ここで悲報と言っていいのかわかりませんが、悲しいお知らせがあります。
実は今日急にバイト入れられてしまって……明日の分の投稿が書けません(T ^ T)
なので、次の投稿は明後日ということで
お待ちにしてる読者さんがいるかはわかりませんが、いるのなら、身勝手な都合により更新ができないことをお許しください
「やったー」
「あったー名前」
「調子よかったのにな」
「来年は6年だから頑張りましょ」
「やっぱ、あいつら一緒じゃなきゃダメか」
コンクールが終わるといつもこの賑やかさがあった。
「ウチのコまた落ちちゃった。 悔しいけど素晴らしかったわ。 井川 絵見ちゃんに相座 武士君」
そして、毎回この2人を褒め称える大人の声。
俺はいつもこの声を絵見の隣で聞いていた。
悔しさもあったが、やはり同じ教室の生徒として誇らしくもあった。
だが、それゆえに。
「頭一つも二つも抜きん出てたわ。 練習量の多さを窺わせる。 レッスンのたまものね。 それだけに残念。 より有馬君が際立っちゃう」
この声は許せなかった。
だが、俺にはなにもできない。
絵見の代わりに有馬を倒す技術も無ければ、ましてや絵見にも勝てないからだ。
「またまた有馬君の引き立て役ね」
俺はそれを聞くたびに泣きそうになった。
自分の事ではないのに。
絵見の演奏はそんな演奏じゃないのにと噛み締めながら。
「ムカつくぜ! 有馬の奴」
バチンと手のひらに拳を当て音を鳴らしたのは相座。
彼も有馬の引き立て役と言われている絵見と同じ演奏家だ。
「また負けたから?」
「違うわい!! 本選勝利への布石だ。 それよりも! ……あのヤロー」
この後に相座が言いたいセリフは予想がつく。
俺も多分、相座と同じ事を思っているからだ。
「当然のように、結果も見ないで帰りやがった」
悔しいってもんじゃない。
まるで俺らの存在を否定してるような行動に怒りさえ湧いてくるのだ。
「ちっとは喜びやがれってんだ!! ……ハッ! それはそれでムカツク!」
怒りを抑えきれない辺り、相座は年相応に見えるが、俺や絵見は落ち着いており、周りから年不相応に見えた事だろう。
「あいつは興味ないのよ。 他の人にも私達にも」
「そうだな。 きっと有馬の目には俺らは映っていないんだ」
「お前らはクールだね」
絵見の意見に同意するように俺が言うと、相座は納得してないようにそう言った。
だが、それは間違っている。
絵見は恐ろしい形相で怒りを隠しているのだ。
いや、隠せてはいなかったけど。
(俺に関心が無いのはわかる。 だって俺はお前たち同じ土俵に立ってないから。 でも……絵見や相座はきちんと見てやれよ……有馬)
階段を上ってくる有馬を見て、俺は過去を思い出していた。
あの時思った感情と今の感情は全く違う。
(昔は俺なんて見てもらわなくても構わなかった。 でも今は見なかったら殺意が湧いてきそうだ)
「あれって……」
「うん」
相座の言葉に絵見が頷く。
「久しぶり……だな有馬」
相座が緊張したように声をかけると、有馬はふいっと横を向いた。
そして……。
「……えっと、どちら様でしたっけ?」
有馬の声は俺らの耳にクリアな程響いた。
「……なッッ!!」
「あ、でも葉山は知ってるよ」
「まぁ……そりゃな」
逆に同じ学校であれだけ絡んでたのに知らなかったら俺は泣く自信がある。
「なんで! こいつの事知ってて俺のことは……!」
相座が驚愕の顔でそう言うと絵見が一歩前に出た。
「武士、佑樹と有馬は同じ学校だから」
「な、なんだと」
驚愕の顔を消さず、俺と有馬を交互に見やる相座に俺は吹き出して笑ってしまう。
そして、有馬の方へ向き直る。
「有馬、今回のコンクールは今まで通りだと思うなよ。 お前の経験した事無いコンクールにしてやる」
「……え、うん」
俺の意気込みに有馬は動揺しながらもしっかりと頷いた。
俺はそれを見て、頷くと身を翻して先へと進む。
「佑樹、もう行くの?」
「あー、先に行ってる」
「じゃ、私も」
俺が行くと、後ろに絵見が付いてくる。
「ちょ、待てよ!」
当然のように相座も走り、追いかけてきたので、有馬は一人残される感じになった。
「誰だったけ……」
有馬の声が虚しく響き渡ったのだった。
「ウラァー!!。 有馬のヤロー、俺らの事忘れてやがった!!」
「どうどう、落ち着け武士」
「そうだぞ、集中できない」
相座は有馬に覚えられていないことにご立腹な様子で喚き散らす。
「心を乱すな。 お前の出番は早いだろ」
絵見にしては落ち着いてるなと思いながらも、俺は考える。
有馬は俺らのことを忘れたのか?
