扉を開けた先にはただ広い空間が広がっていた
雰囲気はホールと似ていて壁にロウソクが灯っているだけで
全体的に薄暗いー…
ただホールと決定的に違い、辺りを息苦しい程の気配が支配していた
俺はゆっくりと歩みを進め入ってきた扉を閉める
もう後戻りは出来ないー…
注意深く辺りを見渡すーー警戒心は決して緩めない
そんな時ーー部屋の奥に見慣れない物が視界に写る
赤や青等、計七色のひし形の宝石の様なモノ
それが左右対称に7つずつ"浮かび、怪しい光を発している"
「―何なんだ…あれは…?」
俺はそんなことを呟きながら一歩その浮かぶ宝石に向かって足を進める―…
だが、すぐその歩みを止める
薄暗くて気づかなかったが、その宝石の上には木の枝の様な物がついており、そこに宝石がぶら下がっていた
そして薄暗さに目が慣れ始めた頃ーーその左右対称の宝石の中心に"人影"が見えた
遠目に見た感じ、幼い少女だった
白い帽子に赤の半袖服に赤のスカート
何故、少女がこんなところに居るのか――普通はそんなことを考えるのかもしれない
だが俺はそんなことを考える余裕はなかったー…
何故ならーー先程の木の枝や宝石は少女の背から出ていた
そして、少女から感じる気配ーーそれは扉のノブに手をかけた時のモノに酷似していた
暫く少女を眺めていると不意に少女が顔を上げ、此方を見上げー…
「―……だぁれ?」
首を軽く傾げ、そう尋ねてきた
その声は見た目相応の幼い声ーーとても自分が感じている気配を思わせない声だった
だが、俺はその問いに答えることはなかった――いや、出来なかった
何も答えずにずっと少女を見つめていると少女は再び口を開くー…
「―……新しいおもちゃ?」
「―…は?」
俺は少女の言葉の意味が判らず、情けない声を上げていた
そんな時、少女と目があった
その瞳を俺は知っている
"孤独"――それを思わせる瞳ーー俺と同じ目だ
俺がそんなことを考えていると、少女はゆっくりと立ち上がる
先程の木の枝の様なモノと宝石も立ち上がる少女に合わせて高さを上げる
やはり"アレ"は少女の背から出ているみたいだー…
「―…ねぇ…お兄さんの名前はなぁに?」
不意に立ち上がった少女はそんなことを尋ねてきた
俺は警戒心を緩めないまま、少女を見据えー…
「―…片倉…拓哉(カタクラタクヤ)だ」
―と、そう答えた
それを聞いた少女はクスクスと笑いだしていた
(―名前を名乗って笑われたのは初めてだ…)
そんなことを考えながら少女を見据えていると
少女はニッコリ微笑みながら
「―私はフラン…フランドール・スカーレットだよっ」
そう名乗った
フランドール・スカーレット―それが少女の名らしい
名前から海外の人間みたいだが――それ以前に背中の"アレ"で人間かどうかも怪しい…
互いの自己紹介を終えた2人は暫く見つめ合っていた
俺はその視線を少女ーーフランの足元に移す
さっきまでは気づかなかったが、そこには無数の"手足が千切れたり引き裂かれた"ぬいぐるみが転がっていた
それを一別してから再びフランに視線を戻す
すると、再びフランと目線が合い、フランはニッコリと意味深な笑みを浮かべ、俺に向けて手をかざしていた
そしてー…
「―拓哉…カンタンニコワレナイデネ…?」
刹那ーーフランがそう呟いたと思うと、自分に向かって無数の赤色に光る玉が飛んできた
薄暗い空間に浮かぶ無数の赤色に光る玉はそれだけなら辺りを照らす神秘的な光にも見てとれる
だが、俺の本能が再び警告していた――この玉に触れてはならない、と
自分に向かって飛んでくる無数の玉を俺は反射的に体を動かし、かわし続ける
だが、思いの外密度が濃すぎるー…
(―このままじゃいずれ当たる…なら…)
俺は飛んでくる玉から大きく後ろに飛びながら
パンッと手を合わる
すると左の手のひらに小さな魔方陣が展開され
そこから"刀"の柄が現れ、俺はその柄を掴み、一気に引き抜く
「―千歳の儔…"小鴉丸天国(コガラスマルアマクニ)"!」
そう叫んだ俺の手には"黒刀"が握られていた
刀身は艶のある黒、柄の部分も真っ黒に装飾された刀だった
「―…ふっ!」
俺は軽く息を吐きながら、自分に向かって飛んでくる玉に向かって刀を振るう
すると自分に向かって飛んでくる玉は2つに割れ、左右に別れて後方へと飛んでいった
今までの感じだと別に全ての玉が自分に向かって飛んで来ている訳ではないようだ
だが、全ての玉が自分に飛んできている訳ではないとはいえ、展開された玉によって行動は制限される
(―大体この玉は何なんだよ…くそっ!)
