この調子で行くと44話くらいに終わるんでしょうか?
まぁ、多分話を詰め込みたいのでもしかしたら増えるかもしれない&自分の駄文が増えるかもしれませんが、そこらへんは温かい目で見てくれると幸いです。
絵見に演奏を聴いてもらった次の日、俺は学校へと通学をしていた。
「澤部、おはよー」
「おはよー」
俺がそう言うと澤部は紙パックのオレンジジュースにストローを差し、それを咥えた状態で軽く左手をあげた。
すると後ろからドドドといった効果音がつきそうなくらい走り音が聞こえてきて俺と澤部は後ろを振り返る。
「まてコラー!」
「だから、ムリだって言ってるだろ!」
走っていたのは先頭を有馬、その後ろを追いかけるように宮園が恐ろしい形相で走ってきていた。
なにが理由で追い回されてるかは知らないが、顔から見るに切羽詰まっているようだ。
「おとなしく! 伴奏! しろーー!!」
「ギャーー」
器用に靴を脱ぎ、手に持つと宮園はそれを有馬に投げつけ、見事頭にクリーンヒットさせた。
『なに今の?』
周りがそうコソコソ話す中、俺は“伴奏”という言葉に引っかかり、隣にいた澤部に問いかける。
「伴奏って?」
「さぁ?」
澤部の飲み物を啜る音がズズっと聞こえたのだった。
その後は特に何か変わったという事もなく、学校生活を過ごしていく。
俺は渡と同じクラスという事もあって基本、渡と一緒にいる時間が長い。
「渡、今朝のあの鬼ごっこ事件なんだったんだ?」
昼休みになると日常となった渡と一緒に昼食を始める。
「んー、わかんねえな。 大方、かをりちゃんを公生が怒らしたんだろ」
そう言うと紙パックの飲み物を啜り、昼食に手をつける。
すると、俺は昼休みに流れる曲に耳を奪われた。
「なぁ、渡、いつもはポップスなのに今日は随分、変わった選曲だよな」
「俺そんなの気にした事ねえからわからないよ」
渡の返答にハハハと笑い曲に耳を傾ける。
(サン=サーンス、『序奏とロンド・カプリチョーソ』……か)
しかし、別に嫌いな曲というわけでもない為、それを聞きながら俺は弁当を食べる。
昼食を食べ終わると俺と渡は音楽室に向かっていた。
無論、有馬と話すためだ。
目標を変えたとはいえ、俺の中では有馬の存在は大きすぎるからだ。
しかし、音楽室に向かう途中、俺らは澤部と宮園に腕を掴まれ引っ張られた。
「ったく、誰だよ……かをりちゃん!?」
渡はいきなりの事にキレそうになっていたが、引っ張った相手を見て満面の笑みになる。
「葉山、お願いしたい事があるんだけど」
澤部が俺に向かって言ってきた為、俺は首を傾げる。
「お願い? 俺にできる事ならやるけど」
俺も了承を返すと2人は音楽室に向かって指を指した。
「あそこに有馬君がいるんだけど、どうにかして私の二次予選の伴奏をしてもらいたいの」
「二次予選?」
「うん、聴衆推薦ってので二次予選弾けるようになったんだけど、それの伴奏」
俺はそこまで聞いて朝の鬼ごっこ事件との繋がりを感じた。
「なるほどね。 それで有馬は拒否してると?」
「そうなのよ。 本人が言うには自分が弾くピアノの音が聞こえないんだって」
それがありがちかと言われれば間違いなくノーと答えるだろうが、あの11歳の秋にそんな事があったのかと思えば不思議とやめた理由として納得できてしまう。
なにが原因で聞こえなくなったのかはまだわからないが。
「それでさ、葉山君に公生の気持ち聞いてきて欲しいんだ」
「俺に?」
「うん。 だって君も“演奏家”でしょ?」
俺はその言葉に少なからず、衝撃を覚えた。
確かに演奏家だが、俺は中学に入ってからはピアノをやっているなど見られた事はあっても、自分から誰かに言ったことがないからだ。
「どうしてそれを?」
