今のところ、これを連載にする予定はありませんが、気が向いたら続きを書くかもしれません。
感想待ってます。
それでは〝貧乏神の義息子!〟Round0!どうぞ、御覧ください。
ここは神様たちの暮らす
そのとある通りにて、着物姿に三角布を身に付けた黒髪の清楚かつ貧にゅ…『ギロッ』何でもありません。
ともかく、そんな女性が目の前にあるものを見て立ち尽くしていた。
「――――――どうしてこんな所に
黒髪の女性――貧乏神の長である山吹は、毛布にくるめられ、大きな籠の中ですやすやと寝息を立てて眠っている赤子を見て、疑問を浮かべていた。
確かに赤子が道端に捨てられていれば、疑問に思うのも当然かもしれない。
しかし山吹が疑問に思っているのはそこではなかった。
なにせここは神界なのだ。
普通、人間は専用の人形に入らない限り神界で生きることはできない。にも関わらず、この人間の赤子は生身のままここに存在しているのだ。
「う~ん……このまま放っておく訳にもいきませんし、どうすれば……」
赤子は見る限りでは、まだ生まれて間もない。このまま放置すれば死んでしまう可能性もある。
どうすればいいか、山吹が頭を悩ませている間も時間は過ぎていく。
「うぅ~っ……」
いつの間にか赤子が目を覚まし、ぐずり始めているのにも気づかず、山吹は未だに思考を巡らせていた。
その間にも時間は過ぎていき、ついに限界を迎えた赤子の涙腺が決壊した。
「あ゛~~~~~~っ!」
「あわわっ! な、泣かないでください!」
赤子の泣き声を聞いた山吹は、慌てて自身のエナジーを最大限まで抑えて体のサイズを小さくし、赤子を抱えてあやし始める。
最も彼女自身、赤子をあやしたことなどないのだが、四苦八苦しながらなんとか泣き止んでもらおうと努力する。
「ほら、泣き止んで。ねっ?」
「みぃ?」
赤子を安心させようと、精一杯の笑顔を見せる山吹。すると、赤子はピタリと泣くのをやめた。
「きゃっ、きゃっ」
「ほっ……」
山吹の笑顔に安心したのか、さっきとはうって変わって笑顔を見せる赤子。
山吹はほっと息を吐いて、これからどうするか思案する。
(それにしても、この子…………。とりあえず先代様に相談しないと……)
そして山吹は赤子をその胸に抱きながら、先代貧乏神の長を訪ねるべく、歩き出した。
Round0!「この子は私が育てます!」
「ふ~む……人間の赤子が神界にのう……」
「ええ、籠の中に入れられて、道端に置かれていました」
山吹と先代貧乏神の長である銀杏は、とある一室で先程拾った赤子について話し合っていた。
「なるほどのう。して山吹よ……お主何故そんなに小さくなっているんじゃ?」
銀杏は隣の山吹を見下ろして問う。普段と比べ、今の山吹のサイズは普通の人間より少し大きめ程度のサイズしかないのだ。
その山吹はと言うと、自分の腕の中に収まっている赤子を見て、苦笑いしながら理由を口にする。
「この子、私が抱いていないとすぐに泣き出しちゃうみたいで……。さすがに元の大きさじゃ、この子を抱くのに不都合ですし」
「あ~う~……」
「ふむ、随分となつかれておるようじゃな。お主を母親とでも思っているのではないか?」
「あはは……そうかもしれませんね……」
彼氏もいないのに子供の方が先にできるとは……と、山吹は若干苦笑いする。
「さて、前置きはこのくらいにして……本当に人間のようじゃな」
「ええ。生身のまま神界に存在している……。しかも、それだけじゃありません……」
「うむ……人では到底持ち得ないほどの幸福エナジーと不幸エナジーを併せ持っておる」
銀杏の言葉に頷く山吹。
山吹は銀杏を訪ねる前に一度、軽くその赤子について調べていた。
調べた結果わかったことは二つ。その赤子が紛れもない人間であること、そして並の神を凌駕する程の不幸エナジーと幸福エナジーを持っていることだ。
その事は銀杏にも感じ取れたらしい。
「エナジーそのものの管理をしているのは福の神界じゃ。そこに聞くのが一番手っ取り早いじゃろ……」
「そうですね。私、今から福の神界に行ってみます。長の蓮華に聞けば何か分かるかもしれませんし」
「そうか。ならばその間は儂がその子を預かっておこう。抱えながらでは移動に不都合であろう?」
貧乏神界と福の神界の距離は決して短いものではない。
短時間で移動するには
「そうですね、お願いします」
銀杏の意見は最もなので、山吹はそのまま銀杏に赤子を預ける。
しかし――
「っ、あ゛~~~~~~~~っ!!」
山吹の手を離れた途端に赤子は火が点いたように泣き出した。
「あわわ……っ、こんな急に泣き出すなんて……! せ、先代様! とりあえずその子を私の腕に戻してください!」
「う、うむ……!」
慌てて銀杏が、赤子を山吹の腕へと戻す。
すると赤子は、先程まで大泣きしていたのが嘘だったかのようにピタリと泣き止み、ぐずりながらも山吹にしがみついた。
