遠く離れていても繋がっているものはある。

 そんな思いから幼き日に離れた懐かしの地に足を踏み入れた彼女は思い出に出会い、思い出を得る一日を過ごすのであった。

 イッシュ地方ジムリーダーのカミツレさんとジョウトリーグ四天王のカリンさんの百合物語です。

 趣味で書いているので設定などは多々違うところはあるかもしれませんが、百合とポケモンが好きな人に向けて書いてみました♪

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 「龍角散のど飴」のパッケージに「カミツレ、カリンを主成分とした」と書かれていたので妄想が湧きあがって勢いで書いた短編。旧題は『二人の思い出』でしたが、移転に伴いストレートに改題しました♪

 なので、この短編のテーマも「カミツレ、カリンを主成分とした」なので、オリ設定とかも含まれますし、ライモンシティが舞台なのにサブウェイマスターとかは出ません。この二人だけです。

 キャラが原作とは違っているかも知れませんが、そこは私の趣味です。ご容赦ください。


第1話

 遠い異国の地……そう言っても過言ではないかもしれない。

 

 彼女にとって生まれ育った故郷ではあるが、最後にこの地の空気を肌で感じたのはいつだったか……少なくとも、思い出せないくらい昔のことだろう。

 

 

「ふふふ、懐かしいものがあるわね。

 もう少し感傷に浸っていたいけど……せっかく帰って来たんだからあの子にも会っておこうかな」

 

 

 そう言った女性の名はカリン。

 ジョウト地方ポケモンリーグにて四天王の一人を務める女性。

 

 そんな彼女が今いるのはイッシュ地方でも特に歓楽街として発展している街、ライモンシティ。

 

 そんな彼女がこの街を訪れたのは一言で言ってしまえば観光になるだろうか……。

 

 生まれ故郷とは言ってもずいぶんと昔の話。

 だが、観光以外の目的を強いて挙げるとするならば、かつて可愛がっていた少女との再会こそが目的と言えるのかもしれない。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 一人、物思いにふける女性。

 

 普段、忙しくしている彼女は一人の時間というものを大切にしている。

 

 常に注目を受け、人目を集める仕事なためか、どんなに忙しい日でも自分一人だけでいる時間というのを必ず作るようにしているのだ。

 

 その様子は深窓の令嬢とでも言うべきか、普段彼女がファンに見せている華麗で隙のない美しさとは別種の美しさを感じさせる光景だった。

 

 そんな表情を浮かべている彼女が何を考えているかと言うと、

 

 

「……ふぅ、やっぱり『ライモンでポケモンつよいもん』って、最高のジョークだと思うんだけど……分かりにくいのかしら?」

 

 

 彼女は自身の考えたジョークの受けが悪いことを思案していただけの様子。

 

 これもある意味、決して人に理解されない悩みと言えなくもないが、先ほどまでの物憂げな様は、見る者の補正がかかった言い方だったかもしれない。

 

 そんな彼女だが、今は彼女だけの時間であり、彼女一人の時間なのでファンだろうと、友人だろうと、決してこの空間にはいない。

 

 だから問題はないのだが、それは彼女のことをよく知っている親しい人の計らいでもある。

 

 彼女と親しくなければ、今の彼女の元に訪れる者はいないが、逆に親しければ彼女、人気モデルとして活動しているカミツレの一人だけの時間を邪魔しようとはしないのだ。

 

 そんなカミツレの一人だけの時間に来訪する人物は、彼女と親しく、且つ彼女の今を知らない人物ということになる。

 

 そう、一人の女性がカミツレの空間に入ってきた。

 

 

「……昔、あたくしが来た時は無かった建物ばかりだけど、どれも刺激的で素敵だったわ。

 その中でも、あなたがいるこの場所は、特別にあたくしの心を震わせるけど」

 

 

 誰も入れないように周囲の者に言っておいたカミツレだけの空間。

 

 そこに入ってきたのは家族でも友人でもなく、ファンでもない。

 

 しかし、カミツレが誰よりも敬愛してやまない遠い昔の憧れの存在。

 

 

「あ……」

 

 その人物に驚きとともに思考が出来なくなってしまうカミツレ。

 

「久しぶり…って言っても分かるかな?」

 

 

 記憶も霞んでしまいそうな遠い昔に会ったきり、だが昔と変わらないその笑顔。

 

 突然の来訪者、カリンが微笑みながら話しかける。

 

 

「ここに来るのはずいぶんと久し振りだから道に迷ったりもしたけど」

 

 

 カミツレがずっと求めていながらも、互いの立場から会いに行くことも出来なかった愛しい人。

 

