「風露~? 風露! どこにいるんです?」
自分の義息子の名を呼びながら、辺りを歩き回る山吹。そんな山吹に話しかけようと近づく影が一つ……
「山吹さん、どないしたんですか?」
「黒百合! いえ、朝から風露の姿が見当たらなかったものですから、どうしたのかと思いまして……」
山吹は自身の部下である黒百合に、今の行動の経緯を話す。
目を離すとすぐにどこかへ行ってしまう、困った放浪癖を持つ義息子。
風露の事だから、ひょっこり戻ってくるのは予想できる。
しかし、それでも心配なものは心配なのだ。
それが、風露が騒動の種を持ってくるとあらば、余計に。
黒百合に断って風露探しを再開しようとする山吹だが、黒百合からもたらされた情報に足を止める。
「風露ならウチ、今朝会いましたけど?」
「ええっ、本当ですか?」
黒百合の答えに驚く山吹。
「はい。ああ、そういえば山吹姐さんにこれを渡すよう、風露から」
「? 何でしょう…?」
黒百合から手渡された手紙を開くと……
『紅葉姐さんに会いにちょっくら人間界に行ってきまーす♪ by風露』
手紙を読んだ山吹は、案の定の風露の行動に頭を抱えてため息を吐いた。
「はあ、風露の自由人っぷりにも、困ったものですね……。まあ、今回は行き先が分かっているだけマシですか」
紅葉には後で連絡しておこう。そう心に置き留めて、山吹は自分の仕事に戻った。
――――これは……貧乏神に育てられた 一人の少年の物語。
Round1!「人間は人間でも貧乏神に育てられた人間なのです!」
「太極拳って……諏訪野ったら、病み上がりなんだからあんまり無茶するなっての。でもまあ、元気そうで何よりね……」
学校から帰宅した桜市子は、田舎に帰った元執事である諏訪野からの手紙に顔を綻ばせていた。
ちなみに手紙には再婚した妻の勧めで太極拳を始めたとあった。一度死にかけたというのに元気な老人である。
「ただ~いまっと」
玄関の鍵を開け、自宅に入る市子。
(今日は貧乏神はいないのかしら……)
いつ、どこからともなく襲いかかって来る、先日自分に取り憑いた貧乏神に若干警戒しつつ、市子はリビングに入る。
(よしっ、今日はいないみた…………)
家の中に貧乏神の姿がないことに安堵した市子だが、代わりに別の者の姿が目に入った。
「モグモグモグモグ……」
「…………………………」
テーブルの上でやけに豪華な食事を頬張っている、見知らぬ少年に、市子は思わず固まってしまう。
「モグモグモグモグ……ゴクン」
「…………………………」
「……………………誰?」
「こっちの台詞だよっ!」
少年のとぼけた発言にツッコむ市子。まさかの第一声がそれだとは思わなかった。
市子は改めて少年をまじまじと見つめる。
空色の長い髪を後ろで括っているその少年は、顔立ちも幼く、歳は10歳になるかどうかというところ。
着ている服は少々独特で、和服とチャイナ服が合わさったような空色の着物だ。具体的に言うと、上から帯までは和服ベースだが、下はスリットが入った所謂チャイナドレスのようになっており、膝丈まで覆うズボンを履いている。
このような奇抜な格好をした少年を一度見たらそうそう忘れるはずもなく、やはり市子には見覚えのない相手だった。
「誰よあんた⁉ 人ん家で何勝手にご飯食べてるのよ!」
「大丈夫! 食材と食器は僕が用意しものだから。しっかりと厳選した素材ばかりだから食中毒の心配もないよ。安心だね!」
「答えになってねぇええええっ!!」
頭を掻き毟りながら叫ぶ市子。
「まあまあ、そんなにイライラしないで。カルシウム足りてないんじゃない?牛乳飲む?」
「誰のせいだ誰のっ⁉」
