「ははは、どうしたの兄さん?まだまだ殺気が足りないよ」
「黙れ、テュポーン!」
俺は瞬速剣のスキルを発動させて、テュポーンの懐に飛び込もうとするが、そのタイミングを狙ったかのように奴の抜刀術が飛んでくる。
さらに俺の冷静さが欠けていることで状況は変わらずにいた。時間だけがただ過ぎていく。そんな時、テュポーンは口を開いた。
「そういえば彼女も刀を使ってたんだよね」
「彼女だと?」
「愚かにも兄さんを普通の人に教育しようとしてた女さ」
「……っ!」
俺はこいつが麻子について言ってるのだと分かり、思わず剣を握る右手に力が入る。
「まったく、兄さんたちが普通の人間になんてなれるはずないのに……。無駄なことをしたもんだよ」
「黙れ、お前に麻子の何が分かる!?」
彼女から人の暖かさを思い出させてもらった、人として大事なことを教えてもらった。お前らが持つことのない大切なものを。
「そんなことをお前たちが語る資格などない」
「はっ」
再び、俺の短剣と奴の刀がぶつかり合う。俺は力を込めるが押し込めるには至らない。
「絶望が足りないねぇ、兄さん。そうだ、知っているかい?彼女の状態を」
「状態?」
「そう。彼女はね、ボスとやりあった古傷が原因でもう後が長くないらしい」
「……っ」
薄々気付いていた。麻子の容態が徐々に悪くなっていっていたことに。俺たちに隠れて辛そうな顔をしたり、俺と雄二がアメリカに行かせたのもそれが理由の一つなのではないかと。SAOにログインすれば彼女と一生会えなくなるかもしれないと。しかし、原因がこんな奴らのせいだなんて……。
俺は思い出す。三人でみたあの満開の桜を。あの幸せな光景を。
そんなことを考えている俺のことも知らず、奴は無情にも言い放つ。
「ははっ、もしかしたらもう死んでいるかもね」
いつの間に俺の持つ剣はグロウズナイフから
月夜の黒剣に変わっていた。
俺の中で何かが切り替わる。同時に本来プレイヤーがもち得ない二つ目のユニークスキルが発動していた。
月夜の黒剣に黒いエフェクトが光り、テュポーンを切り裂く。奴は突然長くなったリーチに対応出来ず右手に直撃してしまう。
「……っ、これは!?」
「haha」
俺は止まらない。剣を振るう速度は止まるどころか加速し、今度は下から切り上げる。テュポーンはその一撃を刀で防ぐと笑い始める。
「ははは、そうだよ兄さん。あなたはそういう人間さ」
「……」
俺の中で負の感情が流れこんでくる。さらにまるで自分の言葉ではないような悪魔の囁きまで。
『hahaha、殺せ。俺は殺すことしか出来ない悪魔だ』
違う、違う、違う、違う、違う。
しかし、過去に俺が殺した者たちの言葉が思い出される。皆、恐れていた。誰もが俺を兵器として見ていた。ただ殺す……そう、それだけ。
『そう、そうだ。風見大樹、いや■■■■』
思えば前の世界もそうだった。不幸な目にあって歯をくいしばって生きていった先があれだ。
この世界の現実世界や仮想世界だってそれは何も変わらないんだろう。
俺の心が闇に浸かっていく、溶け込んでいく。
その瞬間、俺が思い出したのはこの世界で唯一守りたいと思った弟の笑顔。さらにそこから少しずつ広がっていく希望の光。
『大丈夫だよ。兄さん』
雄二
『お前なら絶望を希望に変えれる。なに、十人なんか目じゃないくらいの人たちを救えるさ』
麻子
『飼い慣らせ。お前なら出来るはずさ』
ギャレット大尉
他にも思い出す。あの戦場に立ってからの時間を。俺が知っているのは決して絶望だけではない。
……そうだった、ああ。忘れていたよ。
「なに?」
「十一連撃ソードスキル……」
俺の月夜の黒剣が心なしか先ほどよりも明るい黒色に光り出す。俺は今までにないスピードでテュポーンに切り込んだ。
「暗黒舞踏!」
テュポーンは最初の三連撃を完璧に防ぐことが限界でそれ以降はバックステップで避ける。しかし、残りの二撃受けてしまう。
「ちっ、兄さん」
「別に今までの罪をなかったことにしようだなんて思っていない。でも、俺は前に進む。絶望を希望に変えてみせる!」
「くっ、無駄なことを……。そろそろ潮時か」
「これは!?」
テュポーンが転移結晶を砕き、その体を転移の光が包み込む。
「これだけは言っておくよ。兄さんたちは逃げられない。あの人の手からはね」
「……なら、簡単だ。その手が雄二に届く前にお前たちを殺す。絶対に」
「はは、そうか。なら、次に会う時を楽しみにしてるよ……兄さん」
やがて光はテュポーンを全て包み込み、奴は姿を消した。
次に俺はこの洞窟内の敵の反応を確認するとほっと一息する。
どうやら、この攻略組と笑う棺桶の戦いも無事に攻略組の勝利で終わりを迎えたようだ。
『これからもその生き方で突き進むのか?』
そうするさ。もし、また道を間違うことになりそうでも今は仲間がいる、大切な仲間が。
『そうかい、なら俺も必要ないか』
ああ、俺はもう前に進むことができる。
この時、俺の中のなにかがすっと消えたような気がした。
「ダイキくん!」
そして俺は遠くから呼んでくる大切な仲間の声に振りかえって答えたのであった。