勿論出ますよ、原作キャラのあの三人が。
たまにはのんびりした雰囲気が書きたいですね。
ウルトの来訪から一週間ほど経ったある日のこと。たまの休日をシャクコポル族の村への里帰りとしていた。
だが生憎、俺の育ての親の家で共に過ごした義弟たちは留守にしているようなので、かつて王都へ買われるまでの間利用していた場所にて剣の修錬をしているところだ。
ヒュヒュヒュ
傍目には一回振っただけに見えるかもしれないが風を切る音は三つ。
主に攻撃に用いる右手に持つ、独特の形状に湾曲した剣、ショーテルは一瞬で三度の斬撃を放ち練習用の巻き藁を切り裂く。
ドン
次に防御――相手の武器を弾くために左手に持つパリングダガーを全力で突き立てることで標的であった巻き藁を貫通させる。
「……相手が巻き藁ならば貫くことも出来るようになったか。
だが、敵は止まってはくれない。
まだまだ夢を実現させるためには、俺は弱いな……」
「いや、その年でそれだけの技量、お主には武の才というものがある」
先ほどから俺の修行を覗き見ている視線には気づいていたが殺気がないので放置していた。
その声の主は俺が子どもであることを差し引いてもかなりの巨体。
声を聞くまでは誰かは分からなかったが、その声には覚えがあった。
「久しいなレワタウ。五年ぶりかの」
「お久しぶりですね。ゲンジマル様」
声の主はここラルマニオヌからは遠く離れた高地に住む少数民族、エヴェンクルガ族の中でも「生ける伝説」と呼ばれる英雄ゲンジマル様。
俺が今よりも幼い頃、わずかばかりの期間とはいえ剣の手ほどきをしてもらった人だ。
「……あぁ、武器(これ)ですか。
俺は相変わらずショーテルを使っていますが全てはゲンジマル様の教えによるものが大きいと思っております。
それよりも、いつラルマニオヌへまいられたのですか?」
「この村へは先日着いたばかりだが、懐かしい気配がしたのでな。覗かせてもらったのだ。
それとレワタウ。お前に剣の扱い方を教えたのは某だが、お前と某では扱う武器も違う。
お前の技術は全てお前自身の修錬によって身に付いたものだ。
もっと誇ってよいだろう」
「はい、俺は今ではラルマニオヌの第一皇女カルラ様の御側付きですので城内でなどの狭い場所での戦闘を想定するとこの武器が大きさ的にもちょうどいいので。
……それに、シャクコポル族風情が一端の刀を持っていては一族にあらぬ疑いをかけられる要因になりかねませんので」
「……苦労しているのだな」
ゲンジマル様はそう言うと黙り、沈黙が流れた。
この方が来たと言うことは孫のサクヤやヒエンにでも会いに来たのだろうか?
俺も昔は剣の手ほどきを受けたとは言え、ゲンジマル様は数は少ないとはいえ、シャクコポル族でも素質のある者には全員に剣を教えてくださっていた。
別に俺だけに会いに来たわけではないだろう。
「レワタウ、お前には言っておきたいことがある」
「なんでしょう? 俺が力になれることがあるのなら手を貸しますよ。
慢心している訳ではありませんが俺はかなり強くなりましたし」
それから少し考えたようなゲンジマル様は首を振り、ためらいながらも何も言わなかった。
「…………いや、やはり止しておこう。
お前にはお前の道がある。
某がこれからする事は必ずしも正しいことではない」
「エヴェンクルガ族のゲンジマル様ともあろう御方が何を弱気なことを……」
「お前はお前の道を往け、その結果、某と道が交われば某を倒してでも己の正しいと思う道を往くのだ。
某が某自身の義に従うように」
そう言って、他に何を言うでもなく立ち去って行くゲンジマル様。
親のいない俺にとっては剣の師であると同時に親のような存在だ。
それでもゲンジマル様は俺が自分に付いていくことを望んでいないということは、これからゲンジマル様が行うことに俺は敵対することになるというのだろうか?
「…………駄目だ。やはり考えがまとまらない。
あとでカルラにでも相談するか」
再び俺は修行の続きを始めた。
……
…………
………………
「え? お爺ちゃんなら来てませんよ」
「おかしいな、さっき俺が修行している時に出会ったんだがサクヤのところにも寄らずに帰ったのか?」
大国ラルマニオヌともなれば持て余した土地というのはある。
未だ発展途上であるこの国は、武力に関しては大陸中に知られる大国中の大国だが、王都近辺でも耕作されていない土地があり、そこを開墾するために設けられた集落、そここそが俺の生まれ育った村だ。
俺も剣奴として闘技場に引き取られるまではここで暮らしていたが、カルラの御側付きとなってからここに来るのは初めてだな。
「それよりもレワタウお兄ちゃん。
今日は久しぶりに来てくれたんですから泊まって行ってくれるんですよね?
