艦娘と銀鷹と【完結済】   作:いかるおにおこ

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CS作戦フェーズ1、始動・前

 ジェネシスシルバーホークが小森提督の鎮守府に参加してから2日後。これの発艦を担う鳳翔はこれまで見せたことがないほどに発着艦訓練に精を出していた。

 時空震を通じて地球にやってくる際に、機体が縮小しパイロットも妖精と化してしまうことについては、その理由は誰をしても分からないままだ。紅玉も、小森提督も、ダライアスの人々も、まったく検討をつけることすらできないでいる。

 

 だが小森提督はそれがささいなことだと判断している。いまは地球――ダライアスの人々が言うところの地球α――を滅ぼすだけの能力と動機を持ち合わせているベルサーとの戦いに全力を傾けねばならない。

 深海棲艦の力の源である「深淵の力=負の感情エネルギー」を注がれた巨大戦艦。それは深海棲艦の強力な個体ですら抑えることのできない能力を有してしまっている。

 ストームコーザーと、グレートシング。かなりの量の深淵の力を注がれた2つの巨大戦艦はそれぞれ、ストームコーザー・アビスとグレートシング・アビスと呼称されている。

 

 このふたつの巨大戦艦を排除しないと地球人類の未来はない。焦りを胸に、小森提督は演習海域のそばを歩いていた。彼女の黒い軍服の裾は強めの風にたなびいているが、演習海域で発着艦訓練を行う空母艦娘の邪魔にはなっていないようだった。

 演習海域にいるのは鳳翔と瑞鳳のふたりだ。彼女たちは弓を構えつつ海の上を滑り、曇り空へ向けてシルバーホークを発艦させる。鳳翔はジェネシス、瑞鳳はフォーミュラの発艦担当だ。

 鳳翔のジェネシスの発艦回数は、もう三桁を超えるはずだ――小森提督はやや厳しい眼差しで訓練風景を見つめる。特に他の提督の下からやってきた瑞鳳については、より一層の配慮をしなければならない。彼女の提督はベルサーによって殺されてしまったのだから。

 

「あー、小森さん、小森さん、ちょっといいかな」

 

 後ろで馴れ馴れしい声。振り返らなくてもわかった。

 紅玉だ。とりあえずは振り返ることにした小森提督は静かに頷いた。紅色の巫女服。本物の霊能者が持っているような独特の雰囲気を携えている。

 

「なんでしょう?」

「あそこで訓練してる瑞鳳ちゃん……ちょっとヤバいかもね」

「ヤバい?」

「小森さんには見えないと思うけど、彼女の魂がかなり揺らいでいる。艦娘の本体である船魂がかなり不安定なように見えるんだ」

「でも普通に発着艦はできているように見えるけど……」

 

 実際、瑞鳳は何度も発着艦を成功させている。シルバーホークではない艦娘用の艦載機も問題なく発艦させられていた。どこにも問題はないし、むしろ好調であるはずなのだ。

 

「ま、見た感じだけ受け取れば大丈夫そうに見えるかもしれないけど、瑞鳳ちゃんヤバいよ。結構無理してるみたい」

「受け答えも普通に出来ているけど、なにがどう危なさそうなのですか?」

「まー小森さんはわかってるだろうけどさ、船魂っつーか神霊っつーか神様っつーか、霊的には高次な存在でも、その大部分の心って結構人間に近いんだ。心理学テストとか、艦娘は楽しそうにやると思うんだよね」

「その話は関係がありますか?」

「おおありだよ。人間よりは高次な霊的存在のほうが私にはわかりやすいからね、いまの瑞鳳ちゃんが恨みつらみに支えられて生きているの、まるわかりだよ」

 

 ベルサーと深海棲艦に手によって、敬愛していた青海提督を失った瑞鳳。いや、かつての上官を失ったのであれば、この鎮守府に配属された鈴谷と熊野もあてはまる。そのことを小森提督は言おうとして、

 

「あ、鈴谷ちゃんと熊野ちゃんは大丈夫だった。完全にとまではいかないけど、立ち直れているよ」

「いまそれを訊ねようとしたのに」

「あえて機械的な言い方をするなら、瑞鳳ちゃんはエラーを起こす一歩手前だろうねえ。恨みや怒りや悲しみで動いているってことは、それはもう深海棲艦と同じような原理で動くってことと同じだからね」

