IS<インフィニット・ストラトス> -CODE:Zero- 作:明智ワクナリ
「はい、はい。それでは君に一つ、重要な連絡をしますね。一年B組三一番、雅弥生君。政府から
『東京武偵高校』――――それは『武偵』を育成するための総合教育機関の一つである。
『武偵』とは『武装探偵』の略称名であり、凶悪化する犯罪に対抗すべく新設された国家資格のことだ。武偵免許を取得した者は拳銃や刀剣といった武装の携帯・使用を許可され、さらに逮捕権を有するなど警察に準ずる活動を行うことが出来る。ただし、警察とは根本的に異なる部分があり、それはズバリ報酬金だ。報酬さえ用意されれば武偵法に抵触しない程度でどんな仕事でも請け負う、言わば便利屋のような活動を行うのが武偵である。
東京武偵高校に入学してから約一年、弥生はルームメイト兼パートナーの遠山金二――通称・キンジと共に死に物狂いで学校生活を生き延びてきた。その間に弥生たちは武偵高内でも最も危険とされる学科『
そんな弥生の下に飛び込んできたのは、東京武偵高校・三大危険領域の一つである『
「え…………俺に、特秘任務ですか…………?」
突然の知らせに呆然と立ち尽くす弥生の前で重厚な造りのデスクに座る東京武偵高校校長―――
「はい、はい。今回君に依頼された特秘任務は日本政府からの直命でしてね。IS学園への潜入が主な任務です」
「………潜入、ですか?」
武偵高では教師の発言に対する『聞き返し』は基本的に制限されているが、状況が
しかし緑松はそれを
「おや、表現が少々不適切だったかもしれませんね。潜入というより護衛と言った方が任務の性質上わかりやすいでしょう。君の特秘任務は今年度IS学園に入学する男性操縦者及び国家代表候補生の護衛です。ああ、連絡が遅れてしまったことについては申し訳なく思っていますよ。何せ決定してこちらに連絡が回って来たのがつい今し方のことでしたから」
上の方々が少々ゴタついていたようですのでね、と付け加えながら何食わぬ顔で
が、未だに状況の分析に追われている弥生にはその言葉の一文字すらも記憶されていない。しかし緑松はそんな弥生を待つこともなくさらに言葉を続けた。
「詳細は別の方から追って説明がありますから、私の方からは任務にあたっての注意事項を説明しておきましょう」
・犯罪者や武装勢力による襲撃に備え、武偵法の行使及び武装の携帯・使用を許可する。
・特秘任務中、武偵の身分は
・武装の点検などを考慮し、武偵高内への立入を許可する。ただし、追跡等を常時警戒し、安全と判断した上でのものとする。
・尚、特秘任務中の単位取得は免除とする。
「ああ。それと報道関係についてですが、君の存在はメディアには伏せるよう政府から通達がありましたので、そのつもりでお願いします。と、私から直接伝えることはこの程度ですかね。さて、他に質問等はありますか?」
「えーと、じゃあ一つだけお聞きしますけど、拒否権等は…………ないんですよね?」
「それは
「…………あははは、そうですよねー」
弥生の
だが校長室に呼び出された時点でこうなることは予想済みである。この武偵高に於いて教師の意向は絶対、逆らうことは禁忌とさえされているのだ。しかも校長自らの指令であるならば尚更のこと。
つまり『重要連絡』とは表向きの言葉として並べているだけで、実のところを言えば単に『命令』というだけだ。
この場所がそういう所だということは誰でもなく弥生自身が一番よく知っている。そうしてこの学校がどれだけ理不尽なのか改めて思い知る弥生だった。
◇◆◇
その後、緑松との話――一方的な会話に過ぎなかったが――を終えた弥生は、別校舎の四階にある会議室へと案内され「それじゃあ、私はこれから職員会議があるからこれで。頑張ってね雅君」とゆとりが早々に退出していき、続く蘭豹も「死んで帰ってくんなよ雅。死体になっちまった教え子と対面なんざ酒がマズくなっちまうからなあ」と実に彼女らしい
そうしてただ一人会議室に取り残された弥生は誰も居ない空間で呟く。
「遅いな…………」
一向に誰一人としてこの会議室を訪ねて来る者が居ないのだ。ここに放置されてから既に一〇分以上は経過している。緑松の話では依頼内容の詳細は別の人間が行うとのことだったのだが、それらしき人物が姿を現す気配は全くない。
椅子の背もたれに背中を預けて天井を仰ぐ弥生は、諦めたように溜息を吐いてこの現状を把握することに徹した。
そもそも『特秘任務』とは、専門科目での成績優良者に与えられる特殊任務のこと。主に弥生が在籍する白兵戦特化の『強襲科』は勿論、後方支援に特化した狙撃専門科目である『
その依頼内容は警察などの国家機関では対処しきれない危険な任務が多く、公の場での公表は不可能とされるモノばかり。故に任務を完璧に遂行できると判断された者のみが選出されるのだ。
