IS<インフィニット・ストラトス> -CODE:Zero-   作:明智ワクナリ

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かなり遅れました、スミマセン!

ではどうぞ!


『シェア・スタート』②

「ハア………、昨日は酷い目に遭った」

 

翌日、早朝八時。

 

一年生寮の食堂にやってきた弥生は、券売機の前でガックリと項垂れながら溜息を吐いていた。

 

昨晩、本音の悪戯(いたずら)についついヒートアップしてしまい気付けば消灯時間まで延長戦。そこで各部屋の消灯を確認していた千冬に運悪く見つかり、その後こってりと二人仲良くお説教を受けたのだ。

 

セシリアの一件で水花から、そして晩には本音の件で千冬から。怒られた回数こそ二回ではあるが、その相手が天才ハッカーと世界最強の操縦者ともなれば精神的な疲労が溜まるのも無理はない。

 

こんなことが毎日繰り返されては、いくら弥生と言えど耐えられる自信は流石に持っていなかった。

 

(っと、なに弱気なこと考えてるんだ俺はっ。この程度でへばるような人間じゃないはずだぞ雅弥生!あの頃に比べればどうってことないさ!)

 

弥生は弱気な自分を追い出すように頭を振り、ここに来る前の厳しい日々を思い出す。

 

水花に新装備の試験運用を押し付けられ生傷が絶えなかったり、セクハラ女上司に尻を追われ常に周囲を警戒していたり、妙なライバル意識を持っている喧嘩早い同僚にいつも絡まれていたり…………。

 

思い返せばロクな記憶しかない。

 

(大体今どき週休ゼロ・時間外労働一六時間義務ってどんなブラック企業なの?しかも給料だって平均給金より少し高いだけだし、ウチってなんだかんだで割と儲けてるはずなんだけどなあ…………ってそうじゃない!?)

 

過去の辛い日々を思い起こして自信を振るい立たせるどころか、過去の不平不満を振るい立たせてしまったことに気付き、再度切り替えるように頭を振った弥生は券売機から適当なものを選んで食堂の受付に渡した。

 

しばらくして見るからに活気が溢れていそうな配給の女性が朝食を載せたお盆を弥生に渡しつつ、

 

「若いのに朝からそんな景気の悪い顔しちゃダメよ?」

 

「サービスもしておいたからね」と付け足してにこやかに笑う女性に、どうせなら精神(メンタル)が落ち着いているときにサービスしてほしかったと少し不謹慎(ふきんしん)なことを考えつつ、弥生は苦笑いを浮かべて朝食を受け取った。

 

しかし弥生の足はまたしても止められてしまう。というより止まってしまう。

 

端的(たんてき)に言ってしまえば座る席がないのだ。どこもかしこも女子が数人でテーブルを囲っているため空きスペースがない。満員というわけでは決してなくむしろ席はまだ空いているのだが、弥生単機で女子の輪に攻め込もうなどという覚悟を持ち合わせているはずもなく、故に席に空きがないのだ。

 

特に時間的に早くもなく遅くもないというのが、この微妙なスペースを生み出してしまっている。戦場のど真ん中で孤立、救援も望めそうにない状況下に立たされてしまった弥生はヤレヤレと溜息を吐く他ない。

 

そして周囲の反応といえば、弥生がどこに座ろうか思案しているように見えていたらしく、自分たちが誘おうかなどヒソヒソと密談を交わし始めていた。

 

すると一角から聞き覚えのある声が挙がった。

 

「弥生ー、こっちで一緒に食べようぜー!」

 

声の主は比較的目立ちにくそうな隅の席で大手を振っている一夏だ。どうやら隣には箒もいるらしい。グッドタイミングで助け舟を出してくれた一夏に感謝しつつ、向かい側の席に腰を下ろした。

 

それと同時に周囲からは『ホッとしたけど釈然(しゃくぜん)としない』的な空気が漂い始めていたがこの際無視しておく。

 

「おはよう篠ノ之さん。突然だけど相席いいかな?」

 

「…………ああ、おはよう。別に構わない、好きに座ってくれ」

 

