試験召喚獣大会は最低クラスのFクラスが優勝する、という当初の予想外の展開となった。
そして、優勝者の雄二と康太には景品として黒金の腕輪と白銀の腕輪が学園長によって渡された。
その後、優勝者の雄二と康太による景品のデモンストレーションが行われた。
白銀の腕輪自体に欠陥は無く、雄二は腕輪を起動させて召喚フィールドを形成した。
そして、問題の黒金の腕輪である。
この黒金の腕輪は、取得点数が総合でBクラスに到達したら暴走する危険を孕んでいた。
だが、康太は保健体育以外は今のところFクラスである。
ゆえに、康太も問題無く腕輪の機能を発揮させて、召喚獣を二体に増やした。
こうして、試験召喚獣大会は幕を閉じた。
その後、雄二達は教室に戻り模擬店に専念。
そして、時は経ち……
『これにて、清涼祭を終了とします! 一般客の方々はお帰りください。繰り返します……』
という放送が聞こえて、それを合図に雄二は右手を高々と掲げて
「お疲れー!」
「お疲れ様!」
「いやぁ、売ったな!」
「本当にね!」
「私、足が棒よー」
「私もー」
雄二の言葉を皮切りに、クラスメイト達は歓声を上げた
そして、雄二は計算している翔子と優子に歩み寄って
「売り上げはどうだ?」
と問い掛けた。
すると、二人は一旦計算を止めて
「凄いわよ。2日間だけとは思えない売り上げね」
「……今のところ、これは確定」
と二人は言うと、それぞれの計算結果の書かれた紙を雄二に渡した。
「ふむ……これなら、全員分の机は揃えられるな」
雄二が呟くように言うと、Fクラスの男子達は喝采を上げた。
しかし、それも仕方ないだろう。
壁と窓はひび割れて、机にしているちゃぶ台は穴が空いてる始末。
しかも、畳は半分近くが腐っていることが判明した。
せめて、机だけでもマトモでないとやってられないのだ。
その時、康太が雄二に近寄ってきて
「……そろそろ」
と声を掛けた。
すると、雄二は頷いてから
「そんじゃあ、俺はちょっとばかし倉庫の方を見てくるか」
と言って、教室を出た。
それに続くように、康太と明久が
「……トイレ」
「あ、僕も」
と言って、教室から出た。
三人の目的地はもちろん、学園長室である。
「おら、腕輪を獲得したぜ」
雄二はそう言いながら、康太の腕に着けられている腕輪を示した。
「わかってるよ。誰が渡したと思ってるんだい」
学園長はそう言うと、康太が差し出した腕輪を受け取った。
それを確認すると、雄二は
「さて、こっちは約束を守ったんだ。教室の施設の改修工事を……」
と雄二がそこまで言った瞬間、明久が背後に振り返って
「誰だ!」
と声を張り上げた。
「……盗聴の気配!」
康太の言葉を聞いて、雄二はドアを蹴破る勢いで開けてから左右を見た。
すると、階段の方に見覚えのある背中を見つけた。
「俺としたことが、ミスった! 常夏に聞かれた!」
「追うよ!」
「……まずは、放送室だ!」
雄二は悔しがり、明久と康太は学園長室から駆け出した。
そして向かった先は、放送室である。
理由としては、常夏コンビが先ほどの会話内容を放送室の機材を使って学園中に流すと思ったからだ。
三人は放送室に到着すると、ドアを蹴破って中に入った。
だが、そこに居たのは常夏コンビではなく別の男子達だった。
「ここに居るのは、隠れてタバコを吸ったり、AVを売買してるバカだけだ!」
「とりあえず、写真を撮影して風紀委員会に送っておこうか。校則違反だしね」
「……ついでに拘束」
「や、やめてくれぇ!」
男子達は抗議するが、明久達は無視して拘束してから放送室を後にした。
そして、次に向かったのは常夏コンビのクラスである三年Aクラスだ。
明久達が駆け込んでくると、三年Aクラスの生徒達はキョトンとした表情て明久達を見た。
だが、教室の中にも常夏コンビの姿は無かった。
「くそっ! どこに居るんだ!」
雄二が毒づくと、明久が
「固まって探してたら、時間が掛かるからバラバラに探そう!」
と提案した。
「それが良さそうだな」
「……後で連絡しよう」
二人は明久の提案に乗ると、教室から駆け出した。
