「さて、状況は分かった。取り敢えず動こうか」
―Save:002.「驚愕の冒険者ギルド」―
どうもみなさんおはこんばんにちは。改めまして自己紹介、ヒュージ=マハダランです。
VRMMOとしてSEOをプレイしていた時からの名前であり、その由来は至極簡単。というかあまり深く考えて決めたものでもない。
俺の現実での名前は原田悠二。選択種族はヒューマン。ハラダユージ+ヒューマンのアナグラムで、ヒュージ=ハマダラン。
もうちょっと何か考えろよと友人にも突っ込まれたレベルの雑ネームである。今ではすっかり慣れてしまっている。
で、改めて今の現状を簡単に纏めると、VRMMOをプレイしていた俺は気がついたらそのゲームの世界にトリップ。
スキルのレベルは全部1に戻っていて、派生スキルとかは全部覚えたまま。キャラレベルやステータスはマスクデータ。
アイテムは以前作った最強クラスの武具やらアイテムが大量に残っていたので、それを利用することに。
森の中にオレ参上したら狼に襲われたので手にした最強剣でぶった斬り、現状の整理をして今に至る………と。
いやあもう、前回のグダグダ長々とした語りとも言えない説明は何だったのか。俺も混乱していたんだろう、うん。
取り敢えず現状で確認すべきなのは俺が知っているゲームの世界とどれぐらいの差があるかということと、
俺がここで暮らしていくために必要な物事の確認と、帰還方法の有無やそれを探す手段。
結論としては「何はともあれ街へ行こう」、というところか。
「つーか、ここどこだろう?」
今更疑問に思って周囲を見渡す。森に生える木々の間隔は狭いがさして暗くもないしそこまで深い森では無さそう。
背後の泉はかなり綺麗で澄んでいて、足元の狼はゲーム開始から少ししてから出会う中級下位のモンスター。
森も泉も狼も、いずれも見覚えがある。狼はアクルス王国の王都アクレイア周辺に出現するモンスターで、
これほど綺麗な泉がある森といえば恐らくアクレイア近郊にある『ルブルラの森』だろう。
基本下級上位から基本中級下位のモンスターが出現するダンジョンで、この辺では弱い部類に入る。
先ほど倒したロウンウルフはかなりの素早さを誇っていて基本下級の冒険者にとっての最大の壁となる。
とはいえ所詮はただ早いだけの狼。中級入りした冒険者なら余裕で狩れる程度の相手でしか無い。
実際アクレイア周辺のダンジョンならアンデッド系やらゴーレム系やら、もっと厄介なのは沢山居るのだ。
「ドロップは…うん、ちゃんとしてるな」
腕に嵌めたリングを確認するとしっかりと反応した。アイテムの収納と取り出しもきちんと出来るようだ。
このリングは世界観を保つためのアイテムの一つで、ギルドに登録した時に貰える一種のイベントアイテム。
ドロップ判定効果によって倒したモンスターの中から採取できる部位を判定して回収、自由に取り出せるというもの。
空間に干渉するマジックアイテムなのでかなり高価であり、最初はレンタルという形で常に料金を請求される。
それなりの金額を支払えば購入出来、大体一流級ぐらいになれば一括で支払う余裕も出てくるといった所か。
兎も角これが使えないと話にならないのでドロップ品がちゃんと増えているか確かめ、確認を終える。
このリングは容量制限があるため、他の持ち物は新しく作成した容量無制限のリングに収納してある。
こちらのリングにはドロップ判定機能が無いので両手にそれぞれ嵌めて使い分けているのだ。
「このリングの材料費が結構洒落になんなくてなあ。ま、何はともあれ街へ向かうか」
取り敢えず一通りの確認は済んだ。この辺なら特に身構える必要もないだろう。いざ行かん未知なる世界へー!
