―PPPP、PPPP、PPPP―
爽やかな朝、目覚まし時計の音が鳴る。
魔力が動力で内部にも幾つかの術式が組み込まれているらしいので結構高かったのだけど、
朝決まった時間に起きるのが苦手な私はかなり助かっている。
とはいえ、それで起きるとは限らないのだけど…
「ん、んー、ん」
布団に顔まで突っ込んだまま、右手だけを布団から出して音源を探る。
手先にコンという硬いものが当たった感触を感じ、そのまま適当に掌を叩きつけると音は止んだ。
眠い。朝のまどろみはどうしてこうも気持ちいいのだろうか。
私は何時もどおりまどろみに身を任せ、二度目の眠りに就こうとする。
しかし今日はそれを許してくれない存在が居た。
―PPPP、PPPP、PPPP―
先程の目覚まし時計に近い、しかし少しだけ音程の違うそれ。
ぼーっとした頭で私は『ああ、いつものか』と音源の場所を思い浮かべる。
昨日、何処へ置いただろうか。思い返そうとしても寝ぼけた頭では中々思い出せない。
勝手に止まればいいのにと思いつつも、私が出るまで止まらないと知っているため諦める。
諦めた私は布団を剥いで起き上がり、眠気まなこで部屋を見渡す。
昨日の晩見たままの、何の代わり映えのない私の部屋だ。
1DKなので私の所持品の大概はこの部屋にあるし、アレも恐らくこの部屋に持ってきているはずだ。
音の方向に目を向けると、ベッド程の高さのテーブルの上に置かれた木片が目に留まる。
木製の札のようなモノに安物らしき宝石を埋め込んだソレが音の出処。
所謂遠隔通信機と呼ばれる類のものである。
魔力を流しこんで特定の法則に沿って魔力を操作する事で稼働するタイプのもの。
基本的に程度の差はあれど、この世界の人間は誰しもが魔力を扱える。
魔法として発動できるかとなれば話は別だが、
そこまで難易度の高くないこういった魔法具はこの世界では重宝されている。
「はい…ああ、お母さん?」
取り敢えずじっと見つめていても解決しない事が分かっている私は、
通信機を手にとって通話の操作を行う。
寝ぼけてはいるがこのぐらい簡単な魔力操作も出来ないようではそもそもこの世界で生きるのは辛いだろう。
当然ながらなんの問題も無く通信は繋がり、分かってはいたが相手を確認する。
そもそも私の札の番号を知っているのはお母さんだけなのだ。
トモダチ居ないんだからしょうがない。
どうせ話の内容もいつもの事なのだろう。
そう思いながらも無碍には出来ないので最低限聞き流す。
簡潔に纏めると、『ちゃんと働いて稼ぎなさい。そうしないと仕送りを止める』といった内容のもの。
流石にダラダラ仕送りだけで食いつないでいるのがバレたらしい。
その他には、早く良い人見つけなさいとかいう話もされた。
いや、お母さん、私まだ四捨五入しても20代なんだけど…
それもこう見えて私の母は長命の種族である。
ハーフとはいえその血を継いでいる私の外見はどう見てもまだ10代後半だ。
その娘を相手に早く男を作れとは一体どういう了見なのだろうか…
「あー、はいはい、分かったから。ちゃんと探すから。はいはい」
適当に相槌を打って勝手に切ってしまう。
これ以上は同じ話を何度もループされるだけだと経験則で知っているからだ。
幾ら私にやる気がないのが悪いとはいえ、朝から老人の説教のようなループは聞きたくない。
取り敢えず眠気も覚めたので着替えることにして、パジャマを脱いでいく。
ブラは着けずに寝ていたため、パジャマの上を脱ぐなり私のそれなりに自慢の胸がたゆんと揺れる。
カップ数はF。サイズは最近測っていない。何故かこの世界、僧侶やら賢者やらは巨乳が多い気がする。
魔法使いは小さい子も結構居るのに…揉ませる相手も居ないので現状邪魔なだけだ。
「うーん、そりゃ彼氏ぐらい欲しいけど、コミュ障の私には無理でしょ」
胸を鷲掴みにして唸る私。
