ハロー皆さんろりこんばんわ。
俺の名前は不知火コハク。所謂前世の記憶持ちという類の男だ。
とはいえ、トリップだの転生だのといった上等なものではない。
普通に赤子として生まれてきたらなぜか頭の中に前世の記憶が残っていたのだ。
記憶というよりも知識と言った方がいいだろうか。
よって俺自身は幼い頃から色々とモノを知っているだけの子供だった。
とはいえその知識に救われてきた事は数知れないが…
「おーおー、平和そうな面してらあな」
そんな俺は今何処に居るかと言えば火の国木の葉の里。
お分かり頂けたと思うがNARUTOの世界だ。
俺の前世は随分と本を読むのが好きだったようで、
文学からマンガからライトノベルからエロ本から、様々な本を読んでいた。
部屋に積まれたゲーム(R18含む)の山と本(こちらもR18含む)の山は部屋一つを倉庫として使っていたほどだ。
そんな俺がNARUTOという有名マンガを読んだことが無いはずもなく、
大学受験のために必死で身に付けた特殊な記憶法を日常的に使っていたおかげでかなりの部分も覚えていた。
NARUTOに限らず様々なマンガの内容を記憶していたが、まあ今は関係ないので割愛。
とまあこれだけ前世の事を覚えていれば幼少期に形成される人格にも多少は影響が出るというもので。
現在10歳の俺は既に精神年齢の少し高いヒネたガキになっていた。
といっても所詮子供が不似合いな知識を得て背伸びしているだけだ。
子供っぽい面も多々あるのは自覚しているし、それをどうこうしようとは思わない。
記憶や知識は残っていても人格自体は別物なのである。
「前来た時と変わってねえなあ。平和ボケ出来るってのはいいねぇ」
10歳の物言いでは無いと思うが、前世の知識を持っているプライドが子供らしい言動を拒むのだ。
とはいえ子供特有の無邪気なプライドなので崩れる事も多々あるのだが。
平和ボケとかそれっぽい言葉を好んで使いたがる辺りの精神が子供なのだと自分でも思うが、
事実孤児として暮らしてきた俺からすればこの里の連中は十分に平和ボケしている。
――そう、俺は所謂孤児という奴だった。物心ついた時には親は居らず、孤児院で暮らす日々。
わけの分からない知識が頭の中にあった事もあって寂しさで泣き喚いた事もある。
それでも生きる術を得るために忍術を覚えた。
狩りが出来るようになれば最低限食うには困らないし、いずれ忍になる事も出来る。
俺は知識から忍になれば俺のような孤児でもいっぱしの生活が出来る事を知っていたし、
逆に孤児でもまともな生活は出来るはずだとへらへら笑っていられるような希望は持てなかった。
前世では戸籍を持たない者はその生を認められず、
孤児として生まれれば一生惨めな思いをして暮らすだろう事は想像に難くない。
勿論才能を開花させたり努力の末に幸せを掴み取れる者も居ただろうが、
境遇を悲しむ事で現実から目を背けた者の末路が悲惨であることは、
25歳で社会人として生きていた俺は当然のように知っていた。
そういった前世の俺が残してくれた掛け値無い有り難いアドバイスのお陰で俺は今まで生き残る事が出来、
そして今こうして目的を持ってこの地に足を着けている。
「さーて、ナルトとか言うのにも興味あるけど、まずはこっちの用件からだな」
幾ら俺が特殊な忍術を使うとはいえ、
門から堂々と入ってきた俺に監視も注意も一人も無しというのは少々不安ではあるが、
俺はとある依頼をするために依頼所へと向かった。
「何じゃと?」
依頼所で少々変わった依頼を出した俺の言葉に三代目火影猿飛ヒルゼンは目を細めた。
俺が言ったことは単純明快。
俺を忍者として雇ってくれというものだ。
名前を告げ変化の類もしていないことを確認され、
年齢から鑑みても抜け忍やスパイである可能性は低いと判斷されたが、なにせ俺は孤児である。
この世界にも戸籍に似た制度はあるが、生まれて直ぐ孤児となった俺にそんなものはない。