三人はそれから探し続けるが、常夏コンビの姿は見当たらなかった。
「一体……どこに……」
明久が息を整えながら見回していると、携帯が震えた。
見ると、康太と雄二の二人からスカ○プで着信が有った。
「はい!」
『明久、今どこに居る!?』
明久が出ると同時に、雄二が怒鳴るように聞いてきた。
「僕は新校舎の裏、二人は?」
『俺は新校舎の二階だ』
『……こっちは新校舎の一階』
どうやら、たまたま近くに来ているらしい。
『さっき、有力な情報で常夏コンビが新校舎の屋上に行ったらしい!』
雄二の話を聞いて、明久は常夏コンビの企みに気づいた。
「しまった! 新校舎屋上の放送設備を使って、さっきの音声を流す気だ!」
明久がそう言うと、雄二が舌打ちして
『くそっ! どうせ新校舎側のドアには鍵を掛けてるはずだ!』
『……今から旧校舎に向かったのでは、間に合わない!』
二人がそう言うと、明久は少し黙考してから
「二人とも、よく聞いて……」
自身の考えを話した。
『お前、正気か!?』
『……ギャンブル過ぎる!』
明久の考えを聞いて、二人は驚愕していた。
「だけど、この方法しか間に合わないよ……どうする?」
明久が問い掛けると、二人は数秒してから
『仕方ない、やるぞ! 康太!』
『……もうすぐ着く!』
その直後、明久の近くの窓ガラスが開いてそこから康太が出てきた。
「雄二!」
『今!』
明久が確認すると、二階の窓ガラスが開いて雄二が手を振った。
「いい? チャンスは一度きりだよ」
「……やるしかない」
『明久、任せるぞ』
二人の言葉を聞いて、明久は頷いた。
そして、数回深呼吸するとキッと前を見て
「行くよ!」
と言って駆け出した。
そう、明久が言ったのは要するに《普通に行って間に合わないなら、ショートカットすれば良い》である。
しかも、そのルートは……
明久が駆け出すと、康太はまるでバレーボールのレシーブのような構えをした。
「康太!」
「……行け!」
明久が勢い良く康太の両手に足を乗せると、康太はそのまま両手を上に振り上げた。
その勢いのまま、明久は跳躍した。
そう、明久が提案したショートカットのルートは縦である。
「雄二!」
「掴まれ!」
明久が雄二の手を掴むと、雄二は全身の力を振り絞って腕を上に振り上げた。
その直後
「
雄二は大会で得た腕輪、白銀の腕輪を起動した。
明久はそれを確認すると
「
とキーワードを唱えた。
なお、よく誤解されるが召喚フィールドというのはドーム状ではなく円柱状に展開される。
つまりは、明久が居る空中にも召喚フィールドが展開された。
そして、普段だったら足下に展開される筈の魔法陣は空中だったためか上に展開されてそこに明久の召喚獣が現れた。
もちろん、明久の召喚獣は重力に従って落下するが、それすら計算ずくである。
明久の召喚獣は刀を抜いて、そのまま振るった。
すると、刀を振るったことにより発生した遠心力により明久の召喚獣は落下軌道を変えた。
「お願い!」
明久の召喚獣は三階の窓枠に着地すると、すぐに跳躍して明久の足裏を刀の峰で叩いた。
そう、明久の召喚獣は《観察処分者仕様》のままなのだ。
そして、観察処分者仕様は《物に触れることが可能》である。
そして、召喚獣の力というのは人間の力を遥かに凌駕している。
召喚獣に叩かれた明久は、まるで人間ロケットのように飛んだ。
そして、屋上では常夏コンビが放送設備を操作していた。
「くそっ! あいつらのせいで、俺達の推薦が無くなっちまった……こうなったら、ババアとの取引の会話を流してやる……常村、そっちはどうだ?」
夏川が問い掛けると、常村はポケットからUSBメモリーを取り出して
「後はこいつを刺して、中の音声を流せば大丈夫だ」
と言った。
その時、サッと影が走った。
「なんだ?」
二人は不思議に思い見上げた。
すると、二人の頭上で明久が宙を舞っていた。
「は?」
まさか、人が宙を舞っているとは思わず、二人は呆然とした。
だが、それは致命的な隙だった。
その隙を突いて、明久は腰に刺していた刀を抜いた。