なんとなく(とげ)のある口調でそれだけ言うと箒は再び箸を動かした。そんな箒の対応に一夏が幼馴染としての世話焼きスキルを発動させる。

 

「お、おいおい。その言い方はないだろ箒――――」

 

「名前で呼ぶなと言っているだろう」

 

「はいはいわかりましたよ篠ノ之さん」

 

「…………次にその名で私を呼んだら昨日に続いて一本打ち込むぞ」

 

「ハア…………じゃあ何て呼べばいいんだよ」

 

「呼ぶな、声をかけるな」

 

にべもないとはまさにこのことだろうか。

 

そのやり取りを数回やっている内に、見るからに不機嫌オーラ全開の箒は黙々と食べ進めて行き、その姿に一夏は溜息を吐くという構造がいつの間にか出来上がっていた。幼馴染というのも案外大変なのかもしれない。

 

そんなことはさて置き、身を乗り出した弥生は向かい側に座る一夏に小声で問う。

 

「(ねえ、篠ノ之さん物凄く機嫌悪いみたいだけど、昨日何かあった?)」

 

「(…………まあな。実は―――――)」

 

どうやら一夏の話によると、昨晩弥生が部屋に向かったあと白兎が箒に一夏を許すよう掛け合ったのだが、事態は更に悪化し大騒ぎになったとの事だ。それ以前に一夏と一悶着を起こしていることもあって箒の機嫌はすこぶる悪い。

 

「(ち、ちなみに白兎は篠ノ之さんになんて言ったの?)」

 

「(えーと…………断片的にしか聞こえてないんだけどよ。確か、予行演習だとか今後の役に立つだとかチャンスだとか…………そんなこと言ってたような気がするな。って言ってもルームシェアなんてそうそうするもんじゃないし、そこまで重要視することなのか?)」

 

「(あ、あはははは…………どうかな?)」

 

どうやら白兎はとんでもないことをしてくれたらしい。この朴念仁(ぼくねんじん)少年は言葉の意図に全く気付いてないようだが、その言葉だけで箒に何を言ったかは大体想像がつく。大方『予行演習だと思えば今後の役に立つし、むしろチャンスなんだぜ?』とでも言ったのだろう。

 

そんなことを言えば火に油を注ぐ結果になるのは目に見えるわけだが…………同胞(どうほう)たる少年は恐れることなく実行したようだ。その場に立ち会っていたわけでもないのに、なんとなく悪意を感じるのは気のせいだろうか?

 

ちなみにその主犯格は勿論のこと居合わせていない。早朝にメールが届いていて、職員室に用事があると連絡が来ていた。

 

これは余談だが、本音は朝が極度に弱いらしくベッドに籠城しているため同様にいない。起こそうとしたのだが寝ぼけてベッドに引きづり込まれかけたため、さゆかたちに任せておいたのだ。今頃は総出で叩き起こしている頃だろう。

 

ということもあって唯一この場の空気を中和してくれる人材はなく、かといってこのギスギスした雰囲気の中に特攻しようという生徒も流石にいない。

 

さて、どうしたものかと思案していると。

 

「織斑、雅。少し話がある」

 

声をかけてきたのは担任である千冬だった。すると、一夏が何とも言い難い間抜け面で千冬を見上げているではないか。

 

「何を(ほお)けている織斑、私の顔に何か付いているのか?」

 

「え?あ、いや。なんでここに千冬ね――――織斑先生がいるのかと思いまして」

 

「何故も何も私はこの一年生寮の寮監(りょうかん)を務めているのだから居て当たり前だろう。昨日説明した筈だが…………どうやらロクに耳も傾けていなかったようだな」

 

「そ、それは…………」

 

拳を握りしめた千冬に一夏が顔を青くし始めると、千冬は溜息を吐いて握り拳を解いた。

 

「まあいい。お前に説教するために来たわけじゃないからな」

 

「あの織斑先生、それで話しというのは?」

 

立ち上がろうとした弥生を手で制して続ける。

 

「座ったままで構わん。話というのは今後お前たちが搭乗するISについてだ。まず織斑、急な話だがお前には学園側で専用機を用意することが決定した」

 

「専用機?俺に?」

 