身元を確かめる術が無い以上判断は難しく、子供なのだからアカデミーへ通えというわけにもいかない。
完全にシロとは言い切れない俺を名家の子女が通うアカデミーへ入れる訳にもいかないし、そもそも金が無い。
実際には忍術を使って色々稼いではいるが、孤児であるはずの俺があまり大ぴらに使うわけにも行かない。
判断に困っただろう三代目を見て俺はカードを切ることを選ぶ。そのために三代目がここに居る時を選んだのだ。
「暗部でも構いませんし、火影様の直属ということでも構いません。適当な上忍に付けていただいても結構です。
とにかく仕事が出来て稼げれば、暗殺だろうが雑用だろうが…人柱力のお守りでも」
その言葉を俺が発した瞬間室内の空気は凍りつき、
俺の両脇と背後には計三人の暗部らしき忍がクナイを俺に向けて現れた。
流石に暗部だけあって、並の中忍以下なら反応すら出来なかったであろう。
俺の言葉に対しての反応が先程の三代目の言葉であり、それをごくごく自然体で見つめ返す。
眉ひとつ動かさずに自然体を保つ俺に三代目は更に目を細める。
俺が発した人柱力という言葉。それはそれだけ重いものなのだ。
ただ九尾という単語を知っているだけではない。
尾獣という強大な存在、それを宿した存在を人柱力と呼ぶ。
そしてそれが現状お守りをされるべき存在であり、この里に居るという事まで知っている。
それは、ただの孤児が知り得る範囲を逸脱していた。
「お主…何者じゃ?」
「ただの孤児ですよ。ちょっとした予知能力はありますが」
事実である。とある忍術の応用で簡単な予知能力を使えるし、
全力で使えばかなり先の事でも読める。
先のことになるとせいぜい占いレベルの的中率で、今回の情報はそれで得たものでは無いという事は口にしないが。
「血継限界か…」
「どのようにでもご自由に」
血継限界とは、血筋によってのみ受け継がれる特殊能力の事である。
それは氷遁や木遁といった特殊な忍術であったり、写輪眼や白眼といった特異体質だったりする。
いずれにしても強力なものが多く、その全てを把握しきれている者も居ないだろう。
廃れていったモノもあれば表舞台に出てこないモノもある。
それら全てを把握し切る事は不可能で、その中に未来予知が可能なものがある可能性は0ではない。
…ま、俺のは違うんだけどね。
「…何が目的じゃ?」
「勿論生きる事。あと人柱力の話題を出したのは、彼のことは気に入っているからですよ」
左右と背後から突き付けられるクナイと殺気を意に介せずしれっと言い切る俺。
事実、俺はナルトの事を気に入っている。
才能が無いと言われた落ちこぼれでありながら努力でそれを乗り越え、
その奥に眠っていた才能を開花させる事でさらに高みへと達した、『努力した天才』。
物語の主人公らしい実直で素直な性格は人間としても好ましいし、
自分の存在を示すため、そして誰かを守るために最強の一角にまで上り詰めた事は賞賛に値する。
様々な悪意をド根性で乗り越えるその姿はまさに主人公、英雄といった所だろう。
そんな人物が現実に存在し、更にはまだその物語は始まってすらいないのだ。
近くで見たい、手助けしたい、…関わりあいになりたくない。いずれも本心である。
そして俺は自分が生きるために、そして幸せになるために、俺が持つこの情報を利用する事にしたのだ。
そういった俺の目的や考えをゆっくりと一つずつ語っていく。
今の彼はただの子供。
俺の知っているはずのない彼の人柄や経験を前提としているとしか思えない言葉を聞き、
三代目は俺を見定めようとする視線を更に強める。
「人柱力を巡って戦争なんかされた日には、ただの孤児の私に幸せなんて無いも同然でしょうから。
そういう意味でも彼の教育役として道を正せるのならそれもいい」
今俺は10歳。そして彼は未だ8歳だ。
予定された物語の始まりまであと5年。
