プロローグ 動き出す針
「……また、この季節か……」
そう呟きながら歩いているのは、左目に眼帯をしている茶髪の少年だった。
少年が見上げている視線の先には、桜が満開に咲いている。
しかし、少年にとってはどうでもよかった。
「 は……元気かな……」
そう言いながら少年、
そして、歩いていると進路上に校門が見えた。
その校門のところには、筋骨隆々の巨漢が立っている。
明久は男性の前で止まり、
「おはようございます、西村先生」
と、礼儀正しく挨拶した。
彼の名前は
その理由は、彼の趣味にある。
彼の趣味は、筋トレ、トライアスロン、レスリング。なのである。
「おはよう、吉井……どうした? 酷い顔だぞ?」
西村は挨拶すると、心配そうな表情で明久を見た。
「あはは……ちょっと、昔の夢を見まして……」
と、明久が暗い表情で言うと
「そうか……無理はするなよ? なんだったら、早退してもいいが……」
「初日から、そんなことはできませんよ」
「そうか……ほれ、お前の組分けだ」
明久の言葉を聞くと西村は、脇に抱えていた箱から一通の封筒を取り出して、明久に渡した。
「ありがとうございます。しかし、なんでこんな面倒な方法で発表してるんですか?」
明久は貰った封筒を開けながら、問い掛けた。
確かに、疑問に思うだろう。
普通ならば、大きな掲示板等にクラス毎に掲載して、発表するのが一般的なのだ。
明久の質問に、西村は頬を掻きながら
「この学園は世界で初めて、試召戦争システムを採用しているからな。その一環だ」
「お疲れ様です」
試召戦争システムとはなにか?
それは、生徒本人のテストの点数を使って行われる戦争である。
しかし、戦うのは生徒本人ではない。
戦うのは、生徒が召喚する<召喚獣>である。
この召喚獣、生徒が受けたテストの点数が直接、力になるのだ。
そしてそれに伴い、この学園は世界で初めて、テストの上限を決めてないのだ。
そして、成績優秀者から上はAクラス。最下位はFクラスまで分けられるのだ。
そして、クラス分けされるに辺り
クラス設備も変えられるのだ。
そして、試験召喚戦争はそのクラス設備を賭けて戦うのだ。
しかし、下位クラスが上位クラスに勝つのは容易ではない。
そのため、下位クラスは勝つために
策略を巡らせ
召喚獣の操作技術を向上し
そして、テストの点数を上げるのだ。
この学園は、それを用いて勉強意欲を上げるのが目的なのだ。
そして、明久は封筒を開けて、中から一枚の紙を取り出して、広げた。
そこには
吉井明久 Aクラス
と、書いてあった。
それを見た明久は、紙を畳むと封筒に仕舞って
「それじゃあ、行きますね。西村先生」
「ああ……」
西村は明久を悲しそうな顔で、見送った。
「誰か……あいつを助けてくれ……」
そう言ってる西村の顔は、悲壮感がアリアリと刻まれている。
そして、しばらくそうしていると
「あ、あの……すいません」
気付くと、西村の背後に1人の女子が立っていた。
髪は腰まで伸ばしており、それをリボンで1つに纏めている。
その雰囲気は大和撫子と言えるが、どこか凛とした雰囲気を纏っている。
「おお! すまん、少しボーっとしていた。ん? 見覚えのない顔だな?」
「あ、はい。今日付けで編入してきた者です」
と、女子はペコリと頭を下げた。
「ああ、話は聞いている。2階の職員室に向かえ。場所は分かるか?」
「はい、大丈夫です。あ、それと、1つ聞きたいんですが」
「なんだ?」
「あの……… のクラスはどこですか?」
「なに? お前はあいつの知り合いなのか?」
西村は少女が告げた名前を聞いて、眉をひそめた
「はい、幼馴染みで………命の恩人です」
「そうか、お前が…あいつが助けた……」
西村は少し考えると
「本来、教えるのはいけないのだがな。特別に教えてやる」
「あ、ありがとうございます!」
少女は西村の言葉に、目を輝かせながら、頭を下げた。
「いや、一度しか言わんぞ? あいつは だ」
西村の告げたクラスを聞いた少女は、嬉しそうに微笑むと
「ありがとうございます。それでは、職員室に向かいます故」
「ああ」
西村が見送るなか、校舎に向かった。
「……あいつならば、助けられるかもしれんな……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
教室に向かっていると明久は、クラスの前で見慣れた姿を2つ見つけた。
「霧島さん、雄二。おはよう」
「……おはよう、吉井」
「明久か、おっす」
「雄二がここに居るってことは、雄二もAクラス?」
「いや、俺はFクラスだ」
明久の質問に雄二は、首を振って否定した。
「え? 雄二がFクラス?」
「ああ、やりたい事があるからな」
「そっか、下剋上だっけ? 頑張ってね」
「ああ、そういやぁ、お前はAクラスか?」
「うん、そうだよ。だから、Aクラスで待ってるから、頑張ってね。それじゃ」
明久はそう言うと、教室に入った。
それを二人は見送った。
が
「翔子……明久の顔」
「……うん、辛そうだった」
翔子の言葉に雄二は、右の拳を左手に叩き付けた。
「くそっ! 俺達は明久に助けられたのに……俺達は、何も出来ないのかよ!」
この二人は以前、ある理由により仲違いをしていたのだ。
それを明久が仲介して、仲直りして、現在は付き合っているのだ。
二人はそれを恩義に感じており、時々、明久をカバーしている。
しかし、二人は気付いていた。
明久の奥底には、とても深い闇と悲しみが潜んでいることを
「……吉井の話に聞いた幼馴染が居れば、変わるかもしれない……」
「そう、かもな……」
雄二は返事をすると、腕時計を見た。
「そんじゃあ、俺はクラスに戻る。明久を頼むな」
「……うん」
翔子が返事をすると、雄二は自分のクラス
Fクラスへと向かった。
それを見送ると、翔子も教室に入った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「皆さん、おはようございます。私はこのクラスの担任であり、学年主任の
と教壇に立っている眼鏡を掛けた女性、高橋女史が名乗ると、彼女の背後のプラズマディスプレイに名前が表示された。
「クラス設備を説明する前に、編入生を紹介します。入ってください」
と高橋女史が言うと、ドアが開き、一人の女子が入ってきた。
その少女を見た明久は、目を見開いて絶句していた。
「では、自己紹介をお願いします」
と高橋女史が促すと、少女は頷いて
「私の名前は
そう言って少女、謙信は微笑んだ。
これは、ある一人の少女を守るために剣を振るい、それが理由で心に深い闇と悲しみ
そして、大きな傷を抱えた少年と
その少年に助けられて、そして、その少年を助けたくてやってきた少女
この二人の止まっていた時計の針が動き出す物語である。