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「特に襲われている美少女を助けるとか無かったんだぜ………チッ」
はい、そんなわけで無事到着。というかよくよく考えれば襲われたのは美少女じゃなくて俺自身なわけで。
まあ女っ気が欲しけりゃパーティー組むなり娼館街に行くなりすればいいので構わないと言えば構わないが。
サキュバスがやってる隠れ高級娼館とかいうのがあって、当時はよく通っていたものだ。金なら腐るほどあったし。
そういえば今持っている金は使えるんだろうか?何か街並みが微妙に覚えているのと違うせいか嫌な予感がする。
「とりあえず情報と言えば………お、あったあった」
俺の視線の先には『Guild』と書かれた看板。看板に文字が書かれているということは識字率は高いんだろう。
ゲーム中ではあらゆる言葉や文字は母国語に翻訳されていたし、その辺はちゃんと設定も用意されていたんだが。
少なくとも看板の文字がちゃんと読めている事を考えれば文字や言葉がわからないという心配は無いだろう。
聞こえてくる雑音の中に混じる声も全て日本語だ。翻訳魔法がうんたらとかいう設定だったか、思い出せない。
「ちわーす」
どこぞの酒屋の配達員のような声を発しながらギルドに入ると、中は石造りの若干お役所っぽい雰囲気の施設。
二階には休憩用の喫茶店やら素材等を販売する売店があるという事で、冒険者らしからぬ人もちょこちょこ見かける。
何故かギルドの喫茶店で出されるコーヒーは格別に美味いのだ。きっと開発者にこだわりのある人でも居たのだろう。
それはともかく、突っ立っているのも迷惑なので窓口へと進む。5つ有る窓口の中から通いなれた一つを選んだ。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。鑑定ですか?買取ですか?」
そう、ここは素材やアイテムの鑑定と買取を行なってくれる場所だ。クエスト関連はこの2つ隣。今は用はない。
窓口に居た女性は赤毛のショートカットで可愛らしいお姉さん。外見年齢的には俺と同年齢(21)ぐらいか。
頭の横に耳はなく、代わりに頭頂部からもふっとした猫耳が立っている。獣人族のようだ。
見るからになかなかにいいモノをお持ちのようで。Eぐらいかな?ナニとは言わない。
他の窓口に居たのも皆美男美女であるあたり、一種の接客業でもあるという事なのだろう。
「両方お願いします」
そう言ってリングを操作し、アイテムを取り出す。一つは先程の狼がドロップした素材。もう一つは下級宝具のリング。
俺が知っている価値と相違がないか、俺の持つ宝具はどういう扱いなのか、それらの確認も含めている。
もし金銭価値や金銭形式自体が違うなら、当面の活動資金の確保という目的も含んでいる。
何気ない顔で取り出したそれをカウンターに置き、女性が手袋を嵌めて鑑定用の魔法を行使する。
魔法自体は特殊な魔法具を用いているため、誰にでも高ランクな鑑定が可能だし、それは宝具級にも効果があった筈。
鑑定不可という事無いだろうと思っていたのだが、鑑定結果を見る女性の顔が明らかに驚愕の色に染まっていくのが分かる。
これは…当たりか?
「あ、宝具(アーティファクト)級ぅぅぅぅ!?…あっ!いえ、申し訳有りませんっ!」
…アラ?宝具級って呼び名は非公式のものだったはずなんだけど…プレイヤー側の認識とかも影響してるのか?
取り敢えず大声を上げたせいで注目集まった事を謝罪する彼女を窘め、詳しいことを聞いてみる事にしよう。
本当なら伝説級という驚きが出ると思ったらその更に上。認識の齟齬を起こさないためにもしっかりと把握する必要がある。
「あー、そんなに凄いものなのか?」
「凄いなんて物じゃありません。宝具級ですよ?300年前の暗黒時代に生み出され今では失われた大秘宝ですよ?
