコミュニティタイプのものから、

ゲームの世界観を仮想空間によって再現したVRMMOまで様々なものが作られた。

当然俺もそのプレイヤーの一人であったし、VRMMOに関しては割りと知り尽くしていたと言っても過言ではない。

そのシステムの複雑さと製作の難易度から年に発表されるVRMMOの数は少なかったし、

大手以外の中小ゲーム企業は共同制作というスタイルを取ることも多かった。

良作と呼ばれるものは殆どプレイしていたし、そこそこ課金もしていて大概中堅以上の実力を保っていたのだ。

今俺が居るこの世界もそれらのゲームの中の一つ。俺が最ものめり込んでいたマイフェイバリットゲーム。

 

「『Skill Earth Online』の世界…なんだよな?」

 

 通称SEOと呼ばれていたゲームである。このゲームは俺がプレイした中でも一番面白かったと自信を持って言える。

まずその理由の一つに異常なまでのリアルさがあるだろう。そもそも、旧来のVRのリアルさは中途半端であった。

それはサーバーの処理能力の限界という考えてみれば当然の部分から来るものである。

何せ一昔前のネットゲームは場合によってはちょっとサーバーが混雑しただけでダウンしていたらしい。

幾ら半世紀近い時間が経ったとはいえ、人間が感じうる一つ一つを丁寧に再現する処理能力など有りはしない。

だから旧来のVRはチープなものであったし、それは所詮は仮想現実として当然のものとして認識されていた。

 

 だがそんな中、革命的な技術を利用したゲームが現れた。その技術は所謂量子コンピュータと呼ばれるものだ。

半世紀ほど前には雛形が完成し、技術者達の日進月歩の努力によって完成するに至ったそれ。

発表当初はただの計算機としての機能しか無かったが、旧来の半導体PCと同様に数十年で進化を遂げ、

つい数年前に企業向けの超高価な量子コンピュータが発売されたのだ。民間向けはもう少しかかるらしい。

しかし流石に高性能とはいえ高価なため売上が伸び悩み、開発企業が考えた策がVRの処理を量子コンピュータで行う事。

結果幾つかのVR関連企業やゲーム企業と提携し、1つのVRコミュニティと2つのVRゲームの開発に着手。

結局2つのゲームの内片方は途中で開発が頓挫したものの、残りの2つは無事に完成。

こうして世に生み出されたのが、『Skill Earth Online』である。

 

 さて、今回は説明に終始すると思うのだが流石に長々と説明ばかりでお疲れだろう。水でも飲んで一休みしてくれ。

それが済んだら続きを語らせてもらおう。今度は『Skill Earth Online』というゲームについてである。

 

「最初にプレイした時は驚いたなあ」

 

 そも、このゲームの最大のウリは何かと聞かれれば当然その現実感(リアリティ)にある。

旧来のVRの再現度はせいぜい視覚と聴覚が70点、触覚が50点でそれ以外が30点、といった程度だった。

それは意図的に除かれていた部分も含めた処理能力の限界によるものだったのだが、このゲームは違う。

あらゆるモノがつるつるとした触り心地だった旧来の触覚と違いそれぞれの質感をはっきりと感じられる。

ただBGMや効果音と申し訳程度の環境音だった旧来の聴覚とは違い雑多な雑音まで再現したその細やかさ。

目に美しい景色はどこかスクリーン染みていた旧来とは全く違ったし、味覚や嗅覚の再現性は驚愕の一言に尽きる。

何よりそれら一つ一つを再現していった制作陣の努力と根性には惜しみない賞賛と喝采を送ってしかるべきであろう。

 

「俺なら3日で折れる自信あるわ。うん」

 

