剣を捨てた手に掴むもの   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 一人称だと視点変更するときに『○○side』と書くことがおおいですけど、なんか雰囲気壊れそうなので、この作品ではなるべく使いたくないのですよ。

 なので途中で視点変更入りますがあまり気にせず読んでください。
 それにしても会話文が長くなったな~。もっと短く簡潔明瞭に書けるように精進せねば!





第十一話:それぞれの思惑

 シャクコポル族の村でカルラの話を聞いた俺は走り続けた。

 

 わき目も振らず、ただひたすらに友のために。

 

 王城では上へ下への大騒ぎとなり、誰もが慌ただしくしているが、そんな中、見知った少年が俺を待っていてくれた。

 

 

「デリ! お前どうしてここに!?

 いや、それよりもカルラはどうなった!?」

 

 

「レワタウ兄さん! 宰相お付きの兵たちが、姉上は自室にいた父上を殺害したあと、そのまま地下牢に捕えたと言われていますが僕には信じられません!

 姉上は宰相に罪をかぶせられたに違いありませんよ!!」

 

 

 騒ぎの中、城へと駆け付けた俺を唯一出迎えてくれたのはデリホウライ。カルラの弟だった。

 

 まだ幼いからか、他の多くのギリヤギナ族のようにシャクコポル族を嫌うことなく、カルラと同じくらいに俺のことを慕ってくれている。

 

 そのためにデリも、カルラや俺と同じくシャクコポル族との共存を望んでいる。

 

 

「俺もカルラが自分の父親であるラルマニオヌ皇を殺すとは思えない……、少なくとも皇は、良くも悪くもギリヤギナ族らしいギリヤギナ族だからだ。

 シャクコポル族ながらも強さを示した俺を認めてくれていたし、カルラが殺さねばならないほど両種族による話し合いの席を拒むとも思えない」

 

 

 俺がそうであるように、カルラは自分の夢のためなら自らが死ぬことすら厭わないだろう。

 

 自分が死んでも皇の血筋には弟のデリがいる。

 仮に自分が死んだとしても俺がデリの御側付きになって夢をかなえてくれることを期待している節もあったから、両種族の和平のためなら命を捨てる覚悟はあるのだろう。

 

 だがそれを鑑みても今回の騒動は腑に落ちない。

 

 俺も手合せしたからこそ分かるが、カルラの父、ラルマニオヌ皇は武人なのだ。

 

 そんなカルラがラルマニオヌ皇を殺すとは思えない。

 

 だが、この国の英雄でもあるラルマニオヌ皇が簡単に殺されるとも思えない。

 

 おそらくは仲間を無条件に信じるラルマニオヌ皇はこの国の味方の誰かに殺され、その罪をカルラに着せることで同時に邪魔な二人を始末しようという考えだろう。

 

 それに例え、ラルマニオヌ皇を殺したのがカルラだというのが事実であれ嘘であれ、俺は夢を追う前に目の前で自らの命を散らそうとしている友を救うことを諦めるつもりは毛頭ないぞカルラ!

 

 

「姉上はきっと殺されてしまう……。

 宰相はシャクコポル族との共存を常々唱えていた姉上を疎ましく思っていたんだ。

 このままじゃ姉上は……姉上は……」

 

 

「泣くなデリ!

 カルラは必ず俺が助けだす!

 お前は部屋に籠っていろ」

 

 

 俺が来るまでずっとこの不安と一人きりで戦っていたのだろう。

 安心させるように抱きしめたデリは俺の胸でしばらく泣いていたが、泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。

 

 出来ればずっと付いていてやりたいが、そうもいかない。

 

 近くを通った顔見知りの兵の一人に頼んでデリを自室に送り届けさせると俺はカルラを救うべく歩き始める。

 

 

「悪いなデリ。

 もしも俺が失敗したらお前まで殺されてしまいかねない。

 俺達が死んだ時に俺達の夢を継げるのはお前だけだからな」

 