「僕だねっ!」
「自覚してんのかよっ!」
「自覚していても直さない。それが僕のアイデンティティー!」
「捨てちまえそんなもの!」
「無理だよ。これを捨てたら自分が自分でがなくなっちゃうからね。僕はいつでも自分を貫くって10秒前に誓ったんだ!」
「10秒ってさっき誓ったのかよ! ああもう、ツッコミが追いつかねぇえええええっ!!」
少年の度重なるボケに、市子は発狂するかのごとく頭を掻きむしる。
「はぁ、はぁ……私をイラつかせるこの言動の数々……さてはあんたも貧乏神と同じ神か何かの類いね⁉」
何とか呼吸を整えた市子は、少年を指差しながら、確信を持ったように言い放つ。
しかし少年の答えは市子の想定していたものではなかった。
「え、違うよ。僕、人間だもん」
「えっ、そうなの⁉」
少年の答えに思わず聞き返す市子。
「そうだよー。あ、紅葉姐さんいる? 会いに来たんだけど」
「やっぱり貧乏神の仲間じゃねえか!」
少年の口から貧乏神の名前が出たことに、市子は鞄を床に叩きつけながら怒鳴る。
「え~、嘘は言ってないよ。今聞かれたのはは僕が神様かどうかってことだったし、僕は人間だから違うって答えただけだよ」
「嘘言うんじゃないわよ! だったら何で人間が貧乏神のことを知ってるのよ!」
「えっとね、それは―――」
市子の問いに少年が説明しようとしたその時―――
「はーはっはっは! 今日こそ年貢の納め時ですよ、桜市子! 痛い目見たくなかったらさっさと幸福エナジーを差し出しなさいな!」
派手な音を立ててリビングの扉を開けて、先日市子に取り憑いた貧乏神……紅葉とその使い魔である熊谷が乱入してきた。
紅葉の登場に市子の意識は一度、少年から外れ、紅葉へと移る。
「性懲りもなくまた襲いかかってきたわね……この貧乏神が! 私の幸福エナジーがあればあんたなんか一捻りなのよ! いい加減諦めたら?」
「ふんっ、いつまでもやられっぱなしだと思うなよこの牛乳女! 今回こそはあなたの幸福エナジーを――」
そこまで言った所で、紅葉の言葉は飛びかかってきた一つの影によって途切れた。
「紅葉姐さ━━━━ん!!」
「うわっ!」
突然飛びかかってきた少年を受け止めきれず、紅葉はたまらず後ろに倒れ込んだ。
「ったた、何なんだ急に……って風露っ⁉ あなた何でこんな所に⁉」
「えへへ、来ちゃった♪」
目の前の少年…風露の顔を見た紅葉の驚愕の声に、風露は舌を出して悪びれもなく答える。
「来ちゃったってあなた……そんな気軽に来れる場所じゃないんですから……。つーか山吹姐さんはこの事知ってるんですか?」
「かーさんにはゆりりんに頼んで伝言残してったから大丈夫! 今頃、ゆりりんが渡してくれてるんじゃないかな」
※ゆりりんは黒百合のことです。
「という事は正式な許可はもらってないってことか。はぁ……相変わらず自由に行動しますね、風露は」
「えへへ、照れるなぁ~」
「いや褒めてねえから……」
相変わらずの風露の呑気さに紅葉はため息を吐く。
「ちょっと! あんたたちだけで勝手に話を進めないでよ! 一体そいつは何者なのよ貧乏神!」
「ああ、そういえば市子は知りませんでしたね」
しばらく空気になっていた市子が事情の説明を求めてきたので、紅葉が説明を始める。
「この子は風露と言いまして。まあ、私の弟分のようなものです。風露、あちらは桜乳子といいまして――「誰が乳子かっ! 市子よ市子!」まあ、今回の私のターゲットですね」
「やっぱりそうだったんだ。え~っと、風露です! よろしくね、乳子――「市子だっつってんでしょ、このクソガキ!」ん~、じゃあイッチーでいっか! よろしく!」
