では、どうぞ!
「よく来たね。ダイキくん、キリトくん」
「……っ!」
「ヒースクリフ……いや、茅場晶彦」
七十五層のボス部屋。そこにいるはずのスカルリーパーの姿はなく、そこにはヒースクリフの姿があった。
「さて。さっそく本題に入りたいとこだが、どうやら他にもお客さんが来たようだ」
「お客?」
「ダイキくん!」
「おいおい、この状況……一体どうなってるんだ!?」
「アスナ、クライン!」
転移したときには俺とキリトの二人しか反応がなかったので、どうやら町の時から気付かれない範囲で後ろを着けてきたようだ。
「本当なら強制的にこの場から離脱させるところだが、二人には攻略で大いに働いてくれたからね。特別にこの場で見届けることを許可しよう」
二人がこのタイミングで来るのはさすがにおかしい。俺はキリトの方を見ると案の定、視線をずらしやがった。これはキリトの差し金のようだ。まぁ、ギャラリーがいようがいまいが関係ないか……。
「団長、これはどういうことですか?」
「先ほど、キリトくんが言った通りだが」
「……っ!」
アスナはレイピアを抜き、ヒースクリフに向かって構える。しかし、今からこの男と戦うのは閃光でも、黒の剣士でもない。
ヒースクリフは管理者権限を使い、この場にいる俺以外のプレイヤーを麻痺状態にさせる。
「何故、ダイキだけ……?」
「それは約束を果たすためだよ。さて、君たちに分かるように詳しく話をしよう。まずダイキくんがこのゲームの制作に協力していたのは知っているかね?」
「……」
一層のボス戦後のあのセリフ。あの後俺は噂が冷めるまで待ち、仲間たちには詳しくは話さず適当に濁し、茅場の所在やこのゲームの全てまで知らないと俺は言ってなかった。
「大丈夫だ茅場、ここからは俺が話す。もう薄々察していると思うが俺は皆に嘘をついていた。俺は最初から茅場の正体を知っていたんだ」
「嘘……」
「なんで、なんでだ。ダイキ!」
「……」
キリトはこの少し前から気付いてきたので落ち着いていた。やはり、三人は何故なのか理由を求める。俺は一言で答えた。
「この時のためさ」
「この時のためだと!?」
「ダイキくんは犠牲を一人でも少なくしたいという思いがある。私は私の目的があったが、決して人を殺したかった訳でもなかったからね。だから、彼にチャンスを与えたのだよ」
「そのための条件が」
「そうだ、キリトくん。もし百層までに誰かが私の正体に気付けるならという条件。それを君はクリアした」
「そしてその条件をクリアすることが出来れば俺とそのクリアしたプレイヤーにゲームの解放を賭けた決闘が出来るというチャンスが貰える」
俺はグロウズナイフを構えて、ヒースクリフを見据えた。
「よせ、ダイキ。なら最初は俺が!」
「キリト。これは俺がデスゲームとなることを知りながらこのゲームの制作に協力してしまったこと、茅場を止められなかった小さな罪滅ぼしなんだ。それにここであいつを殺せば今このゲームに参加しているプレイヤーたちを助けられる。もちろんその対象はお前も含まれる。もし俺が負けたらあいつに勝ってくれ。頼んだぞ……」
「くそ!」
「ダイキ。こんな勝負をする必要なんてねぇ。お前はこのゲームに参加してるプレイヤーたちのために必死に戦ってきたじゃねぇか!」
「すまない、クライン。それでも俺は止まれないんだ」
「待ってダイキくん。そんなの……」
「アスナ。現実世界に戻ったら家族とは仲良くするんだぞ。このゲームを経験したお前なら本当の自由を幸せを手に入れられる」
「そんなの!」
「さて……」
俺は再びヒースクリフの方を見ると向こうも戦闘の準備が出来ているようだ。
「そうだ。言い忘れていたがこの場所の様子は現在、ここにいるプレイヤー以外の全てのプレイヤーの前に映像で表示させている。せっかくのゲーム解放を賭けた決闘だ、他のプレイヤーたちにも見て貰わなくてはね」
「それはどうも」
決闘モードが始まり、お互いの距離を少しずつ縮めていく。
「俺はあんたに話したいことがあるんだどな」
「そうか。だがここまで来たら剣で語るのみだろう」
「そうかい……」
やがて指定の距離まで近付くとアナウンスが合図となり、この世界で最後となる戦いが幕を開けた。
俺は決闘が始まった瞬間、ヒースクリフに向かい加速した。
「はっ」
「ふっ」
俺のグロウズナイフが奴の持つ大きな盾にぶつかる。グロウズナイフは短剣であり、長剣に比べてパワーが出ない。しかしその分、瞬速剣という最速のスピードがある。
「はあ!」
もっと、速く。
「そら!」
もっと、鋭く。
俺の攻撃は時間が経つごとに加速していく。ヒースクリフも途中、剣を俺に向けて振り下ろすが俺に当たることはない。
「さすが、瞬速の剣士だ」
「こいつ!」
ヒースクリフの余裕の笑み。くそ、速さだけじゃ、やはり突破出来ないか。
すると、奴は一歩後ろに下がる。俺が瞬速剣というユニークスキルを持つように、奴もまたユニークスキルを所持している。奴のユニークスキルの特徴は最強の盾であると同時に高い攻撃力があることだ。
「ふん」
「がっ……」
その名も神聖剣。
ヒースクリフの重い盾が動き、俺の右手にぶつけてくる。
奴はそこで動きを止めることはない。ソードスキルだ。俺はそれにうまくグロウズナイフを合わせて強引に止めようとする。
「あまいよ、ダイキくん!」
「ちくしょう!」
只でさえパワーの足りないグロウナイフでソードスキルを止められるはずもなく、俺は壁に向かい飛ばされる。
「ほう、クイックチェンジか」
「……」
俺はクイックチェンジというスキルを使い、ストックしてあった月夜の黒剣に入れ替えて、瞬時に地面にそれを刺し、衝撃を少なくした。
「茅場、全力でお前を倒す」
「やってみたまえ。私もその思いに答えよう」
俺のHPは黄色ゲージまで追い込まれており、もう後がない。しかし、月夜の黒剣を抜いたが以前テュポーンとやりたった時のような感情の高ぶりは感じられない。これなら行ける!
