駆け巡る嘘   作:ぱに

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はい、まだやる気があるので連日投稿できました。
いつまでできるかはわかりませんが、精一杯やり、完結させたいと思います。


苦難の要求

普段なら演奏と聞くとピアノしか思い浮かばなかったが、聴くものが違うとわかるだけで随分と気持ちが変わるものだなと俺は思っていた。

 

「てか、演奏開始まで、あと30分しか無いじゃん」

 

携帯で時間を確認すると自分がチンタラ歩いていたのを自覚する。

少し駆け足気味になりながら、藤和ホールへと向かうと途中で足を止める。

 

(なんで走ってるんだろう)

 

元はピアニストである自分がヴァイオリニストの演奏を聴くのだって珍しいことだ。

 

(ゆっくり行こう)

 

走って汗を掻いてと不快感が残るだけだと思い、さっきと同じペースで歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

藤和ホールに着くと懐かしさが全身に駆け巡る。

 

(ここが俺の楽園だった場所)

 

そう考えながらも重たいドアを開け観客席に着き、空いてる席に座ると周りが騒がしいことに気づいた。

 

『あれって有馬だよな?』

 

『有馬君だ!!』

 

『有馬ってあのピアノの?』

 

『大人になってる』

 

『彩木コンクールで最年少優勝した?』

 

『外国に行ってるんじゃなかったの?』

 

『なんでヴァイオリン部門に?』

 

そんな声が聞こえ、つい目で探してしまった。

そして見つけると瞬時に席を立ち、有馬の元に向かう。

何故だか、知らないがこの時ばかりは有馬と一緒に見たいと思ってしまった。

 

「よ!! 元有名人」

 

「クラシックの世界は狭いね」

 

確かサッカー部の渡 亮太がそう言い、澤部がそう言うと有馬はブスッとした表情になった。

 

「有馬」

 

俺がその中、座った3人に声を掛けるように有馬の名前を呼ぶ。

当然といえば当然だが、有馬は誰だかわからない顔をし、首を傾げる。

 

「あれ? 佑樹じゃん」

 

有馬が質問するよりも先に渡が俺の名を呼ぶ。

名前呼びされるほど仲は良く無いが、フレンドリーな性格な為、下の名前で呼んでいるのだろう。

 

「え? なに? 渡知り合いなの?」

 

澤部がそう言うと、渡は大きく頷いた。

 

「あ、こいつ俺と同じクラスの葉山 佑樹って言うんだよ」

 

渡が自己紹介するが、俺は有馬から目を離さない。

 

(向き合わなきゃ……いつまでもこのままじゃ前に進めないんだ)

 

「有馬。 お前はもう戻ってこないのか?」

 

俺の質問に有馬は理解できたようで顔を俯かせる。

それは無言でも答えていた。

 

「隣……いいか?」

 

「え? あ、うん」

 

澤部に言うと、一瞬驚きもあったものの了承してくれた為、席に座る。

 

「てか、お前ワザと黙ってたな!! 彼女の演奏聴くって」

 

有馬が話題を切り替えるように澤部に言うと、澤部は苦笑いで返す。

 

「だって、知ってたら公生……来なかったでしょ。 黙って一生懸命黙ってた」

 

そう言うと今度は真顔になる。

 

「やっぱり、ピアノにはイヤな感じしかない?」

 

俺にはその意味がサッパリわからなかったが、あそこまでの努力を積んだ有馬がやめるくらいなのだ。

相当な理由があったと俺はわかっているつもりだ。

 

『これより、審査を開始します』

 

放送により、響き渡る開幕に俺らは前を見る。

そして、最初の演奏者が出てくると観客からパチパチと拍手が鳴り始める。

 

(課題曲、ベートーヴェン、ヴァイオリンソナタ第9番『クロイツェル』……か)

 

様々な人が演奏する違った演奏に目を閉じ聴き入る。

 

「同じ曲ばっかでつまんない」

 

澤部の愚痴にズッコケそうになりながらも隣を見る。

しかし、それよりもその2席間をあけた場所に座る渡に目がいってしまった。

 

(も、もう寝てる!?)

