とある魔術の七罪聖人   作:我楽多メロディ

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第4話 最低の末路(バッドエンド)

「奥様、お坊ちゃま!!もうすぐ逃走用の霊装がある場所に着きます!!もう大丈夫です!!」

 

母とその息子は黒服リーダーの声に反応して彼に体を預けながら彼の指さす方向を見た。そこにあったのは馬と馬車だったもしこれだけなら心もとない感じがあるが、これらからは感じられない。なぜならその馬は鉄でできていたからだ。足は普通のものと違い8脚でメタリックで生物的な曲線が多くまるで近未来の馬のような感じさえした。

 

「グラン=スレイプニル。ロシア正教が現在雪道などで使っている軍馬型移動用霊装を我々『明け色の陽射し』がイギリスの国土でも使えるよう改造を施したものです。これならおそらく遠くまで逃げ切れるはずです!!さぁ、こちらに!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!!おじさんは?おじさんは一緒にこないの?!」

 

少年はほとんど叫ぶような形で黒服リーダーに問いかける。黒服リーダーはやや申し訳がなさそうにうつむき

 

「私はあの怪物を今足止めしてくれている仲間たちを助けに行かなければなりません、ですから一緒に行くことは…

 

「無理だよ!!!」

 

黒服リーダーが言い終わるより先に少年が叫んだ。まるでもう我慢できないとでもいうかのように。

 

「本当はおじさんだってわかってるんでしょ?!あの怪物はおじさんたちよりもずっと強い!!今足止めをしてくれてる人たちだってもしかしたら…もう……」

 

少年の言葉に思わず彼は歯を食いしばる。子供ながら今彼が言ったことはすべて真実だった。あの地獄の翅だけならかろうじてどうにかなるかもしれないが、あの少女が蠅の王だとすると『あの術式』を使えることになる。そんなものを出されたら自分には一切の勝ち目などない。それにあの木の板の剣の性能も一切わからない。はっきりというとこの状態は完全に詰んでいるといってもいい。

 

しかし

 

「もしそうだったとしても、それは仲間たちの思いを見捨てる理由にはなりません。何より…………ここで逃げることは私の魔法名に反します」

 

魔法名。自らのその願いや信念をラテン語の単語に込め、自分の魂に刻み付けていることであり、これがなければ魔術師を語ることができない。

 

clypeus270(厄災挫く盾)。この魔法名がある限り自分は誰かを守ることを決してあきらめない、あきらめてはいけない。

 

「とにかく、早く乗ってください!私は必ず後から追いかけます!!さぁ!!」

 

「で。でも…でも!!」

 

「やめなさい!!あなたは彼の覚悟を無駄にする気なの?!」

 

いまだ追い縋ろうとする少年に声を張り上げたのは彼の母親だった。彼女の眼は涙に包まれているがそれでもなお前を向こうという決意も見られた。母親は少年の手を引っ張りながら馬車の方に乗ろうとする。それだけが無力な自分たちにできる唯一のことだというかのように。

 

「おじさん、おじさん!!絶対に、絶対に帰ってきてよ!!……パパたちと待っているから!!」

 

その言葉を聞いた時、不意に黒服リーダーの目頭が熱くなるのを感じた。かつて自分があきらめてしまったものを取り戻すことができた。自分の今迄がやっと報われたそのように感じたのだ。

 

「ええ、もちろん男の約束です!!」

 

彼は一切振り返らず背を向けながら少年に返答をした。おそらく今泣きかけている自分の顔を隠すためだろう。しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは誤りだった。

 

「生憎ですが…その約束は贖罪羊として看破することはできません」

 

「まぁ、あんま恨まないでくださいっスよ?」

 

その声々は馬車の中と上から聞こえた。しかし気づいた時にはもう遅い。その猛威は一瞬で襲い掛かってきた。馬車の中からは細い刺突剣が、上からは小ぶりな投剣用のナイフがものすごいスピードで強襲してきた。

 

当然、奇跡など起こらない。

 

「がっ!?」

 

「ざっ?!!」

 

細剣は母親を貫きナイフは高速で少年ののど元を深く切りつけた。

 

「?!!」

 

親子の悲鳴を聞いて彼はようやく振り向いた。しかしそこにあったのは、

 

「あ、あああ」

 

「両名の死亡を確認。…任務は遂行です」

 

事務仕事のように人の死を確認する蠅の王の側近。そして、

 

「あ、あああああ、ああ、ああああああ、ああ」

 

「ま、待ち伏せだったから楽なもんだったっスね」

 

生者から死者に変わった自身の護衛対象。

 

「あああああ、あああああああああ、ああああああああ、あああああああ、あああああああああああああ、ああ、ああああああああああ、ああああああ、あああああ、ああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

黒服リーダーの悲痛の嘆きの声は森の中全てに響いた。

 

 

 

 

 

 

彼はいい加減気づくべきだった。この物語にヒーローはいないことを。

 

つまり最低の末路(バッドエンド)しか存在しないことを。

 

 

 

 

 

 

 

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