地球の表面を覆う、巨大な
10枚程が存在するであろうというその岩盤は、俗にプレートと呼ばれる。
それぞれ、1年に数cmぐらいの速度で互いに水平移動をしており…
それらは地球表面に現れる、地質的な現象の要因となっている。
「……」
特に色んな現象が起こるのは、やはりプレート同士の境目。
どちらか一方のプレートが、もう一方のプレートの上にのし上がったり、
逆に下へ潜り込んだりして…。
……
このプレート同士のいざこざによって発生する災害の1つが、地震だ。
つまり、どうにかしてプレートの動きを詳細に把握することが出来れば、
地震の予測をすることも可能というわけだが…。
そこはやはり、そう簡単にもいかないものらしい。
「……」
ここ最近、特に日本の関東周辺で多発している地震。
どうして多発してるのかと秀輝くんに尋ねてみたところ、
『よく分かりません』という答えが返ってきてしまった。
テレビ番組などでたびたび専門家の人の話なんかを聞いていても、
何だか
例の『悪魔』の出現や、謎の連続失踪事件のことといい、原因解明に
今しばらくの時間を要しそうな課題が山積みである。
……
伊原先生の授業が続く中、何かが視界の隅に転がり込む。
僕の頭に反射的に浮かぶ、『消しゴム』というキーワード。
ここ最近だけでも既に4回発生していることなので、そんな先入観を
抱いてしまうのも、仕方のないことだろう。
「これ…新里さんの?」
「う、うん」
僕はその物体を拾い上げ、右隣の席に座る少女に手渡した。
ここまでの流れは、消しゴムの時と何ら変わりない。
しかし…。
「――何で、筆箱にボタンが入ってるの?」
自分の筆箱へその物体を入れ直す新里さんへ、僕はその疑問を
ぶつけずにはいられなかった。
その他の内容物と違い、ボタンは明らかに筆記用具の
見たところ、制服のものというわけでもなさそうだし…。
「え、えぇと…何でだろ?」
「……」
「ちょっとした、おまじない…かな?」
新里さんは妙に動揺した様子で、僕が口にした質問に答える。
疑問系で返してきたということは、それが明確な答えでないという証拠。
「い、色々とあるんだよ。 女の子には」
「……」
更なる言及をしていこうかと口を開きかけた瞬間、彼女はそんな言葉を続けた。
そう言われてしまうと、男の子である僕が、これ以上口を挟むわけにもいかない。
……
今度生まれ変わる時は、女の子になってみよう。
そしたら、今回の疑問に対する答えが見つかるかもしれない。
…いや、どうだろうか。
自分のことだからといって、何でも解明出来るというものでもあるまい。
仮に自分がキリンになったところで、どうして自分の首が長いか
などという疑問に、一点の曇りも無い回答が導き出せるとは限らない。
「……」
日常は変わり始め、成し遂げたいことも色々と出来た。
でも相変わらず、そんなことはお構いなしとばかりに、頭に舞い込んでくる
疑問という名の客人の数々。
あぁ、そうか…。
こういうところは、変わっちゃくれないもんなんだね。
「こんにちは」
「あっ、ど、どうも…! こんにちは」
3限目の終わり、休み時間。
僕はふらりと、離れた席に座る1人の男子生徒の元へと立ち寄った。
声をかけた僕に対し、震えた声で返事をした彼の名前は、宮脇昴。
……
僕の目が自然と、彼の机の上に置かれたノートに移行する。
開かれたノートには、何かのイラストのようなものが描かれている。
「あっ、えっと…これは」
「――絵描くの、好きなの?」
「う…うん。 まぁ、そんなところ」
僕の視線が向かう先に気付いた宮脇くんは、両手でイラストを隠すような
素振りを見せたものの、僕の問い掛けに手をどかす。
中々に、上手な絵だ。
僕も少しは絵を描いたりしているので、その腕前が並ではないことは、すぐに分かる。
「それは、何かの漫画とかに出てるキャラクター?」
「あっ、んと…ち、違うよ。 一応、あの…僕のオリジナル…みたいな」
気恥ずかしそうに答える宮脇くん。
確かに、見かけたことはないキャラクターだが…。
何故だか妙に親しみが湧いてくるのは、気のせいだろうか。
「これ、僕のお姉ちゃんがモデルなんだ」
「…へぇ」
「あっ、いや…! 別にその、たまたまだよ! 他にも、うん…
色んな人をモデルにしてるっていうか、その…」
自分がした発言に対し、頬を赤らめて弁解らしきものを始める宮脇くん。
どうやら、お姉ちゃんをモデルにしたキャラクターなどを描いているということが、
彼にとっては他人に
「別に恥ずかしがることないよ。 家族が好きなら、それに越したことはない」
「…う、うん」
なるほど。 お姉ちゃんをモデルにしたキャラクターとは…。
妙に親しみが湧いてくるのは、そういった裏事情があったからなのかもしれない。
んっ? お姉ちゃんってことは…。
つまり、宮脇なんとかさん…?
