ひとつひとつの物語   作:秋和

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――不幸なとある男子高校生は、ある日ある奴に出会う
彼の人生はここが転機だったのかもしれない――


自称、世界一不幸な男

 

「『幸せ』と感じることはありますか?」

「............お前、キャラ変わりすぎじゃね?」

「いえ、私は私ですけれど」

「あ、言い忘れていたな。俺は男で、このかしこまった口調の奴が女」

「別にいいじゃないですか、設定なんて。というか私、男ですよ?」

「アニメや漫画じゃできないことをするな......」

「小説って文字だけですから、私が男といえば男になるんですよね。別に、絵があっても『女装です』っていえば別ですけれど」

「話が外れすぎている」

「外したのは先輩じゃないですか。まあいいや。自分の人生を幸せと思えない男の話ですよ」

「おい。いきなり趣旨を言うか?」

「うるさいですね。充電器ぶち取りますよ?」

「おい待て。いくらこの文章を書いている時のパソコンの充電が少ないとしても、それだけは止めろ。このファイルのデータが飛ぶだろ!」

「ファイル? 直接サイトに書かないんですか?」

「待て、マジで脱線してる」

「ということで、不幸な男の話です。悲しい人のハッピーエンド」

「バッドエンドだよ......。基本的にこの短編昨集ってバッドエンドかデットエンドだからな」

「そうとは限りませんよ? 例えば『夢落ち』だったり――」

 

 

 

 

 「だああ! 何だよ畜生!」

 自分ただ独りだけの環境――自分しかいない家の、自分だけの部屋で、鏡見凛琥(かがみ りく)は絶叫した。

(まだ確認してないが、この足の裏の感覚、そして音!)

 鏡見は必死に考えた。

 この、硬い物を踏みつける感覚。

 バキッ! という何かをへし折ったか粉々にしたかという音。

 我が足の下を見るか、否か。

 「くそっ! どうか無事でありますように――」

 何が無事か。

 何に対してshitな感情を抱いているのか。

 「あああああああああっッ!! やっぱりそうじゃないかァ!!」

 彼、鏡見の不幸な一日はここからまた始まった。

 

 「修理しないと......はあ、でも修理する金も、買いかえる金も、残念ながら持ち合わせていないのですよねー」

 テーブルに置いてある残骸に対してぶつぶつと鏡見はそう言った。

 残骸。

 「はあ、不幸であり、不便でもある......」

 それは、鏡見の携帯電話だった。

 携帯電話を、自らの足で踏み壊してしまったということだ。

 「どうしてそうなるんだよ。しっかりと俺は掃除してるぞ? どうしてお前はそこに落ちてたんだ」

 他人から見ればイタい人のいい例であった。

 「っつうか、何で土曜日の最初っからこんなハードな不幸なんですか?」

 不幸だ。

 鏡見は基本的不幸な奴だ。

 昨日は冷蔵庫の扉を開くとき、何故か食材も一緒にオープンしてきて、ぐしゃり。落ちるのはまだいいものの、卵が一つ残らず落ちて割れてしまった。ぐっとりとしたあの生卵の中身が、床にもの凄いスピードで広がっていったわけだ。

 一昨日も、普通に学校(鏡見は高校二年生)に行き、帰ってくる下校道、いきなり空き缶が足の下にもぐりこんできてずてんとすっ転ぶ。その拍子に、近くにいた幼馴染の女子のスカートの下に顔が墜落したらしく、そいつに思いっきり蹴られボコボコにされた。

 あとは、昨日だったか? 学校で「たまには屋上で涼もうかなー」なんて思ってしまったのが運のつき。何故か三階の校舎の屋上に行った、ら、何故かサッカーボールが飛んできて、それに気づかなかった俺の頭にクリーンヒット。「すみませーん」という声が校庭からやってきたので、俺の勘違いや間違いは前面に断られた。

