剣を捨てた手に掴むもの   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 カルラは今現在は原作ほど強くはないです。

 ラルマニオヌが滅ぼされた時は素手で追手の兵を殴り飛ばしていましたので、強さ的にはまだ弱くはない程度ですね。


第十四話:開戦

 牢を抜けた俺とカルラは、まずギリヤギナ族に対して宰相の企みを暴き、両種族の共存に向けて、シャクコポル族と一緒に動くことである。

 

 ただギリヤギナ族の説得というのは、もはや不可能だろう。

 

 カルラを慕う者は確かにいるし、俺がカルラの御側付きになってからも着実に共存に興味を示す者は増えてきている。

 

 だからこの時点で宰相の側について、シャクコポル族との戦を望んでいる連中との話し合いというのは難しいのだ。

 

 それはいま城にいるギリヤギナ族の兵たちは、宰相の提示する未来に自らの意思で参加した者たちで構成されているからだ。

 

 あるいは口で、あるいは金で、あるいは戦う場を提供する形で。

 そうやって兵たちを動かしているのかもしれないが、結局のところ宰相に付いた者は皆自分の意思で戦いを求めている。

 

 すでに城は宰相派によって動いているのだ。

 

 この国の「弱さ」の象徴であるシャクコポル族を、この戦を節目に根絶やしにし、ギリヤギナ族の種族としての強さを他国にも響き渡らせるやり方こそ「強さ」であるという考えで。

 

 それが悪いとは言わない。

 一般的には悪なのだろうが、それでも今のこの国では悪ではない。

 

 それを裁くべき国が率先してそのような支配を行っているのならば、弱者を踏みつける行為を正当化しているのならば、それは悪ではない。

 

 だから俺達がすべきは、その行いが破滅を招く行為であり、悪であると示すこと。

 

 「共存」が難しくとも、あえてその難しいことに挑むことこそが「強さ」であり、最終的な幸せな未来を作っていくことに繋がると示せばいいのだ。

 

 そのためにも、まずすべきは共存の未来を共に歩んでくれるであろうシャクコポル族との合流だ。

 

 城にいる共存派の仲間は軟禁されているかもしれないが、それなりに数は多い。

 すぐに殺されることもあるまい。

 

 そもそも共存の道を選んだギリヤギナ族の仲間たちは、同族との戦いも全て考えた上で協力を望んでいる。

 

 一度しかない生の中で、『生きている』という実感を一番感じさせる、カルラが提示する為し難いがための幸福を求める戦に自らの意思で参戦している。

 

 良くも悪くもギリヤギナ族の仲間達にとって、死は戦を恐れる理由ですらないのだ。

 

 

「それじゃ、俺は何事もなかったかのようにこの牢を守っているからお前らはさっさと逃げ出せよ」

 

 

 

「お前が牢番で助かったよブナガ。

 お前も適当なところで逃げろよ。

 俺達は一度シャクコポル族の仲間と合流したら、宰相とこの国を正すために戻ってくる。

 誰も死なせたくはないが、少なくともこの城は戦場となるだろう」

 

 

 牢番のブナガは番を続けることでカルラが逃げ出したことをごまかし続けるというが、それも長くは続かないだろう。

 

 カルラが言うには、この戦が終わるまで宰相はカルラを殺すつもりはないと言ったらしいが、それを信じたところでここから逃げ出すのを黙って見逃すとも思えない。

 

 何を考えているのかは分からないが宰相は宰相でこれまで長きに渡って、その知力によってギリヤギナ族の兵たちを纏めてきたのだから。

 

 

「おっと……早速お出ましのようだな」

 

 

 牢を後にし、秘密裏に城から抜け出そうとしていた俺たちだが、やはり追手が来た。

 

 そう簡単に抜け出せるとは思っていなかったが、こうも簡単に見つかるとはな……。

 

 

「通してくれ、と言っても無駄なのだろう?」

 

 

「黙れシャクコポル族が。

 俺達はお前たちを根絶やしにして真の強国となるのだ!」

 

 

 刺客の数は5人。

 その誰もが宰相の言う「強き国」という理想にのまれているのが分かる。

 

 

「貴方達、『共存』こそが最も幸福な道だと気づけませんの?

