艦娘と銀鷹と【完結済】   作:いかるおにおこ

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鉄の化石 前

 赤城たちの所属する鎮守府。それがもう水平線の向こうに小さく見えている。哨戒・警備任務は終わり、正体不明の戦闘機二機の鹵獲も成功した。提督も喜ぶことだろう――そのことに赤城は喜びを覚えていた。今回も全員無事にそれなり以上の戦果を上げることが出来たのだ。そう。誰一人欠けることなく。

 生きて帰って来い。それが赤城ら艦娘のリーダー、司令官、提督である小森あきこの掲げる方針だ。誰一人欠けることのないように最大限の努力をするわ――それが小森提督の口癖だった。

 

 

 

 「シルバーホークバースト」。それが正体不明機の名だとパイロットは答えた。

 正確に言えば、赤の方がレジェンドシルバーホークバースト。青の方がネクストシルバーホークバースト。長ったらしいので普段はレジェンド、ネクストと呼ばれるらしい。

 シルバーホークという戦闘機に調整・改装・改造を行い、バースト機関と呼ばれる追加装備を搭載したのがシルバーホークバーストシリーズなのだという。これ以上の詳しいことは提督が直接聞き出すことだろう、と赤城は思った。

 

 

 

 すでにシルバーホークのパイロットに艦娘たちは自己紹介を終えていた。どちらも女性のパイロットであった。

 戦闘機のパイロットになれるのはエリートと相場が決まっている。二機のパイロットも例に漏れず、すぐに顔と名前を一致させたようだった。

 

「……あれがさっき言ってた鎮守府ってやつ? あんたらの基地みたいなとこっていう」

「そうなのです! ……ちょっと窮屈な思いをするかもしれないけど、すみませんっ」

「いいっていいって。あんたらの立場を考えりゃ、あたしらは正体不明の危険極まりない腫れ物みたいなやつさ。そのあたりは承知してるって。な、レッド?」

 

 電と彼女が抱えている青の戦闘機パイロットの会話はよく響いている。既に日は暮れようとしている。夕暮れの朱色が海を、空を、何もかもを染めている。水平線に近い鎮守府も例外ではない。

 レッドというのは赤の戦闘機の、ブルーというのは青の戦闘機のパイロットらの名前だった。

 色の名前が本名であるはずがない。本名を知られないようにするあだ名だろうと赤城は踏む。それに彼女は艦載機に乗り込む妖精さんらがおふざけで名前を付け合うのを何度か見たことがあった。

 

「そのことは理解している。が、我々は我々の置かれた状況をよく理解してはいない。……さっき言ったように、この地球という惑星は我々が暮らしていた惑星とは違うのだ」

「惑星ダライアス……って言ったっけ?」

「賢しい巨人だな、雷とやら」

「巨人だなんて! ふつーの子と背丈は変わんないわよっ。でもそんな星の名前なんて聞いたことないわ」

「だが、あなた方の提督やそれよりも上の身分の者なら知っているかもしれない。いまの我々が欲しているのは、現状をきちんと理解出来るだけの情報だ」

 

 赤の戦闘機とこれを抱える雷がやりとりしている後ろで、摩耶が難しい顔をして腕を組んでいる。その隣に龍驤が滑りこんでいった。

 

「どないしたんや摩耶ちゃん。今日も生きて帰れるんやで、もっと明るくいってみようや」

「シルバーホークったっけ? こいつらがどっかのスパイなんじゃねえかとか思ってさ。どっかのつっても、深海棲艦なんだろうけど」

「まあ疑うのも分かるけど、疑いすぎるとキリがないで?」

「わーってるって。……シルバーホーク、ただもんじゃねえってのは龍驤さんも分かるだろ?」

「うちよりも赤城の方が肌で感じると思うんやけど。いまのうちらや妖精さんの技術じゃ0から再現するってのはできへんかもしれんなあ。未知のテクノロジーってやつや」

「……燃料切れが近いから投降したってのも嘘じゃねえのか。前に鎮守府の図書館でSF小説を読んだんだよ、タイトルは忘れちまったけど。それに出てくる機械は燃料いらずで何十年も何百年も動く機関を持ってたんだ」

「それがどないしたん」

「あの戦闘機はサイエンス・フィクションの趣が強すぎるってことだよ。フツーの戦闘機じゃ出来ないような機動をする、ランチェスターの法則なんて無視出来るほどの質の高さ、それに蒼いレーザー」

 

 なるほどなあ、と感心するように龍驤が頷く。

 様々な要素をかえりみれば、二機の戦闘機が地球外の文明によって製造されたことは頷けそうである。赤城はそれを分かっていたし、二人のパイロットに尋問をするのが小森提督であることも承知していた。いまここで自分たちがでしゃばるところではない。

 

「摩耶さん、あの――」

 

 赤城が後ろから声をかけようとしたその時、茜色の空に大音声のサイレンが鳴り響いた。怪物の啼き声のようだ、と赤城は呆けた印象を抱きつつ体は臨戦態勢をとっている。長い弓と艦載機を封じている矢を手に反転、目視で索敵を行う。

