そのためキャラの性格がちょっと違います。
麻帆良学園に赴任して三日目。俺とネギ用にと与えられた教職員用の寮に、ネギが神楽坂さんを伴っての第一声。
「魔法、ばれちゃった」
「知らねえよぼけなす」
リアルてへぺろ顔を目にして辛辣に突き放す。
というか何故ばれて10分足らずに俺の所まで来るのか。
お前の後ろで待機してる神楽坂さんは何なんだよ。神妙な顔で正座してるんだけど。
せめて一人で来いよ。俺強制的に巻き添え食らってんじゃねえか。どうやって回避しろって言うんだよ。
「あんたもこいつと同じなのね」
「少しお待ちを」
本性見たりと、神楽坂さんは静かに悪どい笑みを浮かべて正座していた。
この娘怖い。脅す気満々じゃん。もう規約とか無視して忘却呪文使っちまおうぜ。
え? 効かなかった? なぜか服が脱げた? ははっ。
「何者ですかね」
「それはこっちのセリフよ」
ごもっとも。
「魔法なんてものが実在してるなんて、にわかには信じがたいけど。でも、納得出来るところもあるのよね。普通に考えて9歳の子供が教師なんてありえないもの」
おい、麻帆良結界。認識阻害結界どうした? 効いてないぞ。実は魔法なんてないんじゃないの?
結界とか嘘なんだろ。そういうことにしとこうぜ。効いてないし。
「魔法なんてなかった」
「さっき本屋ちゃんが浮いてたんだけど、それは何の魔法だったのかしら?」
ネギの顔を見る。逸らされた。
え? なに、お前人浮かしたの? 本屋ちゃんって関係者じゃないよね? 浮かしたの? まじで?
は? 足踏み外して階段落ちた? 真っ逆さま? それは……。まあ、仕方ないのか。
でももうちょっと何とかなったんじゃないの? せめて呪文唱えるのも身振り手振りももうちょっと最小限にできなかった?
あ、無理? そっか……。
「少しの勇気が本当の魔法だ」
「何言ってんの」
名言だよ。
「もう正直に言っちゃって、魔法はありまぁす!」
「え、ばらしちゃうの?」
「ばらしたのはてめえだろボケナス」
結界効いてない、魔法効かない、魔法見られたの三重苦。これもう無理だよ。
本国に助け求めたら強制送還食らうし、そうなると神楽坂さんもただじゃ済まなさそう。なぜ魔法が効かないのか、じっくり調べてから自分たちで対処しよう。
原因分かって効くようになったら忘却すればいいし。今はとりあえず隠し通す。
「……本当にあるの?」
「あるよ」
「本当に?」
「本当」
「本当の本当?」
「本当の本当」
「本当の本当の本当に?」
「しつっけえな。その覚えの悪い脳みそに魔法って刻むぞごらぁ」
ネギ、神楽坂さんの双方に若干の距離を取られた後に会話は続く。
「でも、私今まで魔法なんて知らなかったわよ。教科書にも書いてないし、聞いたこともない」
「教科書に載ってんのも、聞こえる言葉も、全部都合の良い物だけだ。普通に生活してたら知らないだろうさ。そもそも極々一部の人間以外は使えないし」
嘘です。めっちゃ使えます。訓練次第で誰にでも使えるのが魔法です。
「明日菜さん。魔法っていうのは使い方次第では人も殺すことが出来る危険な物なんです。ですから通常は秘匿されています。今回は宮崎さんが危なかったため使いましたが、本当なら人前で安易に魔法を使うことは許されてません」
「今回は偶々宮崎さんの命が危険で、ネギが助けるために魔法を使ってしまったところを偶々通りがかった神楽坂さんが見てしまったというわけですね。運が悪い」
ネギにしても、神楽坂さんにしても。両者ともに運が悪い。ここまで偶然が重なってしまうと、誰かが作為的にやったのではないかと勘繰ってしまう。
「ちょっと待って。魔法って秘匿されてるのよね」
「はい」
「それを知っちゃった私って、どうなるの?」
ネギと顔を見合わせる。どうしようか。面倒だからいっそのこと始末してもいいんじゃないかな。
そんな風に物騒な考えが脳内を占める。ネギはどんな考えをしたのか知らないが、嫌に無表情だ。多分相思相愛。
無言の俺たちに微妙な空気を感じ取ったのか、神楽坂さんは慌てはじめた。
「え、ちょっと待って。何で顔見合わせて黙りこくってんの? まさか殺すとか言うんじゃないでしょね……!」
「……いえ、大丈夫です! 殺しはしません!! 魔法には忘却呪文と言う種類の魔法があってですね……!!」
身の危険を感じた神楽坂さんは両腕で体を庇いながらじりじりと後ずさる。すぐ後ろにはドアあり、いつでも逃げられる体勢。
ネギも我に返って否定した。否定してるけど別に考えなかったわけじゃないでしょ?
