いやぁ、やっとですね。
ここまで来るのに駄文も加え大変でしたよ。
では、駄文極まりないですがどうぞぉ!
「やあ、調子はどうだい?」
俺の道を隠す霧がそう尋ねてくる。
俺は何も答えられずに、ただ、ただ、その霧を見つめていた。
「君の思い通りの演奏はできているのかい? 有馬や、君の演奏をつまらないと評価した者たちに認めてもらえる演奏はできているのかい?」
わからない。
まだ自分の変わった演奏を大舞台で披露したことがないため、自分が変わったという実感は、ハッキリ言うと無い。
「本当に変わってよかったのかい? 君の演奏を他の誰かに知ってるように言われて直してよかったのかい?」
わからない。
前の演奏に強いこだわりがあったわけじゃ無い。
でも、あの演奏は俺にとっても楽しかった。
「コンクールに出て恥をかくんじゃないか? だって君の今までの演奏は恥をかかない忠実な演奏だったんだから」
わからない。
でも、一つだけハッキリと言える。
別に恥をかくことに抵抗はない。
だが、今の演奏を誰にも聞いてもらえないのが……誰の心にも響かなければ俺は折れてしまうかもしれない。
「じゃあ、君は作曲者たちをどう弾きたい?」
「行ったれ!! 渡!!」
オラァァアと音が出るほどの気迫で応援をするのは宮園と澤部。
俺、有馬、柏木はその応援を苦笑いで眺めていた。
渡がドリブルで駆け上がると、右からディフェンスが立ちふさがる。
だが、渡は勢いを止めることなく、右足をボールよりも前に出し、後ろに残っているボールを左足で右側へと弾いた。
「入れ替わった!」
「行けー!」
そして、一気に抜くと、ボールの右上を狙い足を振り抜く。
ドンッという音ともに放たれたボールは右上のポストに当たり、外へと弾かれた。
「おしー!!」
そして、ゆっくりと審判が笛を口に付け、澄み切った空にホイッスルが乱反射した。
墨谷中学サッカー部の夏は1対0で終わりを迎えたのだった。
「渡も負けちゃったか……。 残念」
渡は決して涙を流さない。
地面に悔し涙を流す選手に声をかけ、整列へと促す。
そして、渡は俺たちの方を向いた。
「応援サンキューな。 公生、佑樹」
「かっこよかったよ」
「お前がサッカーこんなにできるなんて……」
渡はその言葉に左目を閉じ、ウインクをする。
「スターになりそこねちまった。 後はお前らに任せるわ」
「……?」
「……?」
俺と有馬が同時に何言ってんの? みたいな表情をしたが、渡は答えるでもなく、整列へと歩いて行ってしまった。
「ホントにかっこよかったよ」
有馬はその後ろ姿を見てポツリと溢したのだった。
こうして、渡と椿の中学最後の大会は幕を閉じたのだった。
「さて、暗譜できるようになったな」
そう悪魔の囁き同然の声を上げるのは我が兄貴。
まだ2日しか経っていないが、兄貴の練習はスパルタだった。
練習は学校から帰ってきてから夜の11時までやり、その間の休憩は無し。
既にピアノを見るのさえ嫌になってくるほどだ。
「こら! 集中しろ!」
「ってえ!」
少し考え事をしていると、この様にハリセンで頭を叩かれる。
この為だけにハリセンを作ったのかと思うと、兄貴は相当ヤル気になってるのが見てわかる。
「お前、時間ないんだから、もっと集中しろよ」
ジト目でそう言われた為、俺は鍵盤に置く指に全神経を集中させていく。
「うんうん。 いい感じだ」
その声を最後に俺は自分の世界へと埋没して行ったのだった。
演奏が終わると本当にこれでいいのかと不安になる。
ピアノの音は消えるくらいに集中している為、前と同じ演奏になっていないか不安で仕方がない。
それを兄貴に聞いてみたところ、心配ないと一蹴りにされてしまった。
なので、俺が自分の演奏を知ることなく日々は過ぎていく。