「初対面なのにずいぶん失礼な上、妙に馴れ馴れしいわね……。それで、風露だっけ……あんたも貧乏神なの? それとも他の神様?」
風露に向けて問いかける市子。しかし風露は首を振って否定する。
「ううん、さっきも言ったでしょ?僕は人間だって」
「それは私を油断させるための嘘なんでしょ? もう貧乏神と知り合いなのは分かってるんだから、白状しなさいよ」
風露の答えに市子は納得せず、本当のことを話せと再度問いかける。確かに貧乏神である紅葉の弟分となれば、八百万の神の何かだと勘違いするのも無理はない。
しかし――
「いえ、市子。風露は嘘は言ってませんよ。本当に人間なんです」
「へ?」
まさか紅葉からも否定されるとは思っていなかった市子は、間の抜けた声を漏らす。
「ほ、本当に人間……なの? じゃあ何で貧乏神の弟分なんてやってんのよ……?」
「それは単純明快! 僕こと風露は、人間は人間でも貧乏神に育てられた人間なのです!」
「どういうこと?」
風露の言葉の意味が今一理解できず、市子は紅葉に説明を促す。
「十年前、貧乏神界の一角に一人の赤子が捨てられていましてね。その赤子を、とある貧乏神が引き取って育てた……その赤子というのが風露です。つまり神界育ちの人間ってとこですね」
「そ、そんなことってありえるの?」
信じられないといった表情で言う市子。
「普通ありえませんよ。この子は特別なんです」
『普通の人間は神界では生きられないからな』
紅葉の説明に補足するように熊谷がノートを開いて文字を見せる。
「あはは、あまり実感ないけどね~」
紅葉たちの説明に、風露は照れたように頬を掻く。
「ちなみにこの子の幸福エナジーの量はあなたを軽く凌ぐほどの量なんですよ、市子」
「マ、マジで⁉」
予想外の事実に驚きを隠せない市子。市子は自分の身の危険を悟り、後ずさりする。
「ふっ、気づいたようですね。そう、風露が味方に入ればもうこっちのもんなんですよ! さあ、風露ッ! 市子の幸福エナジーを奪いなさい!」
市子を指差し、風露に指示を出す紅葉。しかし、
「え、何で?」
風露は心底不思議そうに首をかしげた。
部屋が沈黙に包まれる。
「いや、風露。あなた私の手伝いをしに来たんじゃ…?」
恐る恐るといった様子で紅葉が風露に問いかけると、風露は先程と変わらない笑顔で答えた。
「ううん、違うよ。紅葉姐さんどうしてるかな~って様子見に来ただけ。あと観光~」
風露の答えにガクッと体の力が抜ける紅葉。しかし紅葉はすぐに持ち直し、風露に耳打ちする。
「いいですか風露……市子の幸福エナジーを奪いさえすれば、仕事は終わりなんです。あなたの協力があればすぐにでも任務を終わらせることができます。分かりますね?ですから風露、協力してくれますか?」
「う~ん……」
紅葉の頼みに風露は一瞬考え込み、そして口を開いた。
「分かった! 紅葉姐さんの頼みだもんね!」
「さすが私の弟分です!」
風露と紅葉は互いにグッと親指を立て合い、市子に向き直る。
「ごめんねイッチー。紅葉姐さんの頼みなんだ。幸福エナジーを回収させてもらうよ!」
「そういう事です、市子。あなた以上の幸福エナジーを持つ風露にはどうやったって敵いませんよ」
「くっ!」
「それじゃイッチー、お覚悟!」
風露は着物の袖からどうみても収まりきらないサイズの巨大な注射器を取り出して自身の右腕に装着し、市子に迫っていく。
注射器の針が市子に突き刺さろうとしたその時、
「うわぁっ⁉」
「風露ッ!」
「っ、今のうちに!」
慌てて風露に駆け寄る紅葉。その隙に市子は二人から少し距離を取った。
「あいててて……」