確かに胸に視線を感じることは度々あるが、これ一つで男を落とせると思うほど馬鹿でもない。
どもったりするわけでは無いし極度の人見知りとかでも無いのだが、
単純に何を喋っていいか分からないのである。
女の子同士ならまだ何とかなるのだが、男の子はダメだ。男の子の好きな話題なんて皆目検討も付かない。
なにかしら共通の話題でもあれば別なのだろうが、学生時代はとうに過ぎてしまっている。
今更共通の話題を持てる男の子など見つかるはずもない。
年上趣味は無いし、かと言って同年代以下は性欲の塊みたいなもんだし…
結局、尻込みというか積極的に探す気になれないのであった。
「さてと、何して働こうかなあ」
これでも最低限働くだけの能力は持ち合わせているし、働いた経験も無くはない。
単純に働きたくないでござるなだけだ。
とはいえ仕送りを止められたら野垂れ死ぬしかないので、頑張って働こう。
真っ先に思い浮かぶのは教会勤め。
教会に居る神父やシスターやらは、聖職者協会という組織に所属している。
私も所属してはいるのだが、自主休業状態だ。
適当な教会に置いて貰って、蘇生なり解呪なりすれば給料は貰えるだろう。
だがこの協会、基本的に給金はお布施と組織加入者からの善意の募金(ドロップアイテムなど)から捻出している。
分かりやすく言うと、安月給なのだ。
まあ慈善団体なのでしょうがないと言えばしょうがないのだが、
どうせ働くならもうちょっと自由なお金が欲しい。
魔法学校で講師をするには免許が居るし、ソレ以外の事業でも大概は組織への加入や許可が必要。
面倒だし時間もかかるのでそれらは却下。
となるとやはり思いつくのは一つ。冒険者として活動する事である。
ルイーダの居る酒場へ行けば仲間を斡旋して貰えるので仲間の心配は無いだろう。
国ごとにギルドというものが存在し、登録した者は酒場で斡旋して貰える。
ギルド支部へは大概依頼を受けに行く人や、初心者同然か異常にハイレベルな人しか行かない。
ソレ以外の丁度いいレベルの仲間を探すならルイーダの酒場が一番だ。
他の酒場でも斡旋はやっているが、一番人気があり信頼もあるのはルイーダの酒場である。
ちなみに、基本的に斡旋して貰えるのは同じ国のギルドに登録している場合だけ。
他所の国へ行ってそこの酒場で斡旋して貰う事は出来ない。大人の事情で色々あるのだよ。
「いらっしゃい…へえ、珍しいじゃないリネス。あなたが此処に来るなんて」
「お母さんにいい加減働けってどやされたのー。ね、いい人居ない?」
実は顔なじみだったりするルイーダ。
私がまだ幼かった頃に出会って以来の幼馴染だったりする。
けど私が小さい頃から容姿が変わってないけど幾つなんだろう…
見た目は20代後半といった感じだけど、確実に倍は行っている筈である。長命種なのだろうか。
「何か変な事考えなかった?」
「ウウン、ナンデモナイヨ?」
疑問形の割りにえらく確信を持って聞いてくるルイーダ。
うん、女の子同士でも歳の話題は禁止なんだね。
ありがとうルイーダ。骨身に刻んでおくからそのイイ笑顔をやめてくれないかな。
「とりあえず信用が出来てあなたでも大丈夫そうで尚且つオススメ…この3人ぐらいかな?」
差し出されたのは三枚の紙。
それぞれ魔法による転写絵(写真)が描かれており、その下に幾らかの情報が書き込まれている。
二人はパーティーへのお誘い、一人はパーティー参加希望である。
とりあえず自分でパーティー組んで人集めるなんて出来ないので一人は却下。
他の二人だが、一人は見かけの年齢は私の外見と同い年ぐらいの男の子。要するに10代後半。16~18ぐらいだろうか。
種族は人間で、これから大規模な旅をするので同行して欲しいとのこと。
もう一人は中年のおじさま。ダンディーな感じのイケメンなのだが、残念私に年上趣味は無い。
こちらは半人半魔の類らしく、これまた大規模な旅への同伴希望らしい。
