黒歴史自由帳   作:ゼロゼロ大神

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2話

 

「お帰りなさいませ、ライル様」

 

旗艦ファミノイア(旧第18星系語で"偏執"の意。俺的に分り易く言うと"オタク")に到着した俺は、

エリスを含めたアンドロイド数名の暖かい歓迎を甘受する。

アンドロイドとはいえ、やはりいい女に迎えられるというのは男冥利に尽きるものがある。

これで柔らかな抱擁でもあれば言うことは無いとか思っていたら、

器用にもうっすらと口元を緩め耳だけを赤くしたエリスが無言でやってくれた。

相変わらずのクーデレさんである。他のアンドロイドと比べ強い個性と能力を持つだけあって非常にイイ。

彼女の存在自体には今はすっかり慣れたものだが、それでもあの地獄から逃げ延びた後なのだから感動も大きい。

そういえば、今回の外出までずっと艦内に篭りっきりだったか。

旗艦であるファミノイアにはちょっとした繁華街があったりして引きこもり的な印象は余り無いが、

それでも一切艦から出ないというのもそれはそれでどうかという所だろう。気をつけねば。

 

「テレポーテーション反応収束を確認、異常ありません」

 

若干名残惜しそうに離れたエリスの言葉に釣られるようにこちらも誤差を確認する。

先ほど俺が用いたのは、サイコドライブユニット(通称SDユニット)と呼ばれる機構による瞬間移動である。

このSDユニットの原理は専門的過ぎる上に理解している科学者自体殆ど居なかったらしく、

当然ごくごく一般人であると自負している俺がその詳細な理屈を知っているわけがない。

量子電脳によるネットワークのデータベースにも概要しか載っていないぐらいの超技術だ。

 

その概要を簡単に思い浮かべてみる。

まずSDユニットは人間が持つ意思エネルギーを増幅・取り出して物理物質・物理現象に干渉する機構である。

これだけ言うと俺の世界でもかなりの眉唾技術であるが、一応理屈で説明は付いている。

情報にも物理的なものではないいわゆる情報エネルギーと呼ばれるものが存在しているらしい。

色々証左はあるらしいがこの場で考える事でも無いので割愛。そもそも知らん。

データベースを漁ればある程度は出てくるだろうし理解も出来るだろうが、そこまでする程の事でもない。

 

で、その情報エネルギーを物理エネルギーに変換あるいは作用して様々な物理現象を引き起こすのがこの機構。

元々人類由来の技術を用いて作られ、UBE由来技術の習熟によって大幅なブレイクスルーを行なっている。

おかげで紛うことなき最先端技術なのだが、それを全人類へと即座に普及させてみせたのだから、

全人類統一政府の本気っぷりとそんな怪しげな技術に頼らざるをえない人類の窮状が想像出来るというものだ。

 

思考が逸れたが、兎も角この機構の凄い所はその汎用性にある。

なにせテレパスからテレポートからサイコキネシスから、思いつく限りの全ての超能力が再現可能だ。

当然火を起こしたり弾体を加速したりなど朝飯前。

俺ぐらいの強能力者であれば機械の補助無しで瞬時音速突破ぐらいはしてみせる。

先ほども小型の外部補助装置と脳内の高性能ナノマシンを介した複合サイコドライブにより、

このファミノイア艦内へと直接転移してきたのである。

時間差コンマ以下、座標誤差も数ナノメートル以下。我が事ながら流石の精度だ。

 

「SDユニットに問題は無いようですね」

 

「ああ、生身でどうなるかは少し不安だったからな」

 

元々研究途上の技術である。当然、何が原因でトラブルが起きるか分かったものではない。

半世紀近く全人類に使用されたことで日常レベルからある程度の非常時レベルでも稼働は確認されている。

とはいえ別世界への転移となればどんな悪影響が出るか分かったものではない。

一応エリス隷下のアンドロイドが先行実験はしてくれていたが、

だからと言って生身の人間が使ってなんともないとは限らないのである。

幾ら彼女達がナノマシンで人道無視レベルの"調整"を施してある以外身体的には生身の人間と変わらないとはいえ、

SDユニットにおいて最も大事なのは能力強度を決定する意思力と魂とも呼べる人格だ。

あくまでデータのコピー・調整品に過ぎない彼女らは全員が平均的かつ安定した出力を持つが、

逆を言えばどこぞのコッミクヒーローがやらかすような勇気で超パワーアップなどという事は出来ない。

平均値以上の数値を引き出せる所謂"特異体"はエリス含め少数しか居ない。

当然仕様が違うのだから問題が出る可能性も無くはないわけで、ちょっとドキドキしたのは内緒である。

 

