ボーダーブレイク アナザー   作:胡狼

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スカービ渓谷で集団演習という作戦を全部で2試合ほど行い、解散となった。

私もそれに倣い、初めての体験になるが生身でスカービのEUST基地に入る。

基地は簡素で、殺風景。

如何にも軍事基地といったところだった。ところどころ有機LEDの照明が地面と天井を這っているあたりは、未来的とも言えるのだろうか。

チームメンバーは各々部屋に入ったり、作戦の話をしたりしている。

私は見つからないように、自分の名前というか番号の書かれた部屋に入る。

気づかなかったが名札らしきものが胸元に留まっていた。

部屋に入っていいのか悪いのかはわからなかったが、他のメンバーは堂々と入っていったので、咎められたらそれを言い訳にしようと思う。

 

こちら側に来て初日の夜を迎えた。

先ほどのチームメンバーは、ベテランを除き、私を含む9人全員が、新入りということだった。

なんでも最初は集団演習という形で徐々に慣らして行くらしい。

何を慣らしていくのかという説明には、機体の操縦と作戦に対する理解、とのことだった。

なるほど、ICカードを期待に胸膨らませながら買っただけでは、このゲームの本懐までは、そりゃ知らないというものだ。

そしてその本懐とやらも、現実の私はまだ至っていない。

女体化した自身の身体に戸惑いつつも汗を流して、備え付けのテレビらしきものの電源を入れる。

番組そのものは何故か日本語だったので、すんなりと視聴することが出来た。

持ち込んでいるスマホは、圏外で使い物にならず、当面は音楽とアラームだけを流すだけの機械となりそうだ。

 

作戦の終わり際にベテランの通信から、翌日も演習ということで、認められたものは、そこから対人戦に移行する運びである。そんなことをぼんやりと考えながらニュース番組に意識を戻す。

どうやら、ニュード装備の凶悪なスナイパー集団が現れているそうだ。

TLZとエクリプスを担ぐ時代はもう終わったというのに。

それらは、かつて猛威を奮った装備である。

本来の狙撃兵装とはかけ離れ、真正面からのプラント奪取を敢行し、制圧するだけの戦闘力、特殊兵装と補助装備は、つまるところ自動照準で熟練した操作も最低限で済む。

肩に装備する球体のような射撃装置、EUS-TLZは、TLZを無理やりたれぞうと読む。性能としては単発火力の高いニュード弾を、斜角それなりの距離まで、自動でエイムする。

エクリプスという火器も、ニュード属性で非常に単発の火力は高い。弾数は6発しかなく、再装填も時間がかかるのだが。当たってしまえば、場所によっては衝撃でよろめいてしまうほどだ。

それにブラストに搭載される、チップというソフトウェアで威力を増強したもの。それがたれぞうアセンと呼ばれる。

それらは往々として受け入れられ、しまいには大元からの修正を喰らい、今では希少な「スタイル」ということになっている。

と、ニュースに一瞬映ったその集団のアセンブルは、フルロージーだった。

流石に正規のブラストランナーではないのか、ロージーというブランドで最硬度を誇るEVEを装備してはいないようだ。

スナイパー空手?

これもまた、昨今のスタイルではないはずだが。

まさか、フルロージーのような超重量級、超重装甲で遠雷を装備し、芋虫のように静かに獲物を狙うものでもあるまい。

ニュースは危険性だけを告げ淡々と流れて行く。

マグメルによる食べ歩きコーナーというものが少し気になったが、そこで思考に耽る。

スナイパー空手というスタイルは、重装甲な機体を用い、光学迷彩で姿をだいたい消して、タックルや蹴りなどを食らわせ、ダウンした頃を狙撃銃で以って倒していく。

この光学迷彩は完全には消えないのだが、ブラストのFCSのロックオン機能から逃れることが出来る上に、相手が重装甲なこともあって非常に厄介なスタイルだ。

それらも格闘チップの修正、光学迷彩の使用時間の短縮により流行からは姿を消していったのだ。

我々新入りチームでは先ず不可能だろう。これは練度が必要なスタイルのはずである。

で、あれば、元々はオンラインゲームなのだから、私の他にも、いわば漂流者がいるのかもしれない。

それらから元の世界に戻る手掛かりでもあれば良いのだが、無駄な期待はするだけ損か。

ちなみに今の流行アセンは、ダッシュのなるたけ速い脚に、目一杯装甲を盛ったゴリラアセンと呼ばれるものだ。強襲兵装が主となり、積載には全く余裕が無い。余裕を作らずに組まれていると言うべきか。

機体のカスタマイズが出来るなら変更しておきたい。

最悪の事態を考えると、走行の差でそちらに分がある。

被撃破といえば、チームメンバー達はこともなく再出撃していたのだが、まじまじと見ている訳にもいかなかった為、再出撃にいたるまでの原理は不明である。

彼らに直接訊ねるのも一つの手だが、単純に話しかけにくい。

幼年期の子供のように、誰にでも話しかけていく気力はとうに無くしてしまった。

 

 

 

 

翌日。

寝坊した。

大慌てで着替えて、基地の外に出ると丁度朝礼らしきものが始まるところだった。

私は一言詫び、ブリーフィングを受ける。

昇格試験らしい。これに受かれば対人戦に移る。それもこなせば本来の作戦行動に補充される形と言うことだ。

そこまでは昨日聞いていたので理解していたが、どうにも疑問が残る。

Dクラスに、昇格試験などないはずだ。少なくとも、ゲーム内のシステムでは。

私は内心で肩を竦めてため息を吐く。

ベテランが評価するのか?