日本政府から直接、しかも弥生を指名したとなれば自ずと話は見えてくる。
「…………だからって、一年で特秘任務とか例外過ぎるような気がするけどなあ」
確かに一年生での特秘任務は異例中の異例だろう。成績優良者とはいえ経験の浅い一年生を任命することは考えずらい。故に弥生の持つ『ある能力』が
と、今回の異例の事態について思案していると、
「それは言うまでもないことだと思うんスけどねえ~」
「―――――――――っ!?」
突然発せられた声に驚いた弥生は椅子に座ったまま飛び上がると言う曲芸を披露しそうになった。声の発せられた方向へと素早く視線を向ければ、扉付近に立つ眼鏡をかけた白衣姿の少女が「どうもっス」とファイルを抱えていない方の手で、やる気なく振っているのが見える。
寝起きのようなぼさぼさの長い髪に眠たげな眼の下には分厚い
そして眼鏡を光らせながら演技掛かった声で不気味に笑う、どこか近づき難いこの少女を残念ながら弥生は知っている。
「久しぶりだね、水花。こうして会うのは三ヶ月ぶりくらいかな?」
「厳密には二一六五時間五三分十一秒ぶりっスけどね」
と、得意げに話すのはとある理由から弥生と協力関係にあるIS開発企業、『アーガスト社』の技術開発部主任を務める
趣味はとにかくISの改造。三度の飯より大事だと
そんな暇さえあればラボに引きこもりっぱなしの彼女が何故ここにいるのか?
それは考える必要すらないだろう。この武偵高の会議室に分厚いファイルを抱えて現れたということはつまり、彼女が緑松の言っていた『別の人間』ということだ。
それを察した弥生は正面の椅子に手をかける水花に何の前置きもなく話しを切り出した。
「で、任務の詳細は?」
「おやー、再会十二秒でいきなりっスねー。弥生さんは見た目によらず肉食系っすか?」
「ハア………、どうしてそう君はいつもいつもそっち方向に話を持って行くんだい?」
「いやいや、場を和ませようかと思ったんスけどねえ。固すぎるのもなんかこう、肩に力が入って余計疲れるっていうか、重々しい雰囲気っていうのは話も重くなりそうっスから」
「水花がそれを行動に移すと俺が余計に疲れるからやめてくれ」
「ふふっ、それは失礼したっス。それにしても意外っスね、弥生さんのことだからてっきりうまく誤魔化して断るのかと思ってたんスけど」
「…………残念ながらこの学校にYES以外の選択肢は存在しないんだよ」
「なんだか随分と苦労してるみたいっスねー」
実のところを言えば、緑松から任務の説明を受けていた時点で出来ることなら辞退したかった。が、日本政府直々の直命を『嫌です』とは言うわけにはいかない。
なによりあの場で断るのは流石の弥生も怖気づくところがあった。
もしあの場で辞退していたら今頃死体となって床に転がっていたかもしれない。その状況を想像して弥生は背筋を凍らせた。
「まあ、ウチが絡んでる時点で弥生さんに拒否権は無かったんスけどね」
「そうだけどさ、改めて
ズーン、という効果音でも付きそうなくらい沈んでいる弥生に、水花はいつもの調子で話を進める。
「まあまあ、過ぎたことは置いといて。用意されてる時間も少ないですし、とりあえずこの資料に目を通してほしいっス」
「相変わらず他人事だよね。たまに水花のそういう所が羨ましくなるよ」
「もう、弥生さんったら~。
「いや別に褒めてるわけじゃないけど」
などと小言を挟みつつ、水花から手渡された一〇〇ページ以上はあるであろう資料をペラペラと軽く流しながら目を通していく。依頼主ということもあってか日本政府からの情報提供があるようだが、この情報量からしておそらくアーガスト社の諜報員を動かしたのだろう。
正面に座る水花は頃合いを見計らってオホン、と軽く咳払いをした。
「では最初に。弥生さんの
それについては特に何の疑問も感じなかった。
男性操縦者が立て続けに発見された場合、世間がパニックになることは考えるまでもない。各国で男性が暴動を起こす可能性は大いにあるだろう。
そしてISの軍事運用、という部分が弥生にはネックになってくる。武偵とは武力を行使して相手を
ドイツでは軍でISを運用しているが、あくまでも代表候補生の育成という名目でIS委員会に許可を得ているため問題は無いが、許可を得ていない武偵が使用すれば大問題になるだろう。
弥生が頷いて了承すると、水花は任務の詳細について本格的な説明を始める。
「それじゃあ本題に移るっスよ。今回の日本政府より弥生さんに依頼された任務は聞いての通り、IS学園に入学する男性操縦者及び代表候補生の護衛が主体となるっス。織斑一夏氏はご存知っスよね?」
「知ってるも何も、世界初の男性操縦者を逆に知らない人間の方がどうかしてると思うよ」
