社会科見学から5日経ち。二学期の残りを穏やかに過ごそうという人たちが増えていく中俺の下駄箱はとても騒々しかった。
天満「またか、バカだな。」
これはボッチ特有の独り言である。思ったことがポロっと口から出ることがよくある。
じゃあなぜこんな感想が出たか。俺の下駄箱にお菓子のゴミやらプリント、新聞紙の文字を貼った脅迫文まで入ってた。まあ、こんなの慣れっこだ。小学生の方がもっとエグいことをする。小学校の頃は水攻めなんてされたことがある。上履きを履かないと先生に怒られるので仕方なく履いたが不快感しかなかった。それに比べればどうってことない。ゴミなんてランキングにすれば2位くらいだろう。…なかなか順位高いな。もちろん一番楽なのは画鋲だすぐにわかるし処分も簡単。
さてどうやってこのゴミを捨てるか悩んでると後ろから聞き慣れた声が聞こえる。
絵里「天満何してるの?」
おっと、絵里にこれを見られるのはまずい。正義感から犯人探しなんてしそうだ。そんなことしたらより俺が悪目立ちする。
天満「いや、なんでもない。」
絵里「嘘つかないでよ。」
天満「いや、嘘ついてないから。」
絵里「じゃあ、その上履きの画鋲なによ。」
どうも下駄箱を占める方に必死で画鋲が入ってることに気づかなかった。
天満「これは前からだから気にすんな。」
絵里「……そう。わかったわ。」
一言冷たく言い放つと自分の上履きを取り出し階段を上がって行った。
ーーー
イジメ発覚から1週間以上経ち絵里とあまり口を聞いてない別に寂しいというわけではない。1人でも充分に楽しむ方法を知っている。1人しりとりとか、1人じゃんけんとか、1人かくれんぼとか、最後のは危ないな。やめとこう。ただつまらなかった。入学前に戻った気がした。
天満「絢瀬さん。仕事終わったから。」
絵里「そう。」
あの時から全て変わった。今までは苗字て呼ぶと名前で呼べと怒っていたのに今は何もいいやしない。周りの人から見てもわからないだろう。でも、俺の中では明らかに違うと囁いている。
希「絵里ちと何かあったん?」
さすがに一緒に生徒会の仕事をしてるだけはある。自分でも何かわからない細やかな変化に希は気づいていた。
天満「特に。」
希「教えてくれないと〜。わしわしするで〜!」
絵里「希!仕事は終わったの?」
鋭く放たれた言葉は的確に希の動きを止めた。
希「まだ…やけど。」
絵里「なら、早く済ませて。」
天満「俺は終わったから帰るから。」
絵里「どうぞご勝手に。」
ーーー
明らかに不機嫌だ。いじめられていることを隠していたのがそんなにイラつくことか?まあ、よくわからん。さて、今日は唐揚げにでもするか。鳥肉安いし。半額の鳥肉を手に取ると後ろから「あっ」と聞こえる。その声の主は矢澤にこだった。
にこ「あ、交野。」
天満「矢澤さんどうも。」
ん?こいつ俺を見てないぞ。鳥肉を見てしゃべってるよ。確かに俺はチキンですよ。でもまだ加工されてないんですよね。
天満「何、これ欲しいの?」
にこ「そ、そんな安い肉た、食べるわけないでしょ!私こっちの150g1296円(税込み)のを買うわ!」
天満「そう。」
にこ「ちょ、ちょっと今日はお金を持ってきてないからか、買えないわね。」
こいつ嘘つくの下手だな。なのに絶対折れないとはめんどくさいことこの上ない。
天満「これやるよ。」
にこ「い、いらないわよ。こんな安い肉!」
天満「見栄張る必要ないだろ。誰にもいいやしないよ。」
にこ「……まあ、あんたがそこまで言うならもらってあげる。……その、ぁりがとう。」
天満「じゃあな。」
にこ「スーパーの前で待ってなさい。」
天満「?まあ、わかった。」
にこ「はいこれ。」
天満「なんで俺に?」
にこ「さっきのお礼よ。」
チ○ルチョコ抹茶ブラウニー味。統一性がないな。これぞまさに洋と和の陰陽玉や。なんか自分の中のボケにもキレがない。はいそこ、元からとか言わない。