内心、悪態をつきながら自分に当たる可能性のある玉だけを刀を使い、最小限の動きで弾いたり、斬り伏せたりしながら何とか当たる事を避けていた
だが、今まで忘れていたが濡れた服を着たまま動き回るのは体力の消耗が激しすぎるー…
(―このままじゃじり貧だ…何か突破口を見つけないと…)
そんなことを考えていると不意に自分に向かって飛んでくる玉がフッと消え
周りを飛んでいた無数の玉も消滅していた
俺は一体何が起こったのか判らず、フランの方に視線を向ける
すると、フランはクスクスと口元に手をあて不気味な笑い声を上げ、こちらを見据えていた
「―なかなかしぶといね…拓哉……でもこれでどうかな…?」
フランはそう言いながらポケットから二枚のカードの様な物を取り出す
俺は何もせずフランを見据えていたが、あのカードの様な物が自分を追い込むための物だということは理解できた
「―いくよ…禁忌『フォーオブアカインド』」
フランは二枚の内一枚を掲げながら
そう宣言していた
刹那――俺は目の前の光景に身震いしていた
「―…嘘だろ」
俺の視線の先には――"四人に増えた"フランがこちらを見据え、不気味な笑みを浮かべていた
一人相手にするだけでも手こずっていたのにいきなり四人に増えるなんて―…
「―ちっ…千歳の儔…"雷切"!」
そんな光景に俺は軽く舌打ちをし、左手を振り上げ、下ろしながらそう叫ぶ
すると俺の目の前に新たな"刀"が地面に刺さった状態で出現した
新たに出現した"刀"は先程の黒刀とは違い
真っ白の刀身に、その名の通り雷を放っていた
その刀の柄を左手で握り地面から引き抜き、構える
気を抜けばやられる―…
一度大きく深呼吸をしてから
再びフランを見据える
四人のフランは変わらず不気味な笑みを浮かべていた
「―…こい」
両手に持った刀をフランに向け、そう呟く
ヤらなければヤられる――ただこの場を生きて切り抜ける事だけを考えろー…
「「「「―サァ…ドコマデ耐エラレルカナ…?」」」」
四人のフランはそう言い放ち別々に動き始める
一人は先程の様に赤色に光る玉を無数に放ちー…
一人は先程よりも大きな玉を俺に向けて放ちー…
一人は細長いレーザーの様な玉を放ちー…
一人は時計の針を思わせる様な作りのモノを振りかぶりながら接近してくる―…
四人は当然別々に攻撃してくるため
回避出来るルートは逐一変化を見せ、此方の思考を混乱させるー…
(―1対4とか不利にも程がある…だが…)
―泣き言を言ってる暇はない
刹那、接近してきたフランが時計の針を思わせる剣を俺に向けて振るってきた
俺はそれを右手の黒刀で受け止め、そのまま黒刀を力で振り抜きフランを弾き飛ばす
そして、自分に向かってくる三種類の玉に向かい左手の"雷切"を右腰の位置で居合いの様に構えー…
「―…はぁっ!」
そう叫びながら居合いの様に振り切る
すると、刀から雷撃が生まれ向かってくる玉に接触し、誘爆させていた
しかし、全ての玉を打ち消せる訳はなく、それこそ無限の様に向かってくる
俺は最小限の動きで玉をかわしたり、刀で弾いたりしながら思考を巡らせる―…
(―このままじゃキリがない…一体どうすれば…)
そんな考えを巡らせながら玉を避けていると、視界の端に影が写る
それは先程弾き飛ばした剣を持ったフラン
