駆け巡る嘘   作:ぱに

9 / 12
この期間テストに模試と被さり、書けませんでした。
本当に申し訳ありませんでした。
感想をもらった瞬間涙腺崩壊するかと思いまして一生懸命書きました。
感想はいくらでもお待ちしておりますのでよろしくお願いします。

今回は毎報コンクール前まで進みますね。
個人としてはスヌーピーの場面、本気で笑ってしまいました(*´=∀=)


奏でる理由

 

 

 

「なるほどな」

 

俺は目の前に座る男性から目を逸らさずに今までに無いくらい真剣な気持ちでこの場にいる。

 

「頼む兄貴」

 

相手はもちろん兄貴だ。

兄貴は腕を組んだ状態で目を瞑りながら考え込んでいる。

話した内容は俺にピアノを教えて欲しいという事。

家族なのだから、俺が父さんから反対されているのも当然ながら知っている。

 

「前からわかってはいたんだ」

 

突如、口を開きだした兄貴に俺は目を離さずに見つめる。

 

「お前は俺以上にピアノを愛していて……なによりも俺よりも才能がある」

 

最初は何を言っているかわからなかった。

兄貴より才能があるわけが無い。

あったなら有馬にも認めてもらえるほどいい演奏はできていたはずだ。

 

「何言ってんだよ兄貴。 俺が兄貴より才能がある?」

 

当然の疑問に俺は尋ねてしまうが、兄貴は否定せずに頷いた。

 

「お前が初めてピアノを触った時の表情は今でも忘れることはできないんだ。 俺とは違い、自分の意思で弾き始めたお前に俺は尊敬と同時に嫉妬も感じていた。 もちろん嫉妬というのは才能云々じゃない。 強制されずに自由に弾くことができたお前に嫉妬していたんだ。 もちろんお前が家でピアノから遠ざけられそうになってたのも知っていた。 でも小さい頃の俺はそんなお前に対して嬉しさが勝ってたんだ」

 

兄貴の本心が直に胸に響き、俺は口を挟むこともできない。

 

「だけど、お前が家を出てから気づいた。 俺はお前に酷いことをしたんだなって。 父さんに俺から言えばお前みたいな才能者を潰すことはなかったと後悔した」

 

「そんなっ!」

 

「それでも! お前は自分の意思でピアノを続けた」

 

兄貴の一方的な意見を訂正しようと声を上げるが、それを被せるように続きを話した。

 

「だから、本来お前が俺に頼む事じゃないんだよ。 俺が……いや葉山家としてお前を世界で活躍するピアニストにしたいんだ。 だから……」

 

その後はどこか言いにくそうに視線を泳がせたが、3秒程で目を合わせる。

そこには明確な決意が宿った眼をしていた。

 

「もう一度、この家でピアノをやってくれ。 佑樹」

 

「……兄貴。 そういう事ならお願い……いや、わかったよ」

 

兄貴の言葉を訂正しないほうが良いと判断した俺は素直にそう言う。

 

「俺が父さんから教えてもらった技術を全てお前に叩き込むからな。 覚悟しとけ」

 

「わかった」

 

兄貴の覚悟の眼に早速、ビビる俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、僕?」

 

「そ!! たった今君が弾いたピアノの録音」

 

最初に声を出したのは有馬でそれに返答したのが宮園だ。

有馬はラジカセで聞いた自分の演奏に顔を青ざめているが、宮園は手にある冊子を持つ。

 

「君が弾いた選択課題曲、バッハ平均律No.15 Gメジャー」

 

「嘘だー! テンポも音もバラバラ! こんなの僕じゃなーい!」

 

悲鳴をあげながら、暴れ転がる有馬を見て俺は確かに下手くそだと感じる。

それはみんな共通のようで各々の感想を言う。

 

「下手くそね」

 

「下手くそ」

 

「ケッ!」

 

「あ……うん」

 

「渡、椿、柏木さん、葉山!?」

 

ズーンといった表情で何かを決心したように前を向くと、そこには手で財布を上に投げてる宮園が目に入る。

 

「もう、書類出しといた」

 

「!? 僕のサイフ!? 参加費!?」

 

内心、御愁傷様と思っていると

 

「どんなもんなの? その大会」

 

柏木が疑問に思ったのか尋ねる。

 

「毎報音楽コンクールは毎報新聞社が毎年主催してる全国規模のコンクールで名だたる演奏家を何人も輩出した実績もある」

 

「そして、予選、本選、全国と勝ち抜き、優勝を掴み取れば海外進出の足がかりになるしな」

 

宮園の説明に俺が付け足すとみんなが俺に注目する。

 

「へー」

 

「すげー」

 

柏木と渡はスケールの大きさに想像がつかず、適当な返事を返す。

その中で澤部だけは深刻そうな顔をしていた。

 

「葉山君は詳しいね。 あ、お兄さんか」

 