他にも居ないか聞いてみたが、信用出来て私でも着いて行けそうなのはこの二人ぐらいらしい。
「むむむ、おじさまの方にするか男の子にするか…」
「その言い方だと男を買うみたいね」
「失礼な!?」
全くもって心外な言葉にツッコミを入れつつ考える。
私の目的は生活基盤の確保。要は生活とちょっとした贅沢が出来ればいい。
まあどちらも大規模な旅になるらしいので本格的な贅沢は帰ってからになるだろう。
けどそれ自体は別にいい。流石に楽して今直ぐ稼げるとも思っていない。
やはり判断基準は楽さと、報酬。
どちらも報酬については細かく書かれていないため、暗黙の了解で応相談といったところか。
男の子は人が良さそうだし、年代が近い。実力もそこまで差はないだろうし、報酬は山分けかな。
おじさまの方は歳の差や戦力差で大分報酬に差が出そう。仲間も多そうだし、取り分は減るかも。
逆に戦闘面ではおじさまの方が頼りになるだろう。
うーん、悩む。悩むけど…
「よし、この男の子に決めたっ!」
やっぱり年が近い方が少しは接しやすいだろうし、多少戦力が小さくても私自身それなりに強い自身はある。
この子の要望も回復系魔法の得意な人とあるので、そういう意味でも合うだろう。
報酬山分けも魅力的だし、もしかして仲良くなれば初めての恋人…とまでは行かなくても友達ぐらいにはなれるかも。
「オッケー。それじゃ連絡入れとくから、書いてある通りに集合ね」
そういって紙を引っ込めて代わりに契約書を差し出すルイーダ。
記載されていた日時は明日の正午。少し急ではあるが何とかなるだろう。
本格的な準備は二人で行えばいい。
それにしても旅かあ。本格的なのは初めてかなあ。前はダーマまで街道沿いに行くだけだったし。
ここお国の首都の城下町だから大概のものは揃うし、余り出る機会が無かったのよねー。
流石に異性も含めたパーティーで旅をするとなると緊張するけど、頑張ろう。うん。
・
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・
「二人っきり!?勇者!?魔王討伐!?」
「うん、そう。頑張ろうな!」
そう言って眩しい笑顔を浮かべる彼、レオ=スティーグ、呼び名はレオくん。
意外と引き締まった体と、歳の割に落ち着いた印象を思わせるイケメン君で、笑顔も中々カッコイイ…じゃなくてっ!
待ち合わせ場所で聞かされた言葉に私は驚きの連続だった。
何せこの子は王様に魔王討伐を託された勇者様で、しかもその大それた旅に同行するのは私一人。
どうやらこの子が勇者様というのは、ここ数日ヒッキーしていた私以外の町の人は大概知っているらしく、
そもそも諸外国にまで連絡を行なって町の掲示板で告知しているらしい。
勇者ご指名からまだ数日ということや、魔王討伐に対する気後れ等もあって私以外は集まらなかったらしい。
ただこの子は回復支援役の私が入ったので十分と思っているらしく、
早速今からでも魔王城へ乗り込もうかと言わんばかりの勢いである。なにそれこわい。
「大丈夫。リネスは俺が守ってみせるよ」
なんて真剣な表情で言われただけでコロっと行っちゃいそうな私。
こんな子が頑張ってるのに年上で大人の私が逃げ帰るなんて出来ないよねとか、
ギリギリ旅の仲間が出来て安堵しているであろう彼を見捨てて忘れるなんて薄情なこととか、
なんだかんだと理由をつけて自分を納得させようとしている私が居ることに驚く。
これマジでコロッと行っちゃった?いやいやまさかあ。
まあ、依頼も受けてしまったし今更断っても信用問題である。
どうせ抜けるならもう駄目だという所まで頑張って彼も一緒に諦めさせよう。
「うっし、アイテムは揃えといたし、準備万端!さあ出発だ!」
元気に腕を振り上げて出陣の声を上げるレオくん。
心配な事は沢山あるけど、頑張って支えてあげよう。
・
・
・
なんて、ナマ言ってさーっせんしたーっ!