 まあ兎も角、それまでには考えられないような再現性でオール90点台をマークしたと言っても過言ではない。

流石に完全に現実と同じにするのは処理能力とかそういう部分とはまた別の問題で不可能であったし、

そもそも一部エリアを除き全年齢向けゲームということでわざと再現されていなかった部分も多い。

18禁エリアに喜び勇んで突入した夜は「ガチで3次元の女なんて要らなくね?」と割りと本気で思ってしまった事もある。

ビニール一枚挟んだような違和感があるとはいえ、それでも今まででは考えられない程リアルなそれは非常に注目を集めた。

だがそれだけではここまで…世界のゲーム人口の3分の1を集めたとまで言われる程の人気は出なかっただろう。

 

「このゲーム、ゲームとしても無茶苦茶に出来が良かったんだよな」

 

 元々有名なゲーム企業やVR企業がそれまでに得たノウハウを持ち寄って作られたというのもあるし、

旧来のMMOの経験者達から様々な意見や要望を集めてα版の段階から試行錯誤を繰り返していたらしい。

俺のようにクローズドβ(正式発表前に参加者を募って抽選を行い、当選した人達によってテストプレイを行う事)

に当選した幸運な参加者はその高いリアリティとクオリティに狂喜し、ネットでも一気に話題になった。

結果オープンβ(参加者数を制限しないテストプレイ)では異例の数の参加者が集まることとなる。

正式サービス開始時にはテストプレイ特典を除き殆どのデータはリセットされるという前提だったのだが、

そんな事知るかと言わんばかりに集まった参加者の数に運営が憤死したとかいう噂まで流れる始末。

兎も角ゲームとしても非常に良い出来だったため、俺の中で堂々の第一位に位置するゲームである。

 

 ストーリーはありがちな王道ファンタジー。取っ付きやすさとロールプレイのしやすさを考慮したというそれは、

確かに子供でも理解出来る一本筋の通った王道ファンタジーモノであった。

世界に魔王が現れ、しかし勇者は現れず、それに冒険者(プレイヤー)達が力を合わせて立ち向かうというもの。

単純にストーリーを楽しむだけなら子供でも理解出来るようなものではあるが、

しかしサブクエストやサブイベント、クリア後の裏ダンジョンやそれにまつわるイベントとストーリー。

玄人向けに用意されたそれらはありがちな物語を一気に奥深くしてくれるようなものばかりであった。

メインを分かりやすくして周囲を掘り下げ、想像の余地もあえて残す事で奥深さを表現する、というもの。

王道という一本道に複雑に絡む無数のそれらの中にはミステリーチックなものまであったりした。

王の腹心が魔物に摩り替わるという王道イベントの裏に潜む謎にサブイベントをこなす事で気づいた時は凄く感心したし、

それが更に後々起きるサブイベントから始まるミステリーの鍵になった時などは鳥肌が立った。

そういう王道が逸れることで得られる面白さというのが多く用意されていた、というのがこのゲームの特徴でもある。

 

 とまあ、ストーリー面ではこの通り。世界観もそれに沿ったシンプルなもので、

人間・エルフ・ドワーフ・獣人・亜人・魔人などの種族が入り乱れる世界観や、

いかにもファンタジーなイメージを崩さないように配慮しつつも現代の利便性を失わない細やかさ。

その一つ一つに感心し、あるいは感動したことは未だによく覚えている。

よくもまあここまできっちりやれるものだと少し呆れすら感じたほどだ。

 

「ストーリーや世界観だけじゃなくシステムも凄く俺好みだったしね」

 

 このゲームの売り文句の一つに、『無限の可能性』というものがある。比喩では無く本当に無限なのだ。

まず、このゲームにはプレイヤー自身のレベルやステータスというものが無い。

ステータスに関してはマスクデータであり存在自体はしているらしいのだが、まあ見れないなら無いも同じだ。

唯一プレイヤーが確認できるのはいわゆるスキルとそのレベル。

しかもスキルは把握し切れない程無数にあり、そのレベルに上限は無い。

システム的に存在はするのだろうが、余りにその上限が高すぎて辿り着いた者が居ないのだ。

『Skill Earth Online』と名付けられた所以である。

 

