湊と加奈を助けるため、倭国を出発してからもう4ヶ月が過ぎた。ようやく翔悟たちは湊と一緒に街へと帰ってきたのだった。既に空は暗くなり皆の疲れもピークに達している。
港に着くと大輔によって一週間の休暇が言い渡された。上からの指示だそうだ。
それぞれがそれぞれの家族が待つ家へと帰っていく。翔悟は湊と帰路についていた。翔悟が祖父である正蔵と共に家に帰ろうと言ったのだが、まだ仕事があると言って断られた。
「頑張ってるんだなじいちゃん」
と自然に呟いていた。
それよりも少し湊の顔が固くなっているのが気になった。
「なんだ、緊張してるのか?」
いたずらっぽく言うと湊は真剣な顔で翔悟に向き直った。男のいたずらっぽさはやっぱり気持ち悪かったかと反省しているとその顔は先程よりもさらに固く険しくなっていった。
「あ、あああ当たり前だろ!?」
予想外の言葉だった。今の湊の顔を見れば誰だって緊張しているのがわかる。だが、ここは無理をしてでも大丈夫だと言い張ると思っていたからだ。まさかあの湊からこんな言葉が出てくるとは。
「何でだよ。別に緊張するようなことでもないだろ。ただ自分の家に帰るだけなんだからさ」
「俺にとってはただ家に帰るって訳じゃないんだ。だって半年以上だぞ!?死んだと思われてたんだぞ!?そんな奴がどんな顔して玄関を開ければいいんだよ」
「そんなの、普通でいいじゃん!いろいろ考えるよりは素直にただいまって言えばいいんだよ。湊のお母さんだったら明るくお帰りって言ってくれるはずだ」
そんな風に湊の緊張をほぐしながら歩いていくと街の中心部にある街の、いや、この国のシンボルともいえる巨大な電波塔(確か634メートルあるんだよな)の下まで来た。
「じゃあまた、明日学校でな」
「お、おう・・・・・」
「緊張すんなって、大丈夫だから」
ほら行け!と湊の背中を叩いて翔悟は自分の家に向かって走って帰った。湊は少しの間その場に立って動かなかったが、決心を決めたらしくしっかりと後ろ足で地面を蹴って確かな足取りで帰っていった。
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次の日の朝、翔悟と湊は電波塔の下で待ち合わせて学校に行くことにした。二人とも昨日は帰ってからすぐに寝て、朝ちゃんと起きれずに登校時間よりもかなり遅くなっていた。そのお陰で通学路には海洋学園の生徒は一人もいない。それは嬉しい誤算だった。皆に会うのはドッキリっぽくやりたかったから通学路で会うのはちょっと遠慮したかった。でも、寝坊してちょうどよかった。
学校は新学期に入ったばかりで少し雪が道の端に残っていた。空は晴れていて雲一つない快晴だった。
「そうだ!湊、昨日は帰ってからどうだった?」
「どうって、普通だったよ。母さんは笑顔でお帰りって言ってくれた」
「だろ?緊張する必要はなかったんだよ」
「確かに。本当にそうだったな。あ、でもお帰りって言ってくれた時に抱きついてきて窒息しそうになったけどな」
「それは災難だったな」
他愛もない話をしていると学校が見えてきた。授業の始まりを伝える鐘の音が鳴る。急げと走り出す。またこの学園に通えるんだと改めて実感した湊だった。
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下足室で室内履きに履き替えて自分達の教室を目指す。
教室がある階まで登ってくるとなんだか騒がしい。確認してみると翔悟たちの教室だ。何でだろうと疑問符が浮かぶがそんなことはどうでもいい。教室の前のドアに立って湊と二人で三回ほど深呼吸をする。
そしてドアを開けて教室に入り大声で叫ぶ。
「遅れてすみませんっ!!」
その瞬間、教室を静寂が包み込みすべての視線が翔悟と湊に集まる。そして次の瞬間一気にワッと先程よりも大きな歓声が二人を包み込む。
全員が翔悟と湊の周囲に集まりそれぞれが喋り出す。
「翔悟おかえりー」
「天界ってどんなとこだった?」
「キャー!鳴野君がいる!」
「おかえり湊ー!」
それぞれが声をかけるからどれが誰のものなのか判別できなかった。
そんな二人の周囲に集まってきた生徒をかき分け、一人が二人の目の前に出てきた。彼はその場をなだめて静かにさせると皆の代表で言ってくれた。
「お帰り蒼田君、鳴野君」
彼は、翔悟が適性検査の時に病院送りにしてしまった藤井慧だった。
「藤井君!もう大丈夫なのか!?」
「ああ、ていうかあれからどれだけ経ったと思ってるんだよ。治ってなきゃ逆におかしいだろ」
「それもそうか」
あの時のことは水に流してくれたみたいだ。少し心の罪悪感というやつがとれたのを感じた。