剣を捨てた手に掴むもの   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 今回は三人称の閑話です。
 レワタウがカルラの御側付きになるまでの裏のお話、と言ったところですね。

 ちなみに皇(オゥロ)=聖上ですので、この二つの呼称はどちらも王様のことを指します。

 オリジナルな想像による設定も入りますが、カルラの父であるラルマニオヌ皇は脳筋なだけで悪い人ではない、という独自設定のもとに進めさせてもらいます。





第六話:会議

 大国ラルマニオヌの皇は、皇としての能力よりも武人としての能力重要視されている。

 

 それは皇の一番の仕事は戦で兵を導く象徴的存在であり、ギリヤギナ族という国民性から、強くなくては皇たりえないという考えが根付いているからだ。

 

 歴代のラルマニオヌの皇は誰もが武勇に優れた武人なのだが、その歴史の中でも特に今代の皇は抜きん出ていた。

 

 カルラの父であるラルマニオヌ皇は、皇であると同時に戦場では負け知らずの英雄だったのだ。

 

 人は年を取ると、それなりに性格に丸みが出てくるというものだが、ラルマニオヌ皇は老いても変わることなく、戦があれば小規模な小競り合いから山のキママゥ退治といった下級兵士が出向くようなものにでも首を突っ込み剣を振るいたがる。

 真の戦士として、戦いのみを生き甲斐にしていた。

 

 それは戦の大小に拘らない、何よりも公平に強者との戦いを求める者ともいえるだろう。

 

 唯一関心のあるものが戦いであり、戦いに関しては誰に対しても公平な判断をするという意味では、シャクコポル族を奴隷として扱うこのラルマニオヌの中では異端なのかもしれない。

 

 だが、だからこそ……そんなカルラの父である今代のラルマニオヌ皇は賢王と言えるのかもしれない。

 

 

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「皆の者、よく集まってくれた。

 まぁ、堅苦しいことは抜きにして、いつも通りに始めさせてもらうぞ」

 

 

 場所は王城、集まっているのはラルマニオヌ国の皇を筆頭に宰相以下、文官のほぼ全員だ。

 

 ほぼ全員というのは、ラルマニオヌ国の文官は基本的に、頭を使って口で黙らすよりも、腕っ節で我を通させる方が早いと考える武闘派ばかりであり、元々の人数が少ないというのもある。

 

 そのため本当の意味での書類仕事などを片づける文官は、上司であるここに揃った面子の代わりの仕事をしているというわけだ。

 

 それに皇が召集して行われる会議だというのに、各人の前に出されたのが酒というのだから、この国の政治に対するやり方も分かるというものだろう。

 

 酒を飲みながらだが、一応国の行く末を担っているために手は抜かない。妥協もしない。

 

 それが他国との諍いならば、戦に持ち込んでしまえ、という案がポンポン出てくる以外は特に変わりない会議だ。

 

 

「~~では、以上で今日の案件は全て終了だな。

 ……あぁ、それとあと一つ。

 個人的な話がある」

 

 

 事前にあった幾つかの案件も全て終わったところで、最後に皇は言った。

 

 

「はて? 聖上、他に何か話し合うことなどありましたか?」

 

 

 皇があまり国の政(まつりごと)に関与しないために、実質政の全てを取り仕切っている宰相のゴウケンが訪ねた。

 

 

「あぁ、実はな、俺の娘が今度シャクコポル族の奴隷から一人、御側付きにしてほしいと頼まれてな」

 

 

「シャクコポル族から皇女様の御側付きを?」

 

 

 皇のこの言葉にはその場の全員が疑問に思った。

 

 それはシャクコポル族への嫌悪だけではなく単純に、何故シャクコポル族から? という疑問でもある。

 

 シャクコポル族は大国ラルマニオヌを統治するギリヤギナ族と比べると、明らかに格下の弱小種族である。

 

 それは奴隷身分だからというだけでなく、持って生まれた武人としての素質がまるで無い者ばかりなのだ。

 そのためシャクコポル族は、この大陸に住むギリヤギナ族以外の他の種族と比べても戦いというものが苦手である。

 

 そんなシャクコポル族から、皇はこの国の次代を担う皇女の御側付きをさせるというのでこの場に集まった者たちは疑問に思ったのだ。

 

 