「有馬のやつ走るの遅くね?」
「いや、文化部ならあれくらいだろ」
体育では持久走になり、一足早く終わった俺と渡は未だ走っている有馬を見ていた。
「有馬は文化部じゃなくて帰宅部だけどな」
「お前も帰宅部の割には速いよな」
「いや、まぁ……まぁな」
理由としては兄貴のマラソンに付き合ってただけなのだが、兄貴にの性格上それだけでムキになって小さい頃はよく競争をしていた。
「あ、こけた」
ドサっという音ともに有馬は地面に倒れ、俺と渡はポカーンと見ていた。
だが、いつまでも立ち上がらない有馬に周りが慌て出す。
「有馬!? 誰か水!」
「保健室の先生呼んでこい!」
そして有馬は保健室に搬送されたのだった。
「そういえば、佑樹って何気なくいるけど、俺たちのこと聞かないよな」
放課後、サッカー部も終わり「今日はサッカー行かねぇぞ!」と何故か宣言した渡は俺と一緒に教室にいた。
決して俺は練習を少しでもサボる為に残っているわけでは無いと言っておく。
その中、渡はそう呟いたのだ。
「聞いて欲しいのか?」
「いや、俺の過去、話しても仕方ないし、お前の気になる公生のこと話そうか?」
「気にならないと言えば嘘になるし、聞かせてもらえるなら聞きたいな」
俺が素直にそう言うと、渡は窓から遠くを見つめるように視線を動かした。
「俺も椿ほど詳しくは無いんだけど、あいつの親結構厳しかったんだよな」
「厳しい?」
「お母さんがさ、ピアニストだったんだよ。 でさ、俺たちが遊び誘っても、いっつもピアノあるからって断りやがるんだぜ?」
それは兄貴に似ている。
俺はそう感じながら聞いていた。
兄貴も中学を卒業するまでは自由に遊ぶことさえできないほど縛られていた。
だが、一度だけ、中二のちょうど沙耶さんと付き合い始めた時、親の目を盗んで遊んでいた時期があったが、俺の知らないところで罰を食らっていたらしい。
今思えば、その兄貴に「俺が楽しくてピアノやってると思ったのかよ!」っていう言葉を貰ったなと懐かしい記憶を思い出す。
「だけど、11歳の頃にな。 お母さん死んじゃったんだ」
憂い顔で外を見つめる渡に俺も視線を外してしまう。
その時期頃に有馬はピアノから離れたのだから理由はそれなのかもしれない。
「公生はその頃から、どこか穴が空いちまったような気がするんだ」
「渡はどうにかしたいと思ってるのか?」
先ほどから言葉を並び続ける渡にそう尋ねると渡は首を横に振った。
「俺には無理だから」
自虐的に笑みを作る渡に俺は首を傾げた。
「あいつを変えられるのは同じ人種もしくは演奏家なんじゃねーの? 俺らの言葉じゃ、届かないだろ?」
ニカっと笑う渡に俺は視線をズラした。
そうだ。 だが、有馬は演奏家の言葉じゃ変えられない。
「それは違うぜ。 渡」
俺がそう言うと渡は「ん?」という声とともにこちらを向いた。
「有馬を変えられるのは同じ人種でも演奏家でもないんだよ」
「何言ってんだ」
「あいつを変えられるのは宮園だけなんじゃね?」
俺がニカっと笑うと渡は一瞬ポカンとした後にブフッと吹き出した。
「そうだな。 かをりちゃんだけだ。 今の公生を変えられるのはな」
そう言って俺らは笑いあったのだった。
「やぁ、調子はどうだい?」
前と同じ道にかかる霧が俺にそう尋ねてくる。
「君の演奏は変わってしまったのかい? 前の演奏は観客にはわからないが、審査員や演奏家からしたら素晴らしい演奏なんだよ?」
「そうだな」
「それを周りの意見で変えてしまっていいのか? あの演奏は君に才能があるからできる演奏なんだよ?」
「そうだな。 才能あるかはわからないけど」
「そんな気持ちで明日のコンクール乗り切れるのか? 恥をかかないの言えるのか? 君の演奏は完璧なのか?」