売る相手を選べば親子3代豪遊して暮らす事でって夢じゃない程なんですから」
流石に大きな声では言えないと思ったのか、声を潜めながら説明をしてくれる受付嬢。
しかし語られるその内容には驚きを通り越して少し混乱してしまった。300年前の暗黒時代。失われた大秘宝。
暗黒時代というのはゲーム中よく聞いた単語だ。魔王が生まれて魔物が活発化し、一時は世界の滅亡すら危ぶまれた。
つまりは俺達プレイヤーが活動していた時代のことを、暗黒時代…その末期とよばれていたのだ。
それが300年前。えらい未来に来てしまったものである。失われた大秘宝というのもおおよそ納得がいく。
そもそも宝具級は有名ではあったものの非常に入手が困難であった。単純に高価だったためである。
イベントアイテムの方の入手不可能な宝具級は兎も角、俺の作った宝具級は世に100も出ていない。
精々50個ほどだろうか?その半分以上はクラン『暁の旅団』の仲間に渡したものである。
そうなると希少価値も含めれば親子3代豪遊して暮らせるというのも嘘ではないだろう。
元々プレイヤー一人なら一生豪遊して暮らせるぐらいの額で売っていたのだ。売り方や相手を考えればそれぐらいは行く。
「流石に買い取っては貰えないか?」
「不可能ではないですけど、ギルドの共有資産という事になるので暫く時間を頂くことになりますが…」
まあ、仕方ないだろう。幾ら王都とはいえ支部一つでどうにかなる額ではない。
ゲームなら電子マネー的にギルドカードへ振込となっていたのだが、金貨等の貨幣式みたいなのでそれも無理らしい。
昔はそうだったのが300年の衰退で失われたのか、元々電子マネー式なんぞ無かったのかは定かではないし興味もない。
兎も角、買取金はきちんと現金で支払うしかないわけで、当然ポンとすぐに用意出来るようなものでもないのだ。
「ああ、じゃあ用意が出来たら教えてくれ。あと、これ追加」
ドン、とロウンウルフのドロップ素材を幾つかカウンターに置く。少数だがそれより1ランク上のモンスターのものもある。
量が多かったためか、またもや驚いた様子の受付嬢。慌てて鑑定を行なっている。
これで一応当面の生活費はどうにかなるだろう。宝具作成用に素材は腐るほどあるので、正直冒険しなくても暮らして行ける。
とはいえ元の世界に帰る手段は一応探すつもりであるし、同郷の士が居ないかというのも気にかかる。
そもそもつい先ほどまでは久しぶりに本気出すかー状態だったので、冒険したいという欲求もあるのだ。
ビニール一枚被ったような違和感が無く、100%フィードバックされる世界。不謹慎ではあるが、少しワクワクする。
「よっ、兄ちゃん。景気いいなあ」
「ん?」
鑑定が終わるのをボーっと待っていると、後ろから如何にも冒険者と言った感じのおっさんにこやかに声を掛けてきた。
装備を見るにおよそ中級上位から上級下位。この辺でなら徒党を組まれない限り問題無い程度のランクだ。
かなり大柄かつどっしりとした風格。垂れている尾を見るに恐らく竜人族だろう。
ステータスを確認しようと脳内で『命令(オーダー)』を出す。確認できたのは名前と年齢と種族とランク。
ゼノン・グルージス42歳、予想通りの竜人族。ランクは基本上級下位。下位も非公式表記だったのでここも相違点の一つか。
目を見てみるが特に不愉快な印象は感じない。Lv1とはいえそういう類のスキルも取ってあるのである程度信用は出来る。
恐らくさっきの宝具級絶叫で興味を持ち、鑑定の合間を見て声を掛けてきたといったところだろう。
「ああ、生憎お宝はおあずけらしいけどな」
「ハッハッハ、宝具級だったか?本当なら大したもんだ。素材もかなり上級のモンスターじゃねえか。
この辺じゃあ見ねえ顔だが…兄ちゃん、中々やるな?」
ふむ。やっぱり装備を初期装備から宝具級装備に変えたのが大きいんだろうか。どうやら強者と認識されたらしい。
実際戦闘力で言えば精々が脱初級程度で、装備と経験のおかげで一流級程度、といった所だろう。
しかしこの程度のモンスターで上級とは…基本上級のモンスター素材は出していないし、文法的にもそういう意味じゃない。
つまりこの世界の戦力レベルはこの300年で敵も味方もかなり落ち込んでしまっているようだ。
せいぜい超一流級程度が限界だろうか。俺のギルドカードには普通に伝説級と書いてあるんだが…大丈夫なんか?