 

「でも、お客さんけっこう入ってるね。 ちょっとビックリ」

 

俺が驚いていると澤部がそう言う。

 

「このコンクールは新設された全国規模の大きいやつで、ちょっと注目されてるんだ。 主催者がちょっと変わってて、普通、予選ではバッハやパガニーニなど伴奏が無い曲が課題になるんだけど、このコンクールは全てピアノの伴奏付き、結構珍しい。 優勝者は主催者所有のグァルネリでリサイタルできる特典がある」

 

「ふーん」

 

長たらしい有馬の説明に見てわかるほど澤部は理解していない。

 

そんな会話をした、直ぐ後に演奏者の音がズレた。

 

「なんか下手っぴ」

 

澤部が小さい声で有馬にそう言うが、有馬は聞く耳を持たない。

 

(手が……)

 

俺は肘掛けに指を動かす有馬を見て、やっぱ、捨てきれてないのかと若干の希望を感じた。

 

「次、かをちゃんだ」

 

「かをちゃん?」

 

澤部の嬉々とした声に俺はつい尋ねてしまう。

 

「あー、葉山くんは知らなかったね。 宮園 かをりちゃんって言って、今日ここに来たのもその子の演奏を聞く為なんだ」

 

そう説明してくれてる間に、渡は有馬に起こされ、俺も自然と出てくるであろう、かをちゃんと呼ばれる少女を待つ。

 

「待ってました! よ!」

 

「あいの手うつな! シー」

 

「かをちゃんキレー!」

 

「シー!」

 

渡と澤部が騒ぎ、それを必死に止める有馬を見て、本当に個性派揃いだなと苦笑してしまう。

しかし、出てきた少女は確かに綺麗で2人が騒ぐのも頷ける。

 

(宮園 かをり……か)

 

宮園は観客を見て緊張してないような顔で見つめると何か喋り、ヴァイオリンを構える。

 

「ッ!!」

 

弾かれた演奏を聴いた瞬間俺は手が震えるのを抑えきれなかった。

 

(なんだよ……これ)

 

弾いてる曲は間違いなく課題曲『クロイツェル』。

しかし、これは……“冒涜”だ。

 

俺の中では少なからずある楽譜に忠実にという言葉を無視した自分勝手な演奏。

テンポも強弱もデタラメ。ピアノまで無視して勝手に弾いているのだ。

 

(これは作曲家にケンカを売っているようなもんだろ)

 

そんなことを思った瞬間、落合先生の言葉を思い出した。

 

ーー『葉山 佑樹の演奏を創り出しなさい』

 

(コレがそうだというのか?)

 

この曲は既にもうベートーヴェンのものではない。

この曲はまぎれもなく、彼女が創り出した“彼女だけのもの”。

 

(こんなのが……俺が言われたモノなのかよ)

 

演奏が終わると一気に大歓声に包まれるが、俺はその場から動けないでいた。

 

『和製ナージャ!』

 

『ブラボー!』

 

そんな声が響き渡る中、渡も例外ではなかった。

 

「かをりちゃんサイコー!」

 

(作曲者に盲従しない、圧倒的な個性)

 

これが俺の求める新たな理想型。

 

「すごい。 まだざわついてる。 ライブ会場みたいだね。 優勝かな?」

 

「え? ああ」

 

澤部の嬉しそうな顔に有馬は一瞬、吃ると静かに質問の答えを返した。

 

「優勝も入賞も無理だよ。 減点多すぎ。 楽譜の指示通り弾かないなんて絶対ダメ」

 

「なんでよー。 みんな喜んでたじゃん」

 

確かに観客の歓声はすごかった。

でも、これはリサイタルならわかるけどコンクールではダメだ。

 

「リサイタルならまだ、わかるけどコンクールじゃダメ」

 

有馬も同じことを思っていたらしく、俺は今は居ない宮園の居た舞台に目を移す。

 

(なんでだよ。 あれが俺の求めたい理想型なのか? あれじゃないと俺の演奏は“つまらない”のか?)