「つまり、瑞鳳ちゃんは、深海棲艦になってしまうと?」

「そこまでは言わないよ。というか、そうなりにくいように私が設計したんだもの」

「そうならないように設計はできなかったのですか」

「だって感情エンジンってのはそう都合よく動かせるものじゃあないんだ。ま、戦闘中に何らかの不具合が出てもおかしくはないよってことはハッキリしているよ。どうするのさ小森さん、CS作戦に瑞鳳ちゃんは参加させるの?」

「……フォーミュラシルバーホークバーストの発着艦を任せている以上、それを取り上げるともっと多くの心理的負荷がかかってしまうはず。紅玉さんの助言は大きく参考にさせてもらうけど、でも、瑞鳳ちゃんを除外してCS作戦を遂行させる気はないわ」

 

 強い調子で言い切る小森提督。頼りにしてるよ、と紅玉が小声で返す。

 声を小さくした理由は、発着艦演習を終えた瑞鳳と鳳翔がこちらへ向かっているからだ。ふたりはまだ艤装をつけたままで、これから補給をしに移動するのだろうと小森提督は直感する。

 

「提督! どうでしたか、私とジェネシスの見た感じは?」

「結構いいと思うよ。って、見た感じの感想じゃダメでしょ。ちゃんと鳳翔ちゃんがどう思ったかが大事なんだから。パイロットのアダムはどう言っていたの?」

「機体の自己診断によれば、不明なユニットとの親和性が上がってきているそうです。不明なユニットとは紅玉さんが施した付喪神のブーストですね。おそらく、深海棲艦との戦闘に問題なく投入できると思います」

「そうなんだ。……瑞鳳ちゃんはどう? 戦うのになにか問題はありそう?」

 

 話を振られた瑞鳳は、しかしなにを言われたのかよくわからないように首を傾げた。

 

「問題って、例えばどういうものですか?」

「あーほらそうだな、艦載機の発着艦ができなくなってしまうとか」

「そんなこと! 提督はいまの訓練を見ていなかったの!?」

「ああごめん、そういうつもりじゃなかったんだ。でも、気分を悪くさせて、ごめんね」

 

 怒らせてしまったことを詫びながら、まだ話を続けたいという身振りをする小森提督。瑞鳳も話を続けることを嫌がる素振りは見せなかった。

 

「あの、その……調子はどう?」

「提督? ちょっと、大丈夫?」

「ああいや、なんだろう、上手く言えないんだけど……鳳翔ちゃん! 紅玉さんと一緒に鎮守府に戻ってくれないかな!」

 

 小森提督は人払いすることにした。鳳翔は頷いて紅玉とともに鎮守府へと戻っていく。

 その時、鳳翔を見る瑞鳳も、瑞鳳を見る鳳翔も、なにかぎこちない表情を浮かべていた――小森提督はそう感じた。

 近くのベンチを指差した小森提督は、瑞鳳とふたりで話をすることにした。すこしそわそわした態度の瑞鳳を見て、小森提督は自分のある予感が的中してしまったのでは、と焦りを覚える。

 

「あの、さ」

「はい」

「鳳翔ちゃんとは、その……うまくいっていないの?」

「えっと、うまくって?」

「そりゃその……瑞鳳ちゃんは鈴谷ちゃんと熊野ちゃんと仲が良いじゃない?」

「はい。そうですけど――」

「ここの鎮守府の艦娘たちとは良い感じの友好関係っていうの? 築けていないのかなってさ。話し相手な友達とかいる?」

「――摩耶さんとか、金剛さんとか。少しずつ話す相手は増えていますよ」

 

 そう語る瑞鳳の表情は快いものではない。

 瑞鳳が多くの人物と人付き合いを順調に進められる性格かどうかは分からない。たぶんできる性格だろうと小森提督は踏んでいるが、ひとつ確かめようと思ったことがあった。

 

「雷ちゃんと電ちゃんはどう思う?」

「とてもかわいくて、思いやりのある子だと思います」

「じゃあ金剛ちゃん」

「頼りになる人だと思います。お茶会にも誘ってもらって、おもてなしの仕方がとても上手だなって」

「どんなお話をしたか覚えている?」

「えっと……青海提督が戦死したことを気遣ってくれました。自分が小森提督を失ったら自分が自分でなくなってしまうだろうとも」

「そっか。雷ちゃんたちとはなにか話したことは?」

「……北方棲姫は怖くないのって、問いかけたことはあります」

 

