瑞鳳の日記1 二冊目の書き始めと卵焼き
9月2日
コツコツ書いてきた日記がこれで二冊目。今度は誰にも見られないように鍵付きのものを買ってきた。だって前は祥鳳姉さんが勝手に読もうとしたから……
読まれて恥ずかしくなって、しばらく日記を書こうとはしなかったんだけど、でも今日はおめでたい日だから買っちゃった。大本営の人たちから提督あてにお手紙が届いたから。記念品だね。
お手紙の内容は
本当なら嬉しいはずなんだけど、でも、提督はそれだけじゃないみたい。なんだか気まずそうだからあまり声をかけられなかった。秘書艦をやってるのにこれはないかな。反省、反省。
提督が悩んでいるのか困っているのかはわからないけど、私に力になれることがあったら提督のそばで支えてあげたいな。だってもう半年以上も一緒にいる、頼りになる提督なんだもの。なにかあったら力になるのは当然のことじゃない?
9月4日
今日はあまり仕事で忙しくなかったから、提督のために料理をしてあげようと思ったの。提督は今日も浮かない顔をしていたから……
でも一つだけ大きな問題があったの。それもとんでもなく大きなやつ。つまり、私は料理があまり上手ではない、ということで……艦娘という存在になった私たち、つまり船の魂は、人間の姿を取るようになったけど、人間になってからあまり時間が経ってないのよね。
だからまだ不便に思うところがある。まず、一日に三回ご飯が欲しくなる程度には食欲というものが出てきた。これは船だった頃には全く感じたことのない感覚だから……というか、船だった頃に何かを感じるってこと自体があまりなかったかも。
とにかく、人間の姿になって、純粋な人間である青海提督のことをなんとなくだけど推し量れるようになってきた。だからかな、料理でもしてあげたいと思ったのは。
けど、さっきも書いたけど、私は台所に立ったことがなかった。だってそんなことしなくても、食堂の人がおいしい食事を作ってくれるし、それに艦娘の仕事でも秘書艦の仕事でもないもの。
だけど言い訳なんて放り投げて、私はスマートフォン片手に台所にやってきた。
簡単なのは卵焼きってインターネットが言うんだから間違いないと思うの。そう、卵焼き。あの黄色い直方体のような、しょっぱかったり甘かったりするアレ。
で、インターネットで甘い方の卵焼きの作り方を見ながらやってたんだけど、もうダメダメ。最初に卵をボールっていう道具に割って入れるんだけど、それがダメだったの。
なかなかうまく割れない……というか、力加減が出来なくって。台所の角でやるといいよって話だったのに、そこら中に卵を落として床を汚しちゃったの。
おまけに祥鳳姉さんが来ちゃって。手伝ってあげる、なんて言ったけど、姉さんも料理が下手みたい。姉妹で料理が下手なんて、ちょっと笑えない。それにその時は私、泣いちゃってた。
悔しくて情けなくて泣いてた時に、提督が困った顔をして私のとこに来てくれたの。
瑞鳳どうしたんだ、なんていうから、卵焼きが焼けないって言ったら、そうしたら提督は任せとけなんていって腕まくりをしたの、ちゃんと覚えてる。唖然としてたら提督は流れるように卵を割ってボールに入れて溶いて、四角いフライパンで焼いていったの。
なんで提督はこんなに料理が上手なの? 男の人で、しかもそんな印象なんてなかったのに……話を聞いてみたら、提督になる前は自炊するのが趣味みたいなものだって教えてくれた。
もしかすると趣味どころか、そうしないと生きていけない状況だったのかもしれない。でも、そんなの考えるより、あの時は自分のことや提督の卵焼きが美味しかったことでいっぱいいっぱいで、軽く泣いちゃってた。
どうして瑞鳳は卵焼きなんて作ろうとしたんだ? なんて提督が聞いてきたけど、そんなの言えるわけないじゃない。提督が困ってたり悩んだりしているみたいだから、私がちゃんとしたプレゼントをしてあげたいの。なんて……