「問題が無いようで何よりです。検証班からも問題なしとの報告を受けていますので、以後制限を解除します」

 

当然量子電脳のネットワークで既に説明は受けている。

しかしこういった口頭でのやりというアナログはどれだけ人類の生活がデジタル化しても、

確実性の向上や心理的要因を含め様々な意味で有用である。

ココらへんの必要性の違い、あるいは普段それらアナログに接しているかどうかが能力強度に関わるらしいが、

やはり一般人である俺が詳しい理論を知っているわけもない。

どちらにせよ彼女らと違い人間である俺は彼女らの数倍の平均能力強度を有するし、

最高水準の特異体であるエリスと比較しても三倍以上の能力強度を誇る。

理論的最大時には単独星系間ワープや全重力反転崩壊(惑星のブラックホール化)といった、

物理法則無視というかこの世界からすると常識を冒涜するかのような荒業すら可能らしい。

さすがにそんな無茶苦茶やらかせばあくまで生身の人間である俺はタダで済まないのは確実だが。

火事場のクソ力とか、足りない分は勇気で補えばいいを本気でやらかしてしまっている超システムである。

 

「そういえば結局この世界に来た原因は分かったのか?」

 

ブリッジへと着いた俺はきっちり埋まったCICで黙々と作業をこなすアンドロイド達を一瞥し、

特に異常が無さそうな事を確認しつつ指揮官席へ着席しエリスに尋ねる。

直接的な原因は当然宇宙脱出計画だが、勿論ただ来れたからといって大成功、とは行かない。

UBEによる追跡の可能性の有無や各所への問題を脇に置くにしても、

今後同様の事態や緊急時等において再び転移可能であるかを調べる必要がある。

何度も行き来出来るようであれば、逃げ遅れたかもしれない同類の救出や相互連絡も考慮すべきだろう。

 

「はっきりとした原因は未だ判明していません。私達の共通見解で良ければございますが」

 

控えめに言うが、実はこれ向こうの世界基準でもそこそことんでもない言葉である。

多少話は逸れるが、基本的にコンピュータの演算においては計算速度よりも並列処理能力が重視される。

勿論今の計算をさっさと終わらせて次の計算に移る性能は高いに越したことはない。

並列処理の向上だけではいずれ頭打ちになるのも事実ではある。

とはいえ現代において一本道の計算で済む様な単純計算を行う機会は非常に少なく、

彼女たちは人間の思考を模倣している関係上同時に行う必要のある処理量も膨大だ。

となれば少々の計算能力向上より、もう一台同じコンピュータを用意して並列計算した方がいいのは事実。

 

で。そういった点で彼女たちは非常に優秀である。

元々俺を含め元の世界では人間アンドロイド問わず量子電脳化処理を施されていた。

これはナノマシンを用いて脳内に量子シナプスネットワークとそれを用いた演算装置を構築し、

それを脳内シナプスと接続する事で人間の脳に最上級の量子コンピュータの性質を与えるというものである。

アンドロイドである彼女らがほぼ生身なのは、この量子電脳やSDユニットなどとの兼ね合いの問題だ。

政府などで使われていた異常なレベルの性能のコンピュータを除けば、単体最高峰の演算性能を持つこれら。

それを大型化・高性能化させたものが我が艦隊の各艦に搭載されており、

その上常勤で9万人近く居る彼女らの須らくにこれが搭載されている。

ナノマシンを注入するだけなので非常に安価かつ容易というのも普及の理由の一つだろう。

 

そして、その万単位の量子コンピュータ全てが量子通信によって常時ネットワークを構築している。

最新技術によって銀河系の端から端まで誤差1時間以内で届ける通信を用いており、

その暗号化技術と量子コンピュータらしい特殊な暗号化法によるセキュリティは非常に高レベル。

10万人規模のネットワークであれば政府の最新鋭異常スペックコンピュータでも解読に丸一日を要するほどだ。

傍受も妨害も受けること無く時間の概念を超越したかのような速度で相互通信を行う10万規模の量子コンピュータ。

その並列処理能力はもはや今更何をか言わんや。

正直その処理能力の0.0000001%未満でもこの世界のネットワークを軽く制圧出来るだろう。

そんな彼女たちが得られる限りの情報を元にシミュレーションと理論解析を行ったのだ。

もはやそれは神の啓示とか最高レベルの未来予知にすら匹敵するレベルである。

疑う予知など寸分たりともありはしない。

 

