目を覚ますと目前に竜がいた。辰生と永戸さんが身体の至るところから血を流して戦っている。その下にはエミリさんが倒れていて、泣きながら何度もエミリさんを呼ぶ大輔さん、エミリさんを助けようと必死に力を使う木咲、その三人を守るようにバリアを張る坂浪。みんな頑張っている。いや、頑張っているんじゃない。生きるために必死なんだ。みんなで帰るために必死なんだ。なら、その意思を俺が全て背負い、終わらせよう。
意識はハッキリしている。身体には多少の痛みは残っているが流石はガディウス、この短時間で身体のほとんどの機能を回復させやがった。大した奴だよ。
今持てる全ての力を出し、目の前の竜を地へと叩き落としてやる。
「行くぞガディウス!」
「おう!」
身体が黒く輝き全ての者の目を引き付ける。輝きを放ちながらゆっくりと空へと昇り、光を解放し出てきた姿はまさに悪魔。ボロボロな姿、しかしこの姿は幾度の戦場を駆け巡った勇姿だと言えるだろう。右頭部からは一本の角が出ており、異形の姿だ。
竜はその力を恐れたのかどうかはわからないが黒き悪魔に向かって聖なるブレスを放つ。だが、そんなものは通用しない。何故なら魔の剣、ガディウスにはカウンターという能力があるからだ。
剣を前方に構えブレスを受け、力を吸収する。そして剣を大きく振り上げ思い切り降り下ろす。倍加された竜のブレスはもとの場所へと戻っていくが放たれた時との力は違いすぎる、受け止めきれずにまともに自分のブレスを喰らってしまう。しかし、それでも元は自分の力だ。耐性がないはずがない。全くではないが、ほとんどの無傷である。
目の前の敵同士はまだ平気な顔で翔んでいる。なら、戦いが終わるはずがない。
両者一時の間動かず、睨み合っていたがその均衡を竜が解いた。全力で急接近するが翔悟の姿が一瞬で消えてしまった。翔悟の移動速度は音速を遥かに超え音を置き去りにするほどであった。何処だと視線を動かして敵を探す。
翔悟は竜の後ろに回り込み背を連続で斬る。だが、少々の傷しか残らない。背をつつかれ敵の居場所がわかった竜はそこめがけ尾を振り回す。しかしそれはなにもない空を切った。
次の瞬間翔悟は竜の横腹に漆黒の炎を纏った魔の剣で斬り刻む。この攻撃はしっかりと入ったことを感覚的に理解した。斬り刻んだ痕には紅く染まった大きな谷が出来ていた。
『ギャアアアアアアアアア!!!!』
竜の痛みと怒りの咆哮は大地を震わせ大空を震わせる。
「まだまだ終わらねぇぞ!!」
今度は背に回り漆黒の大剣降り下ろす。その斬撃は強力かつ速く音を置き去りにする。そして右翼の半分を斬り落とす。斬り落とされた半分の右翼は地鳴りを起こし地面に落ちた。
右翼の半分をなくした竜は体制を崩し地面に落ちようとするが左翼と残りの右翼で耐えていた。竜はプライドが高く、誇り高い生き物だ。そんな竜が地面に落ちるということがどれ程恥ずかしいことか、わかっているからこその行動だろう。右翼の切断面から血が勢いよく噴き出す。どれ程の痛みかと言われれば人が手足を切断されるのと同じくらいだ。
だが、まだ終わらせない。
「オオオオオオオオ!!!」
音速の速さで飛び続け竜の身体中を斬って斬って斬りまくる。
全身に斬撃の痕ができ、竜はもう咆哮をあげることさえできずに気力だけで飛んでいるようだった。
翔悟は竜の正面に位置を取り、剣を横に大きく構える。
「魔炎爪斬」
漆黒の炎を纏う大剣を音速の速さで薙ぎ払う。
炎が触れた瞬間竜の全身が漆黒の炎によって焼かれていく。
竜は地面に落ち、地鳴りを鳴らす。聖獣である竜に勝ったのだ。
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戦いが終わり、悪魔の姿を解きもとの姿に戻った翔悟はエミリのもとへ駆け寄る。
「エミリさんは大丈夫なのか?」
そう聞くと木咲がこちらを向き安心しきった様子で大丈夫と答えた。それを聞いて全員が安堵する。本当によかったと。そのなかでも一番喜んでいたのは大輔さんだ。それはそうだろう。最愛の妻が生きていたのだから。
それでも完全に喜ぶのはまだ早い。坂浪は木咲たちを守るために張っていたバリアのおかげで魔力はゼロ、辰生と永戸さんは竜との戦いで身体の至るところに傷があり、血を流している。もしかしたら骨折もあり得るかもしれない。俺は本当だったら死んでいるはずだったが、ガディウスのおかげでほとんどのけがはない。何度も言うけど本当に凄い奴だよ。
俺たちの天空塔までの旅は全員が回復してから出発することとなった。天空塔がある都、ハルバレに到着したのは港町アロンを出発してから2ヶ月先のことだった。