 このスキルの数がまたとんでもない。何せゲーム内のあらゆる事がこのスキルで示されるのだ。

初期のプレイヤーは《生命力Lv1》、《体力Lv1》、《魔力Lv1》、《筋力Lv1》、《耐久Lv1》、

《知力Lv1》、《精神力Lv1》、《敏捷Lv1》、《運気Lv1》という9つのスキルを有している。

これがステータスの代わりであり、それぞれ関連する行動を取って成長させる事で強くなるのだ。

だからキャラとしてのレベルは無いし、人によっては物凄い偏ったステータスになったりもする。

《知力Lv10》で《筋力Lv120》の奴を見た時はどんな脳筋だと思わず突っ込んでしまった憶えがある。

普通なら魔法使うなり頭使うなり関連クエストクリアなりでもっと上がる筈である。

 

 ともかく、このゲームではあらゆる能力がスキルとして表示される。武器に付与された効果も武器スキルとして扱われる。

自身の能力だけでなく状態異常ですら状態異常スキルとして扱われるのだ。

基本的に耐性スキルならスキルレベルの半分まで無効化になりそれ以上のレベルは半減されてスキルレベル以上は素通り、

無効系ならスキルレベルまで無効にされてそれ以上が半減されるという感じの効果になっている。

《毒耐性Lv20》持ちなら《毒状態Lv5》は無効になるが《毒状態Lv15》は半減となり、《毒状態Lv25》は素通りといった具合。

そしてスキルの大半は《炎耐性》→《炎無効》→《炎反射》といった感じで派生していく。

スキルの習得には一定のスキルレベルに達するかクエストやイベントをクリアするかアイテムを使用するという方法があり、

基本的に派生しないスキルは無いと言われるほど殆どのスキルは何らかの形で派生していく。

しかも公式で採用するスキルを募集していた事やデザイナーが面白がってどんどん追加していった事もあり、

最終的には運営ですら把握しきれてないんじゃないかと言われるほど膨大な数のスキルが生まれることとなった。

 

「結局最終的に見つかったスキルの数は8277個だったか。運営曰くまだまだだね、とのことらしいけど。マジか?」

 

 本当だとしたらとんでも無い量である。そら伝説(レジェンド)級を超える化物級とか言われる奴が現れるわけである。

ちょっと説明すると、このゲームには所謂強さを具体的に表すためのランクというものが設けられている。

レベルという分かりやすい評価指針の無い事に対する対策のようなものだ。

『初級』、『基本下級』、『基本中級』、『基本上級』、『一流級』、『超一流級』、

『豪傑級』、『英雄級』、『無双級』、『伝説級』の計10段階である。

同ランクでもピンキリだったりするので、プレイヤーの間では更にそれぞれに上位・中位・下位と付けて呼称する事が多い。

これらのランクは特定のクエストをクリアするか月に一回の大規模イベントで相応の活躍をする事で得られる。

武器の装備条件にもなっていたりして、そこから武器も便宜的に前述のランクで呼ばれていたりした。

伝説級ともなればゲーム中最高峰クラスに値するほどなのだが、それでも人数が増えてくると更に上が現れる。

自分の得意分野に関するスキルを片っ端から習得して無数に重複させ、さらにその須らくを数百Lvまで上げる。

場合によっては1000超えという、もはや偉業も苦行も通り越して地獄の域の努力が必要になるだろう次元に達する者も居る。

限界自体は無いが成長速度は徐々に下がっていくもので、500を超えたら上がらないと思った方が良いと言われる程だ。

そういう頭のネジが2、3本飛んだようなおかしな連中はプレイヤー達から『化物級』と呼ばれたのだ。

大規模PvPイベントでコイツらが出てきたら諦めてログアウトしろと言われる程の化け物どもである。

 

「流石にあれはネーワ。強すぎワロタ」

 