「……どうやらお主の手から離れると泣き出してしまうようじゃな。仕方ない、福の神界には儂が向かう。お主はその赤子の世話をしておるがよい」
「す、すみません。お手を煩わせてしまって」
「このくらい構わんよ。それにしても、本当に母親のように慕われておるようじゃのう。ま、なるべく早く帰ってくるから、少しの間待っておれ」
「はい。先代様、お気をつけて」
山吹の言葉に頷いて、銀杏は貧乏神界を発った。
銀杏を見送り、山吹は自分の腕の中の赤子を見つめる。
「母親……か……」
もしこの子の親が見つからなかったら……そんな事を考えている自分がいる事に、山吹はまだ気づいていなかった。
*
数時間後、銀杏が貧乏神界に戻ってきた。
「山吹、帰ったぞ。何事も――――なくはなかったようじゃな……」
「せ、先代様……。ええ、この子が人間の子供だということをすっかり失念してました……」
銀杏の言葉に山吹が疲れた表情で答える。
辺りには哺乳瓶やらオムツやらが散乱していた。何があったかは想像にお任せしよう。
当の赤子はというと、今はぐっすりと眠っている。
「まあ……色々と大変だったようじゃな。それより山吹よ、その赤子を連れてついて来い。他のご意見番も交えてその子の処遇を決める」
「あ、はい。分かりました」
*
「――――それでは福の神界には何の不手際もなかったと?」
「うむ。人間界のエナジーの総量に変化はなし。どこからそれだけ大量のエナジーが流れ込んできたのか検討もつかないらしい。それに赤子の身元も全くの不明じゃ」
「そうですか……」
銀杏の報告に考え込む山吹。
銀杏からの報告を聞く限りでは、福の神界側に問題はなく、依然として赤子の正体については謎だらけである。
「ひとまずこの赤子については儂ら貧乏神界の管轄に置いておくことになった」
銀杏がそう言うと、周りのご意見番も好き勝手に意見を述べ始める。
「ふぅむ。監視という意味では都合はいいが……」
「扱いに困るのう。異端にしても神ではなく人間とは」
「問題は誰が面倒を見るかじゃが……山吹以外の者の手に渡るとすぐ泣き出すみたいじゃからのう。どうしたものか……」
「儂はごめんじゃぞ……」
「儂こそ。人間の赤子のお守りなぞめんどくさくて仕方ないわい。それが泣きじゃくるんなら、なおさらじゃ」
ご意見番と銀杏があれこれ赤子の処遇について議論するも、不毛な言い争いが続くだけで一向に話は進展しない。
「あの、だったら……」
そんな中、山吹が挙手する。
「この子は私が育てます!」
山吹の宣言に、その場の空気が凍りついた。
「山吹、お主……自分が何を言っておるのか分かっておるのか……?」
「はい!」
銀杏が確認するように山吹に問いかけるも、山吹の意思は変わらない。
「私は現場の仕事はほとんどないですし、事務仕事にしても普段より早く終わらせれば済む話です。この子、私以外にはあまりなつく様子は見せませんし」
「しかしじゃな……」
銀杏は山吹の決断に渋るような表情を見せる。しかし山吹は首を横に振って、意思の堅さを見せつける。
「お願いします。この子が私の事を母親だと思ってくれているのなら……私はそれに応えたいんです」
「山吹……」
初めて会った時に、自分に見せてくれたあの笑顔。自分に向けられるその笑顔を…近くで見守りたい、曇らせたくない。山吹は強くそう思っていた。
(何よりこの子、可愛すぎる!!)
……すでに少し親バカが交じってるかもしれない。
「元々私が拾った子なんです。私が責任をもって育てます!! これは絶対に譲れません!!」
山吹は強い意思を乗せた目で、銀杏に訴える。銀杏はそんな山吹を見て、ため息を一つ吐いて、言った。
「……分かった。この赤子については山吹に一任する」
「あ、ありがとうございます!」
銀杏のお許しが出たことに、頭を下げて感謝する山吹。
「ただし! 仕事は手を抜かない事。赤子の世話をきちんとする事。どちらか一方でも出来んようならば、即刻別の者にその赤子を任せるからな」
「はい!」
銀杏と約束事に、山吹は大きな声で返事を返した。
*
そして会議が終わり、自分の部屋へ帰ってきた山吹は、ふとやらなければならない事を思い出す。
「そうだ、あなたの名前をつけなくてはいけませんね」
ベッドに腰掛け、山吹は自分の腕の中ですやすやと眠る赤子に笑いかける。
「あなたには……誰からも信頼され、 暖かい心を持って他人と接する事ができる人間に育ってほしい」
山吹は少し思案し、やがて一つの花の名前を思い付く。その花の花言葉は、まさしく山吹が赤子に願ったことそのもので―――
「『
まるで本物の母親のように優しい声で、山吹は赤子の名を呼ぶ。
「元気に育ってくださいね、風露」
そして、十年の歳月が経ち――
「ここかぁ、仏女津市…」
一人の少年の物語が…今、始まろうとしていた。