質問があるか聞かれたので私は挙手し、試験内容を伺う。

ベテランから提示された試験はこうだった。

制限時間20分の間にメダル10枚集めろ!

1.敵2機撃破でメダル2枚

2.プラント占拠でメダル1枚

なるほど。単純に敵を10体倒すか、中立ないし敵プラントを自軍のものに10回行えば良い。同時に行うのが効率が良いだろう。

周りがざわめいていた。無理もないだろう。

何故なら、これは本来Bクラスに上がるための試験なのだから。

「おいおい、マジかよ。無理言うぜおっさん。もう少し緩くしてくれよ!!頼むから!!」

「無理だ!試験内容はマグメルによるものだ。そう簡単に変えられん!」

「それは無理な注文です・・・」

ベテランと熱血がちょっとした言い合いになる側で、ナルシーっぽいボーダーが呟いていた。私は内心その存在感に圧倒されつつも、了解、とだけ答えた。

「チッ、やるしかねーか。元はこっちは同じチームだし、連携していきゃいいだろ?」

「素晴らしい働きです!」

「では、本日ヒトマルサンマルから始める。作戦はそちらの采配に任せる。」

ヒトマルサンマル? 1030スタートと言うことか。あと、一時間ほどあるな。

都合のいいことに私の左腕にある腕時計とこの世界の時間はほぼ狂いがない。

所謂チートの一つであろうか。

「一時解散!」

ベテランの号令に思わず慣れない敬礼をしつつ、皆その場を後にした。

 

 

 

 

「ってもよ、どうする?コンピューターとはいえそう簡単には行かないだろ。」

「プラントを10回、占拠する方が安全じゃない?」

「クク・・・撃破撃破ァ!」

遠くで聞いているだけなのだが、彼らは軍隊として優秀な人材なのかも知れない。

ゲーム内でいえば私が先程言った・・・いや、思ったように占拠しながら爆発物だろうがなんだろうがで敵を倒せば良い。ちなみに、それには本来でもコンピューターも含まれている。

それに近い答えがすぐ出てくるあたりは、Dクラスに居てはならない、のかも知れない。普通ならブラストの操縦だけで手一杯の筈だ。

熱血、真面目そうな女子、ナルシー。

彼らの方を見る。

実際のところアバターと我々が勝手に呼んでいる、プレイヤーの分身たるキャラそのままだ。

ここには、実在していないアバターも居るが、

熱血、クール、ベテラン、ナルシー、少年、老練。こちらが男性アバターで、

真面目、お嬢様、インテリ、冷静、少女。こちらが女子のアバターだ。

それぞれ公式的な名前があったはずなのだが、一致しているかわからない上に、いわゆる番号がついただけの名札しかないため、そのまま呼ぶしかないのだ。

私はお嬢様タイプのアバターではある。

どうしてこれを選んだのかと言われてしまえば、メタフィクショナルな話になるが、ICカードを作ることを決意したはいいがキャラと名前が思い浮かばず、

二時間ほど考えた結果、アバターはくじ引きで。

名前はアイウエオ順に一文字ずつ書き、おみくじのような感じで友人に引いてもらい、それを良い感じに合わせた、という適当っぷりである。

あまりのこの懐かしさに、話から一人脱線して昔を思い出していると不意に声がかけられる。

ベテランだ。

「貴様にはわかるだろうと、マグメルの事務方から電子メールが来ている。読むか?」

「あっ、はい。」

どう受け取るのかわからないというと呆れた表情をしたベテランが教えてくれたので、そのまま見る。

SFではよく見るかと思うが、直接空間に文字が浮かび上がるものだ。

プライバシーもクソもないな。

とにかくそこにはこう書かれている。

《稼働初期の評価査定となっております。存分に励んでください。 フィオナ》

私はわなわなと震える。

「えっと。まるで意味がわかりません。ともすれば諧謔的とも取れましょうが、或いは全くの極悪非道で持って慈悲に訴えることもなく、残酷な現実を突きつけているのでしょうか?これは。」

「俺に聞くな。そして貴様が何を言っているのかもわからん。」

「よく言われます。」

それにしても差出人には触れてこないな。暗黙の了解なのだろうか。それとも単にそこまで見ていないのか。見て見ぬふりか。

流石に通信と、今のやりとりだけでしかベテランという人物を把握していないのでそこまでは読みきれなかった。

Dクラスに試験といい、何かが仕組まれている気がする。

本家ゲームでは今ひとつパッとしなかった、十把一からげの私ではあったが、

お達しの通り懸命に励んでみよう。

ため息を吐くのがすっかり習慣になってしまった。

カスタマイズで、ゴリラアセンに変えておこう。

なにがあるのか、わからない。

 

 

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