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さて。トントン拍子に来たのは喜ばしいけれど、
だからといって全部僕の思い通りというわけでは無い。
今のところ大幅な齟齬は生じていないものの、
それは相手が僕に価値を見出してくれたからに他ならない。
事務総長直轄とし諸外国からの干渉を一切排除した秘匿環境を整えてくれたのも、
事務総長自身がそういった位置づけの部隊を欲していたからだろう。
部隊員は僅かに10人。現時点で確保できるのは僕以外に1個中隊の稼働分だそうだ。
先の10人は全員衛士との事なので、
中隊として稼働させるならあと2人の衛士とそれ以外の後方人員が必要。
機密を大量に扱うため、整備員から食堂のオバちゃんまで全部僕が選別する必要がある。
恐らくは選別能力も計られているのだろうけれど、"僕ら"なら問題ない。
他にも戦術機の開発プランを策定したり本拠地を決めて搬入作業を行ったり、やる事は山積みだ。
暫くは部隊の発足のために奔走する事になりそうだ。
「――はい、これで最低限の人員は問題ありませんね」
後方人員の見積書を受け取った色っぽい人――エリシア・ファールスタット中尉が言葉を発する。
僕の副官として正式に登録された彼女は、
一時的に与えられた即席の執務室で僕と共に事務作業を行なっている。
今もネットワーク経由で選定した人員を纏めた見積書を処理してもらっている所だ。
扱う内容が特級の機密事項である上に部隊そのものが国連内部ですら秘匿された独立部隊なので、
当然そこで働くことになる各種人員も各国の息のかかっていない人物を用いる必要がある。
具体的に言えば単純労働は難民などから引き抜き、
特定のスキルが必要なものは同じく国家からの干渉を嫌うような者達を中心に選ぶ。
なにせこの陰謀渦巻くご時世、
そういったごたごたに巻き込まれて辟易している人間はごまんと居るのだ。
どうやらエリシアさん自身もそういった人物の一人のようで、
事務総長の直属であるのもそのためだとか。
彼女含め10人の同僚達は階級社会に居るだけあって、
僕のような子供相手でもきちんと敬語を使ってくれる。
出来れば砕けてくれた方が楽なのだけれど、それを言い出すには少し親密度が足りないだろう。
今は余計なことを考えず、結果を出していく事を考えよう。
「問題は残りの衛士かあ。何か上手い案はある?」
「そうですねぇ、複座操縦士などはいかがですか?」
残り2名の衛士をどうしようか悩んでいたのでエリシアさんに聞いてみた。
"僕ら"だけで判断できない事もないけれど、他人との交流やチームワークというのも大事だ。
そんなわけで質問を投げかけてみた所、打てば響くと言わんばかりの即答で良案が返って来た。
事務総長の直属だっただけあって、戦闘以外にもかなりの能力を持っているようである。
能力の高さと見た目の妖艶さから20歳は過ぎていると思っていたのだが、
実際の年齢は18歳と知って凄く驚いたのは内緒。
「複座かあ。戦術機開発には欠かせないし、いい案だね」
新戦術機の複座型への互換性を維持するという意味でも、
操縦する衛士とデータを採取する衛士を分けるという意味でも、複座型というのは意外と有用だ。
諸々の理由で操縦が出来ない人間でも適性さえあればサブパイロットとして使える事も大きい。
それに、開発者である僕は戦場に出れない事も多いだろうし、
かといって全く出ないわけにも行かないだろう。
そうなると全機単座では僕が抜けた時に中隊のバランスが崩れてしまう。
2機ずつの連携が重要視される戦術機戦で中隊が奇数というのはかなりマイナスである。
しかし一機が複座でもう一機単座があれば、
複座用の2人を二機に分ける事で僕の居ない枠を埋める事も出来る。
「とはいえ、複座型自体が少ないしなあ。誰かいい人員は居るかな?」
裏事情や個人の問題は問わない。守秘義務を守れて有能であればいい。
こちらを裏切れない、あるいは裏切らない人員。
出来れば相手方が大して文句もなく差し出してくれるような訳ありで、
こちらに逆らえないあるいは逆らう必要の無い理由を持っている方がいい。
特に諸外国の軍から引き抜くのならお国との繋がりは弱い方がいい。
例えば使い捨て同然に扱われていたなどで自軍に大していい感情を抱いていないような。
有能で、自軍に敵対的あるいは懐疑的で、訳ありで、複座型。
けど流石にそんな都合のいい人員が早々――
「居たし」
「はい?」
おっと、思わず声が出てしまった。
なんでもないよと声をかけつつ、ネットワークから漁ってきた情報を閲覧する。
どうやら結構な機密情報のようだが、相変わらずこの世界のネットワークはザルである。
ネットが一般的に普及しておらず汎用フォーマットすら少数に限られている程度なので、
仕方ないといえば仕方ないのだがこんなザルで防諜とか大丈夫なのだろうかと逆に心配になる。
"ウチ"に関しては暇だった三日間でセキュリティプログラムを組んだので大丈夫だ。
この世界のハッキング技術相手なら、
それこそ量子コンピュータでも持ちだしてこない限りは大丈夫だろう。
「クリスカ・ビャーチェノワ、イーニァ・シェスチナ、か」
物凄い美女と美少女である。この世界の女性って何でこんなレベル高いんだろうか?