 話がこう転がることを小森提督は期待していたし、そのとおりになってよかったと思う。

 小森提督が名前を挙げた艦娘は、北方棲姫に対して進んで友好的な態度を取るようになった者ばかりだ。

 暁型の下のふたりは空いた時間にボール遊びをするくらいに友好関係が深まっているし、金剛は自分の姉妹たちと一緒に北方棲姫とお茶会をして楽しかった、と話していたことがあった。

 そもそも小森鎮守府の艦娘たちは全員が北方棲姫に心を開こうとする傾向にある。接する態度の友好さに差はあっても、北方棲姫を悪く言おうとする者はいないと小森提督は知っている。

 そうなっている原因も小森提督は察している。小森提督が北方棲姫と目線を合わせていろんな話をする姿を艦娘たちは見ていたに違いないのだ。

 

「あの、提督。相談したいことがあるん、ですけど」

「どしたの?」

「……私、ここの鎮守府の艦娘と、うまくやっていく自信が、ないんです」

「それはどうして?」

「えっと……みんなが、小森提督のところにいた艦娘が、北方棲姫を快く迎えようとしているのが、なんだか変に見えるんです」

 

 最初は小森鎮守府の艦娘たちもキメリカル・セイバーズの一員として北方棲姫を加えることに反発を隠せないでいた。小森提督を恩人と慕う金剛でさえ「頭がおかしくなったデース?」と辛辣な言葉を向けたくらいである。

 時間が経つにつれて北方棲姫への態度が軟化していったのだが、瑞鳳はこのことを不満に思っているようだった。その予感は小森提督にあったし、不満に思って当然だと踏んでいる。

 瑞鳳が慕っていた青海提督は、ベルサーと手を組んだ深海棲艦に殺されたのだ。そして北方棲姫は深海棲艦の側にいた。彼女を憎む気持ちで一杯になったとしてもなんの不思議もないことだ。

 

「南西諸島で助けてくれたのは本当に感謝しているんです。でも、北方棲姫と仲間になろうって意識しているのを見ると、どうしても変に見えるっていうか――」

「なにやってんだよこいつらって感じ?」

「――口を汚くすればそうです。……分かってはいるんですよ、北方棲姫は青海提督の仇ではないって。それに強大な敵を相手にするなら、強い仲間が必要だということも分かってはいるんです」

「でも、深海棲艦っていうことが、どうしても許せない?」

「……そうです。奴らは青海提督を奪った。絶対に殺してやる、根絶やしにしてやる……」

 

 瑞鳳がつらい心境にあることを理解した小森提督は、しかしどのように声をかければ良いのかわからない。

 提督という上の立場を使って「北方棲姫はお前の仲間なのだから割りきってしまえ」と怒鳴りつけることは出来るだろう。だが、小森提督はそうすることをよしとはしない。上から押さえつけてどうにかなることなんてそうそうないのだ。

 

「あのさ瑞鳳ちゃん」

「え?」

「今日は一緒にごはんを食べよう。艤装の補給が終わったら食堂に行こうよ」

「え、え? いいですけど……都合は大丈夫なんですか?」

「うん。しばらくは時間が空いているんだ。それに新しい仲間とこうしてお喋りするのは良いことじゃない? 私は楽しいよ」

 

 瑞鳳は戸惑いながらも頷き返して立ち上がり鎮守府へと歩いて行く。小森提督は隣を歩いて、不安そうに揺れる瑞鳳の表情から目を離さなかった。

 

 

 

 補給を終えた瑞鳳は小森提督と共に食堂に来ていた。もう昼の時間である。食堂に集まる艦娘たちの数は増えつつあった。

 

「提督早く! どの席に座ります?」

「じゃあそこの窓際の。なに食べる?」

「えっと……今日は、お蕎麦を。卵とじのを」

「なら私もそれにしようかな。ちょっと待ってて!」

 