「ある男の子は強い暗闇の中でも必死に這い上がろうとしている。 だから俺もその男の子が這い上がるなら俺も這い上がらないといけない」
俺が話し始めた内容に霧は特に何も言わずに黙りを貫く。
「だから、俺は今度は超えてみせる。 二度と模倣なんて言わせない」
「そうか。 答えになってないよ」
「うん」
「もう大丈夫だね」
「うん」
それを最後に少しの霧が晴れていく。
「明日は大変な1日になる」
「ついにこの日だな」
朝、規則通りの朝食を食べていると兄貴がそう溢した。
もちろん、父さんはこの場に居らず、母さんも台所にいる為、今は兄貴と俺の二人きり。
「兄貴にはお世話になったよ」
「何言ってんだか」
俺の言葉に兄貴はやれやれといった感じで溜息を吐く。
「お礼は優勝してから言ってくれ。 俺の生徒が予選落ちとか笑えないからな?」
「兄貴の名前を汚すことはしないさ。 兄貴は俺の目標で……抜かす相手なんだから」
俺のニヤリと笑い放った言葉に兄貴も同じようにニヤリと笑う。
「最近、感じることがあるんだ」
唐突に話し始めた兄貴に朝食を食べる手を止めて視線を向ける。
「俺の周りには敵がいない。 俺と張り合えるライバルという存在がいない」
そこで言葉を切ると、兄貴は俺の方に真顔を向ける。
「お前が俺の立っている場所まで登ってこい。 そしたら俺はもっと上に行ける」
確かにそうだ。
兄貴の世代は兄貴の圧倒的センスにより周りは誰一人追いつくことさえできなかった。
だが、俺の代には有馬がいる。
他にも相座や絵見もいる。
そう考えるとなんと恵まれている世代だろうと思ってしまう。
「今は歳ってのは関係してくる。 だけど大人になれば歳なんて関係ないだろ? 天才は上に進み、凡才は落ちていく。 違うか?」
「その通りだよ」
兄貴の質問に俺はニコリと笑って肯定をする。
その後は言葉を交わすわけでもなく、黙々と集中力を高めるかのようにご飯を口に入れ込んだのだった。
「なんか大きい……」
兄貴と一緒に会場へと赴くと、あまりの大きさに息を吐いてしまう。
「それ程大きいコンクールだろうが」
兄貴は表情を変えることなく、中へと進んでいく。
そして、中に入ると兄貴は挨拶に行ってくるからと言って俺を置いて行ってしまった。
俺は迷子にならないように案内図を見ながら階段登っていくと、二人の人物が目に入る。
「絵見……」
「来たか、佑樹」
一人は俺のライバルで認めて欲しい人だ。
そしてもう一人は……。
「相座……武士」
相座 武士。
これまた才能ある演奏家の一人であり、海外進出への声もかかるほどの演奏家だ。
「ん? 誰だ?」
覚えてもらえていないのは仕方ない。
この世代の目に映るのは自分よりも上の順位と有馬だけ。
俺なんて眼中にもないのだろう。
「葉山 佑樹だ」
俺と相座は握手をすると絵見はニヤリと笑う。
「本気で来れるんでしょうね?」
「もちろんだ」
試すような言い方に俺は迷いなく即答する。
それを見た相座は自然と強敵だと見たのか、目の色が変わる。
「なんだ、お前知り合いなのか?」
相座が絵見にそう尋ねると、頷いた。
「同じ教室で学んだのよ」
「ってことは落合さんの?」
相座が確かめるように俺に視線を向けると俺は首を横に振った。
「俺の先生は兄貴だよ」
「兄貴?」
相座は不思議がるように首を傾げた。
「聞いたことない? 葉山 雄介。 四年前に有馬みたいなことをした天才演奏家」
「……マジかよ」
兄貴、葉山 雄介を知らない人物は居ないだろう。
それ程有名で歴史にも刻まれる程の演奏家なのだ。
「なら、今回のコンクールは嵐になるな」
それと同時に階段から上がってくる音が聞こえる。
その音の主は有馬で、ここに注目の四人が邂逅したのだった。