「君の演奏は安定しているもの。 有馬君とも違う。 常に安定した演奏で作曲家の心情を細やかく捉えてる」
そこまで知られてるとなると苦笑いしか浮かばない。
「君もピアノが聞こえない?」
「いや、聞こえるよ。 ただ、今は俺の価値を探し中」
そう言うと置いてけぼりの渡と澤部が口を挟む。
「え? 葉山ってピアニストなの?」
澤部の質問に渡も首を縦に振る。
「そうだよ。 俺も……」
その先は言えなかった。
ピアニストとはピアノを使い人々に音楽を提供する人の事だ。
意味だけを言えば俺はピアニストなのだろう。
だが、俺は音楽の音の楽しさというものを伝えられたことはない。
「じゃあ、公生と一緒だ!」
澤部の天真爛漫な無邪気な笑顔に自然と心が締め付けられるような錯覚に陥る。
(違う。 有馬は自分の奏でる演奏で人々を魅了させた。 だが、俺は原本となに一つ変わらない、つまらない演奏なんだ)
自分の演奏を有馬の演奏と同じにするなど未来永劫叶わない不可能なことだろう。
「ってことで、葉山君。 有馬君のことよろしくね!」
なんとも強引に決めつけられ、俺は背中を押されるように音楽室の前に立つ。
後ろを振り返ると、3人がガッツポーズをしており、引き返せない事に苦笑いしか起きない。
静かに扉を開けて中を見ると、最初に飛び込んだのは楽譜。 楽譜。 楽譜。
しかし、楽譜はあっても肝心の公生がいない事に気づいた。
俺は辺り一面に貼られている楽譜を一枚取り、楽譜を見る。
(これ、昼休みの……)
その楽譜が昼休みに流れているサン=サーンス、『序奏とロンド・カプリチョーソ』だった。
俺はなんとも言えない気持ちに溜息を吐くと微笑を浮かべたのだった。
それからの一週間というもの、澤部と宮園の強引なやり口により、有馬の行く先に楽譜を貼ってるらしい。
そして、昼休みの演奏も一週間同じという流石に飽きる所業をし、俺のクラスだけでも不満の声は多かった。
その日の帰りは雨が降っており、俺はバスで帰ろうとバス停に向かうと、澤部と宮園と鉢合わせた。
「あ、葉山君」
「お、宮園と澤部」
バスが来て乗り込むと開口は澤部だった。
「いよいよ、明日だね。 晴れるかな? でも予選が平日なんて珍しいね」
「『子供に休日は必要だ』って主催者の持論」
「へー、イキじゃん」
「一次は参加者が多くて仕方なく土曜日にしたみたい」
俺はそんな2人の会話を聞きながら気になった事を聞く事にした。
「それで? この一週間、強引さが目立った感じだったけど、有馬やってくれそうなの?」
すると、澤部は食い入るように持っていた冊子を眺める。
「どーせ公生は、ばっくれるに決まってんだから」
そこまで言うと急に悪い笑みを浮かべた。
「力ずくで連れてく……」
俺はつい苦笑いしてしまったが、宮園は少し意気を落としていた。
「でも、本当に良かったかな……ムリヤリ伴奏なんて」
「いいのいいの。 公生にはこれぐらい強引にやらないと」
心の中で哀れ有馬と思いながらも澤部と宮園の会話を聞く。
「グッ! アイデアよ。 グッアイデア」
なにがだと言いたくなったが、それを抑え無言を貫く。
「あー、もっと渡も手伝わせよ。 女の子……かをちゃんのためなら嫌とは言わないよ」
その上、渡まで巻き込むつもりかと女子の思考に若干恐怖を感じたが、次の澤部の一言に毒気を抜かれる。
「二ヒヒ。 絶対ピアノを弾かせてやる」
「椿ちゃんは有馬君が好きなんだね」
その宮園の考えに俺も確かにと共感した。
普通、幼馴染といえどここまで積極的に動かないと思う。
「うーん。 ちょっと違うかな。私にとって公生は……」
しかし、それ澤部は否定すると考えるように少し上を向く。
「ダメダメな弟って感じ……正直言うとね私は公生がピアノをやろうとやるまいとどーでもいいんだ」