「ああ。予備機の空きを捻出させることも可能なんだが、万が一ということもありえる。とはいえまだ完成までに幾らか時間が掛かるようだ」

 

「??????」

 

明らかに理解できていない一夏に千冬は溜息を漏らした。

 

「本来専用機とは国家、もしくは企業に属している一部の者に与えられるものだ。しかしお前の場合は初の男性操縦者だ。従来のISに搭乗(フィッティング)出来るかどうかわからん。事が起こってからは取り返しがつかない、そのためデータ収集を兼ねた実験機として配備することが決定した。理解したか?」

 

「たぶん、大丈夫です…………」

 

「それと雅。お前の専用機についてだが、企業から報告は聞いているな?」

 

「はい、入学前に報告は受けています」

 

「そうか、ならいい。搬入時期についてだがまだ目途が立っていないらしい。それまでは予備機を貸し与える」

 

「わかりました」

 

二人がそれぞれ違う表情で頷いていると、周囲で聞き耳を立てていた生徒たちが騒ぎ始める。

 

「嘘!?二人とも専用機を用意されるの!?まだ入学して二日目なのに!?」

 

「学園で用意するっていうことは政府の援助で、ってことだよね?」

 

「そんなことより雅くんって企業に所属してたの!?」

 

「ていうか桐原くんは?桐原くんはどうなってるの?」

 

「クッ、抜かっていたわ………!これはもう一度二人の情報を洗い直す必要がありそうね!皆、放課後は空けておくのよ!!」

 

『『了解!』』

 

なにやら不穏当な会話が辺りから湧き始めているが、『人生、諦めが肝心』ということを入学初日で悟らされた弥生は聞かなかったことにした。

 

その代わりに弥生は白兎について問う。

 

「ところで白兎はどちらで用意することになってるんですか?」

 

すると千冬は少し考えるようなそぶりを見せつつ、

 

「桐原についてはまだ保留だ。早急に手配したいところだが同時に三人も男性操縦者が現れたものでな、上の方でも少々ゴタついていて正式な決定はまだ出ていない」

 

蓄積(ちくせき)した疲労を吐き出すかのように小さく溜息を漏らした。そんな千冬に今度は一夏が挙手する。

 

「え?じゃあなんで雅には専用機の手配がされるんです――――グヘッ!!?」

 

全てを言い終える前に千冬のげんこつが一夏の後頭部に突き刺さり、見事にテーブルの上で撃沈した。

 

(み、身内には尚の事容赦がないなー…………)

 

彼女の教育に対する姿勢を改めて認識させられる。

 

呆れて物も言えないという表情の後、千冬は仕方なく説明を始めた。

 

「雅はIS開発企業に所属する人間、学園側が用意せずとも企業の方で用意されることになっている。しかしお前と同様に桐原は企業に所属していないため、学園側で用意せざる負えない状況になったんだが一機用意するだけでも莫大なコストが掛かる。つまり予算配分に目途が付くまで保留になった、というわけだ」

 

「な、なるほど」

 

「なるほど、じゃないだろう織斑。この頭は何のためについている?ん?」

 

「か、考えるためであります織斑先生殿…………」

 

「ならもう少しこの頭を使え馬鹿者が」

 

物凄い覇気(はき)(まと)わせながら片手で一夏の頭を鷲掴みにしている千冬を前に、弥生は思わず身震いしてしまう。

 

身内に厳しいとかそんなものじゃない、もはやただの鬼だ。

 

暫くして一夏を解放した千冬は、密談で盛り上がっている女子たちを見るや手を叩き、

 

「人の話に耳を傾けている時間があるならまず手と口を動かせ。言っておくが遅刻した者はグラウンド一〇週だからな」

 

効果は覿面(てきめん)だったようで、その言葉を耳にした生徒一同は顔を青くしながら大慌てで食べ始め、周囲は違う意味で騒然(そうぜん)とし始める。一週三〇〇メートルのトラックを朝から走るのはさすがの弥生も御免だ。

 

「…………私は先に行くぞ」

 

「ん?ああ、また後でな箒」

 