違う。 あいつは元々俺らなんて見てない。
今のあいつは2年前の壁にぶつかっている。
しかし、改めて絵見に視線を戻すとゴゴゴという音が聞こえるほどに怒りを露わにしてるのを見て、人は2年じゃ変われないなと苦笑してしまう。
『ブーン……これより、審査を開始いたします』
放送が流れ、俺らは移動を始めた。
俺らはモニターで演奏者を見ている。
パチパチという観客の拍手を耳に入れながら見ていた。
「初めて会ったのは小学校3年の時」
その中、相座は唐突に口を開き始めたので、俺と絵見は目線だけを相座に向ける。
「『次こそは次こそは』って手を精一杯伸ばして、捕まえたと思ったら、蜃気楼のように遠くにいる」
同感。
それ以外俺も思うことはなかった。
模倣だと言われても、どこかで違うと思っていた自分もいる。
有馬と同じなら俺は絵見にも相座にも勝っていたはずだ。
その中で俺が上に上がれなかったのは、有馬という存在を認めたくなかったから。
どこかであいつと同じ演奏はしたくないと思ったから。
「今日やっと、いるべき所に帰ってきた。 ーー2年間、この日を待ってたんだ」
相座の言葉に3人の目に火が宿る。
それは聖火のように消えることが無く燃え出す。
俺が変わる……人の為に弾く大舞台。
それぞれの気持ちを胸にコンクールが始まった。
「3番、川中 優子さん。 準備、お願いします」
名前が呼ばれる中、相座の出番を近づいてきたのか、相座はトイレに行ってしまった。
周りを見る限り、震え、自分の出番に恐怖してるのが目に見てわかる。
「4番、相座君、準備お願いします」
その名前が呼ばれた瞬間に顔を青くした相座が俺の横を通り過ぎて準備を始めたのだった。
俺は何も言えなかった。
何も言ってはいけないような気がしたからだ。
モニターの前に戻るも絵見は動かずにそこにいた。
「佑樹の出番は何番だっけ?」
横から投げかけられた絵見の声にさえ、俺はびくりと肩を揺らしてしまう。
「6番だよ」
「もうすぐだ」
まるで死刑宣告されたかのような錯覚に陥るほどの落ち着いた声に俺は視線を絵見に向けてしまう。
「ホント、絵見は落ち着いてる」
「緊張しすぎて恐怖も通り越しちゃったのかもね」
俺は微笑を漏らすとモニターに視線を戻した。
「相座……武士か」
「ド本命だからね。 去年のチャンピオン相座 武士」
「ド本命か」
俺がいない間に相座は上へと上り詰めた。
いや、俺がいたとしても、相座は上に登っていただろう。
先程とは打って違い、凛々しい顔に俺はモニターから目を離せなくなる。
「やる気は満々、表情はいい。 恐ろしく強い相手」
絵見の声が俺の耳に聞こえてくる。
「相座の練習量は想像したこともないけど、風格がすでに周りより頭一つ抜きでてるな」
「佑樹が遊んでる間に私達とは差ができてるって言ったでしょ」
今ならわかる。
俺がピアノから離れていた時間は決して短くなかったのだ。
小学生ん時とはレベルが違うのだと弾く前から感じ取れる。
相座は椅子に座り、目を閉じた。
そして、次に目を開けた時には覚悟がビシビシと俺の体を駆け抜けた。
相座が指を置いた瞬間、音が鳴り響く。
