剣を捨てた手に掴むもの   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 少し軽さが出てきます。





第三話:友

 

 翌日、俺は地下牢から出された。

 

 剣奴の管理をしていた爺さんは、剣奴の中でも初戦から連戦連勝の稼ぎ頭である俺を手放すのを快く思っていないようだったが、皇女の命令とあっては断れなかったようだ。

 

 快く思っていなかった理由の一つとして、俺が皇女に気に入られた、というのもあるのだろうが。

 

 その後は実にあっさりと城勤めで第一皇女の御側付きという役職を得ることとなった。

 

 正直この国の皇や官僚達が反対するとばかり思っていたのだが、俺は所詮奴隷身分のために、カルラゥアツゥレイ様のペットのような認識を持たれているのだろう。

 

 そうでなければシャクコポル族の俺が城勤めなど出来るはずがない。

 

 

「これからよろしくお願いします。カルラゥアツゥレイ皇女様」

 

 

「あら、そんな堅苦しい呼び方は結構ですわ。

 親しみをこめてカ・ル・ラと呼んでくださらない?」

 

 

「いえ、さすがにそれは……分かりました、カルラ様」

 

 

「うーん、まぁ、いいですわ。

 これからは私の御側付きとしてよろしくお願いしますわね♪」

 

 

 どうにも同い年には見えない妖艶さを持っているこの皇女様は、堅苦しい形式ばった接し方をすると機嫌を悪くするようだ。

 

 俺としては友として、俺と同じ夢を実現するために厳しい道をあえて突き進もうというこのお方の助けになれば、という思いから差し出された彼女の手を取ったのだが、こんな始まり方で良いのだろうか?

 

 

「あら? レワタウったらまるで私が子どもっぽいと考えているみたいだけど、私の信念は昨日話した通り本物よ。

 私は貴方を友として、同じ理想を抱くものとして私が道を誤った時に私を斬ってくれる人として貴方に背中を預けているんですもの。

 ただそれだけ。

 勿論、貴方が道を違えても私は同じことをしますがよろしいですわよね?」

 

 

 からかう様な笑みを浮かべ意地悪く聞いてくる我が主。

 

 まったくこの人ときたら。

 答えは分かっているだろうに。

 

 

「無論だ。

 俺はカルラ様のために、ギリヤギナとシャクコポルの者が手を取り合える平和な未来を作るためにこの命を捧げる覚悟を持ったからこそこうして貴方様の側にいるのです」

 

 

 俺が必要になることが無ければそれでいいのだが、彼女の進もうとしている道は敵が多すぎる。

 

 そして味方は俺一人と言っても過言ではないだろう。

 

 シャクコポル族を愛するギリヤギナ族がいないように、ギリヤギナ族を愛するシャクコポル族はいないのだから。

 

 彼女の背中を預かる者としては、彼女のために斬らねばならない敵が多そうだ。

 

 

「俺の母は父を愛して幸せだったと聞いています。

 父は全てを失ってまで母を愛したそうです。

 ならば、その子どもである俺が両種族の関係を改善するために一生を捧げるのは本望だと思っているのです」

 

 

 最近まではそんな自分のやりたいことなんて考えたこともなかったが。

 

 

「うん、さすがは私の友ですわ♪

 それじゃ名目上は私の御側付きなんですし、仕事を覚えていってもらいますわ」

 

 

「了解しました」

 

 

 だがこの後俺を待ち受けていたのは地獄のような仕事の山だった。

 

 皇女の仕事というのは基本的に最低限の教養を身につけ、国を維持していくための政(まつりごと)で問題を起こさないように人心掌握の習得も必須。

 

 そしてそれは、その御側付きにも言えることだったのだ。

 

 

「カ、カルラ様は毎日このような勉強をしておられるのですか?」

 

 

「まぁ、昨日までは剣を振るのが仕事だったレワタウにはきついかもしれないですわね。

 でも、これもいずれ必要になることですし、頭の修錬とでも思えば大丈夫なんじゃないんですの?

 剣を握る代わりに筆を持ち、体を動かす代わりに頭を使う、と」

 

 

「そうか……確かに頭の修錬と考えれば、これしきの厳しさも平気に感じてきました!

 私の気合いと根性で必ずやカルラ様の政務での支えにもなれるよう精進させてもらいます!!」

 

 

「うん、素直でよろしい♪

 と、言いつつ私が皇になったら仕事はレワタウに全部任せるつもりなんですけどね(ボソッ)」

 

 

「何かおっしゃいましたか?」

 

 

「何でもないですわ」

 

 

 またもや怪しげな笑みを浮かべている。

 

 この御方は悪い人ではないが、何を考えているのか分からないこの笑みが少しばかり苦手だ。

 

 それでもこの方の手を取ったのは他ならない俺なんだし、彼女の期待には出来る限り応えたいと思う自分がいる。

 

 皇族の側近ともなれば政務にも携わることも多いだろうし、これもシャクコポル族の待遇改善と思えば耐えられる!