「――以上の根拠から、ライル様の高強度能力と私達10万人規模のSDユニットの相互共鳴によって宇宙を脱出、

 ライル様の知識量・個人的意識に従ってこの時代にワープアウトしたのではないかと思われます」

 

思考しながら送られてくる複数のデータを吟味しつつ会話。さすが量子電脳。

相手も量子電脳を有していることが当たり前だったので、現地住民と交流の際は処理能力の違いにも気をつけねば。

ともあれ、推測は大きく外れてはいないだろう。理屈を置いておいても理解できなくはない。

前述の通り彼女達にもSDユニットは搭載されているし、中心核となる俺の最大能力強度は人類屈指だ。

なにせ後方の民間人だったのを能力強度だけで最前線に回され、

そして能力強度と度重なっていく戦闘経験だけで激戦を生き抜いてきたのだ。

強度判定もSS++という事実上の測定限界ギリギリという判定を貰っている。

能力強度は意思力によって増減するものの、最大出力自体は完全に先天的資質に依存するとのこと。

人類全体でも100居るか居ないかの能力強度が10万規模の能力者と同時にワープ一点に絞って発動。

その上生き延びるかどうかの瀬戸際でこれまでに無いほど意思力は最高潮だっただろう。

正直、元々のSDユニットのデタラメさを考えれば世界の一つや二つ超えても不思議はない。

後は俺の知識やイメージに影響を受けてワープアウト座標が決まったのだとすれば、辻褄は合うのだ。

 

「ともあれ、検証はこれで終わり。分析は優先度を落として最低限維持してくれ」

 

「畏まりました」

 

今の報告で分かったのは、要するに帰還および再脱出は不可能であるという事。

元々が運賦天賦の上に相当低い確率だったし、救出や興味本位のために同等の能力強度が出せるとは思えない。

そもそも試行回数が少ないため完全な結論は出せない上、

エネルギーやオーバーホールを考慮すればそうそう何度も取れる手段ではない。

なにせ転移先が今回同様安全であるという保証は何処にもないのだから。

もう一度宇宙脱出を行うなら何かしら技術的なブレイクスルーか理論的な解明が必要だろう。

それはウチの研究開発班に丸投げしてしまえばいい。

余裕があるとはいえ10万人の処理能力を費やすほど優先度の高い事項でもない。

 

「続いて、部隊の準備状況ですが」

 

そうそう、地球側で結論が出るまでに対BETAの準備を整えておくように指示を出していたのだったな。

まずもって異世界転移の影響か大多数の人員に多大な負荷が発生、機能が半減してしまっていた。

そのため即座に予備人員と交代し"調整"を行なっていたのだが、それは既に完了している。

ちなみに予備人員といっても肉体を予備と交換しただけで中身の人格はそのままである。

元々彼女らの本体は量子電脳内に構築された擬似人格データであり、

定期的にバックアップが取られているそれらは例え肉体が全損しようとも新しい体にインストールし復旧可能。

調整中も含め稼働中人員と同数の予備体があり、我が艦隊にはそれら全員を完全稼働させるだけの設備がある。

実は何時も俺の隣に侍っているエリスも週一ペースで肉体を取り替えていたりする。

そこまで消耗が早いのは夜のお相手とかに使っているせいであって他の個体はもう少しローペースなのだけど。

アンドロイドが一般的に普及していた俺の世界では、童貞や処女は死語だったりする。閑話休題。

 

「現在艦隊の再編成と増産体制に入っていますが、いかんせん資源が足りていません。確保は急務です」

 

その問題があったか。確かに我々の艦隊はかなりの戦力と員数を要しているが、その分消費も大きい。

ごく簡単かつ小規模なテラフォーミングが出来るぐらいの員数と技術はあるのだから、

適当な資源衛星か何かを確保できれば当面の補給物資はどうとでもなる。

資源衛星ぐらいならその辺の宙域をふわふわ漂っているのを引っ張ってくればいい。

事実先行派遣した一個師団が3つの小型資源衛星を確保し、取り込み作業に入っている。

問題は現在予定している艦隊増産とコロニー建設プランの実施で必要となる膨大な資源量である。

資源がどうにかなれば、最新技術と施設部隊を動員すれば一ヶ月もあれば"ガワ"ぐらいは用意できる筈だ。

 

「一番いいのは火星解放。月は人類の手が一度及んでいるから論外として、次点で木星辺りか」

 