「かっけぇ」
俺の意識せずに漏らした言葉に絵見の笑みが深くなる。
「軽快なプレリュード、そしてフーガ、堅実なタッチ、端正な解釈。 これが相座」
「わかった?」
何がという聞き返しは無粋だろう。
意味はなぜかわかってしまう。
「あぁ、壁は大きいな。 ピアノが鳴ってる」
ビリという音が鳴ったと思わせるように曲が変わる。
「すぐにエチュードに入るのか」
「さっきから独り言が激しい」
俺は今になってようやく自覚をした。
自分が独り言に気付かないぐらい相座の演奏に魅了されていたのだ。
「でも、わかる。 誠実に音楽と向き合う姿勢。 恐れに立ち向かう強靭な意志。 根底にそびえる揺るがない幹。 これが相座 武士なのよ」
絵見はそう言いながら爪を噛んだ。
悔しそうな顔に俺は自分は絵見に同じような顔をさせられるだろうかと考えてしまう。
後ろに気配を感じ、振り返る。
それは絵見も同じだったようで、俺と重なるように後ろを振り向いた。
(有馬……お前が他人の演奏を……)
俺は意外な人物に目を見開いてしまう。
有馬がこの場に来るとは思っても見なかった。
今回も、自分の演奏を弾いて満足するものだと思っていた。
(変わったのか? 有馬)
声は届いていたのだろうか。
俺の有馬へ接した時間は無駄ではなかったのだろうか。
疑問に思うことは、途轍もなく多い。
だから、こんな所で声を出して質問するなんて愚行はしない。
この場はピアノで語る場所だから。
再度、相座の演奏に目線を戻すと、やはり、感動を覚えてしまう。
ピアノに乗って聞こえてくる。
『俺はお前に追いついたか? それとも遠ざかったか? また蜃気楼のように追いかけさせてくれるか? 俺の憧れでいてくれるのか?』
そうピアノが言っている。
相座は今、ピアノで語っているのだ。
それを有馬はバカみたいにガン見している。
そして、手を上にあげ、相座はニヤリと笑う。
まるで、『次はお前の番だ』と訴えかけるように相座 武士の演奏は終わりを迎えたのだった。
(これが……)
圧倒されたこの一言に尽きる。
俺のやりたい人の心に住み着く演奏をやり遂げたのだ。
まだ胸が熱い。
そのくらい俺の中に居座り続ける。
図々しいくらいにしつこく。
気づけば、俺は笑っていた。
高みは遠く高く恐ろしい。
でも、これが俺の世代。
素晴らしい。 この一言が相応しいと感じてしまう。
「あんたのせいよ」
絵見はポツリとそう溢した。
「武士をあそこまでしたのはあんたよ。 有馬 公生。 全てはあんたに追いつくため。 そうピアノが言っている」
俺は何も言わずに、聞き入る。
「君もそうなの?」
「……笑わせないで」
絵見の声が恐ろしく俺の耳を通過したのだった。
相座が戻ってくると絵見は「おつかれ」と一言、漏らす。
「どうだ! みたか有馬!!」
「うん。 凄かったよ」
今までと違う反応の有馬に2人は驚愕の顔になる。
俺は普段から有馬の接していたからか、そうでも無いが、2人にとっては意外なのだろう。
『これより15分の休憩をとります。 45分から審査を再開いたします』
その声は相座の演奏を引き立てるかのように鳴り響いたのだった。