そう言いつつ手元にある資料を捲り、問題の少年について記載されているページを見た。
『織斑一夏』。
世界最強のIS操縦者としてその名を世界に知らしめた
だが写真に写る一夏の風貌はそういった繋がりを全く感じさせない、それこそどこにでも居るような普通の少年だった。整った容姿に印象的な力強い瞳、千冬と姉弟というだけあってどことなく雰囲気も似ている。
しかし正直な感想を言うなら彼が初の男性操縦者とは到底思えない。
「真の意味で『世界初の操縦者』が言うとなんだか違和感たっぷりっスね」
「ま、確かにそうかもね」
微妙に吹き出しそうになっている水花を見て、弥生も少しだけ表情を緩める。
そう、弥生が持つある特殊な能力、それは『女性にしか扱えない』はずのISを動かせる能力だった。本来ISとは女性にのみ扱うことのできるパワードスーツ、男性が起動させることなど出来るわけがないのが常識だが、ある事情から弥生はその常識を叩き潰す能力を持っている。
そしてこの場で一つ言えることは『世界初の男性操縦者』は織斑一夏ではなく雅弥生だということだ。
「それにしてもとんでもない人間関係だね。もし彼がこの二人を丸め込めたら世界を丸ごと掌握できるんじゃないの?」
「そうっスね、それが現実となったなら間違いなく世界はあの二人に勝てないっスよ。というよりそれが否定できないところが恐ろしい話っスけど」
「まあそれは置いとくとして、この二人がバックについてる状態で織斑一夏に手を出すとは考えずらいんだけど。下手なことをしたら世界レベルの戦力を相手にすることになるんだよ?」
「私もそうは思うんスけど、世界にはお馬鹿さんたちが溢れるほどのさばってるっスから」
水花の言う通り、世界にはISとその操縦者を狙う組織がごまんと存在する。しかもそれが世界初の男性操縦者なら
「大体の事情は理解できたよ。で、他の護衛対象は?」
弥生は頷きながら続きを促すと、水花は眼鏡のブリッジを押し上げながら続けた。
「現時点で判明している情報は、まず篠ノ之束氏の妹さんが入学予定っス。どうやら一夏氏とは幼馴染みの関係にあるみたいっスね。で、他に確認できているのはイギリスの代表候補生、その約一ヶ月後に中国から。さらにフランス、ドイツからも時期をずらして入学するみたいっス」
「なるほどね。政府が
特に驚いた様子もなく納得した弥生。しかしその内心ではほんの少しだけ驚きを滲ませていた。
たった一学年に代表候補生がこれほど集まるというのは異例過ぎる事態だ。代表候補生とは自国が保有する技術を詰めに詰めた最新技術の宝庫であるISを所持する人間であり、またその操縦者自身もあらゆる面で優秀であり様々な国家機密に触れている。
そして彼女たちは国家が有する技術の
つまり今回の件は一夏が原因なのだ。
世界初となる男性操縦者のデータ収集を目的として彼女たちが送り込まれてくるのは目に見えている。この入学間際で転入を割り込ませてきたのは
結果として日本政府は各国の重要な人材と技術を抱える羽目となり、この武偵高へと―――正確には弥生へと依頼を提示したのだ。元々この東京武偵高校はIS学園周辺の
「まあそれはそれとして、もう一つだけ重要な案件があるんスよ」
「重要な案件?」
「そうっス。政府側が今回の依頼に踏み切った理由でもあるっス」
真剣な面持ちで話す水花はファイルから分厚く束ねられた資料を引き抜き、そのまま弥生へと手渡す。受け取った弥生は資料の表紙を見て思わず目を見開いてしまった。
そこには『最重要機密事項』と書かれ、情報提供者は『内閣府IS情報管理解析室』と記されている。それはこの国における最上級機密情報を保管する、存在すらごく一部の人間が知っているだけの機密部門の名称だ。つまり今手にしているこの資料は、日本政府が保有するトップシークレットの一つということになる。
弥生は息を飲みながら表紙に指をかけ、そのページを捲った。そこに記載されている詳細を目にした途端にその表情は緊張から一転して驚愕へと変わる。
弥生は表情をそのままに声を強張らして問う。
「これは事実、なんだよね…………」
「はいっス。まだ公表はされてないんスけど、紛れもない事実っスよ」
真剣に頷く水花。
この事態について考えていなかったわけでもない。むしろ当然と言えばそこまでの事実である。だが、実際にそれを目の当たりにした弥生は呆然としてしまった。
そこで弥生は一つの理解に辿り着く。自分の素性が公表されないもう一つの理由に。
弥生が手にしているのはある学生の資料だった。
その学生の名は『
――――――――それは一夏に続く『二人目』の男性操縦者だった。
◇◆◇
(まあ、
見た目は資料通りごく普通な少年そのもの。しかし落ち着いた表情と
と、その時―――――
バシンッ!