「でも、忘却呪文効かなかったんだろ?」
「それは……。その……なぜか記憶の忘却じゃなく、衣服の消失っていう結果になちゃって……」
「間違って武装解除術したんじゃねえの? ――――どれ」
効かないかどうかは実際にやってみるしかないってことで、神楽坂さんの頭に手を当てる。
何かされそうになり、慌てて逃げ出そうとするが手を当てた時点で既に準備は整っていた。
メモリア・リツラ
簡単なキーワードでそこそこ難しい魔法が飛ぶ。
その魔法は何故か、本来の目的である記憶の消去ではなく、着ていた服の消失と言う形で効力を発揮してくれた。
「…………」
「…………」
「…………」
まあ、これは叫ばれても仕方がないかな。
顔を赤くした絶叫5秒前の神楽坂さんを止めることはせず、耳を塞いで潔く観念した。
職員寮に人がいないことを切に願う。
「で、だ。俺たち兄弟から神楽坂さんにお願いがある」
「なによ」
「あ、明日菜さん。とりあえずこれを着てください」
幸いにも、この時間帯にはまだ帰ってきている人はいなかったのか、他教職員の来襲イベントは発生せず、布団が一枚強奪された被害だけで済んだ。
気を取り直し、布団に包まっている神楽坂さんにネギが大人物のジャージを渡しながら、今後のことについて話し合う。
「魔法の事は口外しないでほしい」
「嫌だって言ったら?」
「その場合は残念ながら、まず神楽坂さんは精神的におかしくなってしまったと言う噂が流布される」
「それで?」
「その噂がある程度広がった状態で神楽坂さん本人の口から魔法について語られた時が、神楽坂さんの学園生活の最期となる。あとは黄色い救急車が手ぐすねを引いて待っているから、格子付きの部屋の中で第二の人生が始まってしまう算段だ」
「口外しないわ」
「ありがとう」
身の安全が確保された。
「じゃあ解決だな」
「え」
「神楽坂さんの今後については当事者であるネギに任せた。まだ何か聞きたいことがあるのならネギに聞き給え」
「ちょっと」
「それでは各自解散。俺は買い物に行くから」
「マギ!?」
エコバック片手に部屋を出ようとしたところで、加害者ネギが肩を掴んできた。
いたいいたい。
「何だよ」
「僕一人に全部押し付けないでよ!?」
「責任の所在は全てネギにあると思うから」
「そうだけどさ!」
どうやらネギ一人には荷が重いようで。
そこに俺一人が入ったところで物理的な負担に大した違いはないけど、ネギの精神的負担は大幅に軽減される。ネギの狙いはそれだ。代わりに俺の負担が5割増しぐらいになってしまうのだが。
これはやはりネギ一人に何とかしてもらうしかあるまい。まだ教師生活にも慣れていないのに一歩間違えたら強制収容所行の案件まで背負えるか。
そんなの背負うのはネギ一人だけでいい。
「ねえ、ちょっと」
「何だい神楽坂さん。魔法についての用件ならネギが担当だからそっちに言ってね」
「いや、そのことなんだけど」
神楽坂さんは俺とネギの顔を見比べる。
ネギは泣き顔で、俺は面倒くせえと眉間に皺を寄せた顔だ。どちらも酷い顔してる。
少しの間俺たちの顔を見比べていた神楽坂さんは、やがて苦渋の決断をしたように、顔に陰を落としてぽつりと呟く。
「……どうせなら頼りにならなさそうなネギよりあんたの方が良いんだけど」
「明日菜さん!?」
ご指名いただきました。ありがとうございます!