油断をしていたわけではないが、三人のフランの弾幕に気をとられて接近に気づくのに遅れてしまった
「―隙アリ…ダヨッ!」
フランは楽しげにそう叫びながら、剣を俺の心臓目掛け突き出してきた
俺は咄嗟に左に全力で跳び、剣の狙いを少しでも心臓からずらそうとした
「―…ぐっ!?」
しかし、反応が遅れた為完全にかわしきれず、右腕を剣がかすめていき鮮血が宙に舞う
フランの剣はその意外な形からか、俺の腕を斬るのではなくえぐるようにかすめていった
俺は傷みで顔を歪めながら次の攻撃を警戒する為、フランの方に顔を向ける―…
フランは変わらずクスクスと不気味な笑みを浮かべ、此方を見据えていた
「―シブトイネ…デモモウ限界カナ?」
俺を斬りつけたフランはそう言って、剣についた俺の血を舐めていた
えぐられた右腕からは血がゆっくりと溢れている
傷の影響か右腕にうまく力が入らない―…
このままじゃー…
(―確実に…ヤられる…)
右腕を庇いながら4人を相手にするのは至難の技だ
どうにか1人に戻すことが出来ればー…
「―勝機は…ある…」
俺はそう呟きながら、前方に居る4人のフランを見据える
4人のフランは全員、時計の針を思わせる剣を片手に
不適な笑みを浮かべていた
その内の1人の手には先程のカードが一枚握られていたー…
「―コレデタクヤモオシマイダヨッ…禁忌『レーヴァテイン』!」
フランはカードをかざしながらそう叫ぶ
すると4人のフランが握っていた時計の針を思わせる剣が炎の様なモノに包まれる
殺傷力が上がっているのは一目瞭然―…
フランはこのまま押しきる気だろう
(―一度でもくらえば致命傷になりかねない…何が何でもあの剣に攻撃をくらうわけにはいかない…)
俺はそんなことを考え、痛む右腕に無理矢理力を入れ
両手の刀を構える
4人同時に相手をするのはリスクが高い
どうには各個撃破に持ち込めれば―…
「「「「―イクヨッ!」」」」
4人のフランはそう叫び、2人が此方に向かってきた
後方のフランは剣をふるい、 先程の様な玉を飛ばしてくる
それに対して俺は最小限の動きでその玉をどうにか避ける
此方に向かってきた2人のフランは2方向から俺目掛け剣をふるってきた
その剣を両手の刀で片方ずつなんとか受け止める
だが右腕に負荷がかかり、傷から血が吹き出すー…
だが、そんなことを気にしている暇はない
後方のフランが飛ばしてくる弾幕をかわすため、受け止めた剣を弾き後ろに跳躍する
しかし―…
「―…くっ!」
剣を弾かれたフランはすぐさま俺との距離を詰め
再び剣をふるってきた為、それを刀で受け止める
だが、それが失敗だった―
「―…がっ!?」
後方のフランによる弾幕に対応が間に合わず、腹部に数発被弾してしまい後ろへと吹き飛ばされ、背中から地面に倒れ込んでしまった
腹部と右腕の痛みに耐え、俺はすぐ様次の攻撃に備えようと顔を上げる
だが――目の前に炎に包まれた剣を振り上げるフランが視界に入る
「―トドメダヨ!」
フランは楽しげに笑いながらそう叫び剣を振り下ろす
刹那――俺の視界がスローモーションになる
フランが剣を振り下ろしきれば俺の体を切り裂かれ、確実に絶命するだろう
この絶体絶命の状況の中―
不意に俺の頭の中に声が響いていた
『―死にたくはないだろ?』
そんなの当たり前だーー死にたくなんてない
『―じゃあどうすれば死なずにすむ?』
どうすれば?