 俺がマスターをやっていたクラン(大人数のプレイヤーが集まって作るコミュニティ)にも、

2人の伝説級と1人の化物級が居た。俺も同類だとか言われてたけど一緒にされたくはない。

伝説級の6人パーティ相手に一人で互角の戦闘をするような奴と一緒にせんで欲しいものだ。

流石に最後は人数に押し切られて負けていたが、宝具級の使用を許可していたらひょっとすると勝ってたんじゃなかろうか。

 

 宝具(アーティファクト)級。限られた人間というか言ってしまうと俺にしか作れないアイテムである。

元々一部のイベント品を抜いて英雄級以上の武具やアイテムというのはプレイヤーが作るしかない。

勿論作るには同ランククラスの作成系スキルが必要になるわけで、伝説級などは法外な値段で取り引きされていた。

しかしまあ、中にはそういうモノすら上回るモノを作れる奴が出てくるわけで。

そもそもこのゲームはスキルに上限が無い上、作れる武具は自由自在だ。

まず材料の種類によって絞りこまれた外見を選択し、長さなどを設定。

そしてそれの持つ実際の能力は素材の質とスキルレベルに左右されるのだ。

つまり、外見剣で性能杖とか、大剣なのに短剣スキル使えるとか、そういう詐欺アイテムも作成可能。

貧相なひのきの棒が豪傑級とかどういう冗談だと突っ込んだ記憶がある。

素材がしょぼいので伝説級のスキルレベルをもってしてもその辺が限界だったらしいが。

元々がひのきの棒なため所持制限が異様に低くて余計にタチが悪かった。

 

「で、気がついたら宝具(アーティファクト)級とかいう呼び名が付いてたんだよなあ」

 

 ウチのクランの伝説級や化物級が集めてきた素材を引き取り、延々と繰り返した作成系スキルによって作成。

そうして生まれた武具やらアイテムやらは尋常ではない能力を有する事となった。

攻撃力と耐久値は他の追随を許さず、更には概念レベルの異常な能力の付与。

オマケに所持者の強化やら回復やら余ったキャパに詰め込めるだけ詰め込んだそれはまさに『宝具(アーティファクト)』。

イベント時などにイベントキャラが所持し、プレイヤーは手にする事が出来ないぶっ壊れ性能な武具の数々、

それらが『宝具(アーティファクト)』と呼ばれていた事から名付けられたものだ。

そのうち真似する奴も出てきたしかなり質の良い物も出てきたのだが、

やはりそのブランドや安定的な性能と供給などから俺の作成したもののみが『宝具級』と呼ばれていた。

 

 ブランドと言えば、俺の居たクラン『暁の旅団』が経営していた『宝具屋《暁》』という店があった。

一階には初級向けから基本上級向け、二階には豪傑級から伝説級、三階には宝具級が置かれていた店だ。

クラン内でランクごとに担当を分担して作成しており、俺の担当は勿論宝具級。

その品揃えの豊富さと品質の天元突破からゲーム中最高の店の名誉をほしいままにしていたものだ。

まあ三階まで来るのは物珍しさとか宝具見たさばかりだったが。そもそも買える奴が早々居ない。

化物級ですら1ヶ月は頑張らないと貯められないような額だ。伝説級なら半年はかかる。1年近くかかる最高級品もあった。

それでも頑張って買っていった頑張り屋達の余りの無双ぶりに、

プレイヤー達の間で宝具級は同じ宝具級相手にしか使わないという暗黙の了解すら生まれた程だ。

何せ制限の低いモノを仲間に渡したらランク3つ上の奴相手に無双したとかいう話まであったぐらいだ。

まあ流石にそれは言い過ぎだとは思うが、相手の装備や相性次第ならランク1個分ぐらいの差は覆せるのは確かだ。

 

 結局、最後の方は店の三階のカウンターに座って本を読みながら、片手間に低ランクの宝具を量産するという生活だった。

基本的に外に出てヒャッハーなタイプではあったのだが、一通り冒険し尽くして満足したのでゆっくり隠居していたのだ。

化物級どもに着いて行く気が失せたというのもある。戦闘力でも無双級ぐらいはあったと思うし、

無数の宝具をどこぞの金ピカ王のごとくバカスカ使いまくれば化物級の活躍は出来たかもしれない。

しれないが、特にする必要性も感じなかったので店のカウンターでぼーっとしていたのだ。

 

