事件の次の日の翌朝九時、俺とアスナは打ち合わせ通りに、五十七層の転移門で合流した。
ヨルコさんとの待ち合わせ場所に向かう途中、アスナが話掛けてくる。
「今回の事件の手工についてどう思う?」
「恐らく、何かしらの裏技だろうな。まったく、分かんないけど…」
「決闘によるPK、システム上の抜け道とかかな?」
「その辺りしか考えられないな」
昨日ヒースクリフにも聞いてみたが、圏内でプレイヤーを殺すシステムはあるはずがないらしい。開発者本人がそう言ってるんだ、そこは心配ないだろう。
「まぁ、今は少しでも情報を集めるべきだな」
「そうね」
俺とアスナが会話していると、ヨルコさんとの待ち合わせの建物に着く。そして、俺たちはその中に入っていった。
今俺とアスナが隣同士に座り、ヨルコさんとは向かい合わせに座っている。ヨルコさんの様子を見る限り、ショックで顔色が悪いというわけでもなかった。どうやら、昨日はしっかり眠れたようだ。
「ヨルコさん、すいませんがグリムロックという名前に心当たりはありませんか?」
ヨルコさんはその名前を聞くと、驚いた表情をし、質問に答える。
「…はい。昔、私とカインズが所属していたギルドのメンバーです」
この答えではっきりした。やはり、グリムロックというこの武器を制作した人は、事件に大きく関わっているようだ。
「昨日、現場に残された武器を鑑定したのですが、制作者の鍛冶屋はグリムロックとのことでした。何か思い当たることはありませんか?」
「…はい、あります。昨日、お話しできなくてすいませんでした。忘れたい…あまり思い出したくなかったですけど…でも、お話しします。
…あの事件のせいで私たちのギルドは消滅したんです」
ヨルコさんは昨日殺されたカインズに纏わる話を、静かに語りだした。
「ギルドの名前は『黄金林檎』っていいます。総勢たった八人のギルドでした。でも、半年前に、たまたま倒したモンスターが、敏捷力を二十も上げる指輪をドロップしたんです。
そのアイテムをギルドで使おうって意見と、売って儲けを分配しようって意見が分かれて…でも、最後は多数決で決めて、結果五対三で売却でした。前線の大きな街で、競売屋さんに委託するために、ギルドリーダーのグリセルダさんが一泊する予定で出掛けました。
でもグリセルダさん…帰ってこなかったんです。嫌な予感がして、何人かで黒鉄宮の『生命の碑』を確認しに行きました。
そしたら…グリセルダさんの名前に横線が…」
その言葉に、俺たちは息を呑む。第一層にある生命の碑には一万人のSAOに参加しているプレイヤーの名前が刻まれている。そして、横線が引いてあったということは、そのプレイヤーがこのゲームから脱落…即ち、死んだことを意味する。
「 死亡時刻は、リーダーが指輪を預かって上層に行った日の夜中の一時過ぎでした。死亡理由は…貫通属性ダメージです」
またしても、貫通ダメージか。今回の事件がヨルコさんの話と何かしら関係してるのは、間違いないな。
「そんなレアアイテムを持ったまま圏外に出るとは思えないな…考えられるのは睡眠PK、またはポータルPKか」
「 半年前なら、両方ともまだ手口が広まる直前だわ。宿代を惜しんで、パブリックスペースで寝る人もそれなりに居た頃だしね」
しかし、俺にはこのPKが普通のPKには思えなかった。
「ただこのPKは特定の標的を暗殺する手段の可能性が高い」
「理由は?」
「 ギルドリーダーを務めるような人物が、レアアイテムを持ったままパブリックスペースで寝泊まりするような迂闊な真似をするとは思えないからだ」
ポータルPKとは、転移先を指定できる回廊結晶を用いたPK手段である。回廊結晶は、アイテムの発動後、その場所に一定時間、転移先に通じる光の渦が出現する。そして、これを通じて圏内にいるプレイヤーをフィールドへ引きずり出して攻撃、HP全損に追いやるというのが一般的な手法である。しかし、回廊結晶は非常に高価で希少なアイテムなので、頻繁にできる手段ではない。あらかじめ標的を決めて、特定のプレイヤーを殺害するために用いられる手段なのだ。
「なので、犯人はリーダーが持つ指輪のことを知っていたことになる」
ヨルコさんが俺の話を聞いて、静かに頷く。恐らく、黄金林檎の七人も同じ答えにたどり着いたんだろう。リーダーが不在で、皆が皆を疑う状況だったのなら、ギルドは簡単に崩壊しただろうな。
「犯人のある可能性があるのは、売却に反対した三人か」
「売却される前にグリセルダさんを殺して、指輪を奪おうとしたってことね」
「そういうことだ。ちなみに、グリムロックという人はどんな人だったんだ?」
「…彼は、グリセルダさんの旦那さんでした。グリセルダさんは強い片手剣士で、美人で、頭も良くて、私はすごく憧れてました。グリムロックさんは、いつもニコニコしてる優しい鍛冶屋さんで…二人とも、とってもお似合いの夫婦でした。」
殺されたグリセルダとグリムロックは夫婦という関係だったのか。なら、今回の事件の動機はおよそ察しがつく。昨日の圏内PKの犯人は指輪売却に反対した人間をグリセルダ暗殺の犯人として、復讐しているのかもしれない。
「もしかして、指輪の売却に反対した三人の内の一人は、カインズさんじゃないんですか?」
ヨルコさんは俺の質問に、また静かに頷いた。
これで、指輪事件の復讐目的で犯人はPKを行っている可能性が高くなった。続けざまに、俺は質問を投げかける。
「他の二人についても、教えてくれませんか?」
「聖竜連合のディフェンダー隊のリーダーです」
ヨルコさんが出した聞いたこのあるプレイヤーネームに俺とアスナは驚く。
「シュミットを知ってるのですか?」
「まぁ、同じ攻略組みなので、顔を合わせる機会が多いんだよ」
「シュミットに会わせてもらうことはできないでしょうか?彼はまだ、今回の事件のことを知らないかも…だとしたら、彼も、もしかしたら…カインズのように…」
その心配は、尤もだな。 指輪事件が発端となっているのなら、売却反対意見を出した、ヨルコとシュミットの二人が暗殺の対象になる可能性は高い。さらに、シュミットも関係者である以上、事情聴取も含めて、一度ヨルコと対面させる必要がある。そう考えた俺は、ヨルコさんのお願いを聞き入れることにした。
「分かりました。俺から聖竜連合にかけあってみます」
「ヨルコさんは宿屋から、絶対にでないでください」
「分かりました」
この後、俺とアスナはヨルコさんと別れ、五六層にある聖竜連合に赴き、シュミットに理由を話した。シュミットは驚きながらも、ヨルコさんのもとに行くことを同意してくれた。
こうして、次の日に俺とアスナはシュミットを連れて、ヨルコさんに会いに行った。
次回、ついに奴等が登場。次回もお楽しみに!