木星周囲の衛星ではなく、木星そのものである。

この時代では資源といえば精々分解と圧力等による形成ぐらいしか応用手段がないが、

我々の世界では物質を電子配列レベルで弄る事が出来るためレアメタルとかいう概念自体が存在しない。

電子配列や化合物などを含む膨大な設計図を保存し瞬時に出力できる演算能力と装置があるのだ。

そのためどんな金属だろうが食物だろうが、理論上存在しうるものは全て生成可能。

ガス状の星の方が回収効率が良い分原子密度は薄いのでどちらが良いと一概に言えるわけではないのだが、

今後人類が到達する可能性のある星の資源を食い荒らすよりはまだマシだろう。

何より木星であればBETAの脅威が存在しないというのが大きい。

予想通りとんでもないことになっているらしい各衛星にさえ近付かなければ邪魔される事も無い。

ああ、そういえば人類が感知できていない火星以遠のBETA関連情報も武器にもなるが当面は伏せておこう。

火星なんぞ生ぬるいレベルのハイヴとBETAで地球圏が覆い尽くされていると知ったら集団自決でもされかねない。

 

「資源衛星には本隊の施設部隊と補給部隊を向かわせ、前述の1個師団は木星で回収に当たらせます」

 

「そうしてくれ」

 

態々俺が考えるまでもなく様々なリスクやメリットを考えて判断してくれるのは非常に楽でいい。

前の世界じゃ彼女らの有能さに胡座をかいていられる余裕はなかったが、

この世界なら悠々自適に堕落生活を堪能する事も出来るだろう。

言い方は悪いが、この時代の文明相手に手こずっているようなBETA相手に負ける気はしない。

1600年分の技術格差は伊達ではない。

 

「とはいえ流石にほったらかしは不味いか。一度出撃しておくべきかな?」

 

「ライル様の思うままになさって下さい。雑事は私達が処理しておきます」

 

こんな事を態々口にする辺り本当は心配してくれているようだ。ういやつめ。

ともあれ彼女らは優秀なので、俺が草案を描けば最良の形で実現してくれる。

最終的には10億人規模のコロニー群を幾つか製造し、1000万規模の部隊を揃えたい。

とはいえそれは人類の技術力向上も合わせてウン十年単位の計画なので、

取り敢えず当面は1000万人が生活可能な中型コロニー1基と3個師団艦隊の増産を視野に生産体制を整える。

中型コロニーが1基あれば拠点には困らないし、

コロニー自体にワープ装置などの大型航行装置が付属しているため移動拠点として利用可能だ。

各種資源の利用や研究開発も考えれば拠点は早急に用意したい所なので、最優先で製造させる。

後は我が艦隊の旗艦隷下師団を除く3個師団と同数の兵員を増産できれば、兵力に関しても問題無いだろう。

あちこち出張させる予定なので増産はどんどん行なっていくが、それはコロニー完成後順次安定生産すればいい。

 

「最高部隊単位を一つ繰り上げる必要がありそうだな」

 

「合わせて再編を行います」

 

まあそもそも個々人がネットワークで繋がっているため、部隊単位や階級に余り意味は無かったりするんだが。

元の世界では10万単位の戦力を持ってようやくこの世界で言う歩兵1人分の扱いだったのだ。

武器や道具一つ一つに階級を与える事が無いのと同様、彼女らにも正式な階級とか部隊識別は無い。

相手が数と個体性能によるゴリ押し戦術を採っていた事や、

ネットワークによって階級等の取り決めなど無くとも一糸乱れぬ連携が可能だった事から、必要とされなかった。

人間でない彼女らに対してその手の人権が無かっただけと言えなくもないが。

『太陽系人類軍民間部隊BOC-088番第30375号戦略機甲兵団』という部隊名のみが正式に与えられたモノ。

それ以外の階級や部隊単位は全て俺が趣味で勝手に決めたものである。

俺の最終階級は准佐、うちの部隊の最高階級はエリスの大尉である。

 

「ともあれ何にせよ、出撃だ出撃。片っ端からミンチよりひでえ事にしてやんよ」

 

「部隊の出撃準備を整えます」

 

すっかり思考が逸れてしまっていたが、兎も角戦力比の把握は急務だ。

曲りなりにも人類を絶滅寸前まで追い詰めているバケモノ共が相手なのだから、油断はしていられない。

効率良く駆逐できるようなら、死骸を回収して解析に回したり分解して資源利用も出来るだろう。

できる限りの情報を集め可能な限りの対策を用意し思う存分駆逐してやる。

これまではUBE相手にしてやられてばかりだったのだ。

積年の恨みつらみと溜まりに溜まったストレスを思い切りぶちまけてやる。

さあ!戦争だ野郎共!(女所帯だけど)食い放題だぜ!(資源利用的な意味で)