 ちなみに、この描写に入るまでも鏡見はいくつかの不幸を味わった。軽いものだったが。

 何故かほっぽらかしにされていた漫画の山積みに腕がぶつかり倒壊。

 テレビをつけようと思ったらリモコンが行方不明。

 布団でも干そうかなと思ったら雨。

 と思ったら晴れて.......も尚、雨は降り続けている。

 「はあ。某小説の主人公かよ」

 一応、彼は彼自身を『世界一不幸な男』と言っている。

 

 ピンポーン。

 と、インターホンが鏡見の家に鳴り響く。

 鏡見の家は、家というか、アパートというか、マンションというか。

 独り暮らしなのに、何故か結構豪華な家だ。

 豪華――というよりは、『無駄に広い』。

 外国かよと思うほどに。無駄に広く、家具もきっちりあった上で、すっきりしている。

 これは鏡見のキャッチフレーズの『不幸』へ対する考えだった。

 「はいはーい」

 鏡見はそう元気のない、テンションの低い、疲れ果てた(朝っぱらから)、声で玄関のドアを開けた。

 「凛琥―っ。遊ぼう?」

 ........................、凛琥、つまり鏡見は沈黙を余儀なくされた。

 いつものことだけどね、と心の中で返答しつつ、

 「真媛(まじめ)......お前、よくまた俺の前に出れたな」

 バシン! と、真媛と呼ばれた少女の平手打ちが鏡見の頬に放たれた音が、無駄に広くすっきりとした部屋に響いた。

 「べ、べつにいいじゃない。幼馴染だし、......いつものことだし」

 「いくら幼馴染だからって、女子が男子の家に来て『遊ぼう?』なんてのはなんというか」

 真媛。

 角川真媛(かどかわ まじめ)

 幼馴染の、同学年の、同じ高校の、同じクラスの、女子である。

 そして、一昨日鏡見にスカートの中を見られてしまった女子生徒でもある。

 「で、遊ぼう?」

 「そこは変わらないのね。まあ、暇だしいいけど」

 「よしっ」

 暇つぶしができるぞー、と角川は呟きつつ無断で部屋に上がった。

 『いきなり部屋?』と思うかもしれないが、鏡見の家は一つのその無駄に広い部屋で構築されている。あとはオプションで、風呂、トイレ、洗面所があって彼の家の説明は終わる。

 「ゲームしようよ、凛琥」

 「いやだ」

 「ええ~、なんでぇ~?」

 「某漫画(某アニメ)の様な声を出すな」

 お前は警察を辞めた刑事の一人か、とつっこみをいれつつ、

 「運動しろよお前は。今はスリムでも、動かないとデブになるぞ?」

 とても乱暴な言葉遣いを選んだのは、忠告をパーフェクトでスルーしてしまう角川の性格を考慮した技だった。

 「じゃあ、この部屋広いんだし、鬼ごっこしようよ」

 「ま、運動だし別にい――いくねえよ!」

 しまった、噛んだ――と口を直してから、

 「お前も十分承知してるし、だからこそこうして俺の家に上がってるわけだが、俺は不幸だ。一日欠かさず不幸イベントが起こる。もう既に四回ほどは起きているっ」

 「うん。知ってるけど」

 (でも、真媛が遊びに来てくれるのは不幸イベントじゃないな。その幸運キャラクターが不幸を呼ぶんだけど)

 「ん~、じゃあ私はどうすればいいの?」

 「そうだなー。買い物?」

 運動でもあり、

 ためにもなり(金のことは逆)、

 自由気ままであり、

 そして女子の好きな行動だから、

 と鏡見は提案した。

 なかなかな考えだ、と自画自賛する。

 「うん! そうしよう!」

 

 それじゃあ行くか、と鏡見が財布とカバンを持って歩き出そうとしたとき、

 完全に忘れていたが、小テーブルがあった。それに彼が躓く。

 まだ部屋から、家から、出ていないのに、つまり我が家なのに、躓いた。

 おっとっと、と言わんばかりに倒れこむ。

 「凛琥?」

 鏡見の顔面が床に衝突する前に角川が押さえようとする、が

 ガタン!