 

 この戦で俺が生き残ることができれば、デリが目を覚ますのは事が全て終わってからだろう。

 

 それまでに片をつける。

 

 カルラを助けなければ俺が俺でなくなってしまうからだ。

 

 

 

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 ……少し寝ていたかもしれませんわね。

 

 両手首を枷によって壁に拘束すされながらも眠れるだなんてね。

 

 お父様が殺され、自らも捕えられてしまったと言うのに。

 でも私たちの夢はまだ途中。実現するためにも、戦いを続けるにも今出来ることをするのは間違いじゃない。

 

 

「お目覚めですかカルラ様?」

 

 

「……ゴウケン」

 

 

 牢の前に立つのは父を殺したこの国の宰相、ゴウケン。

 

 

「あなたがシャクコポル族との共存などと馬鹿なことを考えなければこのような事をせずに済んだのですがね。

 聖上も戦には乗り気でしたし、私も戦を指揮するこの国の宰相として、弱きシャクコポル族を根絶やしにしたかったのですが……」

 

 

 何かしら考えているようなゴウケン。

 

 

「まぁ、結果的に私が軍の指揮権を得ることには成功しましたし、カルラ様は自業自得とも言えるでしょうからここに居てこの戦の結末を見届けてください。

 聖上の遺言でもありますし、この戦の結末を貴女が見届けるまでは貴女を殺しません」

 

 

「黙りなさい。シャクコポル族だって命がある。

 それを踏みにじってまで得る繁栄になんの価値があるというの!?」

 

 

 堪え切れずに声が荒げてしまう。

 だけどそれでも言いたかった。

 

 お父様は皇である前に、一人の武人であった。

 

 だから今回の反乱でシャクコポル族を滅ぼすのではなく、今一度奴隷身分であるシャクコポル族と話し合い、両種族の関係を立て直してほしいという私の願いも聞き入れられた。

 

 未来を見据えて行動するならば、共存の道を選んだほうがずっと強い国を作ることが出来るから。

 

 『共存』という名の戦の大きさに喜んでいた。

 

 シャクコポル族でありながら、私の御側付きとして、武人としても素質を発揮するレワタウを知っていたからだと思う。

 

 シャクコポル族にも強者となりうる素質を持った者がいるのならと、今の体制を見直す決意を持ってくれた。

 

 それなのにこの男が……。

 

 

「聖上は皇としての素質を持っていなかったのだ。

 ギリヤギナ族はこの最強種族としての誇りさえ持っていれば大陸全土を支配することさえ容易いというのに。

 だから部下を無条件に信じるから私程度に殺される。

 カルラ様もレワタウなぞという下賤の者を御側付きに任命するなどと、とち狂った考えからして毒されております。

 シャクコポル族は滅ぼさなければいけません!

 そのため、僭越ながら私がこのたび新たな皇として、このラルマニオヌを支配させてもらうことにしました」

 

 

「そんなの無理よ。

 確かに父上と私が居なくなれば貴方は動きやすくなるでしょうけど、次の皇は血筋からいってデリになるはずですもの。

 弟が貴方のような屑を皇にするはずないですわ」

 

 

「ですが、その次の皇であるデリホウライ様が死んでしまわれたらどうします?

 文官が少ないこの国ならば、政を取り仕切ることが出来る者など私しかおりません。

 確かにこのラルマニオヌ国の皇に求められる素質として『強さ』がありますが、文官の方達は皆、私のやり方に味方しているのですよ」

 

 

 宰相のゴウケンは嫌らしい笑みを浮かべる。

 

 つまり、こいつは私に罪を被せて殺し、お父様や私だけでなくデリまで殺そうというのか!

 

 こんな男がこの国を……戦でシャクコポル族をどうするのか想像に容易い。

 

 

「……ギリヤギナ族が破滅の道を歩いていることに気づきませんの?