思い出したように言う宮園に俺は頷いた。

 

「そうだ。 兄貴が優勝してるからな」

 

「え!? 佑樹の兄貴すげぇじゃん!」

 

渡が興奮したように言うが、それはここにいる一人の演奏家も同じだ。

 

「言っとくけど、この人、小学生の部で優勝経験ありだから」

 

「え!?」

 

宮園の言葉に渡と柏木はビクッと動くくらい驚く。

というより、いつまで有馬は沈んでいるのだろうか。

 

「誰か先生に師事しなきゃ」

 

「大丈夫。 技術的には問題ないんだから」

 

「! 君の先生は」

 

追い詰められた顔で有馬は宮園を見るが、宮園はパッと明るい顔で

 

「結婚してヨーロッパ行っちゃった」

 

(逃げたな)

 

俺はそう思わずにはいられずに溜息を吐く。

 

「覚悟を決めろ! これ挑戦よ!」

 

腕を天にかかげ、宮園は話し出す。

 

「音が聴こえなくても弾けるってことを証明するのだ。 『海図にない海を帆走するには勇気が要るのよ』」

 

どこか聞いたことあるようなセリフに俺は吹き出しそうになる。

 

「誰の言葉?」

 

「スヌーピー」

 

有馬の質問と宮園の返答につい笑いが抑えきれずに吹き出してしまう。

だが、二人は気付かずに話を先に進める。

 

「大切なのはイメージ。 あなたの指が鍵に触れる前にその曲をどう弾くか。 心の中で考えておかなければいけない」

 

「アントン・ルービンシュタイン」

 

「君は何のためにピアノを弾くの?」

 

宮園は何時ぞや俺にも聞いた事を有馬に尋ねる。

 

「自分のため? 誰かのため? 君はこの曲をどう弾きたい? バッハをどう弾きたい? 本当の君はショパンをどう弾きたい?」

 

宮園の言葉の後、暫しの沈黙が訪れる。

お互い、視線を逸らさず見つめ合っていたが、終わりは唐突に訪れる。

 

「そういうことでヨロシク。 渡くーん!」

 

「おお!?」

 

いきなり大声を出し、宮園は窓に飛びつく。

 

「渡君の部活見てくるから。 後は二人で頑張って」

 

そう言って外に飛び出し、走っていく。

 

「キャー! 汗くさーい」

 

「俺! 頑張る!」

 

「休憩終わっちゃう!」

 

「死ね!」

 

嵐のような人が居なくなり、全員が部活へと戻っていく。

 

ポツーンと取り残された俺と有馬は互いに視線を交わす。

 

「そういえば、聞いてなかったね。 葉山は毎報コンクール出るの?」

 

有馬の質問に俺は黙って頷いた。

正直言うと、わかっているもんだと思っていた。

 

「今の状況でいうのもあれだけどさ。 俺、今回は有馬に負けないからな」

 

俺の闘志の言葉は伝わったのかはわからない。

だが、有馬の目には動揺の色が見えていた。

 

「進む気が無いならそれでもいい。 一生立ち止まってろ」

 

俺は言うだけ言うと、音楽室を出る。

あんな啖呵を切った手前、自分だって全く良い演奏ができてないのに良くできたものだと感心してしまう。

 

でも、これでいいのだ。

有馬には立ち上がって歩いて貰わなくては困る。

それが俺のワガママだとしてもだ。

 

俺はフッと笑って歩き出す。

 

道にかかる霧が晴れたような気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、お前にやってもらうのはピアノの音の出し方な」

 

「……は?」

 

指導をしてもらう手前、家にお邪魔して最初の言葉がこれだった。

あまりの意外さにアホな返事をしてしまう。

 

「じゃ、出してみろ」

 

兄貴にそう言われ、鍵を押し、音を鳴らす。

 

「なんじゃそりゃ?」

 

「え……音だしたんだけど」

 

俺のやった事に呆然としてる兄貴を見ていると何かやらかしたのかと不安になる。

 

「音に色がなーい!」

 

絵見にも同じ事言われたなと思いながらも、兄貴にわからないといった表情で見つめる。

 

「お前ピアノ好きなんだよな?」

 

「好きだけど」

 

「じゃ、なんでピアノを弾く?」

 

何気無い兄貴の質問に俺は、うっ、と詰まってしまう。

 

「認めてもらいたいから」

 

ポツリと溢した言葉を拾えなかったのか、兄貴は「ん?」と言って耳を近づける。

 

「俺にピアノをさせなかった父さんに認めて欲しかった」

 

「……なるほどな」

 

俺の言葉に兄貴は考えるように腕を組んだ。

 

「その考えやめろ。 それはお前を邪魔するものでしかない」

 

突然、そう言われた事に驚きを隠せないのと同時に今までの自分を否定されたみたいで怒りが出てくる。

 