 

永遠と俺の中に渦巻くその疑問に答えられる者は居ない。

 

(なんで……あの演奏で、あんなに楽しそうに弾けるんだよ)

 

勝てなければつまらない。

それは俺の中にある大きい感情だ。

勝てば嬉しい。 負ければ悔しい。

当たり前の感情ゆえに宮園 かをりの演奏が理解できない。

 

『15分の休憩に入ります』

 

休憩に入り、俺も混ざり4人で外に出る。

 

『すごかったね4番』

 

『あれでいいの?』

 

『宮園かをりでしょ? 名前覚えちゃった』

 

『私ファンになっちゃった』

 

『インパクト大だよねー』

 

「すごーい」

 

聞こえてくる宮園の好評な評価に澤部は感嘆の声を漏らす。

 

「みんな、かをちゃんの話してる。 かっこよかったもんね」

 

「ライブに来てるみたいだったね」

 

2人の評価も高いようで俺は俯いてしまう。

そして、極め付けはこれだった。

 

「唯一起きてられたぜ」

 

「1番手から爆睡は最低よ」

 

(“唯一”か……俺の演奏も宮園以外の演奏者と同じに映ってるのかな)

 

そんなことを思案していると、前に話の話題を握っている宮園本人が居た。

 

「感激しました! これ……お花」

 

「わー。ありがとう」

 

年下の少女たちから送られる花を見て宮園は本当に嬉しそうに笑う。

 

「あ、宮園さん。 審査終了の30分後に結果張り出すから」

 

「気にしないでください。 そういうの私興味ないですから」

 

その言葉は俺の心の疑問をさらに深く、濃くしていく。

 

(結果に興味はない……か)

 

自分には考えられないことだった。

いつでも、自分の上には、井川 絵見。 相座 武士。 そして有馬 公生がいて、そいつらを抜かすことだけを考えていたからだ。

 

「かをちゃーん」

 

こちらに気づいた宮園に澤部と渡は声を掛ける。

 

「ちょーかわいかったよ」

 

「ありがとー」

 

「かをりちゃんが優勝だよ」

 

「アハハ。 無理無理」

 

そんなカップルの映画のワンシーンみたいなものを目の前で見せつけられ、俺は若干の気まずさを感じる。

 

「君はどーだった?」

 

「え!?」

 

驚く有馬に宮園は無邪気な笑みを浮かべる。

 

「すごかったでしょ。 私。 どう……だった?」

 

「えっと……あの……まぁま……一次予選で花をもらった人を初めて見た」

 

震える宮園の手に気づいたのか有馬は嘘ではない真実の感想を述べ始める。

 

「しかも、知らないコ達だろ? 花を用意してるわけないし。 あのコ達にとって……君の演奏を聴いて、あわてて花を買って渡した今日のことは忘れられないよ。 多分、そういう演奏だった」

 

確かにそうだ。

俺だって認めたくはないが、どこか考えさせられる魅力的な演奏だった。

多分、この演奏を聴いて不満に感じてるのは勝ちに固執している演奏家と審査員くらいだろう。

 

「どんなもんだい」

 

そう言って笑う宮園は本当に映画のワンシーンのようだった。

 

「それで、君は?」

 

俺の方に話が振られ俺は少なからず動揺する。

 

「葉山 佑樹」

 

「君はどうだった?」

 

「俺は……」

 

俺の返答を嬉々とした表情で待つ彼女に認められないなどと言えるわけもなく、俺は苦渋の表情で一言言った。

 

「俺はわからない」

 

「わからない?」

 

「君の演奏は人を楽しませる演奏だったよ。 でも何かが違うって訴える気持ちもあるんだ」

 

「……そう。 君は何でここに?」

 

「先生に自分を創ってこいって言われたから」

 

その答えを特に何か言う訳でもなく宮園は渡の元に戻っていく。

 

俺はそんな彼女の背中を見つめることしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『一次予選、通過者を発表します』

 

聴衆推薦:宮園 かをり

 




ちなみに自分が元にしているのは単コミックなのでアニメではなかった表現がある場合もありますが、ご了承ください。
今悩んでるのは原作は高校編を描いていませんが、この二次小説は書こうかなということです。
まぁ、おいおい人気があれば書こうかなと思っています。
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