「んー?どしたー、リネス」
「あー、うん、なんでもないよ」
私の方を向いて不思議そうに首を傾げつつ、横合いから飛び出したリップスを見もせずにたたっ斬るレオくん。
使い古しの銅の剣にも関わらず、バターを切るようにすぅっと真っ二つ。
真正面から綺麗に両断されていて、死んでいることは一目瞭然。
レオくんにも私にも返り血一つ付いていない。単純に力があるだけでなく、技術も相当なものだと素人目でも分かる。
今私達が居るのはクリムド城下町にほど近い洞窟。
最近強力なモンスターが住み着いており、魔王軍との関連が噂されている事から突撃する事に。
いわゆる初ボスというやつ。
魔法には結構自信があったので、レオくんがレベルアップするまでは私が頑張って、
もしボスに会って辛いと思えば一緒に全力逃走しよう、なんて思っていた。
が、ふたを開けてみればこの通りである。
初ダンジョンにしてはかなり複雑な構造をしているこの洞窟、
半分ぐらいまで潜っており結構な回数の戦闘もしている。
が、かすり傷一つ、返り血一つ付いていないし、レオくんに至っては汗すらかいていない。
…やばい、ちょっと頼もし過ぎて本気で落ちるかもしんない私。
「余裕そうだね、レオくん。か、かっこいいよ」
「へへへ、そう?やった」
二人して頬を赤くしている今の状況、ルイーダに見られたら何言われるだろう。
きっと何言われても真っ赤になってパニクるに違いない。
そして余裕そうにしているのも当然の事ながら、レベルによるものである。
今私達の強さを元にした簡易ステータスがこちら。
レオくん
LV50
クラス:ゴッドハンド
熟練度:★★★★★☆☆☆(Lv5)
職歴:戦士・極、武闘家・極、僧侶・極、バトルマスター・極、パラディン・極、ゴッドハンド・現在
装備品
武器:銅の剣(単体攻撃・使い古し)、ブーメラン(全体攻撃・新品)
頭:気合のバンダナ(会心アップ・使い古し)
鎧:銅の鎧(守備微増・使い古し)
腕:グローブ(守備微増・使い古し)
足:旅人ブーツ(素早さ微増・使い古し)
装飾:理力の指輪(賢さ微増・新品)
特技・呪文
火炎斬、マヒャド斬、稲妻斬、真空斬、魔人斬、ハヤブサ斬、ドラゴン斬、ゾンビ斬、メタル斬、カモメ返し、
五月雨斬り、疾風突き、正拳突き、跳び膝蹴り、回し蹴り、捨て身、真空波、爆裂拳、ムーンサルト、
雄叫び、気合溜め、身代わり、仁王立ち、ライディン、ホイミ、ベホイミ、ルーラ、リレミト、他数種
リネス
LV5
クラス:賢者
熟練度:★★★★☆☆☆☆(Lv4)
職歴:僧侶・極、魔法使い・極、賢者・現在
装備品
武器:カシの杖(魔法微強化・使い古し)、ラバーウィップ(グループ攻撃・新品)
頭:知識の髪飾り(賢さ微増・新品)
鎧:旅人のローブ(守備微増・使い古し)
腕:マジックブレスレット(賢さ微増・使い古し)
足:旅人ブーツ(素早さ微増・使い古し)
装飾:理力の指輪(賢さ微増・新品)
特技・呪文
メラ、メラミ、ギラ、ベギラマ、ヒャド、ヒャダルコ、マヒャド、バギ、バギマ、ザキ、ザラキ、イオ、イオラ、
ホイミ、ベホイミ、ベホマ、ザオラル、キアリク、キアリー、ニフラム、マホトーン、マジックバリア、
マヌーサ、ラリホー、ルカニ、スカラ、フバーハ、ルーラ、リレミト、他数種
…なあにいこれえ。
レベルが酷い。もうこれ魔王殴り殺せるんじゃなかろうか。
私もさっき釣られて1レベ上がったし。