にこ「早く絵里とは仲直りしてくれるクラスの居心地が悪いんだけど。」
天満「気づいてたの?」
にこ「私をバカにしてるの?」
天満「正直バカにしてた。」
まさかにこにまでばれていたとは。クラスの大半が気づいてるんじゃないだろうか。
天満「じゃあどうすればいい?」
にこ「そんなの自分で考えなさいよ。」
そう言い残して帰って言った。
ーーー
自分で考えろと言われても人と喧嘩なんてしないからな。仲直りの方法なんて知らんのだよ。
穂乃果「天満く〜ん。」
この近くに天満宮なんてあったけ?明神ならあるんだが。
穂乃果「無視はひどいよ。」
そう言って駆け寄ってきたのは高坂穂乃果だった。てか、名前覚えてたのね。もし忘れられてたらお兄さん悲しいよ。
穂乃果「久しぶりだね。」
天満「そうかもな。」
穂乃果「かもじゃなくて。久しぶりなの。」
天満「はいはい、じゃあな。またいつか。」
穂乃果「もう帰っちゃうの?」
だからそういうのやめてくださる?意識しちゃうでしょ。
天満「別に長く一緒にいる必要ないだろ。」
穂乃果「…そうだけど。なら勉強教えてよ。音ノ木坂に入るための。」
天満「暗記、以上。」
穂乃果「それを教えて欲しいの。」
天満「自分で考えろ。人から教わるやり方じゃ頭に入らん。」
穂乃果と喋っていると後ろから連れの2人がやってくる。
海未「穂乃果。また勝手にどっかに行って。探すこっちの身にもなってください。」
ことり「まあまあ海未ちゃん落ち着いて。見つかったんだから。」
海未「そうですが。…あら?あなたはあの時の、確か……天満さん?でしたよね。」
天満「えっ、あっ、はい。」
名前も知らない人に名前を覚えられてた。初めてなんだけど。もしかして、この人俺のこと好きなの?一目惚れか?。一目惚れなのか?とちおとめなのか?
海未「申し遅れました。園田海未と申します。」
ことり「南ことりです。」
天満「交野天満です。」
海未「知っていますよ?」
園田さんはくすりと笑いこちらに微笑みかけてくる。何これすごく可愛い。
なぜこうなったかと言うと名前を覚えられてないことしかなかったのでつい反射で答えてしまったのだ。だけどこの可愛い仕草を見れたのでこの癖も捨てたもんじゃない。
ことり「よろしくお願いします。天満宮さん。」
天満「いや、違うし。天満だから天満宮じゃないから。」
ことり「そうなんですか?ごめんなさい。」
慌てて頭を下げてくる。この子は天然の可愛さを持っているのだろう。
ことり「改めましてよろしくお願いします。松風さん。」
天満「いや、それも違うよ。そんなドリブルうまくないし化身も出せないよ。」
ことり「また間違えちゃいました。ごめんなさい、星矢さん。」
南さんの方もあれ?と首を傾げているがとてもわざとらしい。天然の可愛さではなかった俗に言うあざといやつだ。
天満「わざとだろ。そんな流星拳打てそうな名前でもないよ。もういいや。俺帰るわ。」
穂乃果「ねえ、勉強教えてよ。お願い。ダメ、かな?」
上目遣いでお願いされると断れなくなる。から困る。俺年下の子に甘いな。だからロリコンって呼ばれんのかな?
天満「はあ、わかったよ。でも、わからないところ他に聞いてくれよ。」
海未「なんの話をしているのですか?」
穂乃果「天満くんに勉強教えてもらうの。」
海未「それはいい案ですね。現役の高校生から教えてもらえるのは効率も良さそうです。ですが場所はどうしましょう?」
穂乃果「ミセドがいい!」
ミセドとはMrs.ドーナットゥ。という全国チェーンのドーナッツ屋である。これ設定な。
ーーー
ミセドでいつものセットのコーヒーと甘ったるしいドーナッツを二個買った。ここで重要なのはミセドにらマナーが3つある。ミセドは先に席を取るのがマナーだ。ミセドのコーヒーはお代わり無料だが5杯が限度。最後に決してアベックできてはいけない。これ豆な。だが最近はこのマナーが広まってないのか男女2人で来るというありえないカップルばかりだ。ジェネレーションギャップなのか今はアベックじゃ通じないのか。もういいや。