「いや……。だって……」
「僕そんなに頼りなさそうですか!? こう見えても僕マギよりも成績良かったんですよ!」
「お、自慢か?」
成績云々は今関係ないだろ。俺の成績を一々引き合いに出すのやめろ。はっ倒すぞ。
「あの、色々聞きたいことがあるのよ。それで……。どうせならネギだけじゃなくあんたにも色々と聞きたいの」
「タカミチのことなら本人に聞け」
「な、ちょっ、なんで高畑先生が出てくるのよ!」
露骨に話題を逸らしつつ、顔を赤く染めて髪をいじりながら喋ってるからですよ、お嬢さん。
いやー、この年代の子の恋愛事情は分かりやすすぎていかんね。もう少し年食ったら、総じて真黒のドロドロになっちゃうから、清涼感があって好きなんだけども。
「私が聞きたいのは高畑先生の事だけじゃなくて! 他にもあんた達みたいなのはいるのかとか! 魔法って具体的にはどんなのとか! とにかく一杯あるのよ!」
顔真っ赤に叫ぶ神楽坂さんの言によれば、俺たちに聞きたいことは一杯あるらしい。それは全部が全部照れ隠しというわけでもなく、半ばぐらいは本心からの言葉だと思う。
さて、適当に誤魔化すのも嘘を教えるのも、むしろ何も教えないのも、選択肢は色々とあるのだが。
今までの短い人生の中でフィクションだと教えられ、そう思い続けてきた、胸躍るようなファンタジー。
14歳の女の子が、実際にその目で実在を確信したファンタジーについて「何も見なかったことにして忘れてください」と言われて素直に納得できようはずもない。
落ち度はほとんどこちら側にあり、神楽坂明日菜には何故か忘却呪文が通じない。
神楽坂明日菜と言う不確定事項。放っておいて余計な行動を取られるよりは、ある程度情報を与えて掌の上に居てもらった方が良い。
ネギ一人操れないのに神楽坂さんも操れるわけもないが、ある程度は目の届く範囲に居てもらいたい。
ならば、先生と生徒の垣根を越えてほんの少し仲良くしようじゃないか。それが一番都合がいい。
だが、仲良くするにも何をするにも準備は必要だ。今日の所はお引き取り願いたい。
「5時だな」
時計を見ながら言った言葉に、ネギも神楽坂さんもほとんど同時に時計を見る。
窓から届く夕陽も、俺の言葉を裏付けてくれている。
いい子はいい加減に帰る時間。
「今日の所は大人しく帰りなさい。続きは明日話そう」
「いやよ」
教師面しての命令への返答はほぼノータイム。そう言われることを予測していたのか即答だった。
「いや、帰れよ」
「帰らないわ」
「…………」
「…………」
無言で見つめあった後、ぶつかる。
「かーえーれー」
「いーやー」
顔を突き合わせて互いの主張を押し付け合う。
思い通りに動かない神楽坂さんに、菩薩の異名を持つ堪忍袋もはち切れんばかりに膨れ上がる。
緒なんかとっくに吹っ飛んだ。
「まあまあ。落ち着いてマギ。明日菜さんも」
「誰のおかげだと?」
「あんたは黙ってなさい」
「はい」
涙目で正座するネギを尻目に素全開で話し合う。
「いいから今日の所は黙って退散しろよ。明日までに言って良い事と悪いこと書いた紙をネギに暗記させるんだから」
「あらそう。でもそんな無駄な努力は必要ないわ。悪いことも良い事も今この場で聞くから」
「言えるわけないだろ。一般人に何でもかんでも言えるかよ。分かったら早く自分のお家に帰れ」
「なら私ももう立派な関係者でしょ? 聞く権利はあるわ」
「ねえよ」
「ある」
「なーいー!」
「あーるー!」
一般人に一本だけ産毛が生えた程度で関係者とか片腹痛いわ。
関係者名乗るのなら誰かと仮契約の一つでもしてこい。
「ちっ。言う事聞かない木偶だな」
「あんたよく教師出来てるわね」
俺も何で教師なんてやってんのか常々疑問だ。9歳の子供って時点で普通は弾かれるはずなのに。
魔法って素敵だね。
「帰らないのなら力づくで帰してやる。魔法使い舐めんなよ」
「は? また服でも脱がせようって言うんじゃないでしょうね。言っとくけど、今度脱がされたら容赦しないわよ。ぼっこぼこよ?」
「たかだか9歳の子供に裸見られたからってそんなに怒るなよ。生徒の裸見て興奮とかないから」
「あんたの気持ちの問題じゃなくて私の気持ちの問題なの」
そうか。女心って複雑なんだな。
まあ、魔法の効力を変えているのか無効化しているのかもわからない相手にそう易々とぶっ放せるわけもなく、脅す様に構えていた手は降ろし、髪を掻く。さて、どうしようかな。
「……何よ。来ないの?」
「そんなに脱がされたいのか。この痴女め」
「殺す」
「来んな。布団剥ぐぞ痴女」