 

 

 

 

さて、いざ出撃するにあたって俺達が所有している戦力について確認しておこう。

まずは艦隊。とはいえこれは居住・運用設備という意味合いが強く、余り前線には出ない。

勿論強固な防御性能と絶大な火力を有する大型艦はこの時代では無類の戦力であるし、

高い生産力から生み出される小型艦と航空艇の特攻力にも目を見張るものがあるだろう。

航空艇でアンドロイド5人、旗艦であれば1200人規模での運用が前提となっているだけありそれぞれ巨大である。

旗艦に至ってはどこぞの殴り込み艦隊よろしく1万メートル近い巨大さを誇っている。

とはいえ、それはあくまで機動兵器運用のための艦に過ぎない。

戦力の中心となるのは艦の巨大さに反比例し全高3mにも満たない機動兵器群である。

 

マルチアームドフレーム、通称をMAF。

所謂乗り込むタイプのロボットではなく、人間やアンドロイドが装着するパワードスーツタイプの兵器である。

デザインはかなりの自由が効くため様々あるが、

基本的に曲線で構築される素体に直線的なフォルムの追加兵装を装備する形となる。

大型のSDユニットや各種センサー類の搭載によって頭部が非常に大型化されており、

四肢や胴体も人工筋肉や各種機構のために肥大化。

結果的に3頭身のスーパーデフォルメのような外見になっている。

その割にスマートさを感じさせるのは長年繰り返された開発によって洗練されている証でもあるだろう。

 

MAFは膨大な数を必要とされる事から規格の統一や互換性に重点が置かれた兵器であり、

同じ素体を人間とアンドロイド両方が使用可能。

更に外付けの装甲や装備を自由に付け替える事で様々な戦況に対応する柔軟性を確保しており、

SDユニットを利用した転送技術による瞬時換装を使用すれば一気に戦闘スタイルを変更する事が可能。

搭乗者も大多数がアンドロイドであり、ネットワークによってデータを共有・蓄積・自己成長する。

そのためあらゆる装備や戦術を全ての個体が同等に扱う事が出来る。得手不得手というものが存在しないのだ。

軍において完全に平均化された兵群というのは理想の形の一つである。

その兵群が戦況に応じて自在に装備を換装し、一糸乱れぬ連携を発揮する。

この世界の住人からすればある意味悪夢のような部隊だが、向こうの世界はこれがデフォルトである。

 

装備は最低限の機能しかない素体を基本とし、

軽量級の装備や装甲・中量級の装備や装甲・重量級の装備や装甲といった戦闘用の基本装備の他、

補給及び支援用の装置群・土木施設工作用の装備群など直接戦闘用以外の装備も充実している。

脚部形状も二脚やら多脚やらホバーやらキャタピラやら様々で、

軽量二脚歩兵など何処かで聞いたような呼称をされる。

 

また大型の頭部を専有している大型SDユニットによって増幅された意思エネルギーを動力としており、

各部の駆動・弾体の加速・攻撃威力の減衰など様々な用途に使用される。

機動力だけを見ても超音速で慣性など知ったことかと言わんばかりの軌道を描く。

切断性を増幅した斬撃やレールガンすら凌駕する初速で発射される弾丸など、攻撃力も非常に高い。

自身に対する攻撃の防御能力も高く、装甲面に触れたあらゆる有害エネルギーを減衰・拡散させる事が可能。

西暦2000年台の兵器であれば核兵器の直撃すら耐えうる圧倒的な防御力を誇る。

ただし意思エネルギーを用いる原理上精神的消耗が避けられず継続戦闘時間に一定の限界がある点と、

人間と比べ能力強度が低いアンドロイドでは3分の1から5分の1程度の能力しか発揮できないという弱点がある。

それでも現行兵器と比べればかなり強力である事は確かで、

計算上のキルレシオは量産型MAFと戦術機不知火で大凡10対1。

BETA相手の撃破数なら不知火が1体の突撃級を相手している間に小型種大型種合わせて100以上撃墜出来る。

あくまで試算なので現実では衛士の技量含め誤差があるだろうが、それでも大きくずれはしない筈だ。

 