 シャクコポル族を支配し、全てを支配し、その強さが歪みを生じさせて最期には崩壊するのが分かりませんの?」

 

 

「分かりませんね。全く、これっぽっちも。

 奴隷を滅ぼすだけで、この国が滅びるとでも?

 確かに、シャクコポル族が滅びたことで貴女の言う歪みが生じて崩壊する可能性はあるでしょう。

 実際広い国土を誇るこの国はいまだ手つかずの土地も多いですし、耕作する奴隷がいないと困るのもまた事実。

 ですが国の崩壊など所詮は人為的なもの。

 そして反乱を起こしたのもシャクコポル族。

 そんな馬鹿な真似をするの連中なら出てくるたびに殺していけばいいでしょう?

 そうすれば、いずれは完全なる平和な大国が一つ存在する世界の完成というわけですよ」

 

 

「それこそが奢り、強い者は自分を特別な存在と勘違いをする。

 自分が特別だと思った者は弱者を支配する。

 そしてその行為が悪だとすら気づけないから、誰にも救いようのない悪に堕落する」

 

 

 あんまりにも悔しくて、途中から涙を溢しながら私は言う。

 

 私とレワタウの夢が、こんな奴に壊されるのが許せなくて、悔しくて、……誰も死なせたくないから。

 

 このままではシャクコポル族はゴウケンの手によって血みどろの争いの末に滅ぼされる。

 

 

「あなたには父皇殺しの罪を背負ったまま死んでもらうことになりますが恨まないでください。

 これはすべてあなたが自分で招いたことですので。

 ギリヤギナ族でありながら、その『強さ』を奴隷風情との関わりを持つためだけに使うのはあなたの勝手ですが、私の『他を排斥する強さ』があなたの『共存を求める強さ』を上回っていただけなのですから。

 まぁ、せいぜいシャクコポル族が戦に勝つことを望むのですね。

 少なくとも戦が終わるまでは貴女は死なせませんから。亡き聖上の言葉の通り」

 

 

 そう言って地下牢を出ていくゴウケン。

 

 見張りの者もすでにあの男のは以下なのだろう。

 

 

「レワタウ……」

 

 

 出来ることならレワタウだけでもいい、逃げ伸びてほしい。

 

 そう考えたところで私は何も考えられなくなってしまった。

 

 夢も希望もなくした私の心は絶望に取り込まれてしまったのだから。

 

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 ゴウケンは自分が馬鹿なことをしているという自覚はあった。

 

 この国の宰相とはいえ、弱い自分が支配したところでこの戦以降、ラルマニオヌ国を支配し続けることが出来ると本気で思っている訳ではない。

 

 

「それでも……若い者に期待をしたくなるのは何故なんでしょうね……。

 何故だか私は自分が負けることを望んでいる気もします。

 ですが私に出来るのはただ滅ぼすだけ。

 何者も寄せ付けない強さを得ることが平和だと自分で決めたのですからね……」

 

 

 宰相のゴウケン、彼もまた夢を追い、夢に破れ、それでも夢を捨てきれない男でもあった。




 『熱さ』を……もっと『熱さ』を……!! ひたすらに熱く!!!
 最高に面白いライトノベル『カオスレギオン』の熱さははこんなもんじゃない!!!!!

 それはさておき、宰相の名前は「嫌らしさとはなんぞ?」と考えた時に真っ先に思い浮かんだ『風来のシレン』の「ケンゴウ」というモンスターから付けました。

 でもこれを逆にすると武器の「剛剣マンジカブラ」のイメージしかなくなってしまう不思議。


 この作品ではゲーム『ファントムブレイブ』のように、完全な悪はいないということが表現できればよいのですが。

 まぁ、原作のノセシェチカ国の皇、カンホルダリ(ギリヤギナ族)はいかにもな悪役でしたが。
 彼もああなるだけの理由があったのかもしれません。
 この作品で出すかどうかは分かりませんが、死に方がユニークでしたから割と好きな敵キャラなんですけどねw

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