「風露、何があったんですか? あなたの幸福エナジーの量をもってすれば、市子の幸福エナジーの影響なんて受けないはずなのに……」
紅葉が何があったのか問いかけるも、風露は普通に笑いながら口を開いた。
「あはははは……ごめん紅葉姐さん。今気づいたんだけど、包帯巻くの忘れてたよ」
「まさかあなた、エナジー抑制包帯をしていないんですか⁉」
「大正解! 昨日お風呂に入った時に外したまんまだった」
「はぁ~……」
風露のうっかりに、紅葉はたまらずため息をついた。
『なるほど、それで桜市子の幸福エナジーに負けてしまったのか』
「何? そいつの幸福エナジー、私より多いんじゃなかったの?」
問題なく自分の幸福エナジーが発動したことに疑問を持った市子が尋ねた。
「ふっ、 誰があなたなんかにこっちの情報を与えてやるものです――」
「あ~、それはね、僕の幸福エナジーと不幸エナジーの量はほぼ同じだから、エナジー抑制包帯で不幸エナジーを抑えないと両エナジーが相殺し合って、結局並の量のエナジーに収まっちゃうんだよ」
「おぉい! 勝手にネタバレすんな!」
できる限り情報を与えないように振る舞う紅葉の意図を見事にぶち壊した風露に、紅葉がツッコむ。
「あれ? 言っちゃ駄目だった?」
首をかしげる風露に、紅葉は本日3度目のため息をついた。普段の紅葉なら、ため息をつく事などそうそうないのだが、風露の天然ぶりを相手にするのは骨が折れるようである。
「仕方ない。元々私の仕事なんですし、私がやるべきなんでしょうね」
『当たり前だ』
「それに――」
熊谷の言葉を華麗にスルーし、紅葉は言葉を繋ぐ。
「こいつには一度、私の手で痛い目見てもらわないと気が済みませんしね」
そう言って紅葉は、熊谷の腹部から巨大注射器を取り出し、市子と向かい合った。
「あーら、結局あんたがやるみたいね。貧乳神程度が私に勝てると思ってんの?」
「ふん、その胸の脂肪、全部搾り取ってあげますよ!」
紅葉の掛け声と共に、戦いが始まろうとしていた――――のだが……
「じゃあ僕審判してるね~」
「いやそこは加勢しろよ!」
のんきに観戦を決め込む風露に、思わず紅葉がツッコんだ。
「でも、今の僕じゃ足手まといになりかねないし。大人しくここで待ってるよ」
「私が言うのもなんだけど……あんた本当に何しに来たの?」
「決まってるじゃないイッチー、紅葉姐さんの様子見&観光!」
親指を立ててそう言いきった風露に、その場の全員が冷ややかな視線を投げ掛ける。
「それじゃ気を取り直して……レディ~ファイッ!」
「「お前が仕切んのかよ!!」」
そんなこんなでグダグダになりながらも勝負を始めた市子と紅葉。風露はドタバタと揺れる部屋の隅で、イスに座ってお茶を飲みながら観戦を決め込んでいた。
「ふぅ~、緑茶が体に染み渡るね~」
煎餅をおつまみに見てる方が脱力してしまうほどリラックスしている風露。熊谷も呆れた目で見ていた。
「というか、イッチーすごいなぁ……紅葉姐さんとまともに喧嘩できるなんて…」
『それだけ桜市子の幸福エナジーが莫大だと言うことだ。事実、紅葉の不幸エナジーを上回っているからな』
「ほうほう」
キラキラとした目で市子を見つめる風露。それはまるで新しい玩具を見つけた子供のようだ。
(哀れな……風露にターゲットにされてしまったか)
熊谷は市子を哀れみの目で見つめる。依然同じようにターゲットにされた某M犬が風露に追いかけ回され、ひどい目に逢っていたのを覚えている熊谷は、市子に同情を禁じ得ない。
そんな風露の悪癖についてはまた語るとして、市子と紅葉の戦いも、決着を迎える。
「どぉりゃああああああ!!」
「あ~~~れ~~~」
ガシャーン!!