 

「――周囲三キロメートルに敵影なし。提督、小森提督! 聞こえますか!?」

 

 耳につけている小型通信機に赤城が大声を向ける。返事は「水棲生物型巨大戦艦らしき反応を海中にとらえた」というものだった。

 

「え? 例の戦艦が?」

〈あなた方が哨戒しに行ってた奴の可能性が高いわ! 本当に奴らは神出鬼没もいいとこよね!〉

「鎮守府から艦隊は出撃していますか?」

〈ええ。巨大戦艦を確認した直後に編成した部隊が待機中よ。彼女たちが着くまであと三分、抑えられる!?〉

「五分なら耐えられます!」

〈オッケー。でも、絶対に無茶や深追いはしないで。誰か一人でも危険な状態になれば撤退して。分かった!?〉

「し、しかしここは鎮守府の――」

〈命令よ! これは生きて帰って来いって命令。あなた方は代用の効くものじゃないでしょう?〉

「――はい! 皆っ、提督から通達! 反転して水棲生物型巨大戦艦を叩きますっ!! この中から一人でも欠けることを提督は望んでないっ、深い損傷を負ったならすぐに帰投します!!」

 

 艦隊の皆が揃って了解の声を出す。

 それから揃って反転、それぞれの通信機から通たちされた座標へと向かう。

 が。おいおいおいなんて狼狽した声が響いた。どの艦娘のものでもない。ネクストのパイロット、ブルーのものだった。

 

「ちょっと待て! 水棲生物型巨大戦艦だって!?」

「そうなのです! ブルーさん、鎮守府に行ってもらって――」

「間違いなくベルサーの野郎どもじゃないか! おいレッド、燃料切れがどったらこったら言ってる場合じゃないぞ!!」

 

 ベルサー? 青の戦闘機の言葉に耳を傾けた赤城だが、いまはそれどころではない。

 残りの燃料でさっさと鎮守府まで移動してもらいたいものだが、先に雷と電にシルバーホーク二機を護送してもらったほうがいいだろうか? どうするのが最良の方法だ?

 

「ああ。ベルサーが相手というなら我々が動かぬ道理はない」

「ちょっと待って! レッドもブルーも燃料切れだって言ったじゃない!」

「雷よ。……ベルサーは、水棲生物型巨大戦艦を操る奴らは、我々の敵だ。ダライアスの……いや、全宇宙の敵なのだ。残り三分しか全力で動けないのがどうした、その間にカタをつける」

 

 雷の両手の上にのっていたレジェンドがふわりと浮き上がる。機体後部にむき出しになっているエンジンに蒼い炎が灯り始めようとしていた。

 それと同時にネクストが電の手のひらから離れていく。十分な航行状態ではないのか、飛んでいる様子がどこか危なっかしい。

 

「レッドさん! ブルーさん! 危ないのです、鎮守府に向かってください!!」

「悪いな電、あいつらは私らの敵なんだよ。この地球って星にもベルサーが攻め込もうとしているなら食い止めなくっちゃな!!」

「その通りだ。……手当たり次第に侵攻、侵略の限りを尽くす奴らは野放しにしておけん。我らがダライアスも奴らに滅ぼされかけたのだからな」

 

 つうーっと高度を上げるレジェンドとネクスト。その動きに呼応するかのように、赤城らに示されていた座標から巨大な水柱が上がった。

 彼我の距離、およそ2キロメートル。すぐに赤城は上がったのが水柱ではないと理解する。朱に染まった海だとしても赤い水柱を上げるはずがない。

 

「ありゃなんや!? 敵のビームか!?」

「龍驤ちゃんよ! あれはバースト砲だ! ベルサーのテクノロジーだ!!」

「なんやて!? バーストったら君らの戦闘機の名前――」

「大当たり! けどその話は後だ! 巨大戦艦は海に潜ってるんだろ、だったら行くぞレッド! あたしが先行する!! いいか、あたしらがあぶり出すから海面に出たところを狙ってくれ!!」

 

 ブルーが意味のわからないことを言う。水棲生物型巨大戦艦が海中に潜んでいるのは分かった。だが「戦闘機が海中に潜って航行する」なんてのはどうしたっておかしい。

 赤城はそのことに怪訝そうな表情を浮かべ、一つ間を置いて大きく口を開けて驚いた。ネクストがエンジンから大きく青い炎を噴きつつ垂直に突っ込んだからだ。「そういうわけだ、よろしく」なんて残してレジェンドも海中に進んでいく。

 

「うっそやろうそやろ!? あれ戦闘機ちゃうんか、あれなら沈んでまうでなあ赤城ぃ!?」

「地球外の文明なら当然なのかもしれません。……シルバーホーク隊の敵巨大戦艦への攻撃に合わせます! 敵座標に左から回りこむように接近、狙いを鎮守府から私たちに向けるために接近します! 行くわよっ!!」

 

 赤城の指示に皆が了解の返事を返す。誰も体験したことのない未知の戦いが始まろうとしていた。

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