一際大きい音が教室中に響き渡った。
弥生は反射的にその方向へ視線を向けると一夏が頭を押さえながら
「お前は自己紹介の一つすら満足に出来んのか」
迫力のあるハスキーボイスが静まり返った教室に
そんな中、弥生の反応だけは違った。
(…………あの人が世界最強のIS操縦者、
「か、
ガバッ!
「ほう、誰が関羽かもう一度言ってみろ」
一夏の顔面を片手で捉えた千冬が不気味な笑みを浮かべながら言う。
そんな彼女は「馬鹿者が」と言って一夏の頭を放ると教壇へと登った。
「すまないな山田くん、この馬鹿が
「い、いえ、織斑先生が謝られるほどのことじゃありませんよ。むしろ私の方が迷惑をかけてしまったようなもので…………」
と、言葉がだんだん尻つぼみになっていく真耶の肩を千冬は優しげな笑みを浮かべて叩き、真耶と入れ替わるように今度は千冬が教壇の中心へと立つ。
「まず一つ、遅刻について私は君たちに謝罪しなければならない。さっき言った通り職員会議の延長で遅刻してしまったがそれを理由にするつもりはない」
千冬は一歩下がるとその場で頭を下げた。その姿に弥生は少しだけ驚く。
世界最強が頭を下げるなど聞いたことはないし、そもそもそこまですることの問題でもない。まして仕事上の都合では仕方のないことだろう。普通ならば
教室内の生徒たちがその行動に
「さて諸君、遅くなったが私が担任の織斑千冬だ。君たちをこの一年間で使い物にするのが役目だ。私の言うことはよく聴き、理解しろ。出来なければ出来るようになるまで何度でも付き合ってやる。逆らっても構わん。だが私の言葉には必ず返事をしろ。理解出来ようが出来まいが必ずだ」
一言ずつに妙な重圧感を感じた弥生は思わず背筋を伸ばす。まるで
見定めるような千冬の鋭い眼光が教室の
だが弥生は周囲の変化を特に気にはしていない。むしろこれからが本番だと知っているからだ。
そして一拍空けた次の瞬間――――――
『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!』
教室中の女子が一斉に声を挙げた。それは困惑や疑念の声ではなく、アイドルなどに向ける黄色い声というやつだ。あまりの声量に空気が震えてるんじゃないかと思うほどである。
「千冬様よ!本物の千冬様だわ!」
「夢みたい!もしかしてこれって夢かしら!?」
「私お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
教室の至る所からそんな声が飛び交う。当の本人である千冬と言えば呆れたように頭を押さえていた。
何の事情も知らない者が居たならばこの状況に困惑したことだろう。だがその理由を知っている者ならむしろ納得さえできる。
何故ならば彼女たちの目の前にいるのは第一回IS世界大会『モンド・グロッソ』の初代優勝者であり、『ブリュンヒルデ』の異名を持つかの有名な織斑千冬なのだから。彼女の美貌とその実力から世界中にファンが存在し、おそらくこの学園にいる多くの生徒が憧れを抱いていることだろう。
実際、この教室の九割がお祭り騒ぎなのだから。
「ハア、今年もか…………。毎年よくもまあこれだけの馬鹿どもが集まるものだな。実を言うと私への嫌がらせか何かか?」
やれやれ、と頭を振りながら容赦のない言葉を放つ千冬。しかし生徒一同はそんな
「ああっ!お姉様!もっと
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように
水を得た魚のようにきゃいきゃいと騒ぎに騒いでいた。どうやら千冬の
「いい加減静かにしろ!自己紹介はまだ終わっていないだろう!」
迫力に満ちた千冬の声が少女たちの
(す、すごい。