『―簡単だろ?目の前に"敵"が居るから殺されそうになる…だったら』
―そうだ…簡単じゃないか
殺されそうになるならその目の前の"敵"を――
『――"全て斬り伏せればいい"』
そう頭の中の声が呟いた瞬間、俺の中で何かがはじけた―…
迫り来る炎の剣―
その剣を左手に握られた"雷切"で瞬時に受け止める
そして――
「―……エッ…」
右手に握られた黒刀を目の前のフランの胸目掛け、全力で突き出す
フランは一瞬何が起きているのかわからないような声をあげたが胸に突き刺さる黒刀を見て―
「―ソンナ…」
信じられない様な声を上げ、ゆっくりと霧の様に消えていった
このフランは最初のカードによって生み出された分身だった様だ
俺は霧の様に消えていくフランを見据えながらゆっくりと立ち上がり前を見据える
そこには今起こったことが信じられない様な表情を浮かべた3人のフランの姿――
「―あと…3人…」
俺はそれを見据えそう呟いて刀を構え、3人のフランに向かい駆け出すのだったー…
―フラン視点―
(―あーあ…もう終わりか~)
私達の弾幕によって吹き飛ばされた拓哉に"レーヴァテイン"を振り上げる私の分身の姿を見て、私はそんなことを考えていた
拓哉を初めて見たときは楽しめると思ったけど
やっぱり"霊夢"や"魔理沙"の時みたいには楽しめないか―…
(―久しぶりに"弾幕ごっこ"を楽しめると思ったのにな~…)
私が内心そんなことを考えていたその時ー…
「―……エッ…」
剣を振り下ろしていた私の分身が不意にそんな声を上げる
何事かと思ってそちらに視線を向けると、そこには予想外の光景が―…
「―…えっ…」
剣を振り下ろしていた私の分身の胸から黒色の刀身が突き出ていた
そして、私の分身が霧の様に消えていった先に
ゆっくりと立ち上がる拓哉の姿
何が起こったのか理解するのが遅れたが
それ以上に―
(―気配が…変わった…?)
視線の先に映る拓哉の気配が、先程と違いすぎていた
そして、此方に視線を送る拓哉の目ーーその瞳は虚ろで光がない
まるで誰かに操られている様な――そんな気配すら感じる
私はその瞳を見た瞬間、全身に寒気がはしった
私が怯えている―?
そんなことはー…
私はレーヴァテインを握り直し、刀を構え向かってくる拓哉をしっかりと見据えるのだったー…
―拓哉視点―
両手に握る刀を握りしめ、3人のフランに向け駆け出す
目の前の"敵"を排除する事だけを考えながら―…
「―コノッ!」
先程消滅したフランと一緒に前に出てきていたもう一人のフランが、向かっていく俺に燃える剣を振るってきた
俺はそれを右手の黒刀で受け止め、居合いの体勢に構えていた左手の雷切を一歩踏み込みながら振るう
「―ガッ!?」
振るわれた雷切はフランの左腰から右肩まで深々と切り裂いていた
斬られたフランは小さなうめき声を上げ、先程と同様に霧の様に消えていった
どうやらこのフランも分身の様だー…
なら、残りのどちらかが本物だろうがそんなことはどうでもいいーーただ目の前の"敵"を斬り伏せるだけー…
「―残り…2人」
俺はそう呟きながら、残った2人のフランに視線を向ける
フランの顔には明らかな動揺が見てとれる
そんな中再び刀を握り直し、2人のフランに向かい駆け出す
「―調子ニ…乗ルナァ!」
片方のフランはそう叫びながら、先程の様に玉をとばしながら弾幕を展開してくる
俺は最小限の動きでかわしつつ、進行の邪魔になる玉だけ刀で弾きながら徐々に距離を詰めていく
そして――
「―…ヒッ!?」
一気にフランとの距離を詰め、左手の雷切を隙だらけの腹部目掛け突き刺す
そのまま突き刺した雷切の刃をひねり、左方向に振り抜く
腹部を斬られたフランは、恐怖によるであろう悲鳴を上げただけで先程の様に霧の様に消えていった
また分身の様だーーなら残る一人が本体
俺は此方を見据えるフランに視線を向け、左手に握る雷切から手を離す
すると、雷切は小さな光の玉になり左手に吸い込まれる
そして右手に握られた黒刀を腰の位置に構え体勢を低くするー…
「―あと…1人…」
そして俺はそう呟き、視線の先のフランに向かって駆け出すのだったー…
―フラン視点―
信じられなかったー…
先程まで私達に手も足も出せなかった拓哉が、実にあっさりと2人の分身を消していた
(―まるで別人だよ…)
視線の先に居る拓哉を見据えながら、私はそんなことを考えていたが、此方に視線を向ける拓哉を見て身構える
油断すればヤられる――それだけは嫌と言うほど感じている
暫くして此方に向かって駆け出してきた拓哉を
無言で見据えながら、私は右手に握られたレーヴァテインを握り直すのだったー…
―拓哉視点―
あと1人ー…
俺は剣を腰の位置に構えたままフランとの距離を詰めていく
フランは弾幕を展開して俺の進行を止めようとしている
だが、それを見切り最小限の動きでかわしつつ、距離を詰めていく
そしてついに――
俺の剣の範囲にフランを捉える
だが、フランも反撃するために燃える剣を引いている
おそらく突き出すつもりだろうが、この距離なら俺の刀の方が速いー…
「―忌剣…"夜駆け"」
俺はそう呟きながら、フランの首元を狙い黒刀を振るう
このまま振り抜けばフランの首は切り裂かれ絶命するだろう
そうなれば俺は生きてここを出ることが出来る
目の前の"敵"を"殺せば"生きて――
あれ――?
