剣を捨てた手に掴むもの   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 一応キャラの年齢を個人的イメージで想像しますと、この段階ではまだカルラとレワタウは13歳くらいということで。

 それと原作では、カルラは祖国であるラルマニオヌがシャクコポル族の反乱で滅んだあと、剣奴になっていましたが、あれほどの美少女を剣奴にするだなんてシャクコポル族は変わりものですね~。

 まぁ、一応争いを好まない平和的な種族ということですからね。

 女性としての尊厳を奪うよりも、本人の意思で死ぬ自由のある剣奴の方が、カルラがそのうち殺されるにしても自殺するにしても後味が悪くないとでも思ったのでしょうね。

 その自らの手を汚したくないという心こそが最も悪であることに気づけなかったために、後のシャクコポル族によって建国したクンネカムン国は内側から崩壊していったのでしょうね。
 ディー(オンヴィタイカヤン)の介入がなかったとしても。





第四話:白いのに黒い

「なぁカルラ、俺はどうもこういう雰囲気が苦手なんだが……」

 

 

「あら、いいじゃありませんの。

 お似合いですわ。レワタウ♪」

 

 

 にんまりといたずらっ子のような笑顔を向けてくるカルラ。

 

 今日はオンカミヤムカイの第一皇女、ウルトリィ様がこの国を訪問するというのでラルマニオヌの第一皇女かつ、その友人であるカルラが出迎えの準備をすることになっていた。

 

 ……のだが、なぜか俺まで出迎えをする羽目になってしまった。

 

 いや、会うこと自体に不満はないし必要なこととも思う。

 すでにその旨は了承しているのだからな。

 

 それにウルトリィ様は他国の皇女とはいえ、友誼によってその地位に関係なくカルラが信頼している方だそうなので、その信頼に応えるために出迎えに参加するのはやぶさかではない。

 俺も立場上は第一皇女の御側付きだからな。

 

 ……しかしながらこの国では奴隷身分であるシャクコポル族である俺が城内をうろつくだけでも問題だと言うのに、カルラは他国の皇女様の出迎えという公の場に俺を同席させようと言うのだ。

 

 国同士のやり取りなのだから、ウルトリィ様の来訪はあくまでオンカミヤムカイ国がラルマニオヌ国に向かう必要のある政務のついでに便乗してくるだけなのだろうし、向こうも正式な使者や護衛が大勢いるだろう。

 そんな中に俺なんかがいても本当にいいのだろうか?

 

 カルラは呑気に自室の装飾をしているのだが事態はそれほど簡単ではないと思うのだが……。

 

 

「それとカルラ。

 俺は御側付きとはいえ、シャクコポル族という奴隷身分だ。

 戦いに不向きな派手な服はご遠慮願いたいんだが」

 

 

 これも問題だと思うのだが、俺は今かなり上等な服を着せられている。

 

 何故かカルラの部屋には俺の服まで用意してあり、今回の礼装も彼女の部屋にあったものである。

 

 普段はカルラの御側付きとして最低限周り不愉快にしないように上等過ぎず、かつ地味な服(一応護衛も兼ねているので戦闘でも動きやすさも兼ねている服だ)を着ていることが多いが今俺が来ているのは礼服だ。

 

 手には普段から使っている地味な実践向けの籠手を嵌め、足元は奴隷身分らしく履物も履かず素足であるためにどうにも、ちぐはぐな感じが拭えない。

 

 それでも間違っても奴隷ごときが着ていいような服ではない。

 この程度の事、とカルラ本人は思っているのだろうが、シャクコポル族を見下している連中に付け入る隙はなるべく少なくなくてはならない。

 俺達の夢に敵は多いのだ。

 

 

「私が貴方を着飾って楽しみたかっただけですわ。

 他意はありませんことよ」

 

 

「こんないい服の着てたら城の兵からは喧嘩を売られるだろうし、普段の仕事にも影響が出るんだがな……」

 

 

 そもそもシャクコポル族が城内にいること自体、カルラの我儘なのだ。

 