というか何故にライディンが使えるの?勇者の才能ですかそうですか。
これ、何で回復系募集したか分かった。MP少なめ+回復する暇がないからだ。
MPが切れたら帰るのに困るし、ライディン辺りの切り札の為にも温存しておきたい。
そもそも近接戦闘中に一々回復している暇も無い。
この辺の雑魚相手なら兎も角、ボスや終盤の敵相手を想定しての事だろう。
それに一応ベホイミやライディンは使えるが、魔法の才自体はかなり低いようで。
つまり私の仕事は後ろからマホトーンとかルカニとか掛けて、終わったらベホマ。ダンジョンクリアでリレミトルーラ。
することないせいで少しレベルが上がりにくいけど、
正直殆ど観戦してるだけで強くなるっていうのも詐欺な気がする。
あ、なんでレベル低いのに賢者かと言うと、戦闘せずに普通に修行&練習で熟練度稼いでたから。
ダーマ神殿行くときも街道通って寄り道せずに真っ直ぐだったしね。
戦闘が面倒だったのと怖かったのとで、戦闘による熟練度上げは断念。
流石に戦闘と修行とじゃ獲得出来る熟練度が雲泥の差の為、数年かけてやっと賢者だ。
レオくんは1年前にご両親を亡くしてから本格的に鍛え始めたとの事で、凄い才能と勇気だと思う。
私なら強い人の先導も無しに初戦闘&レベル上げなんて絶対無理だ。怖い。
さっきもまともな戦闘は初めてで、レオくんに守って貰いながらおっかなびっくり魔法撃ってただけだったし。
あ、ちなみに装備品で新品とあるのは、レオくんが王様から貰ったお金で買ってくれたのだ。
けど髪飾りとかお揃いの指輪とか、レオくんは私をどうしたいのだろうか。落ちるぞこらー。
「レオくんは何でそんなに強いの?」
「んー?メタスラの湧き場見つけてさ。狩ってた。アイツらレベル関係無く熟練度くれるし」
なるへそ。
要は熟練度ウマーのためにメタ狩りしてたらいつの間にか…と。
いや、それにしてもLV50て。大体Lv50までの必要経験値平均が200万程度。メタスラ1体1000。
つまり2000体以上のメタスラを狩ったのか…よく絶滅しないね。アイツら分裂増殖するけどさ。
レオくん曰く狩り尽くしたのか住処を変えたのか、もう出なくなってしまっているらしい。実に惜しい。
メタスラ系は数年~数十年に一度住処を変え、ラスダンから井戸の中までいろんな所に出没する。
もんの凄く素早くて、滅茶苦茶固くて、その上小さいため人間の脚力や腕力ではどれだけあっても対応出来ない。
相応の戦術や戦闘スタイルを駆使し、尚且つ高い身体能力と連射性若しくは対メタル性に優れた技が必要。
攻撃自体はある程度のレベルがあれば屁でもないが、低レベルだとメラ等の魔法が痛い。
これらの要素から、ヘタなモンスター相手に戦うよりよっぽど戦闘経験を積めるのだ。
ただ、すぐに逃げ出すためさっさと仕留めないといけないのが難点なのだが、
レオくん一体どうやって一人であの硬くて逃げやすいメタスラを狩っていたのだろうか。やはり天才か…
「強くてニューゲームってレベルじゃないんだけど…私要らないよね?」
「そんな事無いよ。俺魔法苦手だし、何より一人旅は寂しいしさ」
そういうレオくんは、二人旅が心底楽しいといった様子だ。
まあこれだけ強いと仲間にも恵まれなかっただろうし、
そもそもまだ10代後半で大規模な旅自体が初めてとのこと。
やっぱり不安とかもあったのだろう。