 そこまでして戦を望むんですの?」

 

 

「言っても無駄だカルラ。

 こいつらは典型的なギリヤギナ族だ。

 『戦う』ことではなく、『支配』すること、『虐げる』ことこそが強さだと思っている連中だ。

 善悪抜きにして自分たちの意思で動いている連中はそう簡単には説得できない」

 

 

 俺達を取り囲むようにする敵兵五人。

 

 俺一人なら何とかならなくもないが、今はカルラを連れている。

 

 殺さずに無傷のまま村へ帰るというのは厳しいかもしれない……。

 

 

「かかれぇ!」

 

 

 刺客の一人の合図とともに他の四人が飛びかかる。

 

 俺は左手でカルラの手を掴んだまま正面の一人から攻撃をかいくぐると同時にその手首にショーテルを斬りつける。

 

 すでに体の一部として変幻自在に動くショーテルによる斬撃は軌道も読みにくい。

 

 

「ぐおっ」

 

 そうして不意を突いて斬りつけた男を蹴り飛ばし、囲みに出来た穴から抜け出すと振り返りざまにもう一人を斬りつける。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 さらに攻撃は続ける二撃三撃と繰り返し、確実に仕留めていく。

 

 だが俺はここで油断をした。

 

 五人の刺客を全員斬り伏せたことで油断をしてしまった。

 

 

「かかったなアホが!」

 

 

 物影から六人目が現れたのだ。

 

「ッ!」

 

 

 防御は間に合わない。

 そう悟った俺はせめてカルラだけでも守ろうと、己が身を盾にした。

 

 

「レワタウ!」

 

 

 カルラが叫ぶ。

 

 時間の進みが遅く感じるが、それでも確実に刺客の剣が俺を貫こうとしているのが分かる。

 

 だがその剣が俺を貫くことはなかった。

 

 

「ぐぬぁ……」

 

 

 六人目の男は俺ではない別の人物によって背後から斬り伏せられていた。

 

 

「レワタウ兄さんが死んだら僕はいったい誰を目標に生きていけばいいと言うんですか?」

 

「某たちが兄さんだけ命を張っているのに村で大人しくなんてできませんからね」

 

 

「ハウエンクア!? それにヒエンも!?

 お前たちどうしてここに……」

 

 

 そこにいたのはシャクコポル族の村に居るはずの俺の弟分、ヒエンとハウエンクアだった。

 

 幼い二人はこの戦にも参加せずに避難をしていたはずだ。

 

 

「言ったじゃないですか。

 僕はレワタウ兄さんを信じているって」

 

 

「某もレワタウ兄さんが信じるカルラ皇女様を信じることにしただけですよ。

 そちらが皇女様ですね。

 はじめましてシャクコポル族にしてエヴェンクルガの英雄ゲンジマルの孫、ヒエンと申します」

 

 

「僕はハウエンクア。

 レワタウ兄さんがあまりにも幸せそうに貴女のことを語るもんだからどんな人かと思えば、僕らと変わらない普通の人だったみたいですね。

 でもだからこそ、貴女を信じるレワタウ兄さんの気持ちが分かる気がしますよ」

 

 

 二人は以前俺が言ったことを考えていてくれたのだろう。

 

 二人の弟たちは俺が信じるカルラを信じることに決めたようだ。

 

 そして戦うことから逃げないと決めたのだろう。

 

 

「レワタウからは『自慢の弟たちがいる』とは聞いていましたが随分と腕が立ちますわね。

 私はこの国の皇女カルラゥアツゥレイ。

 あなた達と共存を望み、同じラルマニオヌ国に住む民の一人にすぎない女ですわ」

 

 

 二人を信じさせた俺が信じる友。

 そのカルラは見る者にそれと分かるだけの信頼感を感じさせる笑みで挨拶を返す。

 

 

「それよりも兄さん。

 村の大人たちはカルラ様にこそ会ってはいないけど、兄さんや共存を求めるギリヤギナ族がいることを信じてこっちに向かっているから村に戻る必要はないよ。

 僕らはこっそり先行させてもらったけど、もうすぐ近くまで来ているんだ」

 

 

「おい馬鹿ハウエンクア!

 某たちがこっそり来たのは内緒だろう」

 

 

「ハハッ、まぁ俺のことなら気にするなよ。

 お前らには死んでほしくはないが自分の意思でこの場にいるのだろう?

 ならばその志を止めるのは無粋と言うものだ」

 

 

 俺がこれまでしてきたことは無駄じゃない。

 

 弟たちがこうして信じてくれているように俺も信じられる。

 

 以前は抑え込むだけで精いっぱいだった俺の中の黒い感情が友を得ただけで変われた。

 胸の内で熱く燃え上がる感情は誰もが当たり前に持っているもの。

 

 それこそがシャクコポル族の仲間たちの心からも憎しみを減じさせたのだろう。

 

 そう考えているともう一人、新たな声が聞こえた。

 

 

「その通りじゃよ、レワタウ。

 儂らはお前さんらを信じておる」

 

 

 見れば村長が村の仲間たちを率いて来ていた。

 

 その手に持つのは多くの剣。

 しかしその目に宿る光は恨みによる黒い感情ではない。希望の光だ。

 

 

「お初にお目にかかりますカルラゥアツゥレイ皇女。

 このたび、儂らはシャクコポル族としてではなく、この場に居ります共存の未来を求める者として参りました」

 

 