俺は再び、ヒースクリフに向かい駆け出した。
「そら」
「くっ」
月夜の黒剣が黒いエフェクトに包まれて、ヒースクリフに向かって斬りかかる。しかし、それ奴の持つ盾に阻まれた。だが、奴の体が後ろに動く。今度はわざとではない、しっかりと効いていた。
「見えた!」
「……っ!」
ヒースクリフの盾がずれて、奴の体が見えてくる。ここで畳み掛ける!
「ダークネス・アーク!」
俺が持つもう一つのユニークスキルである暗黒剣の六連ソードスキルがヒースクリフに直撃する。奴のHPは黄色まではいかなかったが、真ん中まで削り切ることに成功した。さらに俺は攻撃を続けようとまたソードスキルを発動したと同時に違和感を感じた。
奴の前に表示さらることないものが出現したからだ。赤い警告表示のようなそれはゲームマスターしか持ち得ないこの世界最強の矛盾。そう管理者権限が表示されていたのだ。
……まずい!
これはソードスキルでは突破できない。
この可能性も少なからず考えていたが、このタイミングで使ってくるとは。
死
戦場で腐るほど見てきたそれがまたしても俺の前に迫ってくる。いつもこんな状況を覆えした。理由はたった一つ、雄二を守るため。ここで俺が死ねばあいつは一人になっちまう。
死ねない、負けられない。しかし体を動かすこともできない、なら頭を動かせ。
ここで俺は記憶の底に埋まっていた転生した時に書いた今はなきノート、その最後のページを思い出す。
心意システム
茅場晶彦がこのゲームを作った目的であり、この世界よりも未来においても扱われた心の力、事象の上書き。
それが頭に浮かんだ瞬間、すでに俺の体は動いていた。
「クイックチェンジ」
「これは!?」
本来この状況で止まることないソードスキルは止まり、俺はクイックチェンジを発動する。
ヒースクリフは本来ありえない事象に驚く。
そして俺の手にはグロウズナイフではない一本の短剣が握られていた。それは一姉から託され一度しか使えない絶対最強の武器。
「ルールブレイカー!」
「……っ!」
ルールブレイカーは一度だけ、ゲームマスターが持つ管理者権限を無効かすることができる。
赤い表示にそれが突き刺さった。表示は消えてヒースクリフを無敵にさせていた要因は消える。またルールブレイカーも一度使用したことから俺の手から消えた。ヒースクリフは態勢を整えるべく盾を構え直す。しかし俺は止まることはなくさらに加速した。
まずはその大きな盾をぶっ飛ばす。
「……クイックチェンジ。十三連ソードスキル、暗黒舞踏!!」
クイックチェンジで月夜の黒剣を握り暗黒剣で連撃数が最も多いソードスキルを発動させる。
それは見事直撃してヒースクリフは最後の十三連撃目に耐えることが出来ず、奴の盾が後ろにぶっ飛んだ。
「これで終わりだ。ダイキくん!」
ソードスキルは使用するとコンマ数秒のタイムラグが存在する。ヒースクリフはそれを狙い盾とは逆の手に持っていた剣を振り下ろそうとする。しかし自分でも分からないが俺は焦ることなく次の動作に移ることが出来ていた。またもありえない光景に奴も驚きを隠せずにいた。
「……クイックチェンジ」
俺の手にはクイックチェンジによりこのゲームが始まったときからの相棒であり、俺と一緒に成長してきたグロウナイフが握られていた。
「十五連ソードスキル、風神旋風斬!!!」
速く、速く、速く、誰よりも速く。
俺は今までにない速度でソードスキルを発動する。これによりヒースクリフは剣を振り下ろすことは叶わず、俺のソードスキルが奴に直撃すした。
まるで嵐のような連撃は奴に抵抗させる暇も与えず、一瞬で奴のHPを削り切った。
「俺の勝ちだ。ヒースクリフ……いや、茅場」
「ああ君の勝ちだ、ダイキくん」
奴はその言葉を最後に俺の目の前から光の破片になり姿を消した。その瞬間、このゲーム全体にアナウンスが入る。
『只今を持ってゲームはクリアされました、ゲームはクリアされました。これよりプレイヤーのログアウトを開始します』
俺はそのアナウンスを聞くのを最後に意識を失った。
「目が覚めたかね」
「……茅場」
次に俺が目を覚ますとオレンジ色の空の下で鋼鉄の城が崩れていくのをバックに茅場の姿が目に入った。俺は状況を確認する。
「現在、このゲームに参加した五十パーセントのプレイヤーがログアウトしている。後少しすれば全員このゲームからログアウトが完了するだろう」