私は戦闘面では殆ど役には立てないけど、これでも聖職者の端くれだ。
目の前に居る頼もしくてかっこいい男の子の心は私が支えてあげよう。
「疲れたら言ってね、何時でも癒してあげるから」
「ん…分かった。ありがとう、リネス」
一瞬真剣な表情になり、先程までと打って変わって穏やかな表情で答えてくれる。
私の言わんとした意味が分かったのだろう。聡い子である。
…流石に、今のはちょっとやばかった。すっごいドキドキしてる。イケメンパネー。
「お、何か見えてきた」
私が必死で心臓を落ち着かせようとしていると、不意にレオくんが声を上げた。
視線の先には重厚そうな金属性の扉。
この洞窟は天然の洞窟なのでこんなものがあるのはおかしい。
つまりこの扉は知能あるものが何らかの目的のために作ったものであるということだ。
「鍵がかかってる…でもこれぐらいなら魔法で壊せるかな?『イオ』!」
ボンッという音に続いてガシャンという音が聞こえる。鍵が壊れたようだ。
もうちょっと頑丈だったり対魔法処理が施してあれば、流石に盗賊の鍵辺りが必要だっただろう。
早速勇んで飛び込もうと足を踏み出すが、扉に聞き耳を立てていたレオくんに手で制される。
「…ごめん、ちょっとここで待っててくれるかな。すぐに片付けて来るから」
「…え?」
どういう事だろう。まさか奥に居るのは私には同行するだけで危険なくらいレベルが高いのだろうか。
けど、王国の首都近郊の洞窟にそんな高レベルの魔族が?
普通王国の魔術師団の警戒網に引っかかると思うんだけど…
けれど私自身経験不足は否めない。無駄に棺桶になりたくはないので、大人しく待っている事に。
レオくんは決して開けないようにと忠告し、中に飛び込んでいく。
即座に閉められた扉の奥に何があったのかは分からない。
だが、直後に聞こえてきたのは剣戟と爆発音。数瞬鳴り響いた後、あまりにあっけなく音は収まった。
恐らくハヤブサ斬や稲妻斬辺りを連打したのだろう。
けどこれだけ簡単に倒せるなら、私が着いて行っても良かった気がする。
そんな事を考えながら扉が開くのを待っているが、中々レオくんは出てこない。
扉に耳をつけると少しだけ話し声のようなものが聞こえる。人質でも居たのだろうか。
心配だが待ってろと言われたので大人しく待つことに。
「…いいよ、入って」
暫く立ち尽くしていると、レオくんが扉から顔を出した。
傷一つ無い姿に安堵しながら中に踏み込むと、むせ返るような異臭が鼻を突いた。
嗅いだことのない独特の匂いに顔をしかめつつ、部屋を見渡す。
どうやら牢屋に繋がる部屋だったようで、鍵を壊された牢屋から数人の女性が現れる。
やっぱり人質が居たみたいだ。
助かったことに喜んでいる人も居るが、半数ほどの人は目が虚ろで足元も覚束ない。
心配になって声をかけようと近づくと、先程の異臭が彼女達からも漂ってきた。
これは…一体…
「下衆の嗜み、ってやつだよ。知らないならそれに越したことはない」
苛立ちを隠し切れない様子で呟くレオくん。
その言葉を聞いて私は理解してしまった。
経験は無いけれど、これだけの情報が揃っていて分からない程子供でもない。
つまり、そういう事。私達の脇に滅多切りにされて倒れ伏している、二足歩行の猪のような怪物。
こいつは魔物に襲わせた女性を攫い、毎晩ここでお楽しみしていた、という事だ。
この匂いはその時出された体液のモノだろう。目が虚ろな女性達は、もうすっかり心を壊されてしまっているのだ。