「で、久々にやる気出そうかって時にこれだもんなあ」

 

 長々とした説明だったがここでようやっと話は冒頭に戻る。

長い間ものぐさ店主として生活してきた俺だったが、とあるアナウンスを受けて久々にヤル気を出した。

それが『Skill Earth Online』のサービス終了と、『Skill Earth OnlineⅡ』のサービス開始に関する発表だった。

元々それまでは一つの大陸での物語であり、一応のストーリーも完結していた。

後はプレイヤーに合わせて順次追加されるダンジョンやモンスターを攻略するだけとなっていたので、

サービス開始から5年という事もあって一旦サービスを終了。

大幅なアップデートを行なってⅡの名を冠し再出発するという発表だった。

新しい大陸も追加され、未開のダンジョンや新種モンスターも続々登場。

これまでにあったイベントは新規参入用に残しつつ、新しいストーリーを新規に書き起こしたというもの。

これにはプレイヤー達も両手を上げて大喜び。概ね好意的にその発表は受け入れられた。

 

 …と、いうのが半年前の話。今日俺はデータの引き継ぎの最終確認やクランの後始末もあってログインしていたのだ。

そして最終確認も終え、あとは終了を待つのみとなってつい夢うつつになっていた俺。

サービス終了とそれに伴う強制ログアウトのアナウンスに驚いた俺は誤って手元の宝具を取り落とした。

それを屈んで拾い上げた瞬間に光に包まれ………気がついたら、この場所に居たのだ。

完全初期装備・スキルのレベルリセット・手元には拾い上げた宝具の剣という格好で。

 

「で、困惑してたら狼に襲われて咄嗟に反撃し今に至る…と」

 

 まあ流石宝具級と言うべきか。スキルのレベルが低くてもかなり無数に持っていたため重複しているし、

武具系は製作者なら武具の能力が激減する代わりに制限を無視して使用出来る。

おかげでこの程度の雑魚(中級下位ランク)相手なら一撃の下に斬り伏せる事も不可能では無かった。

あくまで急所狙いなどによって最大効率での攻撃が出来た場合のみだが。

そして、そのおかげでこの世界が現実だと気がつけたのだ。

 

 まず最初に違和感を持ったのはモンスターの死体。

全年齢対象であるためエフェクトとしての血は多少出るものの、死体が残ったり血臭がしたりはしない。

ドロップは剥ぎ取らなくても勝手に入手されるし、血が流れて血だまりを作ったりはしない。

その時点でおかしいと思った俺は色々と考えを巡らせる中で、あるはずの違和感が無い事に気付く。

少し前にゲームのリアリティを90点と言ったのを覚えていただけているだろうか。

この残りの10点とは処理能力などといった部分とは別の、VRの構造的な問題によってほぼ不可能と言われているものだ。

だから完全に違和感がなくなることは絶対にあり得ない。

そこでまさかと思った俺は少し手の指を切ってみた。痛みが尖すぎる。

VRは神経を直結させているため、ショック死や脳死をしないように痛覚等のフィードバックは態と落としてあるものだ。

人によっては改造してフィードバックを上げて楽しんでいる者も居るらしいが、

それでもフィードバックを100%にしたりはしない。ゲームで死んだら現実でも死んだなんて笑い話にもならない。

 

「こんなリアルなゲームはあり得ない。ここまで明瞭な夢を見たことも無い」

 

 勿論おかしな薬やら飲み食いやらした憶えもなく、黄色い救急車のお世話になるような発作も持っていない。

つまりはそういうこと。これは紛れも無い現実で、ここは何時ものゲームに酷似した世界で…

今、俺は迷子という事である。

 

 

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