ファイティングポーズを決めていた神楽坂さんは、腕を降ろした俺に怪訝そうにそう言ったが、続いた煽りに冷静ではいられずに殺しに来た。
来るな来るな。こっち来たらむしろ殺す。
「お前隙間からちろちろ胸見えてんぞ! ジャージどうした!」
「まだ下しか穿いてないのよ」
「首絞める余裕あるのならとっと穿け!」
やけに俊敏な動きに易々と背後に回り込まれ、チョークスリーパーのような形で技を決められる。
結果、後頭部に胸が当たる。なにこれ不快。邪魔。
「ネギ! ネギ!!」
「どうせ僕なんて……」
「一々ネガティブな野郎だな!?」
助けを求めたネギはどん底に沈んでおり、今更ながらに自分の不始末を後悔していた。
その間にも、本気で殺しに掛かってきている神楽坂さんは俺が絶対に逃れられないように床に押し込み、上から全体重を掛けながら首を絞める。
じたばたと暴れるも9歳の子供が14歳の女に敵うはずもない。これは殺される。
奴の殺意を背中に感じながら死を覚悟したその時、
「あすな~?」
女神が来た。というか近衛木乃香が来た。
「……え。……あすな? なにしてるん?」
「…………教育よ」
「えっと……」
目だけ動かして近衛を視認した神楽坂。問われた言葉には短く返す。
対する近衛もこの状況に理解が追いついていないようで、狼狽えている。
無理もない。まさかドアの向こう側でルームメイトが半裸で子供を絞殺そうとしていたとか思わないだろう。
近衛の出現に、若干力が弱まった隙を突き再度ネギに助けを求める。
「ネギ!!」
「あ、え……? あ! 明日菜さん! 何やってるんですか!?」
届いた言葉にようやく正気に戻ったネギ。俺たちの現状に気づいて、慌てて救出に来る。
そしてネギが中々離そうとしない神楽坂さんに苦心し、ぼうっと突っ立ていただけだった近衛さんにも助けを求めたことでようやく解放された。
助かった。
「明日菜。何でこないなことしとったん? とりあえずこれ着て」
「マギ、大丈夫?」
「全然」
平気です。空元気とかじゃなくて、まじで。
「木乃香もネギも大げさよ。本気で殺すわけないじゃない」
ジャージのチャックを閉めながら神楽坂さんは弁明する。
まあ、さすがに死ぬほど力はかかっていなかったけど、それでも少しずつ加えられる力増してたし。
それに傍から見たら子供を襲っている女子中学生にしか見えなかっただろう。
「あいつが生意気だったから軽く脅しただけよ」
「脅しって……。そないな空気やあらへんかったよ。割と本気やったやん」
「そう? ま、私子供って苦手だし」
そこで視線を下に、俯きながら小声で紡がれる続きの言葉。
「きいきい喚いてばっかでうるさいし。話そうにも人の話聞かないし。もう、肉体言語に頼っていいじゃない。どうせ怖がらせれば言う事聞くし」
あいつ絶対に母親になっちゃいけない人間だ。子供にも同じことしそう。
もしあいつが結婚式挙げようとしたら未来の子供のために全部ぶっ壊しに行ってやる。
内心でそう誓った。
「で、どうなのよ。話してくれるの? くれないの?」
「……ああ。お前の図太さは尊敬に値するよ」
何も知らない近衛さんが来たというのに、その話題を続ける辺り特にね。
「ま、夜にな」
「そう。……ま、それならいいわ。じゃあね」
言うだけ言って、ジャージ姿のまま部屋から出て行く神楽坂さん。
そう言えば、今日だけで制服が二着粉々になってしまっているけど、明日以降の授業はどうするつもりだろうか。
まだ予備の制服あるのかな。
「ネギ君、いったい何があったん?」
「僕もよく分からないです」
分かってなくてはいけない人間が分かっていないこの現状。
恍けているかしらばっくれているのか。どっちかだったらお兄さん凄く嬉しい。
「マギ君?」
「ちょっとした喧嘩。タカミチ関係で」
近衛さんにはそれっぽいこと言っておいて煙に巻いておく。
まさか魔法の事を詳細に話すか話さないかで取っ組み合いになったとか言えるわけない。
言ったら病院をお勧めされるんじゃないのかな。それとも子供の戯言だと流されるか。
「ネギ」
「なに?」
「学園に用事思い出したからちょっと行ってくる。夕飯は適当に済ませておいて」
「分かった」
「え。ちょっ、マギ君!?」
近衛さんとの会話もそこそこに、俺も靴を履いて外に出る。
神楽坂さんはおそらく自分の部屋に戻ったのだろうが、それを追いかけることはせずに麻帆良学園の方へ向かう。
今日中に何とか出来ると良いなと、出来ようはずもない事を望みながら、歩いた。
何がパラレルかって前話と今話ではヒロインが違うんだ