「ああ、まあそれなりに、ね。この辺なら死なない程度の自信はあるさ」
「謙虚だねえ。ランクは幾らだ?」
…むう、言ってしまっていいものなのだろうか。しかしギルドカードは既に持っている。
偽装や態とランクを落とすというのは知る限りでは不可能だし、新規登録も既に持っているなら不可能だろう。
となれば結局はギルドにカードを提示した時点でバレるわけで…
ならば、この辺では恐らく上位らしき冒険者の彼に大して良好な印象を与えておくのも吝かではない。
「信じるかは自由だけど…伝説級だ。ほれ、ギルドカード」
『……………は?』
瞬間、ダンボのように耳を大きくして聞いていたギルド内の人間全員が思考を停止した。
まあ、先ほどの大声が聞こえていないという事は無いだろう。鑑定カウンターで宝具級の叫び。
どう考えても気にならない奴は居ない。そういう意味では馬鹿への牽制も兼ねてランクの提示は正解だったのかも知れない。
『はあああああああああああああああああああああああああああああああっ!?』
…分かってましたとも。そりゃ驚くよね。うん。
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「ははあ、300年前の生き残り、なあ」
「最近まで引きこもっててね。おかげで随分常識が変わってしまって、難儀してるよ」
と、まあ取り敢えず真実と嘘を混ぜて語ることにした。ギルドメンバーなのだから公権力は表立って干渉出来ないし、
裏側から何かしてこようとも俺ならどうとでもなる。下手にレベルが高いだけのパンピーなら兎も角、
あの騙し騙されのネット世界で生活し、宝具という規格外のアイテムや便利グッズを大量に有しているのだ。
そういった事に対する備えは十分である。最悪言葉通りに引きこもればいい。
俺が宝具も用いて完全に守勢に回ればこの世界で俺をどうこう出来る奴はまず居ないだろう。
「それで宝具級なんて持ってたんですねえ。でもいいんですか?売ってしまって」
「ん?まあ、まだ幾つかあるしね」
カウンターに座った受付嬢――リーナ・アルベルンというらしい――が会話に混ざってくる。
鑑定は既に終わっていて、お金も受け取った。とりあえず今は説明の段階だ。
この辺でこの世界での俺の設定を公開…特にギルドに把握しておいて貰う必要がある。
もし記録なんかが残っていれば俺が300年前の人間であり、その後一切情報がない事がバレる恐れもあるので、
それらを踏まえた上での言い訳を用意することにしたのだ。
「怪我と魔力の回復に300年ってなあ、最終戦争もとんでも無いモンだったんだなあ」
で、これが引きこもっていた(という設定の)最大の理由である。
暗黒時代の末期、冒険者による魔王の討伐軍に参加して魔王やその配下と戦った俺は、
その傷と失った力を取り戻すために最近までとある秘境の隠れ家に引きこもっていた…という設定だ。
スキルレベルが低いのも、一旦すべての力を失い、それを最近やっと取り戻したためという事にするつもりである。
まあ、流石に弱っていると思われて侮られるのも癪なので、最近力を取り戻したばかりで本調子ではない…という事に。
所持していた宝具やら伝説級の武具を使用することで以前の半分ぐらいの力を持っているとした。
伝説級以上の武具はランク以外にも特定のスキルレベルなどの追加条件も多いので、
俺の力は少なくとも伝説級クラスの装備を扱えるぐらいはあるという認識になるだろう。
実際に身に着けている宝具級装備はスキルレベルの不足によって能力が激減している。