何で殺さないといけないんだっけ―…?
『―この恩知らずが!』
不意にまた頭の中に声が響く―
だが先程の声とは違い、それは聞き覚えのある声
"あの日"――俺に向けられた周りの大人の言葉だ
それを理解した瞬間、再び視界がスローモーションになる
そして――また声が頭に響く
『―"次期当主"だからと調子に乗りやがって!』
それは俺が決めたことでも望んだことでもない
『―"片倉七振の家宝"を1人で所有するなど』
それは力を示すための目的であり、結果に過ぎない
『―そんな事の為に"実の父"まで手にかけるとは…』
違う――
それは父が申し込んできた試合を受けただけだ
"真剣"による試合を―
『―この"人殺し"!』
違う――違う違う違う!
俺は―そんなつもりなんて…殺してなんて…
「―…っああぁぁぁぁ!」
俺はそんな叫び声を上げると同時に
この勝負の決着はついた――
俺が振るった黒刀は――フランの首を切り裂く事はなく
直前で停止していた
そして―フランの突き出した燃える剣は――俺の左腹部を深々と――貫いていた
「―…ごふっ……」
俺の口から血が零れ、フランの顔にかかる―
フランの首元で停止していた刀が手からこぼれ、地面に落ちる
口の中には血の味が広がり貫かれた左腹部には燃えるような痛みが走り、血は溢れていた
「―どうして…刀を止めたの…?」
不意に俺のすぐ目の前で左腹部を貫いたフランは俺の目を見上げながら、信じられないようにそうたずねていた
確かに刀を振り抜いていればフランは首を切り裂かれ絶命し、俺が刺される事はなかったかもしれない
だが、俺は刀を止めていた
「―何で…かな…不意に…怖く……なったんだ…」
俺は途 切れ途切れにそんなことを口にする
過去の出来事――フランに刀を振るった時に聞こえてきた声は間違いなくあの時の声
また同じことを繰り返すーーそう思った瞬間、無意識に刀を止めていた
それと共に一つの感情がー…
「―初めて…見たときの…君の目が…頭をよぎって…」
「―私の…目…?」
俺の言葉に不思議そうに、フランは呟いていた
そう、初めてフランを見たときの目――それは俺の目に似ていた
孤独をよく知る目にー…
「―俺は…ずっと…独りだった…から…」
俺はそう言って、何を思ったのかフランの頬に触れる
フランはビクッと一瞬体を震わせたが何もせず俺の行為を受け入れてくれた
「―似ていた…んだ…俺の目に……孤独を知る…目に…」
俺がそう言葉を続けると、フランは驚いた様な表情を浮かべたあとゆっくりと俯いていた
これは俺の予測でしかないが――間違ってはいないようだ
俺はもう燃えていない腹部に刺さったフランの剣を掴み
そして、一気に引き抜く
腹部に激痛がはしり、血が吹き出るが顔には出さないように意識する
俺の行動に驚いた様な表情を浮かべ顔を上げるフランに
優しく笑いかけ、フランの頭を優しく撫でる
「―でも…フランの目には…孤独以外…にも……見てとれた…だから…」
俺はそう言って、フランからゆっくりと離れる
血を流しすぎたのか――視界が霞み始めた
死に近づいていく感覚ー…
フランから離れた俺の体はゆっくりと後ろに倒れていくー…
「―死ぬのは…俺で……いい…」
俺はそう言って地面に倒れ込む
フランが何か言って手を伸ばしてきたが聞こえず、俺の意識は深い闇へと落ちていったー…