その間に俺が学べるもの、彼に与えられるものは計り知れないだろう。
もしかしたら死ぬはずの者が死なず、代わりに死ぬはずの無い者が死ぬかも知れない。
しかしそれはあくまでこの世界をマンガの世界として見た場合の話。
俺は今此処で生きていて、前世の記憶はそれはそれこれはこれ。
例え前世で見たモノと違う結果になったとしても、それがこの世界での歴史である。
…とまあ、小難しい理屈や考えを並べ立ててみたわけだが。
端的に言ってしまえば俺の目的は生きて幸せになるというごく普通のものであり、
そのために必要になりそうなことは片っ端からやっておきたいだけである。
「友達とバカやって、可愛い女の子にときめいて、そんな風な生活を俺もしてみたいんだ」
手を後頭部で組んで、体の緊張を解き、本心からの笑顔を浮かべる。
急に子供っぽくなった俺の態度に呆れたようにため息をつく三代目。
一応前世の知識から"らしく"振舞っていたが、やはり素の方が楽でいい。
言いたいことは言い切ったのであとは好きにしてくれという意思表示でもある。
俺みたいな出自で頼るアテも生活基盤も無いんじゃ人並みの幸せすら難しいので、
忍者になるのが一番の近道である。そのため少し無茶をした。
幾ら大人として生きた知識があっても俺自体は子供だ。ちょっとぐらいの無茶無謀は見逃してくれ。
暫く考え込んだ三代目は、手で合図し暗部の三人を下がらせた。
「お主はワシ直属の暗部ということにし、当分ははたけカカシという上忍の下に就いてもらう」
…まさか、全部来るとは思わなかったなあ
・
・
・
・
・
「まーたトンでもないの押し付けられちゃったねこりゃ」
俺は今木の葉の里にある演習場の片隅で横たわる子供を眺めている。
気持ち良さそうな寝息を立てて眠るこの子供は、先程まで俺と演習を行なっていた相手だ。
火影様にいきなり呼び出され、子供の世話を任された時は失礼にもついにボケたかと思ったが…
この子供、この俺から"鈴"を奪いやがった。
本来ならスリーマンセルのチームワークを見るための鈴取り演習を、
格下相手の実力を見るのにも丁度いいため利用したのだが…
都合三回。不知火コハクと名乗ったこの少年と演習を行い、鈴を奪われた回数である。
一回目は体術勝負で俺と互角の力を見せ、二回目は性質変化も使った忍術勝負で複数の属性を使いこなし、
三回目は自身のオリジナルだという忍術の前に手も足も…いや、何が起こったのかすら分からない内に負けた。
結局この演習で分かったことは、この少年が俺と互角以上の実力の持ち主だったという事だけだ。
「写輪眼は使ってなかったけど…使ってても勝てたか怪しいねこりゃあ」
彼が使えるかどうか、使えるとしたらどのぐらいか、敵意はあるのかなどを見極めるための演習。
上位の忍は拳を交えれば相手の気持ちが分かるなどというのを根拠にする気はないが、
彼との演習時に邪なモノは感じられなかった。
その体捌きや途中交わした会話、こうしている無防備な寝顔のどれからも、怪しい所は感じ取れない。
これが大人であれば何を考えているのか分からないという事もあるのだが、この子は子供だ。
大人ぶっている上に相応の知識もあるようだが、本質が子供なのである。
勿論忍としては優秀だし、それがマイナスになることはないだろう。
…ようするに、無邪気なのだ。孤児として暗い人生を歩んできたとは思えないほどに。
本人が言うには孤児院での生活より森で狩りをしていた時の事の方がよく覚えているらしいので、
恐らくは野生児のようなモノなのだろう。
それにこの子の言動からは、生きたい、幸せになりたいという純粋な思いが伝わってくる。
「…"あの"ナルトのお守りに志願したらしいな」
火影が何を思ってこの子を大丈夫だと判断したのかは分からない。
だが俺はこの子を見極め、必要であれば導こう。
それが、いずれ"先生"の遺した"意志"を守る事にもなるはずだ。