ちなみに、なぜ3mクラスのパワードスーツなのかはちゃんとした理由がある。

意思エネルギーの影響範囲、つまり頭部大型SDユニットの増幅効果範囲が一定に限られるためである。

正確に言えばテレパシーやテレポートなどの特殊な指向性や原理を用いる場合以外において、

肉体から一定以上の距離を離すと極端なほどガクッと効果が低下するのだ。

脳周囲はある程度範囲が確保されているのだが、胴体や四肢の場合体表面から2mも離れれば殆ど効果を失する。

そのため各種装備の最大全長は約2m以内に収められており、例外はかなり少ない。

それらの例外も専用に指向性を保たせ出力を上げた意思エネルギーを用いる事が前提となっている。

他にも想定されるUBEが巨大なため小型にした方が多数のUBEを同時に相手する危険性が減るなどという効果もある。

一匹のアリ相手にゾウが攻撃しようと思えば一度に攻撃できる頭数は限られるのと同じ原理である。

それ以外にも宇宙では大気や重力による減衰を考慮する必要がなく、

またMAFの高出力であれば絶大な射程を確保する事が可能である。

このため小さいサイズでありながら非常に広範囲をカバーしながら戦闘する事が可能である。

こうした理由から、宇宙規模の戦争でありながら3m級という非常に小型の兵器が正式採用される事となったのだ。

 

『各員出撃準備完了。旗艦隷下1個師団の出撃となります』

 

さて、そんな事を思い出している間におおよその準備が整ったようでエリスから通信が入る。

俺も既に自分のMAFを装着しカタパルトで待機している。

ウチの1個師団は純戦闘用MAF5000機強と補給部隊や施設部隊などの後方部隊が4000機強、

師団直下の諜報部隊や指揮部隊、指揮部隊護衛用の機動防御部隊が合わせて3000機強、

合わせておおよそ13000にも及ぶ大部隊となる。

それ以外に戦艦級から航空艇まで含めた艦船の稼働用人員が5000人強、合計で18000もの人員を抱えている。

旗艦ファミノイアには更に3000名の乗員と研究開発人員など含め12000の人員、計15000が搭乗している。

今回は旗艦は動かさないので、俺は師団指揮用の戦艦級に搭乗する事になる。

うちの部隊の何よりの強みは、戦術機と同等以上の機体を歩兵と同じ感覚で使えるという点だろうな。

 

「指揮権は俺が持つ。副指揮はレイア、行けるな?」

 

『ああ、任せろ。久々の実戦だ。私の力を魅せつけてやろう』

 

網膜ディスプレイに獰猛な笑みを浮かべた美女が投影される。

個体名レイア、エリスと同様通常のアンドロイドよりも高い個体性能を有する特異体の1人だ。

容姿は赤髪ポニテの鋭い顔つきをした美女。最初は黒髪だったのだが、なんとなくイメージで変えさせた。

特異体は基本的に特別可愛がったり人間と交流を行う事で発現するパターンが多く、

彼女もその例に漏れず俺が特別可愛がっている個体のウチの1人である。

強い自信と自尊心、それに違わぬ実力を持つうちの部隊の特攻隊長である。

データ共有しているため本来なら全アンドロイドが同等の戦闘力を持つはずなのだが、

能力強度という点を除いてもずば抜けた戦闘能力とセンスを有している謎個体である。

 

「よろしい。それじゃあ派手に飛ばして行こうか。作戦行動開始!」

 

『Yes sir!』

 

完全に同期した完璧な応答が帰ってくる。何度経験してもこの瞬間は快感だな。

さてさて、どれだけ抗えるだろうか。ま、できる限りやってみますか。

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 |

―――

―――

 ∞

 

「なん、だよ、これ……冗談だろ?」

 

おかしい。こんなはずじゃない。こんな筈じゃあ無かった。

油断があったわけじゃない。慢心していたわけでもない。

だからといって無謀と勇気を履き違えていたわけでも、ましてやこんな所で死力を尽くす気もなかった。

純粋な戦闘力の比較として、膨大な計算の末はじき出された理論値として、自信を持っていた。

なのに、なんだこれは?いったい何が起きているんだ?こんな事があっていいのか?

 

『現在状況を報告致します。仮称"M01"ハイヴ、地球側名称マーズゼロ、反応炉の停止を確認』

 

よ、弱すぎるだろこれえええええええっ!?

いやいやいや、待て待て待て!?え、なにこれなにこれなあにいこれえ!?