「話は最後まで聞けって。 お前のその中にある感情は本物か?」

 

「何言って……」

 

思いあたる事はある。

父さんに認めて貰いたいと思って弾くと毎回下手になるのだ。

しかし、絵見に認めてもらいたい時はどうだっただろうか。

 

すると、ニヤリとした兄貴が俺の耳に口を近づける。

 

「恋をしてる奴ほど良い演奏するんだと俺は思うんだよな」

 

「なっ!?」

 

恐らく俺の顔をは真っ赤であろう。

絵見の事を考えた後にそう言われた為、俺は動揺して椅子から転げ落ちてしまった。

 

「そんなに動揺する事ないだろ……もしかして、いるのか?」

 

小指をクイっとあげる兄貴に向かって俺は首をブンブン振る。

 

「いないいない! てか、それ言うなら兄貴が子供の頃、恋してたって言うの!?」

 

相当動揺しているのか、声が上がってしまうが、兄貴は首を横に振った。

 

「俺はあの時は強いて言うならお前に恋してたな」

 

「な、何言ってんの?」

 

急激に冷める感情を抑えながら、俺は兄貴を睨みつける。

 

「いや、冗談だよ。 でも俺はお前の為にピアノを弾いていたんだ」

 

「俺の為に?」

 

最近、兄貴の過去を詳しく聞いてるが、これは初めてだった。

 

「お前が聞いてくれるなら俺はみっともない演奏はできないしな。 お前に俺の演奏で元気になって欲しかったんだよ」

 

「そういうことか」

 

兄貴の弾いてる理由が俺だと思うと自然に口門が上がってしまう。

 

「好きな人の為に弾く。 当たり前だけど難しく、それができない演奏ほどつまらないと言われる。 理不尽だけどそれが演奏家の通る道だ」

 

兄貴の言葉には重みがあって俺は頷いてしまう。

 

「お前が思ってるほど、この道は甘くねぇし、ましてやお前は葉山家の人間だ。 演奏家として挫折は許されない」

 

ゴクリと唾を飲み込み、兄貴の話を聞きいる。

 

「だから、お前も決めろ。 お前は何の為に弾くのかを。 自分の気持ちに素直になれ。 演奏家になる為に」

 

「演奏家に……なる為に」

 

「じゃ、そういうことだ。 明日までには変わってると良いな」

 

そう言って兄貴は部屋から出て行ってしまい、必然と今日の練習は終わりになってしまった。

俺は兄貴に言われた言葉を心の中で繰り返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習後、俺はある公園のブランコに座っていた。

結局、一日で解決する訳もなく、何日か経ってしまった。

夜中ということもあり、誰一人として遊んでいない。

 

「誰の為……か」

 

ふと漏らした言葉は誰も聞いていないが、自然と一人でいるようには感じられない。

まるで、隣に誰か俺の話を聞いてくれてるみたいだ。

 

すると、どこからか話し声が聞こえてきた為、その場へと歩き出す。

別に変態とかそういう訳じゃなく、聞き覚えのある声だからだ。

 

「最近ずっとピアノ弾きっぱなし。 ごはん食べるのも忘れるくらい。 廊下フラフラしてたし」

 

声の主は澤部で隣にいるのは宮園だった。

話の内容からして有馬のことだろう。

 

「ピアノは弾いてほしい。 でも、苦しんでほしくない」

 

澤部の言葉には幼馴染としての優しさを含んでいる。

いや、幼馴染以上の感情も感じられるのは俺の気のせいだろうか。

 

「今……有馬君はその苦しみを音にしようとしてる」

 

宮園は澤部に答えるように言葉を紡ぐ。

 

「痛みも苦しみも、あがいた自分でさえもさらけだして、弦に乗せる。 そうやって私達は生きた音を奏でる」

 

その言葉に俺でさえもグッと来るものがある。

 

(俺の生きた音……か)

 

「有馬君はその最中。 きっと」

 

「かをちゃんは、どうしてそんなに公生に肩入れするの?」

 

澤部は元気のないような声でそう言った。

宮園は考える素振りをした後に質問に答える。

 

「うーん。 なんて言うかやっぱり、ダメダメな弟って感じかな」

 

ニコリと笑った宮園に澤部は目線を逸らすだけだったのだった。

 

その後、俺は話しかける訳でもなく、またも公園に戻ってきていた。

 

(やっぱ、認めよう)

 

前から気づいていた。

自分は家を出てから弾く理由を見つけていたのだ。

 

(俺は絵見が好きなんだ。 だから絵見と同じ舞台で……絵見が憧れる存在になりたい)

 

それは決意。

絵見には有馬じゃなくて俺の演奏の虜になって欲しい。

 

俺は勢いよく立ち上がり、空に光る星を見上げる。

 

「お前の世代は終わりだ有馬」

 

俺の決意に答えるように星の輝きが増したように感じたのだった。

 

 

 

 

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