「レオくん、ありがとう」
私の言葉に無言で頷くレオくん。
彼は五感が鋭い。恐らく中から行為中の音や匂いを感知し、私が見ないで済むようにしてくれたのだろう。
確かにこんな化物に女性が無理やり凌辱されている姿なぞ、直視したらトラウマものだ。
レオくんの心遣いに感謝しつつ、私は彼女達とレオくんを連れてリレミトを唱える。
後はルーラで町まで戻って、それで今日の冒険は終了といった所だろう。
帰りの道中胸糞の悪い匂いを思い出し、私は一人の女性として魔族の横暴に苛立ちを覚えた。
・
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・
・
「ね、ねえ、レオくん?重くない?」
「だーいじょーぶだーいじょーぶ。よっほっとっ!」
今私達は首都から少し離れた所に位置する塔に来ている。
勿論ダンジョンなのだが、最近急にモンスターが湧かなくなったという噂を聞いてやってきたのだ。
モンスターが居なくなるだけならいい事なのだけど、それが何の前触れもなく急にとなれば話は別だ。
何らかの理由…例えばモンスターを全滅させるぐらいヤバイのが移り住んできたとか、
そういう悪い方向に想像してしまうのが人間であり、実際その可能性は高い。
少なくとも異変が生じているのは事実で、それが昨今の魔王軍の活発化と関係があるのでは、という事だ。
で、レオくんと一緒にその塔の様子を探りに来た私だが、塔の一階で一度心が折れかけた。
何故ならこの塔、塔の外周に沿った螺旋階段と数階の迷宮化したフロアによって構築されており、
高さも相当なもので在るにも関わらず階段の傾斜は緩やかなため段数が異常に多い。
しかも何者かによって仕掛けられたのであろう数々のトラップがフロア内、階段問わず待ち構えている。
とてもじゃないが私のひ弱な体力とか運動神経で乗り越えられるものではないので、一度は断念しかけた。
しかし異常が起こっており勇者として旅する以上それを解決することも求められる。
そこでレオくんが提案したのが、私を背負って塔を登る、というものである。
これは流石に私も驚いた。
幾らなんでも人間一人背負ってこの高さの塔を踏破するのは尋常では無いし、
その上レオくんは頂上までずっと背負っていくつもりだったのである。
勿論途中のフロアでも背中から降ろさず、残っていた少量のモンスターも私を背負ったまま倒そうとする始末。
流石に無理やりにでも降りようとしたのだが、そこはレオくんクオリティ。
私が背中から降りるよりも早く敵が真っ二つになってました。
「ん…」
振動で少し緩んでしまった腕を改めてレオくんの首に巻き付ける。
あまりくっ付くと胸を押し付ける事になるので気恥ずかしいのだけど、
流石に変な態勢をとって重心を崩したりするのも迷惑なので自重。
レオくんの背中は見た目の割にがっちりしていて、こうしておんぶされて腕を巻きつけていると妙な安心感がある。
当然私の顔の目の前にレオくんの後頭部があり、態勢次第では肩に顎を乗せる形になってしまう。
男の子と触れ合った事すら片手で数えるぐらいなのに、
こんな態勢でしかも自分の目の前や真横に男の子の顔があるなんて、考えただけで頭が沸騰しそうになる。
とりあえず変に動いて邪魔にならないようにだけ気をつけつつ、必死で羞恥を抑えること暫し。
「お、頂上かな」