 

 しかし本当に勉強というのはきついものだな。

 

……

 

…………

 

………………

 

 

「……そういえばカルラ」

 

 

「ん? 何か質問?」

 

 

「ええ、この先の具体的な方針ってのを聞きたいんだが」

 

 

 俺が彼女の御側付きとなってから半月が経った。

 

 これまでは剣を振り、生と死の狭間で生き残りさえすれば良かった俺は文字すら読めなかったのだが、文字も覚えてしまえば勉強がはかどるようになった。

 

 数学も公式に当てはめれば難しい問題も暗算で解けることが分かってからは、公式を丸暗記し、すでに数字に関してはカルラを越えていた。

 

 それと意外だったのは、カルラの父である、このラルマニオヌ国の皇もシャクコポル族を奴隷として扱ってはいるが、優秀な奴隷ならば城に勤めるのも問題ないとして、俺は皇直々にカルラ第一皇女の御側付きに任命されていたのだそうだ。

 

 この国の皇は戦好きで武力こそ一番と考えているようで、直接会う機会があったのだが、シャクコポル族である俺に対しても護衛としての実力を示したらえらく気に入られてしまった。

 

 度量が広いというか……、さすがはカルラの父と言うべき方だった。

 

 そのためか、皇族としての将来の勉強としてカルラに任されていた政務の一部を俺が片付けるまでになっていた。

 勿論俺を快く思っていない他の官僚には内密にだが。

 

 そして彼女に対する口調も無理矢理改めさせられた。

 

 俺がカルラに様付けで呼んだり敬語を使うとすぐに拳骨が飛んでくるもんだからな。

 

 

「具体的……ねぇ。

 実はまだ何も考えていないんですの」

 

 

「……はぁ?」

 

 

「いえね、そもそも私がギリヤギナとシャクコポルの両種族の関係を良くしようと思ったのもレワタウと出会う少し前にオンカミヤムカイに住む幼なじみとの会話からですもの」

 

 

「オンカミヤムカイ――というと『大神ウィツァルネミテア』を奉る宗教国ですね。

 ラルマニオヌの皇女であるカルラの知り合いということは……」

 

 

「オンカミヤムカイの第一皇女ウルトリィ。

 名前くらいは聞いたことあるでしょう?」

 

 

「一応な。

 これまでの勉強の中で習った中で出た周辺各国の名称、地理、皇族の名前くらいは大体把握してるさ」

 

 

 勿論全てを覚えきっているわけではないが、オンカミヤムカイと言えばこの世界で生きる者の大多数が信仰するウィツァルネミテアという神を崇めるウィツァルネミテア教の総本山である。

 

 民の心の拠り所である宗教を広めるだけの国という立ち位置であるため、他国からも襲われることはまずない。

 まぁ、不思議な術を使うそうなので武力もそれなりに持ち合わせているのだろうが、それでもどの国からも不可侵として中立な立ち位置で存在しているのには宗教をどの国も重要に考えているからだろう。

 

 ラルマニオヌなど三大強国と言われる国々も決して手を出そうとはしないそうだ。

 

 

「私とウルトは幼馴染みなんですわ。

 それで私がこの国を何とかしたいと言うと彼女が色々と知恵をくださったので、レワタウと出会ったのも彼女がきっかけなんですの」

 

 

 どうやらそのウルトリィ様がシャクコポル族との関係改善にはギリヤギナ族という種族を恨んでいない味方が必要だと伝えたのか。

 

 

「それでレワタウも、今日にでも早速会ってみませんこと?

 彼女、私たちと同い年ですけどかなりのものよ。女らしい部分が♪」

 

 

「何が凄いのかはカルラを見れば大体予想出来るが、その発言は聞かなかったことにしよう。

 しかし、となるとウルトリィ様もこの国の未来を憂いて協力関係にある、ということか?」

 

 

「彼女も私の友よ。

 昔から仲良くしているけど、レワタウとも今後接点が多くなるでしょうから今から会っておいてほしいんですの」

 

 

 そのあとに「もしもレワタウに手を出すようなら幼馴染と言えども潰しますが」と小声で言っているが、どういうことなんだろうな。

 

 まぁ、確かにこれまで勉強の合間に見てきたこの国の上層部の連中は、良くも悪くも単純な思考の連中ばかりだったし、シャクコポル族との間にある溝を消すためにカルラに協力し、尚且つその友である御方なら会っておくべきなのだろう。

 

 

「分かったカルラ。

 不肖このレワタウ、貴方様の御側付きとして必ずやこの国の未来に繋がる関係をウルトリィ様とも築いてみせましょう」

 

 

「だから敬語はやめなさい!(グチャ)」

 

 

 思いっきり殴られた。

 

 ……俺の日常は幸せなものになったのだろうか?




 シリアスのみは無理ですw
 自身の五作目でちゃんと学習していますので。

 今回は前回の話を振り返って少し軽さをメインに押し出してみました。

 それでもこの頃は『デモンズソウル』のアストラエアとガル・ヴィンランドの関係を少しばかり参考にしていたので微妙に固さがありますが、まぁ出会って間もないからということで。
 その内もっと砕けていきます。

 こんな感じで最終的にはハッピーエンドにしていきますのでー。

 それとウルトの話は少しあっさりと軽めで行きたいと思います。

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