 食堂に注文を伺いにくる者はいない。今日はこれを提供しますよというメニュー表から食べたいものを選び、直接料理人に伝えるのがここのルールだ。

 小森提督は厨房に向かうと、そこに拳三郎と鳳翔が熱心に料理に集中しているのを見た。

 

「拳さん、卵とじのお蕎麦をふたつ!」

「はいはい! ちょっとお時間かかるけど良いですか!?」

「大丈夫だよー。それと鳳翔ちゃん、時間とれる? 1分だけ話がしたいんだ」

 

 少し待って下さい、と魚をさばく鳳翔が返す。

 きれいに三枚おろしを終えた鳳翔は小森提督に向き直った。

 

「提督? どうしましたか?」

「瑞鳳ちゃんとはどうしてるかなって聞きたかったんだ」

「え? どういうことですか?」

「……瑞鳳ちゃんは深海棲艦とベルサーに青海提督を殺されている。とても慕っていたらしくて、いまの彼女は深海棲艦に対する憎しみと殺意がもう、すごいみたいなんだ」

「一緒に発艦訓練をしているとき、私もそれを感じました。鬼気迫るという言葉がこんなに似合う人がいたなんて、とも思ったんです」

「瑞鳳ちゃんがとてもピリピリしているのは分かっていたんだね」

「はい。それに……それに、北方棲姫のことも大きなストレスになっているはずです。仲間として認めなければいけない、でもあいつは人類の敵だ、深海棲艦という青海提督の仇だ――そう思っているはずなんです」

 

 鳳翔も瑞鳳のことを分かっていたようだった。小森提督はそのことにホッとすると、鳳翔が言葉を続けるのを黙って聞くことにした。

 

「瑞鳳さんは私たちにも壁を作っているようです」

「壁? それは小森鎮守府に元からいた艦娘たちにってこと?」

「はい。みんなは提督が北方棲姫と仲良くしているのを見て、危険もないし害もないなら交流を持っても良いじゃないかと感じているみたいです。でも、元青海艦隊の艦娘たちはそうやって割り切れないみたいです」

「うん……あのさ拳さん!」

 

 作業の手を緩めることなく話を聞いていた拳三郎に振る小森提督。なんでしょう、と振り返らずに拳三郎は答えた。

 

「瑞鳳ちゃんと仲がいいんでしょ?」

「お互いにそう思ってる……とは思いますけど。瑞鳳さんがすごくつらそうだってこと、痛いほどわかりますから」

「ならいっこ頼まれて欲しいんだ。鳳翔ちゃんにもね」

「なにをです?」

「瑞鳳ちゃんとここの鎮守府の艦娘が仲良く慣れるようにさ。できれば北方棲姫への敵意を鎮めるように説得とか……ムリかな?」

「なるほど。……やってみますよ。料理人がセラピストみたいな真似をするのは抵抗がありますけどね、友人のためならやってみせましょう」

「いいの? ありがとう! 鳳翔ちゃん、瑞鳳ちゃんとみんなが分かりあえて戦いの時にわだかまりが無いようにするよ。私も頑張る!」

 

 小森提督は何度も礼を述べながら厨房を出て食堂に戻る。

 自分と瑞鳳が座るはずだった席には別の影がいた。瑞鳳は窓際にいるのだが、隣に金剛が座っている。瑞鳳の向かい側には龍驤がいて、彼女は膝に北方棲姫を載せていた。

 少し、いやかなり危険な状況ではなかろうか――小森提督は早足で戻ると龍驤の隣に座った。そこしか空いている場所がないからだ。

 

「みんなどしたの? 瑞鳳ちゃんとお話中だった?」

 

 おどけた様子を浮かべながら小森提督は瑞鳳に目をやる。ややうつむいていた彼女は表情を崩さないように力を込めている、ように見えた。素直そうな笑顔を浮かべながらその裏では鬼のような形相を封じ込めているに違いないと小森提督は思う。

 

「Yeees! 一緒に過ごしてもっと仲良くなりたいデース!」

「うちも同じや。仲良くなるというかお互いのことをよく知らないと、戦いに出た時にいい具合に力が出せへんもんな」

 

 なあほっぽ、と隣に座らせた北方棲姫に龍驤は声をかける。大きく頷き返した北方棲姫は、しかし瑞鳳の視線を恐れているようだった。

 金剛も龍驤も気がついている。瑞鳳が複雑に屈折した心理状態にあることや、それがいけないことだと葛藤していることも――小森提督は金剛に声をかけようとして、龍驤の頭の上のオールドが瑞鳳に呼びかけたのに気づいた。