「失礼ですが聖上、シャクコポル族はギリヤギナ族の奴隷である卑しき身分の弱き者たちです。

 そんな連中から皇族の御側付きを抜擢してしまっては他国から付け入られる要因にもなるのではないでしょうか?」

 

 

 宰相のこの発言には、その場の全員が同意した。

 

 奴隷身分云々はそうだが、そもそもシャクコポル族のような弱き者に、自分たちの国の皇族の護衛など勤まるはずがないと。

 

 

「まぁ、待て。

 これは俺の娘、カルラからの申し出なのだが、俺自身も賛成していることなのだ」

 

 

 皇のこの発言を聞いた何人かは「あぁ、なるほど」というような顔をし、皇が賛成しているのならと言葉の続きに耳を傾ける者も表れたが、その他の者はそれでも皇の言葉に疑問を持っていた。

 

 だが皇の顔が冗談ではなく皇自身もそう考えているようなので話の続きを聞かないわけにはいかない。

 

 

「俺も最初はシャクコポル族を皇族の御側付きにするのは、実力的にどうかとも思ったのだが、あのシャクコポル族の少年も、カルラの人を見る目も本物だった。

 剣奴として、シャクコポル族を含めたあちこちから買い取られた奴隷同士を戦わせて嬲り殺しにする見世物があるそうだが、そこでずっと勝ち続けてきた者なのだ」

 

 

 何人かはシャクコポル族の剣奴ということで一人の少年が思い浮かんだ。

 

 皇が言いたいのもおそらく、その少年だろう。

 

 

「最初はシャクコポル族に強者がいるなどと信じていなかったが、俺はカルラの頼みというのもあって実際にそのシャクコポル族に会ったのだが驚いた。

 あれは強くなる、と思ったのさ」

 

 

 ニヤリと口元を吊り上げて歓喜の表情を見せる皇。

 

 戦いの中で生きてきた戦闘狂としての歓喜だった。

 

 

「ですが聖上、いくら強くともシャクコポル族では御側付きとしての職務を果たせるとは思いませぬぞ。

 精々が毒味役として使い潰す程度でしょう」

 

 

「本当にそう思うか? ゴウケン」

 

 

 逆らい難い雰囲気を纏うラルマニオヌ皇に、思わず気圧されそうになるがこらえる宰相。

 

 件(くだん)のシャクコポル族の少年が、『シャクコポル族にしては強い』という認識しかしていないその場に集まった他の者も、宰相と同じ考えだったために、皇のこの言葉に驚きも感じていた。

 

 

「俺はそいつと手合せしてみたんだがな、俺が楽しめる程の強さだったんだよ。

 それもまだカルラと同い年という幼い少年がだ」

 

 

 勿論勝ったのは俺だが、と付け加える皇。

 

 だがそんなことに関係なく一同が驚く。

 

 皇の強さは他国にも轟くほど。

 そんな皇を楽しませるほどの強者など、すでにこの大陸には同じギリヤギナ族にすら、ほとんどいない。

 

 高山に住むギリヤギナ族と最強の名を二分する、エヴェンクルガ族の中にも数人いるかいないかという強さに関しては無敵の武人であるラルマニオヌ皇を楽しませたというのだから、その実力のほどは分かるだろう。

 

 

「俺はあの少年は、御側付きとしてこれ以上ない人選だと思っている。

 あと数年もしたら俺を超えるかもしれない。

 これほど楽しみなことは他にあるものか」

 

 

 がはは、と高らかに笑う皇を見て、大半の者がこれはすでに決定事項なのだと悟った。

 

 

「し、しかし下賤なシャクコポル族などを城勤めにするなどとこの国の歴史始まって以来の大問題ですぞ!

 聖上、確かにその者はシャクコポル族という奴隷の身でありながら聖上を楽しませる素質の持ち主だとしても皇族の御側付きなどさせるべきではないと思います!!」

 

 

 宰相は声を荒げて叫ぶ。

 

 普段はギリヤギナ族にしては落ち着きのある態度を崩さずに政(まつりごと)のすべてを取り仕切っている彼だからこそ、シャクコポル族という奴隷が自分と同じ、この国の権力の中枢に来ることを拒んでいるのだ。

 

 落ち着きがあるとは言っても宰相もギリヤギナ族。

 強さや弱さに関わらず奴隷に奴隷以外の地位を授ける皇の発言が我慢ならなかったのだろう。

 

 それでも宰相に同調するのは年おいた古株連中ばかり。

 ラルマニオヌ皇と年の近い者やカルラ皇女と接する機会の多い者は「皇が認めるほどに強ければ問題はないだろう」と考える者だかりで会った。

 

 尚も考えなおすように説得をする宰相に、皇もついには一喝する。

 

 

「くどいぞゴウケン!