お母さんったら、もう御馳走の準備始めちゃってるんですから♪」
この子は名をサクヤと言い、親のいない俺を引き取ってくれた母の友人の子だ。
まだ7歳だが血の繋がらない俺のことを本当の兄のように慕ってくれる俺の家族だ。
この子には血の繋がった兄もいるんだが、そいつ共々俺が剣奴として王都へ行くことになった時には散々泣かれたのもいい思い出だな。
あれから手紙でカルラの御側付きとして王城勤めとなったことは伝えてあったから今回の来訪もそのお祝いを兼ねているようだ。
……剣奴の時よりも命のやり取りが多くなったのは秘密だが。
「ヒエンお兄ちゃんもはハウエンクアさんも狩りに出掛けてますし、今は私だけのお兄ちゃんでいてくださいね♪」
「サクヤは相変わらずハウエンクアには厳しくしてるんじゃないだろうな?
あいつも含めて、みんな俺にとって大事な家族なんだから仲良くしろよ」
「あー、お兄ちゃんったらハウエンクアさんの味方する気!?
ハウエンクアさんったらこないだ私が着替えしているのを覗いたんだから!
私あの人嫌い」
「そう嫌ってやるな昨夜。
ハウエンクアはそう悪い奴じゃない。覗いたのだってただの偶然だろう」
覗きをしたというのはあとで問い詰める必要はあるだろうが、あいつのことだから、ついうっかりといったところだろう。
頼りないところも多々あるが、ハウエンクアは自分を磨くことに関しては妥協しない立派な武士(もののふ)だ。
「あはははは。でも私が一番レワタウお兄ちゃんのことが大好きなんですから、幾らヒエンお兄ちゃんでもレワタウお兄ちゃんは渡しませんから」
「いや、俺は誰のものでもないんだがな」
城ではカルラや俺を狙って暗殺者が差し向けられることもあり、常に警戒せねばならなかったが、こういう空気もたまには悪くない。
その後はサクヤに城での俺の仕事(暗殺者の撃退など以外)を話しているとヒエンとハウエンクアも帰ってきた。
ちなみにハウエンクアはサクヤとヒエンの家の近所に住んでいるのでよく食事を一緒に食べる仲である。
「「レワタウ兄さん!」」
「よっ」
「兄さん帰ってきていたんですね。
この間届いた手紙で無事なのは分かっていましたが、もう少し早く戻ってきてくれても良かったんじゃないですか?」
ヒエンは興奮ぎみに駆け寄ると一気にまくし立てた。
「ヒエン、少し顔が近い。
大体俺が無事なのが分かってたんならそんなに興奮するな。
あと、ハウエンクアも久し振りだな。元気にしてたか?」
「ふ、ふん、僕はレワタウ兄さんの無事ははじめから毛ほども疑ってなかったよ。
でも……元気そうじゃん」
ヒエンを抑えてハウエンクアに顔を御向けてみると、先ほどは出会いがしらだったからか興奮していたようだが、幾らか落ち付きを取り戻してからは、少し恥ずかしそうに顔を赤くしてそっぽを向いている。
耳まで真っ赤になっているから後ろを向いても隠せていないぞ。
「それよりもレワタウ兄さん。
今日は自分とハウエンクアの二人でキママゥを狩ってきましたのでキママゥ鍋にしましょう」
ヒエンは玄関に戻ると大きな背負子(しょいこ)からかなり大きなキママゥを担ぎ下ろした。
「随分と大きなキママゥを仕留めたもんだな。
二人ともこれほどの大物を仕留めることが出来るようになるとは、俺でさえお前たちと同じ年の頃は鼻たれで何も出来なかったがなぁ」
「兄さんはずっと僕らの理想であり、今でもそれは変わらないんだから謙遜しなくてもいいさ。
今回のキママゥ狩りは僕の活躍が決め手となったからね。
兄さんにも見せたかったよ」
「ハウエンクア、トドメを刺したのは自分の剣だ!」
「い~や、ヒエンが留めを刺す前に僕の剣ですでに虫の息だったからヒエンのトドメなんて無くても狩りは成功していたのさ」
いがみあう二人の弟たち。
この二人も年が同じからか何かと張り合うんだが、もう少し仲良くしてくれればいいんだがな。
「二人の喧嘩の原因はお兄ちゃんに認められたいからだよ、レワタウお兄ちゃん。
私だってまだ小さいですけど、鍛えてるんだよ。
女のシャクコポル族は体が弱いと農奴にすらなれずにギリヤギナ族の夜伽用の奴隷として連れて行かれるしかないんだもん」
口調こそ明るいがそこに諦めのような暗い感情が隠れているのは俺の気のせいではないだろう。
事実、この国のシャクコポル族は誰かしらの奴隷なのだから。
「サクヤ……俺はお前みたいなシャクコポル族だからという理由で差別されている一族の仲間が剣を手にすることのない未来を作るために今動いている。
それに知ってるか?