 鏡見は男だ。普通に体重はある。それに耐えられなかった角川に、鏡見が降りかかる。

 「きゃっ!」

 べしんと、角川の体に突っ伏している――乗っている鏡見に、再び平手打ちが放たれた。

 「もう、凛琥、行くよ」

 「す、すまん」

 二人はさっさと部屋から出た。

 

 『ええ次のニュースです』

 二人が倒れた振動で行方不明だったテレビのリモコンの電源ボタンが押されたらしく、不幸なことに彼らが出て行った後、ニュースが流れた。

 『○○区で指名手配中の殺人犯が発見されました』

 その男は、黒い長髪に、黒い服。黒いバッグに、銀のナイフを所持していた。

 もちろん、彼等二人はそんなこと知らない。

 

 「というか、そもそもどこに行くんだよ」

 「どこって......服?」

 「んん......まあいいけれどさ」

 でも、服って女子男子で行くものじゃあないだろ、と鏡見は溜息をつく。

 「あれ、あそこ珍しく行列になってるな」

 鏡見が指差すのは、角のとある宝石屋だ。

 宝石屋ということは、高貴なものばかり。人だかりができるのは珍しい。

 「でも、行列というより、なんか揉め事が起きているような......」

 不幸な彼はすんなりとスルーしようとする。

 すっとその人だかりの近くをすり抜ける様に。

 そして、真横に到着したときだった。

 一体何が起きているのだろう、とは気にならない鏡見は気にせず進もうとするが、

 

 ゴツッ!!

 

 と、大きな音がしたのをきっかけに足が止まる。

 いや、吹っ飛んだ。

 見ず知らずの男性が、鏡見をつき飛ばしたのだった。

 

 「てめえ! 邪魔すんなよクソが!」

 「......?」

 その男に吹き飛ばされた鏡見は、朦朧としている。

 「誰だ――?」

 鏡見が最初に見たのは『ナイフ』。次に顔。次に服の特徴。

 (!? 殺される!?)

 人間の危機管理能力が発動した。

 一瞬でその大男といえるくらい大きな男を、鏡見が突き飛ばす――

 わけもなく、大男は鏡見のけりが顔面にクリーンヒットしたので、ちょっとのけぞった、みたいな感じに持ちこたえていた。

 (不幸――っていうレベルを超してるよな、これ)

 「チッ! 人質はどうも捕まえづらい!」

 (人質? 何だよそれ――本当に俺を殺す気なのか!?)

 「まあいいか、とりあえず一人目を殺ろう」

 そういった大男は全力で鏡見に駆ける。

 (黒の長髪、全身真っ黒、銀色のナイフ――完璧に殺人犯じゃねえか!)

 そう、この男は『あのニュース』の殺人犯。

 ただ、大男はのけぞっただけなので、さほど二人の間は離れていない。

 この頃、まわりはかなりざわついていたが、彼の耳には入らなかった。

 スッ―――と風を切る音が聞こえたような、鏡見はかろうじてかわす。

 が、いち高校生が大人の、しかも慣れた手つきの殺人犯のナイフを完璧にかわせるほどの奴ではない。

 普通に斬られた。が、一応かわしたとも言うべきだ。かすって、削がれた。

 服を、浅く皮膚を。

 「うっ―――!!」

 鏡見は逆に、全力で後退する。背を向けずに。

 「凛琥――――――――!!」

 ここでようやく角川の声が耳に入った。

 「ッ! ―――!?」

 だが、

 

 ゴンッ!!