 口調こそ穏やかながら、村長はカルラを試すような目で見る。

 

 本当に信頼に足る人物なのか、自分の目で見ているのだろう。

 

 

「私ごとき小娘の理想を信じていただきありがとうございます。

 私たちギリヤギナ族も争いを望むばかりの者でないのです。

 どうか共に手を取り合える未来を作っていきましょう」

 

 

 試すのは最初だけ、それだけで人の心の全てが分かるものではないが、心からの言葉は時間や言葉数に影響されたりはしない。

 

 カルラの言葉は心からの言葉であり、村長や一族の仲間たちに届くのには時間なんて必要なかった。

 

 

「ふむ、まぁ挨拶はこのへんでいいじゃろぅ。

 元々カルラゥアツゥレイ皇女様の人柄についてはレワタウから聞いて信じておったからのぅ。

 それと、村で待っておるように言っておいたのにここまで来おったヒエンとハウエンクアにはあとで説教じゃが……」

 

 

 その一言に顔色を変えるヒエンとハウエンクア。

 

 やはり黙って村から出てきてしまったのは不味いだろう。

 

 

「この状況で村に返すのも忍びないしのぅ。

 儂らが全力で守ればよい。

 二人とも戦士としてこの場におるのじゃからな」

 

 

「村長……」

 

 

「ふ、ふん、僕の実力ならば大人にだって引けを取らないさ。

 村長こそ、もうすぐ初孫が生まれるんだから無理をしないようにした方がいいんじゃない?」

 

 

 二人は村に送り返されることを気にしていたようだが、村長も一人の男だ。

 それぞれに心を汲んだのだろう。

 

 そしてハウエンクアはいつも通り。

 

 

「調子に乗る出ない。

 儂らは誰も死にたくはないが、それでもこの場にいるのは信じられる理想を提示してくれたカルラゥアツゥレイ皇女と共に、この国を巣喰うための戦いを始めようぞ!」

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 

 

 カルラはレワタウの幸せそうな笑顔を見て思った。

 

 彼は嘘は言わないし、どの言葉も自然と口から出ただけの自分の心に素直な言葉なのだろう。

 

 レワタウの言葉を聞いていたカルラは少し前の父の言葉を思い出した。

 

 自分を裏切った宰相に命乞いをするでもなく、自分に全てを見届けさせるように頼んだ父の心。

 

 何を思って父が自分を助けたのか、自分がこの先どうすべきなのか。

 

 父が殺され、牢に閉じ込められてからずっと考えていたカルラの中の悩みが消えたような気がした。

 

 目の前で自分を信じてついてきてくれるシャクコポル族の仲間。

 

 そう、仲間なのだ。

 

 ギリヤギナ族とシャクコポル族、二つの種族が争いの末に掴むものを考える。

 

 確かに問題が多いこの状況だが、あらゆる考えが頭をよぎって尚、カルラは今この状況を『楽しい』と感じていた。

 

 心から信じることが出来る友。その友を慕う仲間たち。

 

 困難の大きさ、自分の理想を実現したあとの維持、それら悪い可能性を全て考えた上で未来が明るいと思えるのはカルラの手を掴む大切な友の温もりがあるからだろう。

 

 

「カルラ、どうかしたのか?」

 

 

 黙ったままのカルラを気にしてか声をかけるレワタウ。

 

 

「いいえ、何でもないですわ」

 

 

 ほんの少し、気付かれない程度に頬を染め、笑うカルラ。

 

 自分をいつでも守ってくれる存在。

 大切な――何者にも代えがたい存在。

 

 レワタウから伝わってくる暖かさがカルラに孤独を感じさせないでくれるのだ。

 

 それはカルラの父であるラルマニオヌ皇がいつも周りに見せていたもの。

 全てをありのままに受け入れ、どんな困難も乗り越えられると信じさせる大きな背中。

 

 

「(宰相の野望は止める。誰も死なせない)」

 

 

 そんな決意を胸に秘めたまま、カルラは誰に言うでもなく自分の手を握る友の手を、さらに強く握り返す。

 

 ギリヤギナもシャクコポルも、どちらもカルラの愛するラルマニオヌ国の民に違いないのだから。

 




 私は『ジョジョの奇妙な冒険』は第二部が一番好きなんですよ。

 なんか外国では第三部からしか出版されていなかったりしますけど、それでも第二部が一番だと思うのですよ!
 (他の部が嫌いな訳じゃありませんよ)

 なので戦士というものに特別な感情を持っています。
 『魔界戦記ディスガイア』シリーズでは、どの得意武器もそれぞれの専門職に負ける「戦士」を男女で最初に作ってから最後までずっと育て続けるくらい戦士好きですし。


 まぁ、最後までお楽しみいただけるよう頑張ります!

 気合い、根性、努力!の三本柱パワー全開!!!

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