1話 帰還
湊と加奈を助けるため倭国を出発してから早くも3ヶ月がたとうとしていた。
翔悟は相変わらず訓練をしていた。湊はというと、半年近くもの間眠り続けていたお陰で体は氷のようにガチガチだった。そして目を覚ましてから1ヶ月間リハビリをして以前のように普通に生活することが出来るようになった。
1ヶ月前から行われている講和会議はようやく終結した。それぞれに平和で不自由のない条約を結ぶために行われたこの会議は人界の翔悟たちの国『倭国』と天界の間で上手く話が噛み合っていないところがあり、一度仕切り直すという名目で倭国の国王が一時自国に戻るということがあった。
そんなこんなで色々ありつつも一番進展したのがつい 2・3日前のことだった。
他の皆はというと、大輔は会議の席に座り、エミリ、永戸、辰生は講和会議に国王の護衛をしていた。
倭国からは人界軍の大将軍アレクセイ・ガルフォートや翔悟の祖父であり、人界軍の艦隊総司令官の蒼田正蔵が会議に参加していた。もちろん国王秘書である湊の父親も来ていた。
だが自分の息子が囚われていてやっと助かったというのに湊の父親は一切湊の顔を見に来なかった。
自分の息子に何の思いもないのかと怒っているのは翔悟だけだった。湊はわかっていたことのように何も言わなかった。自分の父親が自分のことを何とも思っていないと知っていた。それ以上を求めるのはただのわがままだ。
友香は必ず外してはいけない用があると先に国に帰った。綾華は医務室で訓練中の怪我などを新藤先生と一緒に手当てをしてくれていた。
皆いる。なのに加奈の姿だけはどこを探してもない。まだ助けられていないのだ。
元の情報では加奈と湊は天界に囚われていると言われていた。だから湊は助けられた。しかし、加奈の姿は何処にもなかった。天使長ミカエルに聞いたが湊のことは知っていても加奈のことに関しては何も知らないと言っていた。
いったい加奈は何処にいるのだろうか。一秒でも早く加奈を救いたい、その願いは翔悟のなかで日に日に増していくのだった。
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講和会議も完全に終わり国王と天使長の何かがお互いで成立したときのカメラ目線の握手が一斉に国中に広まった。
翔悟たちは船で倭国を目指して港町アロンを出発した。天界では色々あったが自分の力を伸ばす良い体験だったと感じていた。
ところで、アルスベレクト山の中腹で戦った聖獣の竜はあの後どうなったかというと講和会議をしたいと天使長ミカエルに交渉したときに交渉のカードとして竜の首を天使長に献上した。聖獣の皮膚である鱗や体毛、爪や牙と言ったものはとても頑丈でいろんなことに使えるということでとても重宝していると喜んでもらえた。
そしてもうひとつ、天空塔の地下にあった"へブンズ・コア"についてだ。戦争のときに魔界の将軍テォフォンの攻撃によって死んだはずの湊はその機械によって生き返った。普通た考えてそんなことは起こらない。自然の摂理に反することだ。それをやってもいけない。だが、湊は今現在生きている。これはどういうことか。
それは、湊の体内に残っていた天使の生まれ変わりとしての膨大な魔力。それが完全に抜き取られたからだ。湊はこの膨大な魔力の重みに耐えるため訓練で自身の体を鍛え、維持していた。ところがティフォンと戦ったときに体が魔力の重みに耐えきれなくなり、体内部の動きを止めてしまった。だから死んだとされたのだ。
しかし、へブンズ・コアで魔力を吸われただけなら魔力は戻るはず。普通なら無くなった魔力は世界を回り続ける魔力の流れによって自然と回復していく。でも湊にはそれが起こらなくなったのだ。それは魔力を保有する者は魔力を溜めるための受け皿となるコアも取り除かれていたからだ。そのお陰で湊の能力は完全に失われ、何かを精製するのはおろか天の剣の中にいるエルとも会話ができなくなった。
湊の体内に残っていた魔力はへブンズ・コアのなかに溜まっていたが、湊を助ける時にそれを壊したから周りに飛び散っていった。
飛び散った魔力は世界の流れに乗らなかった。へブンズ・コアを壊した後に天界の魔力を持たなかった天使たちが次々に魔法が使えるようになったのは何か関係があるのではないだろうか、そう考えていた。
翔悟は今、船内の大闘技場にいる。ある人物と一戦交えようとしていた。
「遅れた、じゃあ頼むよ」
そう声をかけてきたのはリハビリを終えたばかりの湊だった。
「激しい動きをしても良いのか。病み上がりだろ」
「綾乃ちゃんには問題ないって言ってもらったからそれなりには大丈夫なんだろうけど何かあったときには言うから」
「わかった」
二人ともそれぞれが自分の得物を握り構えている。開始の合図は翔悟が投げたコインが落ちたとき。
コインが飛んでいる間二人の回りは静けさを増した。
その静寂の中、コインが・・・・・落ちた!
その瞬間翔悟と湊は全力で距離を積める。そして二人が交錯するとき火花が散った。
互いの剣がぶつかり合い火花を何度も散らす。
やはりお互いを知り尽くしている二人だからこそそれぞれに有効打は決められないし決まらない。とても競っている。
しかしそこは経験の差、幾度も修羅場ともいえる敵を潜り抜けてきた翔悟が有利。少しずつ湊を押していく。
そしてついに剣が交錯したとき湊の態勢が崩れた。
『俺の勝ちだ!!』
と翔悟は確信した。そして最後の一撃をするため振りかぶったその時!翔悟は脇腹に一撃を食らった。
翔悟は訳もわからずその場で倒れる。湊だ。湊は態勢が崩れたように見せかけしっかりと踏み込んで翔悟脇腹に凪ぎ払いで一撃決めたのだった。
翔悟の目と口は驚きのあまり開きっぱなしで閉じるという動作を忘れていた。
「俺の勝ちだな」
湊に勝ち誇った表情でそう言われたときそう確信した。
「やっと帰ってきたんだな」
そう質問した翔悟を見て湊は懐かしい大きな笑顔でこう言ったのだった。
「ただいま!」