 片時も忘れてなどいない。

 

 否、忘れるはずがない人物が目の前にいるのだ。

 

 

「カリン……お姉様」

 

 

「あら? 覚えていてくれたんだ。

 嬉しいわ。カミツレちゃん」

 

 

 その時、自分がどういう表情をしていたのかカミツレは分からなかったが、頬を伝う涙と抑えがたい胸の痺れるような高鳴りが、目の前のカリンに飛び付いてしまったことで喜びの感情だと理解できる。

 

 

「カリンお姉様……」

 

 

「あらあら、雑誌やテレビで見るのとではずいぶんと印象が変わるけど……、あなたは昔っから何一つ変わっていないのね」

 

 

 変わっていない、その一言と共に抱きついてきたカミツレを静かに受け止め、彼女の柔らかな髪に指を絡ませるカリン。

 

 カミツレは思わず、普段の自分とは違う面を見せてしまったことを恥じたが、相手がカリンであることから頬を染めながらもその胸に顔をうずめていく。

 

 変わっていない、と言われたことも昔を思い出させ、本当の自分である甘えたがりの性分を引きだしてしまったのかもしれない。

 

 

「とりあえず、久し振りの再会なんだし積もる話もあるでしょ。

 お茶でもどう?」

 

 

「……はい」

 

 

 恥ずかしい気持ちと、名残惜しい気持ちが混ぜこぜになった状態ながら、ゆっくりと抱きついていた両手を離す。

 

 時間はあるのだ。そう言い聞かせて。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 その日、カミツレは予定していた仕事のすべてをキャンセルした。

 

 モデルとしてもジムリーダーとしても、約束だけは違えたことの無い彼女が初めてのわがままを周りに言ったのだ。

 

 カリンは忙しいなら日を改めると言ったのだが、カミツレは聞かず、珍しい彼女のわがままを通す形で一日自由な時間を得た。

 

 そんなカミツレのわがままが通ったのも、カリンと一緒という喜びが頬を緩ませ、近しい者ですら見たこともないような笑顔だったことが要因かもしれない。

 

 

「まったく、久し振りに会いに来たってのに、本当にあなたは変わっていないわね」

 

 

 少し呆れたように言うカリン。

 

 しかし、その口元には薄く笑みが浮かんでおり、彼女も今回のカミツレのわがままには嬉しく思っている様子だ。

 

 

「だって……カリンお姉様と久し振りに会えたんですもの……」

 

 

「ふぅ、その呼び方も昔と一緒ね。

 でも……嬉しいわ」

 

 

 二人きりの空間。二人きりの時間。

 

 言いたいことはたくさんあるのに、口から出てくるのは他愛もない言葉ばかり。

 

 そんな時間が過ぎて行った。

 

 幼き頃、ほんの短い時間であったが、カミツレにとって忘れられない愛しい人であるカリンといられる時間。

 

 それは何物にも代えがたい喜びであった。

 

 

「やっぱり、イッシュ地方に帰ってきて真っ先にあなたに会いに来て良かったわ。

 テレビや雑誌での活躍は知ってたけど、昔と何も変わっていないあなたに会えたんですもの」

 

 

「私が、カリンお姉様に誓った愛情は一生ものですもの。

 それでカリンお姉様、この街には何日ほど滞在予定なのですか?」

 

 

 カミツレもカリンの今を雑誌などで知っている。

 

 カリンがジョウトリーグにて四天王をしていることも、すでにカリンにとって、この街が思い出でしかないことも。

 

 

「そうね、あなたに会うという目的も果たせたし、あまり時間もないから今夜にでも発とうかしら……。

 あなたもだけど、あたくしも仕事を放ってきちゃったし、待っている人が大勢いるのよ」

 

 

「そう……ですか……」

 

 

 それは仕方のないこと。

 

 道は違えど、二人ともそれぞれに自由とは程遠い道を歩んでいるのだ。

 

 こうして一緒の時間を作れたことすら奇跡に近い。

 

 いや、二人のわがままによってようやく成り立っているに過ぎない。

 

 

「あの、カリンお姉様……」

 

 

 だが、ずっと忘れずに思いつづけてきた憧れの人が目の前にいるのに今日一日の再会で――少し話をしたくらいで諦められるはずがない。

 

 カミツレは静かに、だが強い意志を瞳に宿して言う。

 

 

「……私たちが一緒にいられる時間は少ないですけど……最後に、思い出をもう一度いただけますか……?」

 

 

 忘れられない子どもの頃の思い出。

 

 ある夏の日に、親の仕事の都合で二人だけで過ごす夜があった。

 