事務総長だって今でこそおばあちゃんだが、昔の映像データではかなりの美人だった。
ウチに居る残りの6人だって相当な美人揃いである。約一名美少女が居たけど。
しかしそんな美人美少女な2人だが、経歴は中々に凄まじい。
何より特筆すべきはオルタネイティヴ3計画で生み出されたESP能力者だという事だろう。
テレパシーだけに限定するなら僕よりもよほど強力な能力者だ。僕は相手の感情なんて読めない。
まあ代わりに膨大な人生経験のバックアップである程度読めたりはするのだけど、
直接思考を読むことの出来る彼女らには遠く及ばない。
衛士としての腕もかなりのもののようだ。
使い潰すつもりであろう数々の高難度任務で生き残っている。
というかこんな美人で有能な2人を使い潰そうとする上官は、
ちょっと精神病棟で数ヶ月昏睡してきた方が人類のためになるかも知れない。
「ま、保身最優先な上官みたいだしぶんどるのは簡単そうかな」
ちょっと叩けばわんさかホコリが出てくるだろう。
2人の有用さにも全然気付いていないような愚鈍だし、
出てきたホコリを交渉材料にすれば訳あり衛士の一人や二人喜んで渡してくれるだろう。
なにせ今までやってきた悪事を非公式ながら黙認してやると言うようなものだ。
この手の人間にとっては願ったり叶ったりなのだろうな。
当然自分のホコリを隠すためなのだから、彼女らの引渡しについて触れ回る心配も無い。
彼女ら自身第3計画の遺児である事から元々秘匿性は非常に高い。
これなら引き抜いても動きが他所に知られるリスクは最低限に抑えられる筈だ。
「これでよし、と」
当面の人員はこれで十分だろう。
整備人員など多少カツカツではあるが、頻繁に前線に出るのは暫く先になるだろうし構わない。
後は成果を出して行けば規模拡大の機会もあるはずだ。
今のところ与えられている階級は暫定的なものなので、
出した結果次第では僕以外の人員も含めて更なる昇格人事も有りうるだろう。
さして使う予定も無い高給だが、余剰予算として使えると考えれば多いに越した事は無い。
「基地の場所はどうされますか?」
質問をしながらコーヒーを渡してくれるエリシアさん。
最初にコーヒーを用意して貰った時は体が子供ゆえか不思議な顔をされたが、
"僕ら"に関しては事務総長と共に聞いていたのでそういうモノだと納得してくれたようである。
ちらりと時計を見ると既に夜の9時だ。かなり長い間作業をしていたらしい。
勿論引越し作業が一番時間が掛った事は言うまでもない。
それでもやるべき事はまだまだ残っているので、彼女には悪いがもう少し残業かな。
そんな事を頭の隅で考えながら、礼を言いつつエリシアさんに視線を向ける。
コーヒーを渡した後はさっさとデスクに戻ってしまったが、
椅子に座る際の見事な乳揺れは非常に眼福で――だから10歳だって言っているだろう。
でも10歳と言えば早ければ精通出来る年齢なのだしアリなのか?いやいや、やっぱりナシだ。
「どうかされましたか?」
「ああうん、なんでもないよ」
いけないいけない。時間が時間だからか思考が逸れまくっている。
移動と労働併せて10時間以上。流石に10歳の体にはきつかったようである。
彼女もそういった点を考慮して眠気覚ましにコーヒーを淹れてくれたのだろうし、
ありがたい気遣いに感謝してさっさと仕事を終わらせてしまおう。
まずは先程聞かれた本拠地となる基地の建設地についてだ。
「出来れば無人島とかがいいかな。日本近海の太平洋側に欲しい」
「畏まりました」
陸続きだとどうしても防諜が面倒になるし、秘匿性自体も落ちる。
潜水艇などで海中から搬入出する体制を整えれれば簡単には感知されないだろう。
後は衛星の管理コンピュータにハッキングするなり、
超文明技術を応用してステルス化するなりで空からの"目"を誤魔化せばいい。
この世界じゃ海中戦力は蔑ろにされがちだけど、
輸送手段としては潜水型というのは非常に優秀である。
スクリューを回すだけで推進出来るなど推進力の形成が容易で、
用いる技術レベル次第では海水から無尽蔵にエネルギーや推進剤を確保出来る。
レーザーや通常弾等々の攻撃手段に対しても海水が天然の防壁となってくれるし、
何より海中深くを航行する潜水艦を観測するのは非常に困難なのだ。
人だろうとBETAだろうと敵が陸地に上る前に海中で対応できる優位性も大きい。
空爆という概念を忘れて久しいこの世界では無人島の要塞化は結構理にかなっていたりするのだ。
BETAがワンサカ居る大陸が眼と鼻の先に有りながら日本があれだけの国力を維持出来たのも、
BETAの海中適性の低さから進行が停滞する事と海中迎撃が大きな効果を発揮しているからだ。
「当面は実験機1機に絞って開発かな。いや、その前に設備を揃えないと駄目か」
よく現地技術での再現性がうんぬんと言うが、実はこれ割りとどうとでもなる。
例え今の加工機械では作れないものだとしても、今の加工機械で作れる最高の加工機械を作り、
更にその加工機械で最高の加工機械を作り……と繰り返していけば大概のものは作れてしまう。
当然量産は出来ないしコストも馬鹿にならないが、
完成形が見えていて設計図があるなら再現自体は可能なのだ。
さすがに10世紀単位で文明が飛ぶようなものや物理法則無視レベルの超技術は無理があるけれど。
ともあれ、ワンオフを作る目的であれば設計図さえ用意できればどうとでもなる。
そして、その設計図は僕の頭の中に大量にある。
つまり、この世界ではオーバーテクノロジーに当たるようなものも、
資材さえあれば製造可能というわけだ。
そんなわけで人員は後方人員を優先し、更に優先して相応量の資材を用意してもらおう。
あとは、僕がどれだけ工期を短縮できるかに懸かっている。
「ともあれ暫くは僕達だけ。頑張ろうね、エリシアさん」
「ええ、よろしくね。ユウ君?」
一瞬だけ砕けて接してくれたエリシアさんは、とっても魅力的でした。まる。
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