「あ、あの…!」
「…なに?」
「あっ、いや…何でもありません」
何かを言いかけようした彼であったが、思わせぶりに口をつぐむ。
好奇心は
紳士のたしなみというものだ。
……
「それじゃ、またね」
「…うん。 また」
気まずい空気が流れ始めたのを察し、僕はその場を立ち去ることにした。
それにしても、宮脇なんとかさん…って。
なんか昔、そんな人に会っていたような記憶もある。
しかし、頭の隅に追いやられている記憶なため、具体的には思い出せそうもない。
今日もまた、様々な用を済ませて家路に着く。
が、その途中…妙に気になる人物を目撃してしまった。
日が暮れて間もない街並みを駆け抜ける、自転車に乗った若い男性。
勿論、単にそれだけであれば、気にかかるようなものではない。
問題は、その男の様相である。
とにかく必死でペダルを
それでいて、不意に立ち止まると――周囲に目を凝らすような仕草。
……
「ッあ…!」
密かにその男性を尾行すること、しばらく。
猛スピードで夜道を疾走していた彼の自転車が、唐突にバランスを
そして、そのまま派手に倒れると、乗用中であった彼の体を投げ出す形となる。
事故が発生した地点を通り過ぎてみれば、そこに僅かな段差があることに気付く。
僕は手を付いてよろめきながら立ち上がろうとする男性の元まで行き、停止した。
車道からは外れた場所なので、とりあえずの危険は無さそうだが…。
「大丈夫ですか?」
「あっ…はい。 平気です」
声をかけた僕に短い返事をすると、男性はふらついた足取りで
クラッシュを起こした自分の自転車の元へと歩み寄る。
どうやら、あまり他人に気をかけている余裕もない心境らしい。
「あの、つかぬことをお伺いしますけど…」
「はい」
「男の子を見かけませんでしたか? 先日、8歳になったばかりの子なんですが…」
彼は乱れた息を整えながら、何かに
その様相と質問の内容からすると、どんな事態に直面しているか…
おおよその見当が付いたような気がした。
「この辺りで、ここ最近のことで…ということでしょうか?」
「は、はい。 今日の午後過ぎてからのことで…」
「多分…それらしい人は、見かけていないかと思います」
「…そう、ですか」
要するに、今日の午後を過ぎてから、その男の子の行方が
分からなくなったという状況なのだろう。
まだ、最長で12時間程度の話だが…いずれにせよ、なるべく早い内に
行方を掴んでおくに越したことはない。
「何処か、心当たりのある場所は?」
「はい。 色々とあたってみたんですが…どうにも」
「何か、手掛かりは? 例えば、出掛ける際に何か言っていたとか…
何を持っていったとか」
身内に起こる、謎の失踪事件。
無論、他人事に思える話ではなかった。
「あっ、はい。 サッカーボールを持って出掛けたようなので、何処かに
サッカーでもしにいったのかとは思うんですが…。 どうも、1人でこっそり
練習していることが多いらしく…その場所に思い当たりがないんですよ」
「……」
「――あの、それじゃ…! どうも、有り難うございました」
黙り込んだ僕にお礼を言うと、男は自転車に乗って、再びペダルを漕ぎ出した。
あっという間に
8歳の少年…。 そして、サッカーボールというキーワード。
思い当たる
まぁ、今の状況で僕が出来ることといえば…それぐらいしかない。
僕はギャリッと自転車の向きを変えると、その場所に直行してみることにした。
訪れた場所――龍頭公園は、不気味な静けさに包まれていた。
そして、訪れて僅か数秒後のこと。
僕は自分の読みが的確であったことを知ると同時に、強烈な焦りに
そこにあったのは、真新しい
地面に点々と続くそれを辿っていくと、やがて捜していた人物を発見する。
血まみれとなってトイレの壁際にうずくまる、1人の少年。
あの時…そう、大地くんが幽霊を見たと騒いでいた、あの朝に出会った少年だ。
「……」
すぐにでも駆け付けるか、救急車を呼びたい状況なのだが…。
どうやら、そう簡単に事は運びそうになかった。
彼から約2メートル離れた先の地点に立つ、『それ』の存在があったからだ。
……
緑色の肌。 爬虫類と人を混ぜ合わせたかのような顔立ち。
大きな翼を持ち、二本足で立つその姿は…。
なるほど。 『悪魔』と呼びたくなるのも
右手に見られる鋭く尖った爪にべっとりと付着した、真新しい血痕。
状況証拠としては、充分過ぎるものであった。
僕は静かに、冷静に、『悪魔』の様相を観察する。
「――ッ」
が…そう
大きな翼をバサリと広げたかと思うと、悪魔はこちらに向けて
低空飛行を開始したのである。
人並み以上に柔軟性はあると自負している僕であるが、
こんな状況…こんな光景は初めてであった。
しかし戸惑い、
……
振り払われた凶器が、ビュンッと風を切る音。
僕はひとまず、その攻撃から身をかわすことは出来た。
…四の五の言っている場合でもない。
――動け。
僕は自分の心身へと反射的に、そして能動的にそんな指令を与えた。