ひとつひとつの物語   作:秋和

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臆病な少年 定常は、自分に打ち勝つために――
――武術の青春を彼は忘れることができない......はずだった


臆病な坂

 

 「人生、臆病でない時などありませんよ、先輩」

 「小説初めの行を、誰だか知らないお前の言葉で使うな」

 「おっといけませんね。【臆病な坂】って書いてあるじゃないですか。更に言えば『まえがき』もありますよ?」

 「それは別問題だ。ほら、絶対ここでブラウザバックしてるよ」

 「こんな物語、【臆病な坂】を見る以前にブラウザバックしてますよ」

 「自分の語る物語を卑下するな」

 「まあいいや、この馬鹿な先輩はおいといて、」

 「...........」

 「人生なんやかんやで臆病なことしかありません。これはその『臆病』な人のエピソード......かな? まあそんな物語です」

 「適当だな」

 「黙れ。しかも、適当という言葉の意味は『適切』という言葉と同じですからね?」

 「はいはい」

 「それでは、『臆病』に勝とうとした『臆病』な人の物語です――」

 

 

 

 

 彼の名前は定常(さだつね)

 彼は臆病で貧弱な性格。

 皆から外され、いつも独りぼっちでいる。

 彼は剣術を習っている14歳の男子。物心はとっくについており、その上、正確もしっかりと固まってきた時期。

 彼は人生の選択に出遭う。

 

 「おはようございます」

 定常は稽古場に一礼し、挨拶をした。これは当たり前のこと、礼儀、作法であり、特別な意味があるわけではない。

 定常の挨拶に返事はなかった。

 実際、挨拶に返事が必要なのかは賛否両論だと思うが、それとは別に、ただの軽視である。

 大して定常はそれを気に留めなかった。

 定常の剣術稽古場では女子も少なくない。

 女子は、薙刀を持ち、馬と、それに乗馬している人に見立てた打ち込み台に打っている。

 ちなみに、多いとはいえない女子を、サボってまで見ようとした輩もいたくらいだ。

 

 「定常。俺と試合しないか?」

 定常は急にかけられた言葉に取り敢えず驚く。

 「ぼ、僕ですか? 稽古相手にならないと思いますけれど......」

 定常に話しかけた――稽古を申し込んだのは、

 この道場で一番強い、御笠(みかさ)という先輩だ。

 当然ながら、何千億回二人が戦っても、全て御笠が勝利するくらい。

 何故ならば、定常は道場で一番弱い。

 貧弱で、臆病。

 誰と試合しても結果は同じ。臆病だから手が出せない。そして貧弱だから力も劣る。

 御笠と稽古するなど、失礼なことでもあるのだ。

 「いや、お前は強い。だから、俺と試合をしてくれ」

 「強い......ですか?」

 その言葉をわかりかねた。

 定常が御笠に言ったのではない。

 道場一が道場一ビリに言った言葉だったからだ。

 道場一弱い奴が、「強い」、と道場一強い奴に言ったのではなく、

 道場一強い奴が、「強い」、と道場一弱い奴に言ったのだ。

 「すみません。先程から体調が悪くて見取り稽古をしている最中です。今日は申し訳ありませんが、できません」

 「そうか。それじゃ、次の機会があったらやろう」

 御笠には昔からからかわれていた定常。嘘をついてまで、稽古――試合を断った。

 御笠の後ろについていた先輩が舌打ちをしたが、定常は特に気にしなかった。

 「............」

 しかし、定常は御笠に対する『違和感』を覚えた。

 昔からからかわれ、馬鹿にされ続けたのに。

 『違和感』を感じた。

 

 定常はどんなに人から嫌われようと、稽古だけは一所懸命にした。

 それは、彼自身の、臆病な性格を直そうとするケジメだ。

 「定常、あいつまた師匠に呼び出されてる。無様」

 定常は稽古が終わっても、酒を飲み交わす深夜まで師匠ときっちり稽古をしていた。

 呼び出し――つまり、叱られる、怒られる、という事ではなく、

 『自主練習』をしていた。

 「すみません。師匠の大切な時間を使ってしまって......」

 「はは、いいのだよ。儂は師匠だ。生徒に剣術を教えるのが儂の役目だ」

 師匠は笑った。

 

 年明けから、定常は未だ試合をしていない。

 そのお蔭で怪我をしていないのだが。

 ただ、順位は試合をしないと変わらない。

 これも未だ、

 最強は御笠、最弱は定常のままだ。

 そんな最弱な定常にも気になる人はいた。

 臆病で貧弱で、いつも稽古場の傍らで掃除をしている定常に声をかけてくれる、

 坂上(さかのうえ)という女子の生徒だ。

 

 ある日、再び御笠が定常に試合を申し込んだ。

 定常は下りなかった。最強と戦うことを決心したのだ。

 声援は坂上を含め、誰もいない。

 公式戦で、生徒全員が見ている状況。

 地稽古とは訳が違う。

 「はじめ!」

 試合は始まった。

 定常が白。御笠が赤。

 御笠はいきなり突き――すっと前進し、定常の首目掛けて突く。

 だが、定常はそれを防ぐ。防ぐ、というよりは、ずらす。すりあげ技の様に。

 それは、最初に突きをすれば、『大抵の人』は防げる。

 (............)

