湊の帰還により、クラスの全員が喜びあっていた。当の湊は周りが騒いでいるだけで蚊帳の外の状態だった。
そんな中、一人がその名前を口にしたせいで教室内の空気は一変した。
「そういえばさ、篠宮はいないのか?」
その名前はが出てくるのは自然のことだろう。加奈はとても優しいやつだった。男子たちの間では密かにモテていたりもする。
彼女のことを気にするのはクラスメイトとして当たり前のことだ。だが、翔悟はその名前が出てくるのを恐れた。加奈と湊、二人を助けると言っておきながら湊しか助けることが出来なかったからだ。
ここで助けられていないのならもしかすると、もしかしなくとももうこの世にはいないのかもしれない。それが決定事項になってしまうと翔悟は何のために戦ってきたのかわからなくなる。自分が今生きていることが本当に許されることなのか、翔悟は何も言葉を返さずその場にただ立ち尽くしたままだった。
そんな翔悟を見て湊が発した言葉はその場にいる全員が逃れられない事実だということを表していた。
「ごめんな・・・・一人だけなんだ」
その場にいた者全員がすぐさまその言葉の意味を理解しより一層教室の空気が重くなる。一時教室内を静寂が包み誰も口を開こうとは思わなかった。ただ一人を除いては。
「加奈ちゃんは湊くんとは一緒にいなかったんだよ」
翔悟と共に湊を助けたときにいた人物が一人そこにはいる。坂浪友香、彼女である。
友香は加奈を助けられなかった理由をニュースを読むテレビアナウンサーのように淡々と話した。
皆はその話を静かに聞いていた。話が終わったあとも空気は重いまま変わることはない。
長いこと全員が立ち尽くし事実を噛み締めていると翔悟が口を開いた。
「・・・・みんなごめん。俺は二人とも助けるって言ったのに湊しか助けることが出来なかった」
その言葉は自分に言い聞かせているようにも見えた。
「理由は坂浪が話した通りだ。本当にごめん」
翔悟はその場の全員に向かって頭を下げた、全員がその行動に驚いた。
「もしかすると本当に・・・・・・・っ。でも、湊はこうしてここにいる、助けられたんだ。加奈が助けられない訳がない。湊と一緒にいなかったということだけでそう決めつけるのはあまりにも酷すぎる。湊は天界にいた。だから加奈もこの壊れている世界のどこかにいるはずなんだ。だから、もう少し俺に時間をくれ。必ず加奈を連れて帰ってくるから」
希望を捨てることは誰にでも簡単にできる。だけど、希望を持ち続けることはとても難しく誰しもができるわけではない。
翔悟の話は嘘になるのかもしれない。しかし、力持つ者は希望を捨ててはいけない。力を持つならば簡単に諦めず、その結果がわかる最後の最後まで戦うしかないのだ。
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街に帰ってきて数日が経ったある日のこと、昼休み、教室で湊と友香と慧が三人で昼食を取っているとついていたテレビからニュースが流れた。
『ニュースをお伝えします。昨夜また一人、行方不明者が出てしまいました。今回のでここ数日で行方不明になった方は30人を越えました。これらの一件を受けて・・・・・・』
「嫌な話だな」
そう言ったのは湊だった。自分がいなかった頃のことを考えたのだろう。そう言っている湊の顔はとても険しいものだった。
「どうしてこんなことが起きるんだろう」
友香の疑問は当然だ。行方不明なんてものはそう簡単に起きるようなことではない。何かあるんだと翔悟は確信していた。根拠はないから大したことは誰にも話せないがもしかしたらということがある。気をつけて生活していかなくてはいけないと皆に伝えた翔悟である。
その日の放課後、突然それはやって来た。
訓練を行うため駐屯地に向かおうと湊と友香と綾華と四人で一緒に下足室を出たとき大きな爆発音が鳴り響き、校舎が揺れた。急いでグラウンドに避難し、校舎を見るとだんだんと校舎が崩れていっていた。
何が起きているのかわからない翔悟たちの前で校舎は完全に崩れた。
2日前、大輔とエミリ、正臣、辰生が仕事のため他国に行くその前日、大輔と話したことを翔悟は思い出した。
「俺たちがいなくなることでこの国は手薄だと思われる。政治的にも戦力的にも。他の国との関係性はあまりいいとは言えないからな今なら落とせるとか考えているやつらがいるだろう。それだけならいいんだが、戦争と天界遠征のおかげでかなりの戦力が削られている。かなりの高確率でこの国は狙われる。だから行方不明者が出たとかいろんな話があるがそれも引っくるめて気を付けろよ」
もしかすると崩れた校舎が敵による仕業なのだとしたら翔悟は戦わなければならない。大切な人たちを守るためにも。
周囲を警戒していると崩れた校舎の中から二つの人影が見えた。
「ターゲット三人、全員発見したよ凛」
「ええ、早速交戦と行きましょうか蓮」
それは新たなる敵の出現だった。