「え?」
突如明かされた澤部の考えに俺と宮園の疑問系の声が重なる。
「ただね。 やめるなら納得してやめて欲しい。 見てて辛いの。 今の公生中途半端だもん」
その言葉は俺の心にも深く侵入してくる。
俺だってそうだ。
コンクールにも出ないでピアノを弾いてる。
公生と同じに未練タラタラで、それでもピアノをやめられないから毎日弾いている。
「時間って止まるのね」
澤部の悲しそうな声と顔に俺は俯いてしまう。
もしかしたら、落合先生に。 絵見に。 家族に。 そんな風に思われてるのかもしれない。
「だから、ピアノを弾いて欲しい。 きっと何かが変わるはずだから」
俺と宮園はなにも返せなかった。
俺は澤部の気持ちを聞いた後、落合先生のもとに向かっていた。
インターホンを鳴らすと中から落合先生が出てきて俺の顔を見て何処か納得したような表情をする。
そして、中に招き入れてもらうと、いつも通りというか、俺はピアノの前、落合先生はソファーに腰を下ろした。
「今日は何の用かしら?」
俺は拳をギュッと強く握り、落合先生から目を逸らさず、言った。
「先に一曲だけ……聴いてもらえますか?」
俺の言葉にフッと笑みを溢すと、手をピアノに差し出した。
「どうぞ」
ピアノの鍵盤に手を置き、とりあえず目を閉じる。
しかし、いつもとは違い、ピアノの世界に埋没する事も不安で押しつぶされそうにもならない。
その真ん中。 自分の意思がはっきりと感じられ、その上集中もできている。
ゆっくりと俺は演奏を始めたのだった。
それを聴いてる落合 由利子は今までとは違う演奏に驚きの顔を隠せない。
(これは……ピアノから謝罪の気持ちが伝わってくる。 だけどそれは苦しんだ謝罪ではなくて、これから変わるという意思表示にも見える)
今までの演奏というものは、入った当初は指がうまく動かせず、常にムスッとした表情だったが、しばらくすると演奏はガラリと変わってしまった。
その原因は有馬 公生。
彼の演奏を聴いてからは絵見に自分を見て欲しくて同じ場所に立とうと張り切っていた。
しかし、有馬 公生は更に上に行き、追いつける事もなければ客からの人気も少なかった。
しかし、今、また演奏が変わっている。
(あなたも行くのね。 表現者として)
これは喜ばしい事だが、同時に絵見よりも先にそこに行った事に悔しさを覚えてしまう。
(いいえ。 認めるべきね。 葉山 佑樹は私が育てた教え子の一人だと)
今まで、心のどこかで認められなかった節を否定はしない。
自分が言った『弾きたい演奏をしてみなさい? そうすればピアノは答えてくれる』その言葉を無視して有馬 公生のピアノに固執していたからだ。
だが、今は自分が言った言葉通り、時間はかかったが自分が弾きたい演奏を伸び伸びと奏でている。
(もう、誰もあなたの演奏をつまらないなんて思わないわ)
聴いてるものを魅了する。
有馬 公生とは全く違う演奏だが、これはこれで引き込まれていく。
だから、演奏が終わると残念さともうちょっと聞きたかったという気持ちが溢れ出てきたのだった。
「落合先生」
俺がそう言うと落合先生は顔を真剣に戻し、こちらに目を向けた。
「俺、次のコンクール。 毎報音楽コンクールに出ます」
「ようやく覚悟を決めたようね」
「はい。 長く果てしない道でしたけど」
俺の苦笑混じりの言葉に落合先生はハァと大きな溜息を吐く。
「佑樹のライバルは有馬くんなんかじゃない。 佑樹のライバルはその弱い心……自分自身だと思いなさい」
「はい」
「舞台に立てば勝ち負けよりも自分の好きな演奏を好きなように奏でて満足した顔で帰って来ればいいのよ」
「はい」
落合先生の言葉の言葉を胸に焼き付け、俺は再度、ピアノに指を乗せたのだった。
俺の演奏は色づき始める。