相変わらずの不機嫌顔で立ち上がった箒に一夏がそう答えるなり、千冬に負けず劣らずの眼力で射貫くように睨み付け、こちらを見て「教室でな」とそれだけを言い残して早々にその場を後にした。

 

「ね、ねえ一夏。なんだか篠ノ之さんがさっきより不機嫌みたいなんだけど…………昨日は本当に白兎の一件だけなの?」

 

「う~ん、それ以外に特別何かがあったわけでもないぞ。けど、よくわからんが名前で呼ぶとスゲー睨まれるんだよな」

 

思い当たる節がないのか首を傾げる一夏。そんな一夏を見ていた弥生はなんとなく予想が出来てしまった。

 

――――間違いなく何かをやらかしている。

 

実際に接触して二日目、時間にすれば二十四時間にも満たないというのに何故かそう感じてしまうのだ。それは単に彼が裏表のない人間だからかもしれない。

 

とはいえそれはあくまでも弥生の勝手な想像であって本当に何かがあったかどうかはわからない。が、いずれにせよ当人同士で解決すべき問題である。任務に支障が出ない限り部外者の弥生が介入すべき事柄ではないのだ。

 

「まあその、頑張りなよ一夏。篠ノ之さんもきちんと話せば許してくれるって」

 

「許すもなにも、俺アイツを怒らせるようなことしてないぞ」

 

「それでもだよ。一夏に対して怒ってるんだし気付かないところで何かしたのかもしれないよ?」

 

「う~む。まあ、そうだな。ちゃんと面と向かって話すっていうのは大事だし。サンキューな弥生、俺たちの事心配してくれて」

 

「はは、そう言われるとなんだか恥ずかしいっていうか…………。まあとにかく、何かあったら遠慮なく相談してくれて構わないよ。力になれるかどうかはわからないけどね」

 

「おう、そんじゃあ弥生もなにかあったら俺に相談してくれよ」

 

「そうさせてもらうよ」

 

言葉を交わしながら弥生と一夏は改めて握手を交わして笑う。それは二人の間に確かな絆が生まれた感動的な瞬間だったが、

 

「あ、あのさあ、もしかしてあの二人ってそういう特殊な関係じゃないよね?」

 

「どうだろう?でも私たちと話してる時より男の子同士で話してるときの方が楽しそうだよ。ちょうど今みたいな感じかな」

 

「えっ、ちょっと待って!?それってつまりあの二人は付き合ってたりするわけ!?」

 

「え?それってもしかしてアレなの?織斑くん×雅くんのカップリング的な?どっちが受けで攻めなのかしら?ハッ、もしかしてそこに桐原くんも交じってスリーマンセル展開に!?」

 

『『キャ――――――♪』』

 

一部の人間によってとんでもない誤解へと発展してしまっていた。

 

「えっ!?ちょっ、ちょっとなに言ってるの皆!?」

 

「待て待て待てっ!?どうしてそういう話になってるんだよ!?」

 

弁解しようと二人揃って立ち上がるが一度火のついた彼女たちに声は届かず、黄色い喧騒の中へと空しく飲み込まれていく。

 

と、その時だった。

 

「おい、何をやっているんだ」

 

食堂の入り口から凄まじい圧力が全身に乗りかかり、昨日のセシリアのように錆びかけのブリキ玩具の如く顔を向けると、出席簿片手に立っていた千冬が呆れた顔でこちらを見ていた。

 

千冬と視線があった瞬間二人の全身から冷や汗が流れ始め、コツコツと床を打つ音が響く度に喧騒の波が引いていく。そして二人の正面まで辿り着いた千冬は、張り詰めた空気の中で重々しく口を開いた。

 

「全く、お前たちは朝から何をしている。そういうのは夜の内に済ませておけと―――――」

 

「「スミマセン、マジで弁解させてください」」

 

とんでもないことを口走ろうとする千冬の言葉を遮って素早く頭を下げるなり、千冬は「冗談だ」と意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

こうしてこの事件は瞬く間に学園全体へと広がり、入学二日目にして『織斑一夏と雅弥生、熱愛発覚!?』という一部の人間によって事実の捻じ曲げられた笑えない噂が流れたのだった。

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