 定常は『大抵の人』ではなかったはずなのに。

 すかさず、定常が籠手を狙って竹刀を振るう。

 待っていたといわんばかりに、御笠が籠手すりあげ面。

 返し面の方がよかった、というくらいに定常の打突は強かった。

 御笠の綺麗な面が繰り出される。

 「!?」

 だが、

 定常はそれを防いだ。

 (今のを防いだ......? 定常ってこんなに強かったか?)

 さらに定常の面返し胴。

 「ヤバッ」と言いたげにテンポ悪く御笠がそれをなんとか打ち落とす。

 面に行こうと御笠の竹刀の剣先が上がったとき、既に定常は動いていた。

 御笠からみて、定常の竹刀の動きは、

 左から右へ。

 (逆胴か!?)

 違った。逆胴ではない。

 御笠は、胴を打ち落とす癖がある。よって、御笠は防御のために、自分の左に竹刀を振るう。

 が、

 御笠の竹刀は空を切った。

 と思ったら

 パァンッ!

 と、定常の踏み込みの音と、

 御笠の面布団が打たれた音――つまり、定常の面が打突した音が重なって響いた。

 御笠には、定常の「面!」という声が聞こえなかった。

 定常の面は綺麗に決まり、御笠の左を抜けていった。(無論、御笠の竹刀は無視)

 3人の審判が全員白の旗を上げる。

 審判も、見学していた生徒も、師匠も、彼ら自身も、驚いていた。

 「面あり」

 両者位置に戻る。

 「勝負あり」

    (※普通の剣道の試合は三審制、二本制ですが、この試合は一本制)

 ざわざわと、周りがうるさくなる。

 最弱が最強に勝った。

 その道場では、歴史的な瞬間だった。

 

 「きゃああああああッ!!」

 突然。

 悲鳴が上がる。

 試合終了直後。

 一気にざわめきが解かれ、緊張の沈黙が走った。

 「おとなしくここの道場の看板を下ろしな」

 道場破りだ。

 どうやらさっきの試合を見て、終了を確認し、タイミングを計って、ここにきたらしい。

 「!? 坂上!!」

 定常は叫んだ。

 道場破りに押さえられているのは坂上だった。

 人質。という存在。

 道場破りは真刀を帯びている。それが五人。

 普通に道場を潰しにきたらしい。勝負など望んでいないようだ。

 「ここにいる全員ぶっ殺してもいいんだぜ」

 真刀を鞘から少し抜いた。

 ギラっとした刃が鈍く光る。

 「坂上を放せ!!」

 

 これは戦わなくてはいけない

 

 臆病な定常は思った。

 愚かに。

 思いっきり彼は、坂上を人質としてとっている奴に突っ込んでいった。

 この距離なら......

 

 

 彼は見たことのない『坂』に立っていた。

 道の横にあるのは木。

 その坂はとても斜めだった。

 少し踏み外せば転げ落ちそうなくらい。

 道も、木も、自分も、『世界も』、斜めっている坂。

 上には真っ青な明るい空が広がっている。

 彼は至って坂の下を向いていた。

 坂の下はとても明るい。神々しいくらいに。

 対して坂の上は暗かった。ブラックホールくらいに。

 彼は......

 

 

 定常は無意識のうちに叫び、道場破りへと駆け出していた。

 剣先を突きたて、一閃に。

 しかし、

 道場破りは定常の対抗心を見て、短刀を抜刀した。

 そのまま短刀の刃は坂上につきつけられる。

 定常と道場破りの距離はまだまだあった。

 十分に。

 

 そこから長い長い一瞬が始まる。赤く紅く朱い、時の止まったような一瞬が。

 

 『定常は坂を下りていった』。

 

 

 





【あとがき】

どうも秋和と申します
この小説の物語は、基本的に内容が読み取りにくいと思います(わざと暗示しているので......)
内容はあとがきで説明するので、本文で意味がわからなかった場合はあとがきを読んでくれればありがたいです
わかっていても、あとがきで内容(伝えたいこと? 主旨?)や稀に結末を説明しているので、よければ読んでください
要は、ネタバレです
(僕としては、あとがきも本文に入っていると思って読んでほしいです。※この小説の場合はですが)



御笠に対する『違和感』 とありましたが、
定常は御笠を恐れて、嫌って、いましたが、実は三笠は定常を親友だと思っていたということです

『世界も』斜めっている坂 とありましたが、
空気も傾いてしまっている『間違った世界』という意味です

坂の下は...... 坂の上は...... とありましたが、
坂の上下は『運命』を意味しています
上(暗い)に行ったら、臆病に立ち向かい、自分の強さと引き換えに想いの人の死を認めるという運命で、
下(明るい)に行ったら、臆病を認め、人生を楽に過ごすという運命でした
ちなみに、上に行ったほうが正解です

この物語の結末
道場破りが成功され、道場が潰れる
想いの人を亡くしたことにショックを受けたが、それすら忘れる程に快楽に生きて、
自分の不幸を臆病と勘違いし、
銃を使って自殺
銃を使い、楽に死ぬというところ――最後の最期まで『臆病』だった
ということです
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