市子の掛け声とガラスあの割れる音が聞こえ、風露と熊谷は窓の外へ視線を向ける。
『終わったようだな。紅葉が投げ飛ばされたか』
「おお~、見事な投げ技! 格闘技でも習ってたのかな?」
『先に行っているぞ』
「うん。後から追いかけるね」
素早く紅葉を追って窓から出た熊谷を見送り、風露もイスから立ち上がった。
「何? あんたも私とやり合おうっての?」
「ううん、今日はもう帰るよ。無断で出てきたから、そろそろね」
風露を警戒して身構える市子だが、風露に交戦の意思はないと分かり、構えを解いた。
「いっそのこと、あの貧乏神も連れて行って、もう来ないでくれると助かるんだけど」
「それは無理。紅葉姐さんも仕事で来てるからさ」
「まあ、そうよね。これくらいで引き下がるようなら苦労しないし」
疲れたようにため息をつく市子。期待していた訳ではないが、これからも紅葉に振り回されると思うと気が重いようである。
「イッチー、ちょっといい?」
風露が市子に問いかける。
「何よ?」
「僕は今日はもう帰るけど、これからも紅葉姐さんと仲良くやってね」
先程までと同様、元気な笑顔を見せながら風露はそう言った。
「はあっ⁉ 何で私が貧乏神なんかと仲良くしなきゃいけない訳⁉」
当然のように市子は納得がいかない。自分の平和を掻き乱す張本人と仲良くできる訳がない、と。
しかし風露はその笑顔を崩さない。
「だってイッチーとケンカしてるときの紅葉姐さん、すごく楽しそうだったもん」
「はあ? 意味の分からないことを……」
「言いたいことはそれだけだよ! それじゃあまたね、イッチー! 今度はお土産もって来るから!」
言いたいだけ言って、風露は下駄を履いてベランダから飛び出し、紅葉の後を追って市子の前から姿を消した。
「一体何だってのよ……」
自分以外誰もいなくなった部屋の中で、市子は一人呟いた。
(風露か……あいつの前だと貧乏神以上に調子狂うわ)
*
「紅葉姐さーん。無事~?」
河川敷の橋の下に、風露の声が響き渡る。その声に反応して、紅葉が風露の方へ目を向ける。
「風露……ええ、いつもの事ですし、これくらい平気ですよ」
「そっか、よかった」
ニヘラと笑う風露に紅葉の方も脱力してしまう。エナジー抑制包帯を巻き忘れた事に文句のひとつでも言おうかと思っていたが、そんな気も忘れさせてしまうような力が風露の笑顔にはあった。
Prrrrrr…… ガチャ
「はい、こちら紅葉」
コール音を鳴らす受話器を紅葉が取り、受け答えする。
『ああ紅葉……私です。山吹です』
「ああ、山吹姐さん。もしかしなくても風露ですか?」
『ええ。紅葉に会いに行くと置き手紙を残して消えてしまったので。やはりあなたの所にいたみたいですね』
「ええ、今ここにいますよ。代わります?」
『お願いします』
山吹の返答を聞き、紅葉は風露に受話器を手渡す。風露はお気楽な表情でそれを受け取り、受話器に向かって話しかけた。
「やっほー、かーさん。こちら風露~」
『風露……自由なのもいいですが、あまり心配させないでください。置き手紙を残したとはいえ、急にいなくなったりして』
「あはは、ごめんなさ~い」
ため息でも聞こえてきそうな山吹の声にさすがの風露も悪いと思ったのか素直に謝罪の言葉を口にする。
『はぁ……まあいいでしょう。満足したのなら帰ってきなさい』
「うん、分かった。じゃあまた後でね~」
返事を返し、風露は受話器を置いた。
「じゃあ紅葉姐さん、僕は帰るね」
「ええ、山吹姐さんによろしく伝えておいてください」
「うん、分かった。それじゃあまたね~!」
別れの挨拶を交わし、風露は首吊ルーラで貧乏神界へと帰還する。
そして紅葉は思った。
(何で風露は人間なのに平然と首吊ルーラが使えるんだ?)
しかしそれも一瞬だけで、すぐに思い直した。
(まあ、風露ですしね)
風露の周りでは、大抵のことはこの言葉で大体片付くようである。
*
そして三日がたち、再び貧乏神界にて――
「はあ、またあの子は……」
ため息を吐く山吹の手には三日前に受け取ったものと全く同じものが……
所変わって仏女津市――
「ふふ、今日は貧乏神も襲いかかってこなかったし、久しぶりにゆっくりできそ――」
「あ、こんにちはイッチー。三日ぶりだね」
「何であんたがいるのよっ⁉」
そこには三日前同様食事をしながらくつろいでいる風露の姿が。
桜市子、16歳。彼女に平穏が訪れるのは、まだまだ先のようである。
感想待ってまーす