「吉井流剣術、牙の型……奥義! 幻!」
その瞬間、明久の腕が霞んだ。
そして、次の瞬間にはほぼ同時に常村の持っていたUSBメモリーとパソコン
そして、放送設備が壊れた。
「なっ!?」
「なんだと!?」
二人が驚いている間に、明久は僅かに離れた場所に着地した。
「はぁ……はぁ……はぁ!」
明久が激しく鳴っている鼓動を抑えていると、常夏コンビは明久を睨みつけて
「てめぇ……よくも、俺達の逆転のチャンスを!」
「ぶっ殺してやる!」
と息巻いた。
「知りませんよ、そんなこと……」
明久がそう言うと、常夏コンビは近くに落ちていた鉄パイプを拾い上げて
「ふざけんなー!」
「死ねやぁ!」
と飛びかかった。
明久はそれを防ごうと思い、刀を構えようとした。
その時
「ぐっ!?」
明久の体を激痛が襲った。
よく見れば、明久が纏っている衣装には血が滲んでいる。
どうやら無茶をしたために、傷口が開いたらしい。
明久が痛みに耐えている間に常夏コンビは迫り、振り上げた鉄パイプを明久目掛けて振り下ろした。
その瞬間、明久の前に二つの影が走った。
それと同時に、激しい金属音が鳴り響いた。
「なっ!?」
「お前らは!?」
驚いている常夏コンビの前に居たのは……
「間に合いましたよ、明久様」
「まったく、無茶をするね。君は」
「兼続さん……義弘さん……」
風紀委員会の委員長と副委員長の直江兼続と島津義弘だった。
二人はそれぞれ、常夏コンビが振り下ろした鉄パイプを手甲と刀で受け止めている。
そして二人が鉄パイプを弾くと、常夏コンビの周囲を他の風紀委員が囲んだ。
「常村勇作及び夏川俊平」
「お前たちを文化祭期間中の模擬店の営業妨害並びに、放送設備の無断使用。及び、傷害未遂の現行犯で捕縛する」
兼続と義弘がそう言うと、常夏コンビは鼻で笑って
「けっ! 無駄だよ、バーカ!」
「どうせ、教頭が無かったことにする!」
と言った。
が、兼続が
「さて、それはどうかしら?」
と言った。
「どういうこった?」
不思議に思ったのか、常村が問い掛けると、義弘が肩をすくめながら
「要するに、あんたらは怒らせちゃいけない人達を怒らせたのよ。連れていけ」
と言った。
そして、場所は変わって教頭室
そこでは、教頭の竹原が紅茶を飲んでいた。
「まったく……あれだけ手助けしてやったのに、屑の処分も出来ないとはな……あいつらも用済みだな……さて、次の策はどうするか……」
竹原がそう言って考え始めた時、ドアが開いて
「はーい、どうもー」
と一人の女性が入ってきた。
その女性は腰辺りまで伸ばした茶髪に、三十代前半と思える見た目が特徴だった。
「誰だね? 来客の予定は無かったはずだが?」
竹原がそう言うと、その女性は口元を扇子で隠しながら
「私の名前は、吉井明恵と言います。初めまして、竹原《元》教頭殿」
と言った。
「……吉井? 誰だかわからんが、間違えているぞ? 元教頭ではなく、現教頭だよ?」
竹原がそう言うと、明恵はクスクスと笑いながら
「いえいえ、元で合ってますよ? なにせ、《あなたが居たという証拠が何もかも無くなった》のですから」
と言った。
「……どういうことだね?」
竹原が問い掛けると、明恵は右手を上げながら
「こういうことですよ」
と言って、指を鳴らした。
その直後、明恵の背後から黒一色で統一した装備を身に着けた人物たちが雪崩れ込んできた。
その人物たちは竹原を半包囲すると、手に持っていた銃口を向けた。
「なんのつもりだ!」
竹原が怒鳴ると、明恵は扇子を突き付けて
「名も無き存在よ……お前は我等、吉井を怒らせた……」
と宣言した。
その時、竹原は気づいた。
黒装備の一団の左肩に、<零という漢字の下に、刀と拳銃が交差したマーク>が有ることに……
「ま、まさか……公安……零課……」
顔面蒼白になって呟くように言うと、明恵は底冷えするような笑みを浮かべて
「我等を怒らせたこと……あの世で後悔なさい……」
と宣言した。
そして、この日を境に
竹原という男が存在した証拠は、一切この世から無くなったのだった。