もし彼女が武偵高の職員として勤めていたら、間違いなく
「次、桐原。お前の番だ」
周りが静かになったことを確認した千冬はフン、と鼻を鳴らして自己紹介を続けるよう促す。
その言葉に対して返事を返したのは一夏の後ろに座る白兎。立ち上がりゆっくりと振り向いた白兎の表情には余裕さえ感じ取れる。同時に全員の視線が殺到するも、一夏のように
「はじめまして、桐原白兎です。中学まではアメリカで生活していました。ISに関しては全くの素人なので、皆さんにはご迷惑をお掛けすると思いますがよろしくお願いします。ああ、あと日本の暮らしはあまり慣れていませんので、ぜひ皆さんのお力を貸していただけるとありがたいです」
緊張した雰囲気もなく、終始落ち着いた様子で自己紹介を終えた白兎は丁寧に一礼して着席した。それと同時に周囲が少し騒めき始める。
「海外生活してたんだって。帰国子女だよ帰国子女っ」
「本当に居たのね帰国子女。しかもイケメンだなんて反則過ぎでしょ♪」
「私、桐原君に日本の色んな魅力について教えに行くわ」
男に興味津々な箱入り娘たちはキャッキャッとはしゃぎ始め、再び千冬の一喝が飛び静かになった所で後続の自己紹介が再開された。
そんな中で弥生は記憶したクラスの顔と名前を再確認する作業に徹している。クラス名簿は政府経由で事前に渡されているため把握済みではあるが、改めて確認するに越したことはない。
顔と名前を再度脳内で一致させつつ周囲を見ていると、目が合った女子たちが嬉しそうにこちらに手を振ってくる。それに対し笑顔で返答すると、千冬に見えない角度でこっそりとガッツポーズを取ったりしていた。
(ハア…………。俺はいつからアイドルの真似ごとをするようになったんだか…………)
武偵高から一転してIS学園への入学。そして周囲に正体を気取られないために、護衛任務の初日から営業スマイルを振りまく羽目になるとは予想だにしなかったことだ。演技で笑顔を作るとは予想以上に厳しいモノだと悟る弥生だった。
「次は雅、お前だ」
「あ、はい」
あれこれとしている内に順番が回ってきていたらしく、周りの女子たちは『待っていましたあ!』と言わんばかりに瞳を輝かせている。
(そろそろ頭を切り替えていかないとね。もう任務は始まってるんだし)
そう思い気を取り直した弥生は席を立ち上がった。それと同時にやはり視線が殺到し、一夏と同様に少しばかりたじろいでしまう。
(うぐ…………!?覚悟はしてたけどこれはかなりキツイ…………)
圧倒的な視線の数、
だがこの程度のことで一々
「はじめまして、雅弥生です。中学ではIS工学を専門に勉強してました。趣味特技共に料理です。ここでは数少ない男ですがよろしくお願いします。えと、皆仲良くしてくれると嬉しいです」
最後にはにかむような笑顔を――言うまでもなく演技だが――を浮かべて自己紹介を終えた弥生は、妙な達成感を胸に感じつつ席に着く。
任務とはいえ自身の交友関係がうまく行かなければ後に支障をきたす可能性は十分にあり得る。そういった不安要素を取り除くために、なるたけ周囲に打ち解けやすくなるよう固すぎない自己紹介をしてみたが、
(ど、どうだろう………、俺の作戦はうまく行ってるかな?)
せめて興味だけでも引かせられなら作戦成功。なんとなく心配になった弥生はさりげなく周りの音に耳を傾けてみる。
「ねえねえ、織斑君と桐原君もいいけど雅君もなかなかじゃない?」
「IS工学勉強してたってこと頭は良いってことだよね。憧れるなあエリート男子~」
「秀才の上に料理が得意で最後の笑顔も爽やかだし、これは稀に見る逸材だよ」
「雅君の得意料理ってなんだろ?後で聞きに行くしかないねっ」
想像以上の効果が働いたようで弥生への視線が更に集中する。熱の