まさか俺が作ったとは思わないだろうし、当分はオールラウンダーの冒険者で通すつもりなので明かす気もない。
「何回か死にましたからね。おかげで宝具級が幾つか消し飛びましたよ」
コレはマジ。リアル過ぎるVRで死ぬ恐怖といったらもう。おかげでこの世界でも戦う事に然程恐怖はないのだが。
全くないというわけではないが、この程度は冒険者として常に心構えをしておくのに丁度いいだろう。
そもそも俺のVR歴は10年以上。それも子供の頃から何度も死にまくって身につけたものだ。
体を動かす感覚は現実と然程変わらず、恐怖や生物を殺す事にもある程度の耐性がある。
大体今時ネットの深い所を徘徊してたらグロ耐性の一つや二つは付くだろう。
戦う動きというのも長い経験の中でかなり習得してきたし、その経験のお陰でSEOでも最初から有利に立ち回れた。
しかも常に格上や魔王とかのボスクラスとの戦いがわんさかである。
経験で言えばその辺に転がってる有象無象の冒険者などの比ではないぐらいあるのだ。
ああ、ちなみに宝具級が消し飛んだってのは、某正義の味方みたいに魔力暴走による宝具の爆発技を仕込んであったため。
それに死んでも拠点に戻るだけだったし、即時蘇生アイテムもあったので死にたい放題。
そのため調子に乗って一人で挑んだ結果、3桁を超える死亡回数とそれと同等数の宝具級の消滅と引換に勝利。
ちなみにこれ、ストーリー最後のラスボスとしての魔王ではなく、裏ダンジョンで出る裏ボスの方の強化魔王である。
もう強化なんて言葉じゃ生ぬるいぶっ壊れ性能で、仮にも準化物級の俺が何回殺されたか分からない程だ。
「おいおいマジかよ…敵もそうだが兄ちゃんなにもんだ?」
「宝具級を唯一作れた宝具師がクランメンバーの一人でね。
いやあ死亡回数100回超えた時はちょっと心が折れかけましたよ」
嘘は言っていない。その宝具師が何を隠そう俺だというだけである。言っても流石に信じられないだろうけど。
聞いてる連中も眉唾のおもしろ体験談の一つとして聞いているのだろう。流石に伝説級というのは疑いようもないが、
それでも魔王相手に戦った内の一人とか、100回死んだとかいうのは嘘か誇張だと思っている筈だ。
別にそれは構わない。嘘や誇張だとしても俺が「なんか凄い奴」というイメージは既に根付いているだろうし、
ここで重要なのは俺が300年前からの生き証人であり、相応の実力を持った存在であるという事の提示。
そしてそれをギルドに対して正確に把握して貰う事だ。リーナ以外の職員も業務の片手間に聞いているので、
間違った情報が伝わるという危惧はまずしないでいいだろう。
あとは有力冒険者らしきゼノンが俺の言葉を信用する素振りを見せてくれれば御の字だ。
これで俺のこの街での立場はおおよそ確立出来る。王家や貴族の干渉はギルド権限で弾いてもらえばいい。
ギルドには宝具とか何かしらの恩恵を与えておけば特に何を言われる事も無いだろう。
裏からコソコソやる奴は宝具全開で対策する。これで最悪この世界で生きていく場合の基盤は手に入った。
「いやいやいや、折れかけたとかで済むかよ普通?普通なら廃人になるぜ?」
いや、俺のその時点で既に廃人でしたから(笑)
うん、誰が上手いこと言えと。まあVR廃人に対して死の恐怖なんてあってないも同然だからなあ。
流石に本当に死ぬとなると尻込みもするし恐怖感もあるが、それでもパンピーよりは耐性がある。
どこぞの某コメの国でも軍事調練にVRを導入する事で理想的な動きの習得や死の恐怖の緩和を行なっているらしいし。
経験値が違うのですよ経験値が。野営とかもゲームによっちゃリアルだしねえ。
