ブレイクワールド-break world-   作:黒谷晃佑

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16話 魔剣

背は壁、目の前には敵、首には剣、絶体絶命というやつだろう。完全に動きを封じられた。この状態じゃなにもできない。

 

「もう勝負は決まった、諦めて降参しろ。これ以上貴様とやり合う理由は私にはない」

 

「あんたになくても俺にはあるんだよ」

 

「じゃあ・・・・・消えろ」

 

剣を大きく振り上げてトップスピードで降り下ろされる。

 

ここまでか・・・・・そう思った瞬間アスティルの剣は何かによって弾かれる。

 

それは風、とても強く力のある風。それを起こしたのは戦闘開始とともに後退していて風を操る力をもつ緑竜を身体に宿している木咲綾華。

 

アスティルの注意が自分の剣の妨げとなった綾華の方へ向く。

 

綾華は怖いのか身体を震わせながら必死に視線を落とすまいとしている。

 

綾華が怖がるのも無理はない。彼女は全くといっていいほど戦闘経験がない、それなのにいきなりアスティルのような通常の人間では彼の行く道に咲く雑草でしかない程の強さをもつ敵と視線をぶつけあうなんて恐怖そのものだ。怖がるなと言われる方が無理な話だ。

 

その隣で腰から得物を抜き放ち逆手に持って綾華を護らんとする友香。

 

「邪魔をするな」

 

言葉と同時にアスティルが綾華と友香に急接近し薙ぎ払おうとする、しかしそれを綾華の起こした風により軌道が外され空を斬る。

 

友香は水竜の力を宿している。その力により空気中の水蒸気をかき集め操る。集めた水でアスティルの手足を固定する。

 

だが、そんなものは彼には効かない。体内の魔力を勢いよく放出する。その熱により水の手錠が蒸発し、体の動きが戻る。

 

そのまま今度は先程と逆の方向から薙ぎ払いをし、友香の体がいとも簡単に吹き飛ばされる。

 

すかさず体の側面に水を集めて防御する。それは少々のダメージは和らげることができたがほとんど効果を発揮しなかった。

 

今度は綾華に向き直り降り下ろしをする。当たりはしなかったが、降り下ろされた時の風圧で後方に飛ばされる。

 

綾華は壁に勢いよく背を打ち肺にたまっていた空気が全て絞り出され呼吸が満足にできずに気を失う。

 

「オオオオオォォォォォオオ!!!」

 

まだ綾華の方を向いていたアスティルの背を目掛けて仲間を傷つけられ、怒り叫ぶ翔悟の剣が降り下ろされる。だが、それはいとも簡単に避けられ距離が開く。

 

この距離から勢いよく踏み込んだとしてもアスティルの早さには勝てないしそれどころか逆に斬り伏せられる。

 

 ━━━━。

 

両者剣を構えたままピクリとも動かない。

 

外野から見ればこの状況はアスティルが有利。彼が動かない理由がわからない。

 

しかし、アスティルには明確で単純な理由があった。

 

動かないんじゃない。動けないんだ。

 

彼の目に写るのは一刀の剣。黒く、深い黒の霧が掛かっているその剣は翔悟の"魔の剣"。だが、今までと全く違う剣身だった。

 

見たことのない禍々しい闇をもつその剣をアスティルは知っている。

 

かつて、地球上の大陸は一つの大きな大陸だった。その大陸を穿った魔神の剣。それが今翔悟が構えている剣の正体である。

 

その名は、『魔剣グラム』

 

黒き闇の炎を放つその魔剣が何故か突然、目の前の敵が構えている。

 

剣を振るう速さが遅かろうが速かろうが一振りするだけで眼前にある全てのものを永遠の彼方へ吹き飛ばす。

 

そんなものを構えられては用意に動くことができない。

 

しかし、翔悟はまだ自分の構えている剣がどれだけの力を持っているかということをわかっていない。それどころか自分の剣が変化していることにも気づいていない。

 

しばらくの静寂が漂っていたが遂にアスティルが動く。

 

開いていた距離を詰めるため走り込む。それに少し遅れて翔悟も動き出す。

 

アスティルはその大きな体で翔悟の懐に潜り込む。瞬間的な速さで翔悟はバックステップをするが少し遅くなり、下からの斬り上げを受ける。

 

ギリギリのところで剣身で弾いて後ろに大きく飛ぶ。

 

しかしその距離もあっという間に詰められ翔悟は厳しい撃ち合いを強いられる。

 

上、下、左、右、左斜め上、切り返して右斜め下。

 

最初のように一方的に攻撃されて防御の体制もどんどんと崩されていく。

 

そして防御が弾かれ、がら空きになったそこを見逃さずアスティルの剣が翔悟の右肩口から斜めに斬り伏せられる。

 

致命傷だった。翔悟はガクンっと力なく膝から崩れ落ちてその場に鮮血の水溜まりができた。意識も完全に飛んでいってしまった。

 

「この程度か。相手にするまでもない」

 

屍の上から吐き捨てられる言葉は飽きれと自分と対等に戦える者がもうこの世にはいないという悔しさが入り交じっていた。

 

アスティルが剣を鞘に納め、その場を立ち去ろうとすると動くはずのない翔悟の体が起き上がり始めた。

 

まだ終われないとでも言わんばかりの弱々しいが確かな力が宿っている。

 

だが、その体にはもとの意識は残っておらず、今まで出てきた竜人などとは違っていて今までで一番の禍々しい闇の魔力を纏っていた。

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