 その俺がこのような格好をしていては、ギリヤギナ族の中の下級兵士どもからは妬みの対象以外の何物でもない。

 

 それと、俺もカルラのおS場月として城勤めを始めてから知ったのだが、全てのギリヤギナ族がシャクコポル族を見下している訳ではないようだ。

 

 その中でも特に意外だったのはカルラの父であるラルマニオヌ皇だ。

 

 ラルマニオヌ皇は「強い者を優遇する」という何ともギリヤギナ族らしい考えを持っており、俺がカルラの御側付きになったのも皇が口添えしてくれたというのもあるらしい。

 

 その他にも俺と同時期に城勤めの兵士となった年の近いギリヤギナ族からは酒の席に呼ばれることもしばしばある。

 

 年の近い連中は、先ほどのラルマニオヌ皇の言葉も「生まれに関係なく己自身の強さを何よりも重要視する」という意味でもあり、ギリヤギナ族の中でも生まれが貧しい家の者はその言葉に憧れて兵士として志願してきた者ばかりだ。

 俺に対してもそこまで悪い感情を持っていなかったので種族に関係なく「楽しい」と感じることが出来た。

 ギリヤギナ族にも悪い奴ばかりではないということを学ばせてもらった。

 

 思っていたいよりはカルラは孤立無援という訳ではなかったようだ、などと心の中で安心してしまう俺がいる。

 頼れる人間がいるだなんて、剣奴のときは考えたこともなかったが、これも心のゆとりというものだろう。

 

 これまで知らなかったものを知ると、なんにでも手が届くような大きな気になってしまうが、現実は甘くない。

 気を緩めてはいけない。 

 

 

「ウルトリィ様にも奴隷身分のシャクコポル族風情がこのような服を着ていては不快な思いをさせてしまうのではないでしょうか?」

 

 

 一応聞いておく。

 カルラの友人ならシャクコポル族を嫌っているのならば初めから両種族の関係改善を勧めたりはしないだろうが、出来るだけ多くの情報を得ておけば、こちらの対処の仕方に余裕が持てるからだ。

 

 

「彼女は平気よ。

 何ってったって、私の友達なんですもの♪」

 

 

 どうにも面白がっているだけにしか見えない笑みを浮かべているので言葉の真意は測りきれないが、これがいつものカルラなのは、それなりに付き合ってきた俺は知っているのでもう諦めている。

 

 少しばかり楽観的かもしれないが彼女もまだ子ども。

 『楽しい』という感情に忠実すぎるだけだろう。

 

 そして彼女は布地こそ上質ながらも俺よりも装飾が少ない普段着のままだ。

 

 俺の友でありながらも皇族である彼女は、一国の皇女としての威厳がない御方だ。

 

 改善策などないと思いつつも自由奔放なカルラを少しでも皇女らしく振る舞わせるために無駄な思案していると、天井裏から何者かの気配を感じた。

 

 俺としたことがここまでの接近を許すとは油断したか!?

 

 

「カルラ、俺の後ろへ!」

 

 

 素早く腰に提げていた曲剣に手をかけると、友でありながら生涯の主君であるカルラを守るために心を静める。

 

(気を緩めてはいけないと思った矢先にこれか)

 

 自分を叱責しながらも、冷静に心を鎮めていく。

 

 

「……もう、来たみたいですわね。

 レワタウ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですわよ。

 でてらっしゃいウルト」

 

 

 天井に感じていた気配は殺気を出すこともなく、天井板を一枚はがすと普通に降りてきた。

 

 

「ふふふ、これでも気配を消してきたつもりだったのですけどカルラには敵いませんね。

 はじめまして、あなたがレワタウ様ですね。

 私はオンカミヤムカイの第一皇女、ウルトリィと申します」

 

 

 俺は驚いた。

 宗教国家オンカミヤムカイを統治するオンカミヤリュー族はその種としての特徴である白く美しい翼を背中に持つと聞いていたが、輝くような金色の髪を伸ばしたその声の主はまさしく絶世の美少女だったからだ。

 

 登場の仕方こそ皇女らしからぬものであったが、その姿は万人が見ても誰一人として疑いようのない完璧な皇女の姿であった。

 