 

「……なんだか元気が無いみたいだな。どうした瑞鳳、具合でも悪いのか?」

「えっとオールドさん、ですよね?」

「名前を覚えてくれたみたいで嬉しいぜ。んっとな、いっこお話しようと思ってることがあんだよ。聞いてくれるか?」

「え、あ、はい」

「ヴェルデから頼まれたんだが、おじさんの昔話をしてやってくれっていうんだよ。いまの瑞鳳はすごく荒れているって聞いていてさ」

 

 はっとしたように目を丸くする瑞鳳は、しかしすぐにオールドから目をそらした。それに構わずオールドは言葉を続ける。

 

「おじさんはこれまで10年以上もシルバーホークのパイロットとして生きていた。主に相手をしたのはベルサーの連中で、奴らに殺された仲間の数は数えきれない」

「……?」

「最初のうちは死んだ仲間の仇つって敵を殺すのに夢中になっていた。それもしばらくすると落ち着いてきて、黙々と敵を殺すパイロットになっていた。でも、おじさんは気づいたんだ。殺したり殺されたりが日常になって感覚が麻痺したんじゃなくて防衛本能みたいなものが働いていただけだってな」

「それは、どういう?」

「おじさんの恋人が死んだんだ。ベルサーとの戦いで戦死して、おじさんは怒り狂ってあの日の感情を取り戻したんだ。仲間が死んだ許せねえ、それだけじゃねえ、大事なひとが殺されちまったんだ、絶対に許さねえ根絶やしにしてやる――そうしてがむしゃらに戦っていたおじさんは動けなくなった」

「どうしてです?」

「強すぎる憎しみと怒りが体に響いちまったらしくてな。幻覚を見るようになって、当時のまわりの奴らは一緒に戦いたくないって思うくらいに暴れていたらしいんだ。ちょっと恥ずかしい話なんだが、その――」

 

 オールドの話は続かなかった。少女の悲鳴が食堂に広がったからだ。

 小森提督はすぐに立ち上がって声のした方へと早足で向かう。そこには吹雪と、彼女と食事をしていたらしい紅玉がいた。

 紅玉の様子がおかしい。胸のあたりを抑えて床を転がり、表情は苦悶に歪み、よだれを垂らしながらぜいぜえと喘いでいる。尋常ではない様子の紅玉にうろたえながら、小森提督は彼女の蕎麦によると軽く肩を掴んだ。

 

「どうしたの紅玉さん、大丈夫!?」

「きた……」

「え、ええ?」

「きたんだよ、小森さん。巨大戦艦が感情エンジンを全開に、本格稼働している。ストームコーザーかグレートシングのどちらかだよ」

「っ! 場所は!? 紅玉さん、場所はどこか分かりますか!?」

「南西諸島基地だね、あの陥落してしまった……」

「わかりました。いまから艦隊の編成を始めます。ああ、後で救護班を呼びますから!」

「その必要はないよ。だいじょぶ。なんとか歩けるとは思うから。さ、早く!」

 

 紅玉に頷いてみせた小森提督は食堂全体に声が届くように大きく口を開けた。

 

「金剛ちゃん全館放送の用意! 吹雪ちゃんは……金剛ちゃんを手伝って! 他の子は紅玉さんを医務室に運んで!!」

 

 了解の返事は揃っている。非常事態にも柔軟に対応する艦娘たちに小森提督はある種の安堵を覚えた。

 全館放送は執務室で行える。小森提督は息を切らしながら執務室へと向かい、先についていた金剛から全館放送用のマイクを手渡された。

 大きく深呼吸。頭のなかで言うべきことを簡潔にまとめ、もう一度大きく息を吸う。

 

「全艦娘に告ぐ! 敵ベルサー巨大戦艦、ストームコーザー・アビスの出現を確認! キメリカル・セイバーズ第一艦隊は出撃準備! 繰り返す、ストームコーザー・アビスの出現を確認! キメリカル・セイバーズ第一艦隊は出撃準備にとりかかれ! これよりCS作戦フェーズ1を始動する!」

 

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