「茅場、お前は満足しているか」
「見たいものは見れた。まったく、二度も見ることが出来るとは私も予想外だったよ。感情、そして心の力。君はそれを証明した」
「心意……ね」
心意システム。もうほとんど覚えていないが感情、心の力で事象を上書きすることができるもの。その可能性は決して小さなものではない。
「そう、私は満足したはずだった。鋼鉄の城を夢見て小さき頃から天才と言われ進んで行きここに至った。しかし、数年前から私は別の夢を見るようになったのだよ、ダイキくん」
「別の夢?」
「ああ。君たち兄妹と普通の家で暮らし、どこにでもあるような家庭。そこで平和に暮らしていく生活というものを」
「あんた、まさか」
この人はあの瞬間から、俺がただ後悔していたときから動こうとしていたのか。
気付けば俺は知らないうちに涙を流していた。
「この先の言葉は言うのが恥ずかしいのでね。向こうに戻ったら凛子にでも聞いてくれ」
「おい、気になるだろ」
凛子さんというのは茅場の恋人で俺も何回か会って面識があった。最後に会ったのは一姉の事件の数週間前だったか。
「さて時間もないだろうし、これを渡しておこう」
「これは?」
俺の元に一つの光が茅場から飛んでくる。それは俺の中に入っていく。
「私のIDだ。君はもう覚えないかもしれないがこれを使う時が近いうちにやってくる。持っているといい」
「それは」
「現実世界に戻れば直ぐに知ることが出来るだろう」
「……そうか、なら貰っておく」
「他にも送っておいたがこれは後で確認してくれ。さて、最後のプレゼントを渡すとしよう」
「最後のプレゼント?」
茅場が呟くと同時に少し離れたところから一人のプレイヤーが姿を現す。
「ダイキくん!」
「……アスナ」
「現実世界の君がどうであれ、しっかりとケジメはつけるべきだとは思わないかね?」
「やってくれたな父さん」
「……っ!」
茅場の顔が驚きに染まる。
「まったく、君という奴は……」
「ありがとな」
「ふっ、これからの君の幸せを祈っているよ」
茅場はその言葉を最後に俺の目の前から姿を消した。そして俺はこの世界で共に歩んできた相棒と向き合う。
「ダイキくん、私はあなたのことが知りたい」
「……」
俺は彼女と同じ表の人間ではない。俺のことを知りすぎればアスナの生活に影響が出てしまう可能性がある。
それでも俺は……。
気付けば自然と口を開いた。
「……風見大樹、15歳だ」
「私は結城明日菜、17歳です……って、ダイキくんて年下だったの!?てっきり年上だと思ってたよ」
「一応……な」
俺の職など伝えることは出来ないがせめて名前と年だけは伝えたいとそう思った。
現実世界に戻ったとき、最初に行うのはリハビリだろうがその後どうなるか分からない。再び軍の方に配属されアメリカに行くことになるか、あるいはCIRSで世界中を飛び回るか。
「ダイキくん、私待ってるから。現実世界で!」
「ああ、絶対に……」
俺の言葉を遮るようにこの世界の崩壊が加速する。こうして俺たち二人は眩い光に包まれ、現実世界に戻って行った。
目を開けるとそこは真っ白い空間……ではなく、よくみればただ真っ白い天井だった。さらになにやら周囲が慌ただしい。複数の人の声が耳に入ってくる。しかし、昔から聞いていたある声だけはしっかりと俺の心の奥に響いてきた。
「兄さん、兄さん。よかった……」
大事な弟の顔を見て目を見開く。どうやら泣きながら笑っているらしい。
そうか、俺は……。
「ただいま、雄二」
「おかえり、兄さん」
この時、俺は確かに現実世界に帰って来たという実感を感じることが出来た。
これでSAO編は終了。この章も原作沿いでしたが奴らとの因縁を濃く出したかった感じで後半はうまくいったと思います。黒猫団のところは少し強引だったかなと思いましたが速く絡ませたかったので。
さて、この後はALO編ですがカプリスの繭編を書き直したら書こうと思ってます。といってもオベイロンさんの最後しか考えてないんですよね、今のところ。原作と少し展開を変えるようにしたいと思っているのですが。
そしてその次はやっとグリザイアの果実へ!
ということで後書きもつい長くなってしまいましたがこれからもこの作品もよろしくお願いします!