 

 角川が、殺人犯の大男にタックルした音だ。

 鈍い音が街の人だかりを沈黙に変える。

 「真媛!!」

 と、鏡見が叫んだのは、自分のためか街のためかわからないけれど、とりあえず殺人犯に攻撃をしてくれた感謝の意ではない。

 もちろん、無論、いち男子高校生が顔面に蹴りをいれても倒れなかったのに、女子高校生の攻撃が通じるわけもない。

 ただ、不意を突かれたようで、一応ふらついていた。

 しかし、人間、別にふらついていても蹴りや殴りはできるだろう。

 その状態で殺人犯はナイフではなく、素手で、角川を殴った。

 だから、鏡見は叫んだ。

 お前ええ――と更に叫び、ふらつきがちょっと治っている殺人犯にこんどは鏡見が攻撃をしかけにいく。

 周りの人だかりとしては驚愕しかなかっただろう。

 角川は鏡見のために、鏡見は角川のために、自分を犠牲にしてまで戦おうとした。

 

 が、その罰が下ったのだろう。科学的に言えば、無理だったからだろう。

 今回はしっかりとナイフが鏡見に刺さった。位置としては胸筋あたり。左の。

 

 大男は右にナイフを持っている。

 左からきた角川を、素手である左手で殴り、右からきた鏡見を、ナイフで刺しただけである。

 「凛琥!!」

 「やっと刺せた......ったく邪魔しやがって」

 そのままナイフは引き抜かれ、かなり多い血を流しながらぐったりと鏡見が倒れた。

 「凛―――――」

 「............」

 周りの人だかりは口を手で押さえ、絶叫を止めていた。

 一応、鏡見には意識があり、生きている。

 動けそうにもないが、だが、死ぬとかそういうことでもない。

 「さて、邪魔してくれたお前だな」

 殺人犯の大男は角川に振り返る。

 

 ここで彼――鏡見は思った。

 俺のために真媛が戦ってくれた。

 殺人犯と思える大男ではない。

 自分とだ。

 俺のために、自分自身と戦って――勝ってくれた。

 俺を助けてくれた。

 結果的には俺の自爆でほとんど無駄になってしまったけど、

 でも、全て無駄にはなっていない。

 『俺は不幸だ』。

 でも、それは俺の勘違いではないのか?

 俺のために自分と戦い勝ち、俺を助けようとした奴がいる。

 

 

 ――十分『幸せ』じゃないか、俺。

 

 

 「待てよ......」

 「?」

 鏡見が立ち上がる。その体で。

 ふらっとしていて、ちょっとでも押してあげれば死にそうな感じに。

 「まだ、俺は死んでねえだろ」

 ROUND2だ、と鏡見が殺人犯に挑発する。

 「面白いな。いいじゃないか、その度胸」

 ははっ、と対して殺人犯は軽快に笑う。

 「ほらほらすきだらけだぞ!?」

 殺人犯はナイフを構えて駆け出す。

 それに応じる気もないように、鏡見はふらっと落ちるように、前へ踏み出す。

 「......え?」

 その一歩の動きが意外だった。

 殺人犯の懐へ入る形になったのだ。

 

 「          」

 

 ゴォッ!!

 不意に不意を突かれた攻撃に、殺人犯は思わず手の力を緩める。

 その落ちたナイフを鏡見が拾い――

 ―――

 しかし、刺したり斬ったりはしなかった。

 首筋に当てるようにして、ナイフを止めた。かろうじて、というよりは普通にあたって切れているが。

 格闘技でつかわれるキメの応用だ。

 ナイフを向けられたことのない、自分がナイフを持つ側である殺人犯は、あまりのショックに意識を一時的に失うのだった。

 

 

 以後、彼――鏡見凛琥に不幸は訪れなかった。

 

 

 





【あとがき】

自分を不幸不幸と思っているから不幸になるという教訓の物語です
不幸とは思わず幸せだと思うといいということです


「  」
の部分は、想像にお任せします。ネタバレである【あとがき】にも掲載しない―ーというより、そもそも答えのないネタは掲載しません

この物語の結末ですが、
自分は幸せだと気付いた鏡見は幸せになり、
逆に不幸と思い始めた殺人犯は不幸な日々を送った
というものです
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