天満「じゃあ、教えるけど、わからないのは俺に聞け。勉強は一人でやったほうが効率がいい。集中を妨げられるとその後に支障が出るからな。はい、始め。」
さて、こっちはこっちの仕事をするか。そういや、もう少しで説明会か。穂乃果はくるけど他の2人はくるのかね。それは後でいいか。説明会の資料まで作っとくか。
それよりもなんか視線が。
天満「何かわからないところがあったか?」
穂乃果「いや、なんか出来る人風だなと思って。」
天満「出来る風かよ。」
穂乃果「うん。」
天満「…早く勉強に戻れ。」
ーーー
穂乃果「ねえ、天満くん。この問題どうやったら満点取れるの?」
天満「どんな問題だよ?」
穂乃果「自分の意見を書くやつだよ。」
天満「これは、適当に自分の意見を書けばいいんだよ。簡単だろ。」
海未「私もそれは気になります。どうやったら満点が取れるのでしょうか?毎回7点止まりなんです。」
ことり「私も7点止まりなんですよね〜。」
天満「こういう問題はまず意見をはっきりさせて、その理由を示す。そしてメリットデメリットか、例をあげれば良い。それで九割近く書いて、誤字と文法ミスがなければほぼ完璧だ。あとは採点者の感性によるからそこは運だな。」
穂乃果「じゃあこれでやってみてよ。」
内容は、なになに。『主人公は嘘により親友を失いました。主人公は嘘をつくことを悪と考えましたが、あなたはどう思いますか?意見を書きなさい。』なんだよこれ。今の状況にどんぴしゃじゃねえかよ。俺は絵里に2つの嘘をついた。一つはいじめの存在を隠す嘘。そして仕事が終わったという嘘。2つの嘘これらの嘘は意味が違う。一つは人のため一つは自分のため。だから嘘は困る。
穂乃果「ぼーっとしてどうしたの?」
天満「……えっ。ああ、悪い少し考えてた。書くとしたら。
私は嘘をつくことは悪いことではないと思う。なぜなら嘘には二種類あるからだ。一つは自分のための嘘。これは悪い意味の嘘。二つ目は人のための嘘。これは人のための良い意味の嘘。例えば友達がいじめられっ子の自分に話しかけたとする。そうすれば友達が巻き込まれるかもしれない、そのためにいじめられてないと嘘をつく。この嘘は悪だろうか?友達を気遣う嘘なので良いと思う。だから嘘をつくことは悪いことではないと思う。
これで200文字。こんなもんだろ。」
穂乃果「これはダメだよ。」
いつもの明るい声ではなく。低く、想いがこもったり声だった。
天満「なんでだよ?さっきのルール守ってんだろ。」
穂乃果「穂乃果はこんな嘘ついて欲しくない。」
天満「なんでだよ。いいことだろ。他人を気遣ってんだぞ。」
穂乃果「その友達は天満くんを心配してくれてるのにそんな嘘つかれたらより心配になっちゃうよ。」
天満「俺じゃないんだけど。」
海未「そうですね。辛いことは相談して欲しいです。それで辛さを和らげることができるかもしれない。」
ことり「天満くんの嘘に優しさはないよ。」
天満「それは友達の意見だろ。もし、主人公が真実を話したとして立場が変わったとしたらどうする。その時の主人公の気持ちはどうなると思う?」
穂乃果「そんなのわからないよ。でも、穂乃果なら伝えて欲しい。」
穂乃果の声は俺には届かない。なぜなら。自分の信念のもと俺は絵里に嘘をついた。だから困る。2つの意見は相容れないものだ。じゃあどうすればいいのか?
蒲田「交野か。君はミセドのマナーを知らないのかね。アベックで来てはいけないのだよ。」
声をかけてきたのはうちの担任の蒲田先生だった。
天満「まずマナーは知ってますよ。この状態を見てどう見たらアベックに見えるんですか。それに今はもうアベックなんて言わないんですよ。カップルって言うんです。」
蒲田「なん、だと?今はもうアベックとは言わないのか。そんな、これがジェネレーションギャップなのか?」
なにこれ?デジャブ?
