剣を捨てた手に掴むもの   作:ヨイヤサ・リングマスター

17 / 18
 『熱い物語』が書きたいという思いから始めたこの作品ですが、今日この話にて完結。

 あまり長くはなりませんでしたが、今回も楽しく書けました♪


第十七話:剣を捨てた手に掴むもの

 宰相の死を知らせるために城の外に出た俺達を出迎えてくれたのは、すでに兵を捕縛し終えたゲンジマル様たちだった。

 

 

「どうやら、そちらも終わったようだな」

 

 

「ゲンジマル様……」

 

 

 確かに片は付いた。

 

 宰相は死に、城は村の仲間たちとゲンジマル様によって制圧されている。

 

 これでこの国はカルラの手によって変わっていくだろうし、時間さえかければ俺たちだけでなくゴウケンも目指していたものも見えてくるはずだ。

 

 宰相であるゴウケンは一人の戦士として戦い、そして死んだのだ。

 

 この戦だけでなく、これまでの両種族の関係は多くの恨みばかりを残し、その結果死んで逝った者も多い。

 

 ならばせめて、死んだ者が恥じない国にしていくことこそが俺達の進むべき道だろう。

 

 

「終わりましたわ。

 宰相のゴウケンは一人の戦士として戦い、そして死にました。

 この国はこれから変わっていくはずです。

 いえ、私が変えて見せます!」

 

 

 カルラは迷いなくはっきりと告げる。

 

 そして遅れてやってくる仲間たちの歓声。

 

 その中には軟禁されていたのだろうカルラの考えに賛同していたギリヤギナ族の仲間の姿もある。

 

 

「(あぁ、そうだった。この光景が見たかったんだ)」

 

 

 不意に思いだしたように胸にこみ上げる感情。

 

 剣奴だった俺に、カルラ見せてくれた理想をここにいる皆が見ている。

 

 それが嬉しいのだ。

 

 俺の隣には俺の迷いを常に受け止め、共に悩んでくれる友がいる。

 

 シャクコポル族もギリヤギナ族も関係ない。

 誰もがこのラルマニオヌの民であり、幸せをその手に掴もうと立ち上がった者たちなのだ。

 

 

「カルラ……」

 

 

「胸を張りなさいレワタウ。

 私達は生き残ったのです。

 いつの日か私たちの理想が終わり、再び争いによって国が消えるとしても、人が人として生きていくことの素晴らしさを伝えていく義務があるのですから。

 まだまだすることはありますわよ」

 

 

「はは、カルラには敵わないな。

 だが確かに……俺達の夢はここからが本番なんだよな」

 

 

 誰もが種族に関係なく手を取り合い、幸せを謳歌する国。

 

 そんな国の歴史がようやく始まろうとしているのだ。

 

 

「そして私の隣には貴方が、貴方の隣には私がいる」

 

 

「心と体、両方で剣を握るしか出来なかった俺に未来を見せてくれた友はカルラ」

 

 

「何の力もない皇女の夢物語に付き合って、それを実現してくれた友の名はレワタウ」

 

 

 どちらからともなく差し出し合う手をお互いに掴み取る。

 

 

「お前と出会えてよかったよカルラ。

 未来を見せてくれてありがとう」

 

 

「私の方こそ感謝しますわレワタウ。

 未来を共に実現してもらえたんですもの」

 

 

 笑顔。

 

 俺が惹かれた彼女の強い決意と未来への憧れで輝く笑顔。

 

 俺は生まれてきて幸せだ。

 

 剣奴のときには生きる意味だなんて分からなかったが、今はっきりと理解した。

 

 彼女と出会えたことに俺は感謝以外の言葉はない!

 

 

「さぁて、気を抜きたいところだけど、問題はまだまだ山積みなんだから気を抜いちゃ駄目よレワタウ。

 共存の難しさは理解し合うことの難しさだけじゃない。

 奴隷身分だったシャクコポル族が一斉に奴隷でなくなるんだから税や諸外国との国交にも影響はあるんだから。

 休んでいる暇はないわよ」

 

 

「そういう難しいことはお前に任せるさ。

 俺はただカルラの側にいる。

 与えてやれるのは安心感だけさ」

 

 

 とは言っても、ギリヤギナ族の文官はほとんどが宰相に付いていたからこの戦で死んでしまった者も多いだろうしな。

 

 新しく登用するにしてもしばらくは俺の仕事は多そうだ。

 

 だがそんなことはあとで考えればいいさ。

 

 触れ合うことのできる距離にいる友の顔を見合せて二人して笑い合う。

 

 見回せば誰もが俺達のように笑顔でいる。

 

 その手には剣を持っておらず、それぞれに目の前の仲間の手を取っている。

 

 同じラルマニオヌという国に住む、種族に関係ない仲間の手を。

 

 ただそれだけで笑顔が溢れる。

 

 これを作ったのはカルラだ。

 俺は彼女の考えを信じて付き従っただけだ。

 

 

「あら、その『信じる』ということが出来ないからこれまでこの国は戦をしてきたというのに随分と簡単に言うのね」

 

 

「そりゃそうさ。

 俺が信じたのはカルラだからだ。

 他の誰でもない、カルラだから信じられた。

 そこに無粋な言葉も他の理由も要らないさ」

 

 

 ただカルラだから、信じられたのさ。

 

 

「ふふ、それじゃあ貴方に信じられる私であり続けなくちゃいけないから大変ね」

 

 

「そう気張らなくてもいいさ。

 俺はいつまでもカルラの側にあることを誓ってるんだからな」

 

 

 そう、誰もが幸せを求めていれば本来争いなんて起きるはずがないのだ。

 

 だから俺は手を伸ばした。

 

 剣を捨てた手に、心から信じる友の手を掴むために。

 

 この世に不可能なんてない。

 この喜びを皆で分かち合うのは……少し難しかったがな。




 無事に完結を迎えることができました♪
 熱さは最後まで出せているといいのですが。個人的には最後まで楽しく書けました♪

 ……反省点としましては、共存という未来を得るために支払っていく細かい問題を第二部以降に丸投げする形になってしまったことでしょうかね。

 ラルマニオヌは大国ですし、すぐに何処か他の国に攻められるってこともないとは思いますが、他国との戦はありそうですし。

 と言うか原作に突入したら絶対シケリペチム国のニウェとかが絡んでくるでしょう。あの戦馬鹿w

 しかしながら、この作品の第二部はプロットそのものは出来ていますし、すでに執筆中小説として何話かあるんですけど、インカラ皇の笑い声を書いていてなんか冷めてしまったので放置しているんですよ。

 なので第二部はいつになるのか、はたまたもう執筆しないのかは分かりませんねw

 では! 『剣を捨てた手に掴むもの』ご愛読ありがとうございました!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。