ギリヤギナ族にも種族に関係なく共存の道を歩みたがっている人もいるんだぞ」
「それってレワタウお兄ちゃんが仕えている皇女様のこと?」
「あぁそうだ。皇女様、まぁ、俺の友だからカルラと呼び捨てにしてるんだがな、カルラは俺と同じ夢を見ているんだ。
種族に関係なく、誰もが幸せで、誰もが当たり前に手を取り合える未来を実現するために皇を目指しているんだ」
俺がカルラを信頼するのは同じ夢を持つからだけではない。
身分に関係なく、俺のことを友と呼んでくれた彼女だからこそ協力しているのだ。
他の誰であろうと、カルラでなければ俺はここまで自分の夢とまでは思わなかっただろう。
「しかし、レワタウ兄さん。
お言葉ですが、それはギリヤギナ族の皇族に生まれた者が持つ遊びのような感情ではないのですか?
奴隷身分であるシャクコポル族と本気で共存を目指す酔狂な者が皇族にいるとは思えないのですが」
「そうですね。ヒエンの言う通り、ギリヤギナ族は自分たちこそが最強で、強いから偉いと勘違いしているような腐った連中ですよ。
兄さんはその皇女様のお遊びとして御側付きに任命されたのかもしれませんし、木を許し過ぎるのはいけないんじゃないですか?」
ヒエンもハウエンクアも両種族の共存には否定的だ。
それは仕方のないことだろう。
ギリヤギナ族のこれまでしてきたことを考えてみれば、どれほど信用できない種族であるかはよく分かるはずだ。
しかし、それでも俺はカルラの友であり続ける。
俺の心が彼女を信じろと叫ぶからだ。
「今はまだどうなるかは分からないが、それでもカルラは必ず俺達シャクコポル族と手を取り合う未来を実現するための努力は惜しまない。
勿論俺もそれに協力する。信じなければ変わらないからだ。
だから……お前たち三人も人を信じる気持ちだけは失くさないでほしいんだ」
この言葉がどれだけ伝わるかはわからないし、ギリヤギナ族の大半は信用してはならない連中だ。
それでも信じなければ何も変わらない。
ギリヤギナとシャクコポル。
二つの種族が未だ主人と奴隷という関係であるのは両種族の間の溝が深すぎて信じられなくなったからなんだろう。
俺はカルラを信じる。
カルラも俺を信じてくれている。
だから俺達の未来は明るいと信じられるんだ。
そんな話をしている間に、ここで俺の育ての母であるヒエンとサクヤの母さんが料理を食卓に運んできたことで話は一旦終了。
三人ともそれぞれに何か考えてくれているようだが、この子たちが人を当たり前のように信じられる国をカルラと作っていきたいと改めて思った里帰りだった。
それは俺が、信じられる者がいない生き方の寂しさを誰よりも知っているからだろうな。
エヴェンクルガ族の英雄のゲンジマルは、確か奥さんがすでにシャクコポル族という設定があったような気がしますので、たぶんヒエンとサクヤの両親は共にシャクコポル族ですね。
この時点でレワタウ&カルラ&ウルトが13歳、サクヤが7歳、ヒエン&ハウエンクアが9歳くらいということで。
ショーテルは元々、農夫が鎌を改良して作った武器……だった気がするので、奴隷であるレワタウはその点も気を使ってショーテルを選んだという隠れ設定。
ここに書いてる時点で隠してませんが、そういう事情もあって和風な『うたわれるもの』の世界で刀を使っていないのですよ。刀よりは奴隷っぽい武器ですし。
何となく詳しく調べてみますと、ショーテルとは(ショテルとも言う)全長・75~100センチ、身幅・1.5センチ、重量・1.4~1.6キログラム が一般的らしく、S字に湾曲したエチオピアの両刃の剣。
柄は木製で、簡素な作りをしており、これといって手を護る工夫はされておらず、全長は、柄から切先までが75センチ程、曲がった剣身を伸ばして考えると1メートル程に成るそうです。
この湾曲した剣身は意外にも非常に現実的な考えから生まれたもので、盾を構えた相手に対し、その盾を避けて剣先を引っ掛けるなどして傷つけるが出来るようになっているのですよ。
また、両刃で湾曲した形状から、通常の刀剣のように斬撃等にも向いています。
まぁ、独特の形状から生み出される攻撃手段は非常に効果的ですけど、その反面、独創的過ぎる形状のために鞘に収める事が出来ませんし、これを装備する者は、そのまま腰に吊るしたりベルトに挟んだりして持ち歩いていたそうですから、暗殺者の装備としては隠密性には効果の方も半減だと思うんですけどねぇw
『デモンズソウル』のユルトはこれを暗殺に仕えるほどの達人なのでレワタウにもそこら辺を学んでもらえれば、と思います。
ダイスンスーン。
弟たちに人を信じる心を教えるレワタウであった。