 ……カルラにも見習わせたい。

 

 

ドスッ

「今何か私を不愉快にさせるようなことを考えたんじゃありませんの?」

 

 

「……め、滅相もございません。

 俺の主はカルラ様だけです……」

 

 

「敬語を使わない」

ドヅッ

 

 

 躊躇なく鳩尾(みぞおち)を馬鹿力で殴ってきたカルラは先ほどから変わらぬ笑顔のまま俺を殴り、そのまま笑顔でい続けているのだ。

 

 ……恐ろしい。

 

ドスドスッ

 ぐぉぉぉ。

 

 

「やってきて一番に私に会いに来てくれるだなんて実に嬉しいですわ。

 でもまさか天井裏から来るなんてね。今頃あなたの護衛たちは慌ててるんじゃありませんの?

 それとここでのたうち回っているのが私の御側付きのレワタウよ」

 

 

 ぐぅ、殴られたことで俺の内臓は滅茶苦茶になってしまったために反論出来るほどに回復するまでにもう少し時間がかかりそうだ。

 

 

「さすがはカルラね。

 私の友人だけあって御側付きにもずいぶんと面白い人をつけるだなんて。

 あ、レワタウ様、私はあなたがシャクコポル族というのを理由にどうこう言いませんので、私のこともカルラみたいに敬称や敬語を抜きにして軽くお話しましょ♪」

 

 

 その言葉は聞き様によっては「お願い」なのかもしれないが、普段からカルラを見てきた俺には分かる。

 

 「命令」だと言うことが。

 

 

「はぁ、では失礼して……ウルトもカルラと同じでけっこう軽い性格なんだな。

 じゃ改めて名乗らせてもらうが俺はカルラの御側付きをしているレワタウだ」

 

 

 一応俺もこれが地だし、隠すなと言われるのなら普段通りに接するとしよう。

 命令とは言っても、そこには悪意も何もない、単純に本人がそう望んでいるだけという理由なのだろうしな。

 

 

「それにしても私のアドバイスでカルラに良い人が出来たって手紙で知ってたけど、随分とあなたの好みどストライクな方なのね。

 少し妬けちゃうわ♪」

 

 

 俺ではなくカルラを見たままウルトは言う。

 

 

「レワタウは最高よ。

 鍛え抜かれた肉体! シャクコポル族でありながら努力でギリヤギナ族の私以上の怪力まで持ってるんですもの♪

 それに剣の腕もこの国一番ね」

 

 

 俺が良い人ねぇ~、まぁ悪い人ではないと思うが普段から友であり主である彼女の世話まで色々とさせられているが断りきれないから、というだけだしな。

 あまり嬉しくない。

 

 それとカルラよりも怪力な人間だなんているはずがない。

 

 

「どうにも私の気持ちは一方通行で彼にはまだ届いていないみたいだけど、私は本気だから!

 ウルトもレワタウを欲しがったりしては駄目よ。

 彼だけはあげないから」

 

 

「ふふふ、カルラったら可愛いわね。

 そんなに言わなくとも私はまだそういうのはいいわよ。

 それよりも……早速お話でもしましょ♪」

 

 

 オンカミヤリュー族らしく翼で浮かぶと(本当は重力を無視する能力を使っているだけで翼は関係ないらしいが)来るときに通った天井裏から風呂敷包みを取り出す。

 

 弁当持参のようだ。

 

 それから短い時間だが俺達三人はカルラのこれからの夢の実現について話し合うのだった。

 

 

 ……こんな三人で本当に国を変えられるのだろうか?




 ~前書きの続き~

 原作では「ナ・トゥンク」というシャクコポル族の皇が統治する奴隷貿易で成功した国もありますが、
 その国の皇は当時まだ奴隷だったカルラをものにしようとして男のシンボルを潰されてしまったそうですし、
 ラルマニオヌが滅びた時の、子どもの頃のカルラ相手に同じことをしようとした人も潰されたから剣奴になった可能性もありますね。

 事実カルラは枷とか普通に破壊していましたし。

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