 それともお前が俺に意見するつもりか?」

 

 

「ぐ……」

 

 

 そんな事が出来るはずもない。

 

 皇は誰よりも強いからこそ皇なのだから。

 

 宰相は皇の覇気に気圧され、押し黙ってしまう。

 

 

「うむ、なら今日の会議は全て終了だ。

 もしも今回の件で文句がある奴がいるなら俺に言ってこい。

 そして力をぶつけ合おうではないか!」

 

 

 皇が部屋を去ると同時に徐々に部屋から退出していく官僚たち。

 

 最後まで残っていた宰相は震える拳を握りしめる。

 

 皇族の御側付きという名誉ある職務に就きたがる者は大勢いる。

 先ほどの会議に集まった者の中にもカルラ皇女と年の近い息子を持つ者もいるが、誰一人として皇に反論した者はいなかったのだ。

 

 宰相に賛同する者でさえ。

 それが宰相の怒りをより強くする。

 

 

「なぜ……なぜ皇はギリヤギナ族の素晴らしさを理解出来ぬのだ?

 シャクコポル族のような奴隷を、皇族の御側付きというギリヤギナ族の中でも選ばれし者だけの垂涎の地位などと……、そんな者に与えるだなんて……」

 

 

 宰相はギリヤギナ族だが、生まれつき身体が弱かったために戦場には出れずにいた。

 

 彼の家は代々、ラルマニオヌ国で宰相を務めてきた家柄であり、ギリヤギナ族としては珍しく、武力よりも知力に秀でている一族だ。

 

 それでもギリヤギナ族。

 ゴウケンの先祖、歴代の宰相たちは武人としてより文官としての才に秀でてはいたものの、それでも剣の腕にもそれなりに優れていた。

 

 というのに、ゴウケンだけは一族で唯一剣の才能を欠片すらも持っていなかったのだ。

 

 彼は家族からも馬鹿にされ、それでもいつかは周りを見返したいという一心で唯一の自慢であった頭の良さを利用して、何とか先代宰相の父から宰相という地位を継ぎ、国を維持していくのに大きく貢献してきた。

 

 そのために力こそが全て、強者こそが正しいというこのラルマニオヌでは実質№2という地位だが、その上にいる皇とは大きな力の差があった。

 

 知力で勝っていようとも、武力……それだけが足りないばかりに宰相はその地位とは反して権力はそれほど大きくない。

 金で味方を増やしたりはしてみたものの、先ほどの会議で誰一人として皇への反対意見を言えない者ばかりだ。

 

 それゆえの怒りだろう。

 自分にないものを持っている奴隷身分のシャクコポル族への怒りは。

 

 

「必ず……必ず私がこの国からシャクコポル族を根絶やしにしてくれる!

 皇も、皇女も、シャクコポル族も全て! この私が滅ぼしてやる!!!」

 

 

 誰もいない部屋に小さく響く宰相の言葉。

 

 そう言い放ったゴウケンも、静かに部屋をあとにした。

 

 

 




 ラルマニオヌの宰相は代々世襲制というオリ設定。
 いやまぁ、原作でも書かれていませんでしたし皇をこんな脳筋にしてしまっては、宰相くらいはきちんと政治をこなせる文官でなくてはならないと思ったもので。

 ちなみに「キママゥ」とは農作物を喰い荒らす猿です。どこにでも現れます。

 私はハッピーエンドが好きですし、なんだかんだでこれまでの作品では悪役も救ったりしてきましたが、今回はちょっと全てのキャラを助けるのは不可能です。

 なので可能な限り人死にの出ないようにハッピーエンドを目指しますが原作が原作だけに死ぬ人もいます。

 それと分かるとは思いますがラスボスは宰相です。
 彼も単純に支配欲に取りつかれただけの悪ではありませんし、理由もあるのでしょうが、少なくとも今の考えは悪です。

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