海未「あ、あの。この人は?」
天満「ああ、この人は音ノ木坂の先生だよ。そんで俺の担任だ。」
蒲田「すまないな。ちょっと取り乱してしまった。」
天満「先生この問題の採点頼めますか?」
蒲田「現代文か。専門は日本史だが、まあいいだろう。」
しばしの静寂が訪れる。周りで叫んでいる馬鹿どもは全く気にならない。それほどまでに先生の採点が気になる。
蒲田「設問としての回答としてはほぼ満点だろう。あとは採点者の意見による。」
天満「ありがとうございます。」
蒲田「交野、君はこの意見は正しいと思うか?」
天満「そうじゃなかった書きませんよ。」
蒲田「そうか。じゃあ君達はどう思う?」
穂乃果「私は間違ってると思います。」
蒲田「そうだな。どちらも正しい。だが人間はどちらとも正しいことを認めないだろう。これに模範解答はない。だからどちらも正しく、どちらも間違っている。この問題に回答を出すことが間違っているのだ。」
天満「そんな回答はありなんですか?」
蒲田「この設問的にはダメだが、人間としては問題ない。」
先生の言葉はきっと正しい。これほどの回答はないだろう。そう思うと同時に納得できな自分がいる。
蒲田「もういい時間だ。皆帰りたまえ。勉強なら、また交野に教えてもらいたまえ。それと、交野は少し付き合ってもらいたいことがある。残ってくれ。」
ーーー
天満「なんすか?」
蒲田「東條に君と絢瀬が変だからどうにかしてくれてと頼まれてな。で、どういう状況なんだ?」
天満「一言で言うのは難しいですね。簡単に言うといじめを隠したら怒られたって感じでしょうか。」
蒲田「そうか。君は辛くないのか?」
天満「何がです?」
蒲田「いじめられるのがだよ。」
天満「そんなの、…もう慣れました。」
蒲田「その痛みに慣れてしまったから今回の事件が起きたんだろう。絢瀬はその痛みを知らない。だからその現場を見るだけでも胸が苦しいのだろう。だから君の嘘に傷つけられたのかもしれない。」
天満「……」
ただ黙っていることしかできなかった。反論することも賛同することもできなかった。
蒲田「君と絢瀬はとても優秀な生徒だ。素行もよく、学力も申し分ない。だが君らは人の気持ちを考えることが苦手なのだろう。そこらへんは東條や矢澤の方が優秀だ。だから君は間違えたのだろう。」
天満「……そうですね。」
蒲田「間違えたのなら正せばいい。変に絡まってしまったら解けばいい。簡単なことだろう。君にはそれができる。」
天満「出来るかはわかりませんよ。」
蒲田「いや、できるさ。私がそう思ったんだできるよ。さて、交野。君は今の状況にどうやって答えを出す?」
天満「俺は……」
ーーー
俺は絵里に嘘をついた。俺はこのことを間違えだとは思わない。だが絵里はこのことを間違えだと思うだろ。そこの時点で俺らはもう間違っていたのだ。だからここを正せばいい。一から説明するのも悪くはないだろう。だが時間がかかる上聞いてくれる確証がない。なら。
天満「絵里。ちょっと話がある。」
絵里は名前で呼ばれたことになんの反応も起こさず表情を変えずになに?と聞き返してきた。
天満「俺は絵里がなに怒っているかはわからない。俺はあの嘘が悪だとは思わないし、絵里の行動も悪だとは思わない。だから今のこの状況が自体が間違っていると思う。」
これが俺の答えだ。もし意見があわないなら合わせればいい。対抗することなく協調すればよかったのだ。1人でどうにかするのではなく誰かと分け合う必要があった。
絵里「ずいぶんと勝手な言い分ね。」
そういうのはわかっていた。絵里はどうにかして確実な答えを求める。それは前からわかっていたことだ。何も問題はない。
絵里「でもその言い分はわからなくもないわ。私も自分の行いが悪だとは思わないし、天満の行いが悪いとも思わない。そもそも天満問題を勘違いしてる。私は怒ってたんじゃない、気に食わなかっただけよ。自分一人で抱え込もうとしているあなたが気に食わなかった。私じゃなくても希やにこ、がいる。それなのに1人でどうにかなると思っていたあなたが気に食わなかったの。でも、もう違うみたいね。」
天満「ああ。今度からは誰かに伝えるよ。」
また、俺は嘘をついた。絵里の「もう違うのね」と言われても俺は前と違わない。ただ少し歩みを進めただけだ。だから俺の返答は嘘になる。だけど今度の嘘は誰も不快にさせない。優しい嘘だ。
絵里「それと、ようやく私のことを名前で呼んでくれるようになったのね。」
天満「苗字で呼んだら振り向いてくれそうになかったからな。」
絵里「そうね。」
天満「お、おう。」
くすりと笑う絵里の顔に見とれてしまい変な応答をしてしまった。絵里の笑顔を見るのはいつぶりだろうか?長いあいだ見てなかった気がする。一週間ぐらいなのだろうが俺には1ヶ月ぶりぐらいに感じられた。俺はとことん絢瀬絵里に恋しているようだ。
絵里があんま出てないですね。このままでは題名詐欺のタグがつけられてしまうかもしれない。次回は3人がメインなのでたくさん出ますよ、きっと。
次回「冬が近づく」