 誰よりも臆病で甘えたがりのカミツレは当時1つか2つしか年の違わないカリンに泣きついて困らせていたが、そんなときカリンは決まって強く抱きしめることでカミツレを落ち着かせていた。

 

 あの頃の温もりをもう一度……。それが、カミツレの願いだった。

 

 

「……本当に変わっていないのね」

 

 呆れたような口調のカリンだが、その言葉の意図は喜び。

 

「だって……私はカリンお姉様のことが大好きですから」

 

 

 そんな花のように笑うカミツレの頬を撫でるカリンの指は段々と力強く、全身を撫でるように愛撫していく。

 

 

「んっ……!」

 

 思わず声が出てしまったカミツレ。

 

「ほら、力を抜いて」

 

 

 その力強さとは裏腹に、決して乱暴な雰囲気は出さないカリン。

 

 むしろ慈愛の籠った優しい手つきに、カミツレは恥ずかしさと快感に身を震わせる思いだった。

 

 

「これ以上、いっても大丈夫?」

 

 

 カリンの指がカミツレの奥へとあと一歩のところで止まる。

 

 最後の一線を超えてしまっても良いのか? という確認のつもりだろうが、カミツレの心にずっと輝いていたカリンが相手なのだ。

 

 ここで拒絶すればカリンは素直に引くだろう。そして思い出はここで終わる。

 

 しかし、ここまで来てストップなど、これから先、何年も会えないかもしれないのにありえない。

 

 カミツレの口から拒絶の意思が出ることはなかった。

 

 

「お願いします……カリンお姉様」

 

 

「ん、それじゃあ二人で楽しみましょ。

 二人だけの思い出の時間を……」

 

 

 そしてカリンの愛はカミツレを貫いた。

 

 誰にも許したことの無かった自分の体に、初めてを許した思い出の相手が憧れのカリンであることに胸を震わせながら。

 

 そうして一夜限りの二人の出会いは思い出として、二人の心に深く刻まれることとなったのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……もう、行くんですね」

 

 

 朝、ベッドで寝を覚ましたカミツレは、旅仕度をすでに整えたカリンが部屋を出て行こうとするのに気づいて声を掛ける。

 

 

「起しちゃったか……。

 このまま黙って出て行こうと思ってたんだけどね」

 

 

 互いに顔を合わせてしまったことで、どちらからともなく頬を伝う一筋の涙。

 

 永遠ではない。

 しかし、少なくとも長い時間会えなくなるだろう。

 

 

「カリンお姉様!

 やはり私はカリンお姉様と一緒に……」

 

 

 一緒に行きたい、そう言いたかったが、カリンは静かに自分の唇でカミツレの口を塞ぎ、言葉を遮る。

 

 

「あなたにはあなたの、あたくしにはあたくしの、別の生き方があるのよ。

 今のあたくしにはジョウトに待つ人たちがいるし、イッシュにはあなたのことを必要としている人が大勢いるのでしょう?」

 

 

 付いていきたい、一緒にいたい。

 それはカミツレのわがままである。

 

 確かに一日や二日なら大丈夫かもしれないが、カリンと同じくらい自分の生き方も好きなカミツレだ。

 

 カミツレとカリン、二人にはそれぞれに必要とされている場所があるのだ。

 

 

「また……逢えますよね?」

 

「ええ、また逢えますわ」

 

 

 最後に小さな声でカリンは何かを言い残し、去っていく。

 

 そうして一人残されたカミツレは、カリンの最後の言葉を思い出す。

 

 

「あなたが、これからも周りを輝かせる人でありますように……か」

 

 

 かつて泣いてばかりいた自分に優しくほほ笑んでくれたカリンの言葉。

 

 自分も彼女のように誰かを輝かせられる人間になりたくて学んだ彼女の受け売りの言葉。

 

 久し振りに会っても変わっていなかったのはカリンも同じ。

 

 そんな喜びに満たされた思いで、今日もジムリーダーとして、モデルとして、周りの人たちに一人でも多く輝いてもらうために活躍を続けるカミツレの心には常にカリンの姿があったのだった。




 カミツレさんのセリフも実はカリンのセリフだったのではないか説。

 いや、オリ設定なんですけど、カリンさんの言葉が大好きですし、あれだけの名言が言える人なら少なからず他のトレーナーにも影響を与えていそうだな、と思ったんですよ。
 ですが私は太陽よりは月が好きです。何故なら無遠慮に照らしつけないから!

 BW2でのカミツレさんのジム戦後のセリフは、ソラールさんに向けての愛の言葉ととれなくないかもしれない、と思うフロム信者のヨイヤサでした♪

 読んでいただき、ありがとうございました♪


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