 

『ライル、落ち着け。気持ちは分かるが動揺し過ぎだ』

 

う、うむ。レイアの美貌のおかげで落ちつけた。流石アンドロイド。人間じゃ有り得ない美貌だ。

いや、それは脇においておいて。まずは目前の問題をどうにかしなくては。

取り敢えずこの後はできる限り資源を回収し、BETAの再侵攻を確認したら撤退する。

BETAに再侵攻の予兆が確認されなければ、このハイヴの要塞化も考慮し計画を立ててある。

フェイズ9のハイヴなので、資源量も情報量も規模も中々のものがある。

 

それはいい。いい事だ。問題はBETAの余りの弱さである。

あ、ありのまま起こったことを話すぜ……

俺はBETAの密集地帯に威力偵察を行なっていると思っていたらいつの間にかハイヴを落としていた……

な、何を言っているのかは大体分かると思うが俺は何をしているんだ……?

鎧袖一触とか俺TUEEEEEとかそんなチャチなもんじゃねえ……

もっと恐ろしいものの片鱗を味あわせちまったぜ……

 

簡単に言うと、こんな感じである。

 

『うむ、間違っていないな。見事な状況整理だ』

 

『レイア、そこは褒めるべきセリフではありません』

 

いや、兎も角勝てたのは良かった。しかも損害0である。

幾ら1個師団とはいえ、100万規模のBETA相手に撃墜0で抑えられたのだからここは喜ぶ所だろう。

しかし、それ以上に納得行かない。人類を瀕死まで追い詰めているバケモノがこれでいいのか?

勿論ここにはBETAにとっての天敵が居ないため戦闘力が低いというのも分かる。

対人間用である小型種は存在せず、対航空機用のレーザー種も存在しない。

その分大型種の数がえげつなかったが、パターンの少ない敵ほど不慮の事態が減るのは事実。

確認されていなかった掘削輸送用らしき超大型種も発見したが、それ自体に戦闘力は無かった。

だからといって、これは余りにも弱すぐるでしょう?

 

「なあ、これ俺ら本気出せば火星制圧出来ね?」

 

『弾薬の消耗が激しいためある程度ペースは限られますが、おそらくは』

 

おいおいどういうこっちゃ。

そりゃあ適当に爆進してたら反応炉を見つけただけであって全てのBETAを殲滅しながら来たわけでもない。

機動力に物を言わせて突撃してたら反応炉を見つけただけだ。

実際に殲滅しようと思えばそれなりに手間はかかるだろう。

だがBETA自体、反応炉というエネルギー源が無ければ勝手に死滅してくれる。

つまり反応炉を潰しまくればあとは1日ぐらいほっとけば勝手に死んでいくのだ。

これなんてイージーモード?むしろチュートリアル?

 

『ですがBETAの撤退は未だ確認されていません』

 

ん、確かに変だな。反応炉を破壊したのにBETA共はまだわらわらと寄ってくる。

本来なら最寄りの反応炉へと向かって帰巣する筈だ。

それをしないということは、ここにBETAにとって反応炉より重要な何かがある?

おいおい、初耳だぞそんなものは。

 

『ここマーズゼロは火星のオリジナルハイヴです。指揮官に相当するBETAが存在する可能性が有ります』

 

さしずめブレイン級、ってとこだろうか。

少なくともここまで来て尻尾巻いて帰るわけにもいかないので、ちゃっちゃと見つけてしまおう。

ハイヴの構造から考えて兎に角ひたすら潜っていけばその内辿り着くはずだ。

量子通信によるデータリンクは上々、ハイヴ内でもちゃんと機能しているようである。

マップデータからBETAの位置・数まできっちり確認できているし、深度や各機の状態も正確に把握できている。

 

『――っ!ライル。先行させていた部隊がブレイン級と思わしきBETAを発見した』

 

こちでも確認した。そして映像を展開して後悔した。なんだこのチ◯コ。

こんな気色悪いもん網膜投影で見せられたらたまったもんじゃない。吐くかと思ったわ。

はっ、まさかBETAは早くも精神攻撃を学習してきたというのかっ!?お、恐ろしい……

 

『ライル様、頑張って緊迫感を出そうとしても無駄です』

 

うん、周り味方に囲まれてる時点でわかってた。

寄ってくる前に勝手に迎撃して殲滅してくれるから楽なものだ。

最初は無双でヒャッハーだったのだが、弱い割に数ばかり多くてすぐに飽きてしまったのだ。

せめて光線級が居るか木星圏レベルの数が居れば違ったのだろうが、このぐらいだと蟻相手と変わらない。

そんな事を考えている内に広間に到着。中央に見えるチ◯コが仮称ブレイン級のようだ。

取り敢えず取り押さえているようだが、これからどうしようか。まあ、概ね決まっているのだが。

 

「せいや」

 