冒険者に必要なものは知識も精神も道具も能力も、粗方持っているというわけだ。VR様々だな。
「まあ、どこまで信じるかは兎も角俺が伝説級ってのは事実だ。宝具も少数だが保有している。
力が半分もないから前ほどの事は出来ないけど、なにか困っことがあったら言ってくれ」
とまあ、こんなものだろうか。大体の事情説明と意思表示は終えた。後は各々勝手に考えて行動するだろう。
幾ら力が半分とはいえ伝説級の宝具持ち相手に馬鹿やらかそうって奴も早々簡単に出てこないだろうし、
動きが大きくなるなら表立とうが裏をかこうが察知出来ないということは無いだろう。
あとはなにか有れば協力するという協力的な態度を取っておけば、一部のバカの暴走以外は大丈夫だ。
暴走する馬鹿はもう仕方が無いので適当に対処することにするしかない。
むしろ直接的な行動が殆どだろうから、現代社会のドロドロギトギトした性悪共と比べたら大したこともない。
この世界の文化とかにも割りと慣れているわけだし、前以上に何かに苦労するという事は皆無と思っていいだろう。
秒単位で情報が伝達され目まぐるしく状況が移り変わり、近寄る全てを警戒しないといけない現代と比べれば。
…やべ、この世界天国じゃね?
「あ、そうだ。何かしら拠点が欲しいんだけど…それなりの土地と家、どうにかならないかな?」
「それでしたら不動産ギルドの方で探していただければ。大した効果も有りませんが、連絡を通しておきますね」
おお、有り難いことだ。どうやらリーナは信用してくれるようだ。連絡ってのは事情説明も含めて、だろう。
不動産ギルドってのは主に街の中の建物や公共物のうんたらに関連するギルドだ。
国有でなくギルドが有する建造物の修復・維持なども担当していて、街の人工物については不動産ギルドに行くのが基本。
家を買う場合も土地や家の購入や建築等について不動産ギルドに依頼する事になる。
基本的にギルドの横の繋がりは強い。商業ギルドから冒険者ギルドに護衛の要請依頼を出したり、
不動産ギルドから冒険者ギルドに住居建築の手伝い募集を行ったり、
商業ギルドに登録した人が店を出す際に不動産ギルドから出店用の土地や店を貸与したり。
一受付嬢とはいえ、事前に話を通しておいて貰えばスムーズに話を進められるだろう。感謝感謝。
「ああ、有難うリーナ、助かるよ。それじゃあ今日の所は宿屋に泊まろうかな」
「だったら着いて来な。俺の行きつけの宿屋があるんだ。ちぃと高ぇがいいトコだぜ」
満足そうに頷いて声をかけてくれるゼノンさん。彼も俺のことを信用してくれたようだ。
先輩冒険者だしこの世界の常識や感覚については彼の方が経験豊富だろうし、それ以前に人生の先輩だ。
彼のような人にはしっかり敬意を持って接しないとな。それらしく振る舞うのは現代人にとって必須スキルである。
行きつけの宿というなら期待も出来るし、高いと言っても宿屋程度なら痛くも痒くもない。
まあ、カードに入っている膨大な額の金が一切使えないというのも痛いっちゃあ痛いが…
宝具一個売れば困ることも無いだろうから別に構うことでもないか。
「不動産ギルドは明日以降、何時でもどうぞ。宝具の買取に関しては決まり次第連絡しますので、お待ちください」
「りょーかい。んじゃ行きますか」
「おう、あっこの女将のメシは美味いからな!楽しみにしとけ!」
へえ、そりゃ楽しみだ。はてさて、初日からえらく騒がしかったが…これからどうなることやら。
できる事なら、退屈しない程度に適度な刺激が欲しいものだね。乞うご期待、と。
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