階段を猛スピードでかけ降りていく。階が下がっていくほどに敵の数も段々と減っていく。
そして、翔悟たちはそこにたどり着いた。重い扉をゆっくりと開きその部屋の中で目撃したものとは、
「な、んだ、ここは!?」
ガラスの壁が立ち並び中には動物、人、天使が緑色の液体のなかに浸けられていた。
「どうなってんだ?」
ゆっくりと奥に進んでいくと少し開けた空間があった。半径10メートルくらいだろうか、天井はそれほど高くなく4・5メートルくらいだ。
ここが何のための空間なのかは大体回りを見れば把握できる。壁にたくさんの武器が立て掛けてあったからだ。
ガラスの中にいるやつらが試しに体を動かすみたいなことだろう。しかし、このガラスの壁は何のためにあるのか、さっぱりわからない。
それでも奥に進んでいくと一際大きいガラス張りの壁が二つあった。一つは天使が入っていたがもう一つには、
「っ!!湊っ!!!」
中には紛れもなく翔悟の親友である鳴野湊が入れられていた。
「湊っ!湊っ!湊っ!!」
翔悟はガラスをドンドンとその拳で叩き、湊を起こそうとするが、湊はなんの反応もしない。
「先輩、これを割りましょう」
「あ、ああ」
綾華の提案を呑み背から魔の剣を抜き放ち大きく振りかぶって剣を入れようとするが、隣のガラスがいきなり割れ中の天使が出てきた。
翔悟はガラスが割れたことに驚きその剣はガラスに当たる寸前で止まった。
「その者はつれては行かせんぞ」
ガラスの中から出てきた天使は翔悟をその鋭い眼光で睨み付ける。
「そいつは無理な相談だ。こいつは俺たちの仲間なんだ、返してもらう」
「そうはさせんっ!」
その手から剣を生み出し物凄い早さで翔悟に斬りかかってくる。ギリギリで受け止めるがパワー負けして後ろへ突き飛ばされる。なんとか耐え、立ってはいるが敵の攻撃をまともに剣で受けてその衝撃で手が痺れている。
『なんなんだこいつは、スゲェパワーだな』
痺れている手をギュッと握りしめなんとか我慢する。
「お前、何者だ」
「私の名はアスティル。天界軍"エンジェル・フェザー"の隊長だ」
「ほう、あんたが天界の一番強ェやつか。それで、湊をつれていったら駄目な理由を教えてもらえないか」
「彼に完全に力を取り戻してもらい、もう一度勝負しこの手で葬るためだ」
『なるほどな』
ここがどういうところかわかったぜ。このガラスの壁は傷を癒すための療養機関といったところか。ということはこいつはさっきまでこの中にいたわけだから傷は全て治り、体力も回復し、魔力も全快ってことなのか。
「なぜ、湊との勝負をこだわる」
「半年前の戦争時、私は先頭に立って戦っていた。その中で最後に戦ったのが其奴だ。その時私は其奴に負けた。だから、もう一度勝負しこの手で葬るのだ」
「そうか、それは頑張ってくれ。だがな、お前はここで俺が倒すからその勝負は遠い先の話になるぜ」
「なんだと!?」
この安い挑発に応じたことでアスティルは翔悟との戦いを避けられなくなった。
「さあいくぜっ!ガディウス!」
□■□■□
「ハアアアアァァァァアア!!」
黒き魔の衣を纏う。その姿はまさに悪魔。最初の一撃でアスティルのことをただ者じゃないと確信した翔悟は最初から全力でいかなければこちらが逆にやられてしまうと思い黒衣を纏う。その目には浮わついた様子はなく目の前の敵のみを捉えていた。
「それが貴様の力か」
アスティルは自分の魔力で衣服を作り出しそれを纏う。それは天界一と名高い剣士の装いそのものだ。
天界でも随一の貴族の生まれであるアスティルは生まれたときからとても大きな魔力量を持ち、いわゆる天才という部類である。でも彼はそれだけにとどまらず他の者とは比べのもにならない努力をし、剣術だけで天界軍の隊長まで上り詰めたと言っても過言ではないくらいである。
そんな彼に今勝負を挑もうとしている翔悟は無謀と思われるだろう。しかし、彼に勝たなければ湊は還っては来ない。自分がこのあとどうなるかはわからないが覚悟は決まっている。どうなろうとその時はその時だ。自分の後ろにはいつでも皆がついている。それだけが翔悟の背中を押した。
全力で距離を詰め下から斬り上げる。だが、その攻撃は簡単に見切られ避けられてしまった。しかも必要最低限の動きだった。数センチ程後ろに下がっただけ、流石と言うべきか、やはり剣客との戦いは慣れている。やはりアスティルの方が一歩上である。
連続で斬り下げ、斬り上げ、凪ぎ払い、その全てが見切られ避けられる。
焦って攻撃すると不意にアスティルの剣が目の前まで来ていて咄嗟に剣で受け止めるが体制を崩す。そこに追い討ちをかけるように連続で斬り込まれギリギリのところで避けるしかできず回りが見えていなかった。
背に冷たい感覚を受けて後ろを見るがそこは壁だった。知らず知らずのうちに追い込まれていたのだ。
翔悟は首もとに剣を突きつけられ硬直する。
「誰が誰を倒すと言ったかな」
その笑みはこの先を見たかのような勝ち誇ったものだった。