あらズバッとな。鎧袖一触とは言ったもので、長刀を一閃したら簡単に真っ二つになってしまった。脆い。

ともあれこれでハイヴ攻略完了。BETAも慌てて反転し撤退していく。近くのハイヴへと向かうのだろう。

流石に生きたブレイン級を背後に無数のBETAとやりあうのは現実的ではなく、

そもそも星ごとに居ると思われるのでここで無理に生きた状態で確保する必要は無い。

どんな能力を持ってるかも分かったものではないので、まずは死骸をサンプルとして解析する。

その結果を踏まえた上で生きた状態のものが必要であれば木星圏辺りで拾ってくればいいだろう。

 

『ふむ、あっけなかったな。こんなものなのか?』

 

不思議そうに首を傾げるレイアだが、それは俺のセリフでもある。

というか人類存亡をかけてうんたらとか悲壮な決意でどうたらとか、ガン無視してしまった。

流石にどうかと思うので次回からは多少自重しよう。

地球で適応進化したBETAはもう少し強いのだろうが、それでも4個師団投入すれば問題なく制圧できそうである。

全員アンドロイドなので俺抜きで攻略できれば実質損害は修理コストだけだ。

それとて資源は腐るほどあるし時間も1ヶ月あれば1個師団ぐらいは補充できる。

後は防衛に1個師団ずつ残していけば奪還される事も無いだろうし、

そもそも地球のハイヴはフェイズが低い。最大でもフェイズ6という事はこの火星で考えれば最弱。

あれ?これ人類勝ったんじゃね?

 

『よくよく考えれば、1600年前の文明で互角に戦えるのですから当然と言えば当然ですか』

 

この時代で言ったらなんだ?おおよそ古墳時代?

古墳時代の連中がひーひー言っている相手に戦闘機とマシンガンでヒャッハーする現代人?

……なにそれこわい。

 

『しかし火星なら兎も角、これは不味いですね』

 

デスヨネー。

あくまで俺が欲しいのは娯楽と市民権なのだ。自治権は無いと色々面倒が多そうだから言ってみただけである。

それなのに世界の脅威認定でもされたらやってられん。

というか、そこまでされて世界のために戦ってやるほど人間出来ていない。

かといって生身の人間が俺一人だけというのも流石に寂しい。

つまり……

 

「縛りプレイktkr(キタコレ)!?」

 

『落ち着け』

 

サーセン。

とまあ冗談を言ってみたが状況は割りと洒落になってない。

脅威認定されない程度の技術と戦力見せつつ人類を守りBETAを駆逐……きついなオイ。

かといって自重をやめたら確実に第二のBETA扱いされてしまう。

もしくは完全に心折れて隷属。やだよ俺世界征服とかそんな面倒なの。

技術力ならある程度は高くても大丈夫だろうが、それを運用できる過剰戦力があると知られると不味い。

つくづくこの前の接触では現時点の地球人類が理解若しくは再現可能なものに留めておいて良かった。

 

『火星でも自重した方がいいだろうな。流石に独力で殲滅などしたら決裂だろう』

 

だろうね。俺だって同じ立場だったら怖い。1600年後の未来人が自分のおうちの隣でヒャッハー?こえーよ。

でもそれが手に高級お茶菓子持ってにこやかに引越しの挨拶してきたら?俺ならお茶の一つは出す。

というわけで、今後はなるべく力を隠蔽する方向で進めよう。

ブレイン級の情報を公開する際は決死の特攻作戦で奪取した事にすればいいだろう。

どちらにせよ今の人類にとっては火星にBETAがうじゃうじゃ居ようが関係無いし、

俺達が提供した技術を元に発展して行けばいずれは自力で攻略出来るだろう。今の俺達のように。

 

「あ、いい事考えた」

 

そうだ、それがあった。元々俺達の艦は宇宙を旅できるのだ。

ならばBETAの本拠に乗り込むのも一興じゃなかろうか?

少なくとも銀河の辺境である地球圏でこうなのだから、よそはもっと酷いだろう。

もしかしたら今度こそ第二の人類が居るかもしれない。もしかしたらBETAに襲われて困っているかも知れない。

うん、俄然やる気が出てきた。未知との遭遇、思う存分の無双。胸が熱くなるな。

 

「ま、何にせよ後だ後。エリスー、俺は腹が減ったぞー」

 

『勿論ご用意しております』

 

『私も晩酌に付き合ってやろう。久々にライルと共に夜を過ごしたいしな』

 

うむ、今夜のお相手はレイアに決定。

面倒くさいことはエリス達に任せればいいのだよ。

そろそろ娯楽開発班から短編ゲームの一本ぐらい上がってくるだろうし、楽しみなことだ。

 

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